純粋無垢な美少女が楽しげに料理してる!
2018/11/04 会話表示修正
「んー……くぁぁぁ」
とても気持ちがいい目覚めだ。窓からは優しい光が照らされている。
夢の中で女神様と出会った。いや、夢では無いのだろう、はっきりと覚えている。
俺は大きく伸びをして体をほぐす。すると、俺の腰の横辺りに何かがぶつかった。
「これは……」
そこには女神様から頂いたふざけた題名、もとい、判りやすい題名の本が置いてあった。
便利だな神様。宅配業でもやったら儲かるぞ。
(ハナ様、おはようございます。よく眠れましたか?)
(おはよう。おう、清々しい目覚めだぞ。夢の中で女神様に会ったしな)
(えっ? カラー様にですか?)
会うことを知らされていなかったのか、セピアは驚くように聞く。
(この本を渡すために緊急で来てくれたみたいだ。セピアによろしくって言ってたぞ)
(カラー様がそのような事を)
セピアに見えるよう俺は本を取って視界に映す。キモい、いや可愛い動物が人形を操っている姿だ。
(この本はなんです? 黒魔術の書でしょうか……?)
(ぶふっ、黒魔術って)
確かに初見はそう見える。ヤバい生き物が人間を傀儡として操っているように見えるからな。
(これは人形遣いの本らしい。カラーさんが知ってる情報を纏めてくれたんだ。これで大体の扱い方はわかるそうだ)
(そうだったのですか。私の力が至らず申し訳ありません)
(気にすることは無いぞ、新人さんならガンガン聞いて学んでいくべきだ)
(はい!)
補助神の補助をする美少女。この美少女気遣いの達人だな。
セピアと話をしていると、コンコンとドアからノック音が聞こえる。
「ハナちゃん、そろそろ起きた?」
レイの声だ。約束通り起こしに来てくれたようだ。既に起きてるけど。出来る美少女で悪いね。
「起きてるから入っていいぞ」
俺がそういうと、レイがドアをガチャリと開ける。どうやら既に外へ出ていたらしく帯剣している。
レイは頬を掻きながら困ったように俺へ話す。
「もう、起こそうとすると駄々こねるから全然起こせなかったよ」
「え? マジ? 俺駄々こねてたの? 全然気が付かんかった……。 そんなに早くから起こしに来てたのか?」
「そんなに早くないよ。もうお昼だし」
「う……」
道理ですんなり起きれたはずだ。いや、起きれなかったけど。
目覚ましがあればなぁ……5個ぐらいセットしておけば起きれるんだけど。
「今度からもっと早く寝ることにする」
「うん、それがいいね」
レイは苦笑いをしながら答える。
毎回これでは示しがつかん。よし、次はレイより早く起きるぞ!
新たな決意を胸に俺は立ち上がった。
(ハナ様、そこまで真剣にならなくても……)
ウルサイヨ! 俺のプライドが許さないの!
「ハナちゃんのー! ウキウキドキドキー! クッキングー! わぁーぱちぱちぱち!」
気を取り直してメシだメシ! という訳で早速調理場に移動した俺はクッキングアイドル風にキメてみました。
料理なのでレイから細めの紐を借り、髪を結ってポニーテールに。髪が長いと梳くのに大変なのね! 結構時間かかっちゃったよ。
とりあえず今は結っているだけだ。ヘアクリップとかあれば色々オサレができるのだがな。この世界でそんなもんあるか分からないが、後で外に出た時探してみるか。
「元気だね、ハナちゃん」
「当然! 美少女は常に笑顔を振り撒き人々に元気を与えるものですからね! じゃあ早速朝食を作っていくよー!」
「もう昼食だけどね」
「気にしない!」
とは言ったものの、この家食材あるのか? 昨日の夕飯を見る限りまともなものが置いて無さそうだが。
豆……だけじゃなぁ。他に何か無いか。俺は調理場をあちこち漁りつつ、レイに尋ねる。
「レイくん、おうちの中に何か食材はないかな? 豆と草以外で」
「うーんと、確かたまごがあったような」
レイが下側をごそごそ探すと、5,6個程に纏まったたまごがすぐに見つかった。まだ数日しか経ってないらしいから大丈夫そうだ。
たまごか。良いじゃない。それがあれば後十年は戦える。
栄養もあるしな、最初はそれでお茶を濁すか。
「それじゃあレイくん! お豆さんを用意してくれるかな? 私はたまごを溶くから」
「うん、わかった!」
何を作るかって? そう、なんてことはない豆を混ぜた卵焼きだ。
(思ったよりも普通ですね)
(たまごだけじゃ普通じゃないものなんて作りようがないだろ……)
(いえてっきりハナ様の事ですからとんでもないものが)
(お前が俺をどんな風に見ているか今度じっくり話す必要があるな?)
