来ちゃった(笑)
マリーの魔法により、豆粒ゴブリンを撃破。死体……原型とどめてるのか? 分からんが、一応軽く探すらしい。
うへードロドロ……俺の服が汚れたらどうすんだ。
「ぶいぶい! ぶう!」
「流石にこの惨状では嗅ぎ分けられぬか。トマホーク、無理はしなくて良いぞ」
「ぶい!」
どろんこになりながら、トマホークが泥山を跳ねている。どう見ても楽しんでますけど大丈夫ですかね?
ジナもクソデカい岩を軽々と退けて探すが、早々に諦める。
「ダメだこりゃ。下手な拷問より苦痛だぞこれ」
「若い奴らにやらせるか」
「鬼か?」
マリーがキッと睨むのを尻目に、ドン引きしながら泥山から下りるジナ。
砂漠でビー玉……いや、BB弾を探すようなものか? 苦行すぎる……。俺もごめん被る。
ボタンはあのゴブリン達が見えていたようだから、もしかしたら探し出せるかもしれんな。
「ボタン、お前は分かるか?」
「めし」
「興味無し!」
沢山働いたからか、スライムの状態に戻って俺の頭に乗ってくる。まだ外なんだから我慢しなさいよ。
仕方ないので服の内側に入る様に言って、ジナの元へ向かう。
「これでゴブリンは止まるのか?」
「さあな」
「さあなって」
「あのちっこいのがなんなのか分からないまま倒しちまったしな。その辺は俺らよりも、専門家に調べてもらった方が良いだろ」
なんというか煮え切らない決着だなぁ。今まではこう、スパッと決着! って感じだったからな。
他の奴も無事だろうか。まぁ、ちょっとやそっとじゃ死ななそうなのが多いから大丈夫か。
そんな楽観的に思いつつ、俺は一度ギルドへと戻った。
ギルドへと戻ってきた俺を出迎えたのは、半裸になったクーヤマーヤだった。
こいつは何でストリップショーを始めた? これR-15なんだからやめて欲しいんだが。思わず眉間に皺が寄った。
「服を着ろ」
「いきなりですね。こんなボロボロなんですから少しは心配してくださいよ!」
所々煤けている。火を使うゴブリンが居たのだろうか。
……ハッ、コイツが半裸だという事はブローディアも……!!!!!!
俺はクーヤマーヤをガン無視してブローディアを探す旅に出る。
背が低いので辺りを確認しづらいな……俺は椅子に乗って全体を見渡すが、ブローディアは見当たらない。
「おいクーヤ、ブローディアさんはどこ行った?」
「ブロちゃんなら先に宿へ戻ってますよ。疲れたから人ごみに行きたくないって」
「なんという事だ!!!!!」
「今日一叫んでますね」
あんな爆乳、二度とお目に掛かれないぞ……がっかり。非常にがっかりだ。
ブローディアを探す旅を終え、椅子から降りた。
「はああああ……で、大丈夫か?」
「はいっ! 今回は大苦戦でしたが、何とか逃げ切れました!!」
「……そんな強い奴がいたのか」
ジナに付いて行って正解だった。実はそっちが本命だったりしてな。
リナリアの方も大丈夫だったのだろうか。見当たらないけど、まだ帰ってきてはいない様だ。
「そう言えばボタンちゃんはどこ行ったんです?」
「服の中にいるぞ。今日はたくさん動いて疲れたみたいだからな」
「どれどれ」
服の中に手を突っ込んできやがったのでチョップをかましてやる。
何とスケベな奴だ。女の子なんだから……いや、女の子では無いけど恥じらいを少しは持ってほしい。
「ハーちゃんはこれからどうするんです?」
「帰る。ジナさんもそろそろ戻るだろうし」
「そうですか、ハーちゃんはルマリに住んでるんでしたっけ?」
「ああ、ジナさんの所でお世話になってるんだ」
かれこれ、半年以上世話になってる訳だが。もう数年住んでる気分だわ。
王都へ向かう前に、大掃除でもして爺さん達に恩返ししてやろう。と、クーヤに俺のニットカーディガンを着せつつ思うハナちゃんであった。
「ハーちゃん、これ……」
「服は絶対返せよ。俺のオキニだからな。ジナさんやここの冒険者伝手でも良いから」
「うん……絶対返すね。すんすん」
「匂いを嗅ぐなすぐ返せ」
コイツと話してるとマジで疲れるな……と、疲れ切った所でジナが戻ってきた。
「おうハナ。お疲れさん。帰るぜ」
「他の人は大丈夫なんですか?」
「ああ。リナリアがきっちり仕事したみたいでな、殲滅完了だ」
「フロクスさんは?」
「従魔を洗った後、帰ったよ。久々に魔法を使ってくたびれたそうだ。ハナによろしくって言ってたな」
魔物使いの件で世話になったからな。また後日、お礼を言わないと。
ギルド内を見た感じ、明るい雰囲気だからそこまでの被害は無いのだろう。強い奴らだわ。街中に魔物って冷静に考えるとかなりヤバいと思うんだがな。
それからすぐに、ジナと一緒に帰宅する。
歩きで来たからもう夜だよ……足もパンパンだし、悲惨な一日だった。ボタンの奴は腹が減りすぎて今にも暴れそうなので、さっさと飯を食べる事にする。
帰ってすぐに居間へ向かうと、レイとケイカ、そしてユーリが寛いでいる。全く、大変な一日だったのにのんきな奴らだ。
