銀の天使
「あれがクーヤの武器。武器というより、貴方の従魔や使い魔みたいな物ね」
「大層な名前だな」
今の所銀の玉がふわふわ浮いてるだけだが。いや十分摩訶不思議なんですけどね? ナイフ自由に動かせる俺が言うのもなんだけど。
その銀玉が動き出し、一直線にゴブリンの元へと向かう。
「はやっ!」
「……ハナ、こっちにも来た。油断しないで」
「問題無しッ!!」
「んふ」
こちらへと向かってくるゴブリンを、ボタンが瞬殺する。
おめーも大概つえーなオイ。蹴り入れただけでゴブリンの体がぶっ飛んでるぞ。
その間に、クーヤマーヤが銀の天使へ向けて命令を発する。
「刺傘」
クーヤマーヤの言葉に呼応して、銀の天使が蠢く。
その隙に、ゴブリンが棍棒で吟の天使を叩きつけるも、みしりと棍棒の方が割れる。
驚愕しているゴブリンへ、銀の天使が突撃する。
その球体の中心から、何層にも重なった刃の傘が、ゴブリンを切り裂いた。
「うげぇ……なんだアレ」
「……相変わらず悪趣味」
まるで拷問の様な物を見せられて、あまり気分は良くない。
嫌な予感がしていたが、これほどドギツイのを持っているとは……。
斬り刻まれたゴブリンは直ぐに絶命する。
銀の天使は機械的な動きでゴブリンの心臓部を突き、魔核を回収する。
「う~~ん……やっぱり何枚も刃を入れると無駄が多いですね。機能美とまでは言いませんが、もう少しスマートな方が――」
ぶつぶつと呟きながら、銀の天使が持って来た血塗れの魔核を手に取る。
透明感のある漆黒の魔核を太陽に翳し、透かすようにじっと見入っている。
「ふうん、ベースは変わらないんですねぇ。これならこの子の原動力にも――」
と、考察している途中で新たにゴブリンが現れる。
「……まぁ、後でいくらでも調べられますか。ハーちゃんも見ていることだし、性能テストの続きと行きましょう。――銀の天使」
返事をするかの如く更に銀の天使が変形する。
クワガタの大顎を連想させる様な二つの突起が生えると、そのままゴブリンを喰い千切っていく。
その後ろで、クーヤマーヤが俺をみて笑顔になる。いや、格好良い所見ててね! みたいな感じに振舞われてもこっちは地獄見せられてドン引きだからね?
「アイツがヤバい奴なのは十二分に分かった。今度から近寄らんとこ」
「……ダメ。今、貴方が離れたら何をするか分からない」
「えぇ~~~もう手遅れなのぉ?」
とんでもない事故物件を押し付けられてテンションが下がる。
そんな中、ボタンが景気良くゴブリンをぶっ飛ばしている。流石はボタン、健全にぶっ飛ばしているので血の海にはなっていない。
ゴブリンは落ちている木片等を投げ牽制しながら、ボタンを取り囲んでいる。
そんなゴブリンにはお構いなしに、ボタンは持ち前のスピードでゴブリンを次々に倒していく。
「良いぞボタン。その調子でこの辺の全部カタしてしまえ」
「ん」
褒められて気を良くしたボタンは、スピードを上げていく。
リコリスを真似ているのか、それっぽい動きでゴブリンの攻撃を避けつつカウンターしている。
早すぎて腕や足が伸びて見える……いや、伸びてるわ。そうだよな、スライムだもんな。
人間を装うとこういった不意打ちも出来るから便利かもしれない。
「ハナ、あの子は従魔って言っていたけど」
「ん? ああ、そういや言ってませんでしたっけ。ボタンはスライムなんですよ」
「……スライム? あれが?」
今はスライムっぽさ0%だからな。分からないのも無理はない。
正直言っていい物かと一瞬迷ったが、特級冒険者らしいし大丈夫だろ。口の堅さも特級なのを期待する。
「……」
「どうしました?」
「いや、何でも――」
ブローディアが言いかけた所で、凄い形相のゴブリンがこちらへと向かってくる。
なんか……何かから逃げてるみたいだな。その後ろから、ズドンと爆発音が聞こえた。
「悪い!! そっちに数匹向かった!!」
遅れて、ジナが大声でこちらへ注意してくる。お前のせいだったんかい。
ボタンはあっちで大暴れしてるし俺がやらなきゃダメかと思った矢先、ブローディアが動いた。
「何をやっているの、全く……」
ブローディアはそう言葉を零しつつ、宝石を取り出す。
赤く輝くその石を強く握り、ゴブリンへと対峙する。
ゴブリンはゴブリンであの魔物から離れようと必死だ。走りながら、棍棒を振り上げる。
結構近づいてきてるけど大丈夫か? 武器も握って無いし……と思っていたら、ブローディアが動き出した。
一歩目を踏み出した時、宝石を握っていた手から炎が溢れ出る。
「おお……」
思わず声が漏れる程、美しかった。
その炎から、剣が現れる。そのまま、ブローディアはゴブリンを一閃した。
斬られたゴブリンは切口から燃え上がり、そのまま力尽きる。
(オイオイオイ、カッチョ良すぎだろ。なんだあの技……スキルか?)