セピアにつつかれながら、たまごをちゃかちゃか溶き始める。
めんつゆが無いのが非常に残念だ。あれさえあれば卵とじでもなんでも作れる一人暮らしの強い味方だからな。
そもそも調味料自体あるのかな。塩くらいはありそうなもんだが。
豆を持って戻ってきたレイに聞いてみる。
「レイくん。調味料ってあるのかな?」
「ちょうみりょう?」
「味付けに使う材料だよ。塩とか」
「あ、塩ならあるよ! 後はハーブとか」
ハーブ! いきなり飛んだな! でも薬草扱ってるならあり得るか。
食用でも種類があるが、とりあえず今日は良いか。見ただけじゃわからんし。
玉子と豆を混ぜてそのままドバーッと行きたい所だが、ここで一つ問題が。
「これどうやって使うんだ……?」
目の前にはフライパンをゴツくしたような鉄板、そして例のコンロだ。
既に魔力鉱石っぽい石が横にぶっ刺さってるがどうやって動かすのか。
「これをねー、こう、むぎゅっと押すと……」
「おわっ、ついた!」
「へへん、凄いでしょ」
凄い誇らしげだ。そういう所はまだまだがきんちょだな。
どうやらスイッチのように押すだけで点火するらしい。簡単で便利だな。挿しっぱなしは危ないと思うが……。
俺はそのままフライパンをコンロに乗せる。って重っ、数秒しか持ち上がらんぞ。これじゃチャーハン作るよが出来ないじゃないか。
「ハナちゃん、たまご入れないの?」
「まあ待て、急ぐと碌な事にはならんぞ。こうやって鉄板で焼く時はな、油を敷いておかないといけないんだ。焼いてる物が焦げて鉄板にくっついちゃうからな。基本中の基本だぞ、これからガンガン使う事になるから覚えとけよ」
「うんわかった! 後、口調が元に戻ってるよ」
「覚えておいてね♪ ハナちゃんと約束だよっ!」
「うん、わかった」
えっ、なんで後の方が露骨にテンション下がったの? ハナちゃん悲しい。
俺はレイが出してくれた油を少し垂らし、鉄板の温度を確認してから玉子を流す。結構な強火なのだが、これ火力調整効かないの……。かゆいところに手が届かないな。
さすがにたまごを巻くのは無理だ、そのままお出ししよう。じーっと見て集中しながら焼き加減を確認する。
ふと思ったのだが、真剣に料理に取り組んでる美少女って可愛いな。鼻歌とかしちゃってりしてさ。今やってみるか。
「ふふんふーん♪ ふふふーん♪」
あっ、かわいいかわいい。純粋無垢な美少女が楽しげに料理してる! ディンドンディンの鐘の音が聞こえるよ!
これが出来るなら料理も悪くないな。美少女力が鍛えられるぞ。
「どうかなレイくん、美少女と一緒にお料理をしている感想は」
「美少女は置いといて、料理してるのを見てるのは凄い面白いよ!」
俺も子供の頃は料理してる所をよく見てたな。ハンバーグとか作ってるの見たりとか凄いワクワクした覚えがある。
何かを作るっていうのはそれだけで子供は楽しくなるものだ。興味を持って貰えて良かった。
でもさ、美少女を置いとくなよ、置かれた美少女が可哀想だろ。
そんなこんなでたまごが焼きあがったのでさっとフライパンを……重い。レイに任せよう。
「レイくん、焼きあがったたまごをお皿に移してくれるかな」
「うん、任せてよ!」
レイは片手でフライパンを持つと皿の上でひっくり返す。筋力凄いなオイ。
伊達にスライム退治やってないか。いや、俺が貧弱すぎるだけかもしれない。
皿に置かれた卵焼きを確認する。出来栄えは……うむ、悪くない。移すのが遅れたから少し焦げてるけど。
「よーしっ、ハナちゃん特製卵焼きの完成~! ぱちぱちぱち~!」
(ただの卵焼きでは?)
(うるっせーぞー、美少女が作ればなんだって三ツ星レストラン並なんだぞー)
俺の美少女度が上がっていくと共にセピアのツッコミもキツイ方向に洗練されていく。
早速レイは出来上がった卵焼きを運んでいく。早い、早いぞレイくん。どんだけ早く食べたいんだ。まずは爺さんを呼ばなきゃだめだろう。
もう薬屋は開けてるのかな? 店頭に行けばいるだろうか。
俺は爺さんを呼びに店の方へと向かった。