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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
我が道進む百合水仙
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感激してぱちぱちと拍手をする美少女は可愛いな

「あっ、凄い! 海の幸も山の幸も大量ですよ!! やっぱどっちも近いと便利ですよね~~!!」

「うん、わかったから引っ張らんといて」

「こっちは装具ですか。私の担当外ですが、魔術仕込みの兵器も追々は並行して進めないといけませんね」

「聞け!!!」



 教会へ向かう途中であちらこちらへと目移りしながら移動するクーヤマーヤ。に、手を引かれて振り回される俺。

 確かに色々あるから気持ちはわからんでもないのだが、テンションの高さについていけない。


 落ち着かせるために、俺はクーヤマーヤへと話を振る。



「兵器って言ってたけど、なんか作ってるのか?」

「はいっ! 例えば今はこの――」

「ストーーーップ!!! ここで出すな!! いやこの街で出すな!!」



 ジナが慌てて止めに入る。そんなに慌てる程危険なの作ってるのかこいつ。



「そんな大袈裟な。まだ危険性の小さい試作品ですから大丈夫ですよ。仮に誤作動しても人が死なない程度にはなっています」

「もう既に物騒なんだよな。なんだ死なない程度って」

「致死性の低い物に決まってるじゃないですか」

「そう言う事聞いてるんじゃねえんだよなぁ」



 隣でそんな物お出しされても困るので、全力で阻止する。 

 コイツに『兵器』という言葉はNGワードだったか。今後はその手の話は止そう。


 俺とクーヤマーヤがわちゃわちゃと話している後ろから、フロクスが話しかけてくる。



「クーヤマーヤ殿。いくら兄上の後ろ盾があると言っても、限度がありますからね。あまり度が過ぎるとまた捕まってしまいますよ」

「大丈夫ですっ! いつ捕まっても良い様に脱獄の準備は十二分にしてありますからっ!」

「ハハハ。私は何も聞いてませんからね。では、行きましょうか」



 フロクスはさらっと流して歩みを進める。コイツ今脱獄って言ったか? 何してんだマジで。実際に前科があるのかよ。



「……クーヤ、もう少し離れて歩いて。私も捕まる」

「占い師に言われると本当に捕まりそうな気がして怖いですね!」

「占うまでもなくそんな未来が見える」



 ぶんぶんと握った腕を振りながら、先程と同じように色んな店を見ながら突き進んでいく。

 なんでここまでアクティブなんだ。スノーとはまた別の理由で疲れる女だ。


 もやもやしながらも歩き続け、俺達は教会へと辿り着く。

 現代でも見るような、THE・教会って感じの建物だな。大きさもギルドと同じくらいだ、



「やっと着きましたね」 

「……クーヤが無駄な事ばかりするから」

「良いじゃないですか! 知識は己の糧になるのですっ! 無駄じゃないですよ!」



 ブローディアが気だるげに呟く。

 確かに大分時間とられたな……それでも有り余る元気っぷりである。



「じゃあ、私はプリムに用があるから……」

「ええ、終わったらまたここで待っていて下さい」

「私もこっちですね。また後でね、ハーちゃん!!」

「クーヤマーヤ殿、勝手に外に出ない様にお願いしますよ――ああ、行ってしまった」

「まぁ平気だろ。プリムもいるんだから」

「……そうですね」



 フロクスが心配そうに二人の後姿を見ている。

 流石に教会で暴れたりはしないだろ……多分。



 気を取り直して、俺達は教会の中へと入る。

 内装は元居た世界とそう変わりない。これも転生者が作ってたりしてな。


 奥の方に、小さな人だかりが出来ている。子供が多いな、一体何やってるんだろう。

 そんな疑問に、フロクスは笑いながら答えてくれた。



「私の従魔です。子供達に人気でね、こうして度々、教会のアイドルになってくれるのですよ」