こちらの事情はある程度理解しているようで、俺を見るなり話しかけてくる。
「ハナさん、怪我しませんでしたか?」
「今回は大丈夫だった。ジナとギルド長が付きっきりだったからな」
「その割に汚れてない? 本当に大丈夫? ハナちゃん」
「これはギルド長の魔法でな」
ドロドロとは言わないまでも、砂埃が付いてしまった。洗剤もマシなものが無い今、早々に買い替えが必要になってしまうな。
誰か画期的なの発明してくれよ。異世界転生特有の現代知識チートでよ。
「そっちはどうだったんだ? ちゃんと依頼を達成したのか?」
「あたりめーよ! オイラが居ればお茶の子サイサイだぜ!」
「お茶の子サイサイですね!」
なんか強めの魔物討伐に行ったらしい。馬と鹿と熊が混ざったような魔物。……想像しやすそうで結構し辛いな。どんな魔物だよ。
「ハックベアの様に怪力で、リボルの様に俊足で、ヤクラーグスの様に身軽……とても厄介な魔物です」
「ハックベア以外知らねーよ」
「とにかく、速くてよく飛んで強い魔物です!」
「凄い抽象的だね」
セピアが教えてくれました。リボルが馬を更に早くしたような魔物で。ヤクラーグスが鹿っぽい魔物らしい。
色んな魔物がいるんだな。こっちは定番のゴブリンに大苦戦だったよ。
「ケイカとオイラが魔法で追い込んで、アルスとロメリアが仕留めたんだぜ」
「リコリスさんはどうしたの?」
「『我が出るまでもなかろう』とか言って見ててくれたよ」
「何ですかその全く似てないモノマネ」
アキヒロさんみたいな声出しやがって。お前は山犬じゃなくて獅子だろ。
でもちょっと面白かったので、今度アイツの前でやらせてみよう。
「あのババア、まーた偉そうな事言いやがって」
「まあまあ、リコリス様がいてくれるから安心して戦えるんですから」
「実際、目的外の魔物は倒してくれたしな。瞬殺で」
「凄いなぁ」
「俺の従魔だから当然だ」
「ハナが一番偉そうじゃん?」
「やかましい」
普段なら慎重に進めるそうだが、リコリスが居たので強気に依頼を選んだようだ。ユーリより、リコリスの方が使われてないか?
なんにせよ、順調だったようで何よりだ。それなら多少モフっても問題あるまい。
「俺は疲れたよ。ユーリ、ちょっとモフらせろ」
「汚れるだろ、風呂入ってからにしろよ!」
「後で俺が拭いてやるから。……ふいぃ~~、癒しぃ……」
「じゃあ私も」
「なんなんだよお前ら!」
「レイもやるか?」
「いや、普段から擦り付けられてるから大丈夫」
何やっとんだこの獣は。まぁ、仲悪いよりは良いけど。
二人でユーリをモフっていると、リコリスがなんか肉を山盛りにした皿をもって来た。今日は宴か?
「帰っておったか」
「おう、ただいま。美味そうだなそれ」
「少しは見る目があるようじゃの」
得意げに言ってるけどただ焼いただけやん。って言ったら頬を引っ張られそうなので黙っておく。
大盛りされた肉が近づいた途端、ボタンがぴょんぴょんと跳ねる。
「ばあば、めし!」
「ほほ、そう慌てるでない。皆が揃ってからじゃ」
「んー!」
一直線に向かったボタンをがっしりと片手で掴み、抑えているリコリス。かなり速かったんだが、そこはやはり幻獣か。
必死に逃れようとしているが、腹が減って力が出ないのだろう。「きゅう……」と情けない感じに声を出している。
少しして、爺さんとジナが来た。今日の出来事を報告し、また暫くルマリの警戒を強めるそうだ。
「騎士の奴らにも伝えたがな、爺さんもレイも暫くは家にいるんだぞ」
「え~、今度ヨルアさんに鍛えてもらうのに」
「落ち着いたらとーちゃんが付き合ってやる」
ここでゴブリン出たら一大事だしな。原因が分からん以上、暫定的に人増やして対処するほか無いのだ。前兆も無いから予想のしようが無いしな。
「こうなると、安心して夜も眠れぬぞい」
「全くじゃ。油断も隙も無いのう。また我が居ない間にそのような事態が起こっていようとは」
「この辺の土地呪われてるんじゃねえの?」
「それは土地ではなく、お主の様な気がするがの」
「呪いはもうこりごりです……」
ケイカがげんなりしている。既に呪い関連で多大な迷惑を被ってるからな。しかしこれだけ短時間で襲撃来るのはもう呪われてるとしか言えない。
……そんな事より飯だ。ボタンじゃないが、こんな良い匂いを嗅いでいるのに我慢させられて、俺はもう限界だぜ。
疲れ切った体に肉。シンプルで素晴らしい。お酒が欲しいね。まぁ美少女だから飲めないけど。……いや、背伸びしてアルコールを要求する美少女もアリか?
そう考えている俺を見るボタンの圧が凄いので、さっさと食べ始める事にする。
「じゃあ早速――」
「いただきます!!!」
と、俺の隣で気持ちよく宣言するクーヤマーヤ。
……クーヤマーヤ?
「……」
「来ちゃった(笑)」
お決まりのセリフを言い、にっこりと俺の隣で笑うクーヤマーヤ。
俺とジナは、それを見てげんなりした。