(恐らくは。【占術師】とはまた違うスキルでしょう)
(俺もあれ欲しい)
(いつもの事ですが、無い物ねだりはおやめ下さい)
ついセピアにおねだりしてしまった。
だって武器をぱっと出すの格好いいじゃん。すげー綺麗だったし。
ブローディアは握っていた炎の剣を消すと、今度は蒼い宝石を取り出すと、次は短剣へと変貌する。
後続のゴブリンを、その蒼い短剣で舞うように切り伏せていく。
更に続けて今度は黄色の宝石を取り出すと、そのまま投擲する。
宝石は槍に変わり、ゴブリンを二体程巻き込んで貫いてく。
エフェクトが格好良すぎる。動くも俊敏で、危なげが無いな。乳でけえのに。
おっと、俺も呆けてる場合じゃないな。
魔糸を通したナイフを一斉に放ち、ゴブリンの魔核目掛けて的確に屠っていく。
「つーか多すぎだろ。前回もそうだけどどこから持って来てんだこれ」
「元を絶たないとキリが無いな」
「ジナさん」
俺が愚痴っていると、ジナが戻ってきた。
どうやら一通り倒した様で、こちらへ戻ってきたみたいだ。
「どうするんです?」
「ゴブリンが湧いてる場所が分かれば良いんだがな。おいブローディア、お前さん分からんのか」
「……分からない。私のスキルはそこまで都合良くは無い。こういうのはリナリアが適任」
「やっぱそうなるか」
あらかた倒し終えたブローディアがそう言った。
そういえばそうか。あのデカいレクス見つけたのもリナリアだしな。これだけ多いと逆に探すの大変かもしれないけど。
「はなー」
「ボタン、もう終わったのか?」
「ん」
ゴブリンが山積みになっている。ちゃんとお片付け出来てえらい。
ちゃっかり魔核が抜き取られている。全部食ったなコイツ。
「……まぁいいか。よくやったぞボタン」
「んふー」
ボタンのぽんぽんと頭を撫でていると、ジナがギルドへ向かおうと提案する。
行き当たりばったりにゴブリン倒しても意味が無さそうだしな。
「じゃあすぐ行く? 他も大変だろうし」
「ああ、この辺はもう殆どいないだろうしな。クーヤマーヤは何処へ行った?」
「……あっち」
ブローディアが指す方向を見ると、クーヤマーヤが血塗れになりながらゴブリンの死体を物色している。
その近くで、銀の天使が殺戮を繰り返していた。
「オイあれどうすんだよお前さんの連れだぞ」
「私に擦り付けないで。ジナが持って行って」
「嫌だよ俺までケガするだろ」
「見た目魔物みたいだものね。確かに勘違いして襲ってくるかもしれない」
「そう言う事言ってるんじゃないよ?」
二人でどうぞどうぞしている間に、クーヤマーヤがこちらに気づいたようだ。俺を見て手を振っている。
「ハーちゃん!! 見ててくれた?」
「ああ、最初の10秒くらいまではな」
「10秒あれば全部理解出来るハーちゃんは凄いです!!」
「ポジティブすぎんだろこいつ」
ゴブリンの魔核を全回収していた様で、ゴブリンを片っ端から弄繰り回していたようだ。怖いよ~~。
「クーヤマーヤ、殲滅が終わったならここは他の奴に任せてさっさと行くぞ」
「おや、流石ジナさん、もう終わったんですか?」
「ああ。だが倒してもキリがねえ。なんの仕掛けかは分からねえが、原因を突き止めなきゃまた再発するぞ」
「それはそれで刺激的ですねぇ」
「真面目にやれ」
クーヤマーヤはかりかりと魔核を擦りながら、楽しそうに笑っている。
そして、殲滅を終えた銀の天使が戻ってくると、再び手の中へ納まる。
「それ、小さくなるのか。どんな絡繰りだ?」
「秘密です! まだお外に出す程の物でもないので」
「そんな拷問器具を外に出さんで欲しいんだがな」
「何故です? こんなに頼もしいのに」
その危険物をしまうと、クーヤマーヤはふきふきと返り血を拭っている。
「じゃあギルドへ向かうぞ」
「ついでに、住民を教会へ誘導しないと」
「では行きますか。ゴブリン程度なら、この面子だと5分かかりませんね」
サクサクと話が進み、一度ギルドへ向かう事に。
それにしても、ブローディアもクーヤマーヤも凄いな。ゴブリンがどれだけ強いか知らんが、少なくともあんなサクサク倒せる時点で並の実力じゃないだろう。
あんまり戸惑っている様子も無かったし、こうした緊急事態にも慣れてるのかもしれない。