「へぇ、可愛い系の魔物なんですねぇ」

「ええ。では、実際に紹介しよう。……戻ったぞトマホーク。こっちにおいで」



 フロクスが人だかりの方へ向きながらそう言うと、そこから一匹の子豚が現れる。

 いや……魔物か? とことこ、可愛らしく歩いている子豚にしか見えん。大きさも小型犬くらいだし。



「ハナ殿、私の従魔だ。名をトマホーク。格好良い名前だろう?」



 格好良さはともかく、普通に可愛いペットみたいだ。良い。結構いかつい魔物を想像していたからなんか安心した。

 俺はしゃがんで、美少女らしく愛らしい動物に挨拶をする。



「格好良い……ですね。よろしくね、トマホーク」

「ぶいぶいぶう」

「は?」

「ぶいぶい」



 なんだ『ぶいぶいぶう』って。可愛すぎんだろ。豚はもっとこう……ヴヴゥゥゴ!!(美少女がやってはいけない声)って感じの鳴き声だったと思ったが。

 やっぱ異世界なんだなぁって思いました。もしケイカがここにいたら、暴走していただろう。

 そんな微笑ましく見ていた俺に、ジナが口を挟む。



「見た目に騙されるなよハナ。この魔物……『リュップス』っていうんだが、オークの仲間でな。力の強い種族なんだよ」

「オークなの!?」

「ぶい」

「ぶいぶい~」

「ぶう」



 ボタンが真似するのに重ねて、二人でぶいぶい鳴いている。

 これがオーク……いや、あくまでその種族ってだけで、俺がイメージしてるオークもいるのだろう。


 そんなトマホークがぴょこぴょこ跳ねながら、俺にぐいぐいと体を擦り付けてくる。

 豚は人懐っこいと聞いていたがそれは変わらないらしい。


 その後ろで、子供達が羨ましそうにこっちを見ている。きっと美少女の俺にかまってもらえる豚が羨ましいと思っているに違いない。



「皆、すまない。今日はここまでだ。また来週、劇を開くから見に来てくれるかな? 今度のお話は――」



 と、フロクスが語っているのを、子供達が目を輝かせて聞いている。人気なんだな、その劇とやらは。ちょっと見てみたいかもしれない。

 話を終えると、フロクスは再びこちらへ向く。



「待たせたね。騒がしくしてすまなかった」

「いえ、大丈夫です」

「さて、歩き通しで疲れただろう。そこにかけてくれ。ここは教会だが、比較的自由に使えてね。こうして休憩所としても利用できるんだ」

「へえ。親切ですね」



 ショバ代取らないんだ。かなり緩いんだな。ルマリの訓練所と言い、まだその発想に至ってないのか、それともこの世界とは合わないのか……まぁ、考えても詮無き事だ。

 俺とジナは並ぶ様に座る。ボタンはトマホークと一緒にぶいぶい言いながらじゃれている。早速仲良しになれて何よりである。



「相変わらず椅子が小さいな」

「ジナさんが大きいだけだろ、壊すなよ」

「大丈夫だろ……多分」



 基本、木製の椅子なので腐って脆くなるからな。ミシィ! って音がなった時にはもう遅い。

 いつでも避難できるように気を付けながら、フロクスの方を向く。



「さて、落ち着いたところで早速と行きたい所ですがまずは――」



 ごそごそと何かを取り出すと、それを手の平に乗せて俺に見せてくる。

 なんだこれ。黒い……魔核? ヴェガの魔核よりも少し小さいが、間違いない。

 なんでこれをフロクスが持っているんだろう。そんな疑問を、ジナが聞いてくれた。



「お前これ――」

「ええ、巷で噂の『黒い魔物』の魔核です」



 情報は基本伏せられてるって聞いているけど……少なくともフロクスはその辺を知ってるって事か。

 相変わらずキラキラして綺麗だな。ヴェガのは割れてしまったけど、これは小さいながらも形がしっかり残っている。



「噂って……どこで手に入れたんだ」

「先日まで私、ヴィルポートに行っておりまして。これは兄から受け取ったものです」

「兄っていうと――」

「シヴァ・ディーゴ・ヴィルポート伯爵。ヴィルポートの領主ですね」



 最近ちょくちょく耳にするヴィルポートという街。その街の領主が兄貴って事は……やっぱり貴族じゃん!

 俺は無意識に姿勢を正してしまい、フロクスに笑われてしまう。



「ハハ、そんな畏まらなくても平気さ。私は既に、家を離れ独り立ちしているからね。ああもちろん、身内と険悪な訳ではないよ。家の事情って奴さ。家族とは円満にやっている」

「そうだったんですか」

「あの領主が、お前を見放すとは思えんからな」

「ええ。今この国で一番大変だと言える兄上ですが、私が来るなり笑顔で迎えてくれた挙句『どうせ手伝いに来たんだろうが、何も心配いらない』と突っ返されてしまいましたからね。流石に無茶していないかと不安でしたが、顔色も良く問題無さそうでしたよ」



 笑顔で話すフロクスを見て、関係は良好なんだなとホッとする。家族関係の確執ってめっちゃ気を遣うじゃん?

 俺は再び楽に座り直し、フロクスの話を聞く。 



「話が逸れてしまいましたね。これはヴィルポート付近で見つかった、黒い魔物から取れた魔核です」

「ヴィルポートにも出たのか」

「はい、火竜が亡くなったのが伝播しているのか、魔物がじわじわと増え続けていまして。その中に混じって、黒い魔物の発見が報告されています」



 フロクスが深刻な表情でそう言った。黒い魔物というよりも、火竜の事で心を痛めている様だ。

 しかし、それが俺と何の関係があるのだろうか。それを聞くと、フロクスは顔を緩めて再び話を進める。



「思いの外早く情報が出回ってしまっています。それこそ、兄上がこうして情報統制を掛ける事無くこれを手渡して来ましたからね」

「世間に話が伝わり始めてるって事か?」

「王都を中心に、話が広がっています。いずれは出回っている商人を通じて、ディゼノにも話が伝わるでしょう。ルマリ襲撃の件もありますしね」



 襲撃の一件は、噂レベルでディゼノに広まっている。

 詳細を面白おかしく広めている者もいるが、いずれは黒い魔物という存在が知れ渡るだろう。



「まぁ、黒い魔物云々はお国にお任せして……問題は、ハナ殿の従魔であるボタン殿ですね」

「……そうか、そうだな」



 ジナが納得したように頷いた。

 黒いスライム。他には類を見ないと言っていたし、間違いなく黒い魔物と関係していると言えるだろう。実際関係してるしな。

 前々からどうしようかとは思っていたが、遂に本格的な対策を考えねばならんか。



「とは言っても、あの姿を常に模していれば大丈夫でしょう」

「確かにそうだけどなぁ」

「ずっと、というのは難しいでしょうが、せめて人目に付く場所でスライムの状態になるのは避けた方がよろしいかと。悪い事をしている訳ではありませんが、無用なトラブルに巻き込まれかねませんからね」



 出来るだけ人の姿で人前に出ろと。

 それはそれで目を引くんだよなぁ……美少女だし。まぁ、見られる分にはいいんだが突っかかられるのは良くない。



「スライムが人に模倣できる、なんて話は聞いたことがありません。探せばいるのかもしれませんが……ボタン殿が稀少な事には変わり有りません。なので、人の姿にさえなっていればまず疑われないかと」



 ボタンの様子を見る限り、変化に魔力を使っている様子は見られない。制限は実質無いとみて良いだろう。リコリスも常に人の姿だしな。

 問題はボタンが勝手にスライムに戻る可能性がある事か。そこはちゃんと言っておかないとダメだな。


 ルビアには隠していたが、王都ではきっちり説明しないとダメか。やっぱ場当たり的に誤魔化すとかえって面倒になるな。

 まぁ、腕くらいなら模倣できるって言ってあるし練習したら人に慣れたとか言っとけば平気やろ。



「で、その魔核はどうするんだ?」

「ギルドへ提出しますよ。元々その為に持たされた物ですからね。こうして出回るくらいには広まってきているので、気を付けて欲しいと一言申し上げたかったのです」



 そう言って、フロクスは魔核をしまい込む。



「では、この話は終いにして……【魔物使い】の基本的な知識をお教えします」

「おお~ついに!! お願いします!!」



 感激してぱちぱちと拍手をする美少女は可愛いなと思いつつ、俺はフロクスの話を聞く。

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