皆さんご存じクーヤマーヤですっ!!
ユーリが手伝いに出てから数日が経つ。
実戦で学べる事も多い様で毎日楽しそうだ。その調子で強くなってくれれば俺が楽できるので助かる。
今日も、ユーリはアルスやリコリス達と一緒に魔物討伐の依頼を受けているらしい。
リコリスが居るので多少難度の高い依頼だそうだ。あんまり無理はしないで欲しいが。
そんな中、俺は今ディゼノへと来ている。前にケイカに連れてきてもらった所で、優雅なティータイムだ。
ユーリが頑張っている中で、こんなのんきな事をしてていいのかと思わなくもないが、これはこれ、それはそれだなのだ。一応、王都へ行くのに準備するという言い訳、もとい面目があるからな。
俺は音を立てない様に、カップを口に付ける。舌で紅茶の味を味わいながら、コトリとカップを置く。
辺りを見回せば、相も変わらず賑やかな街並みだ。嫌いじゃないが、なんでそこまで元気なのかねぇ。
「んん~~~、これですよこれ、俺がやりたかったのは。こんなのんびりとした一時をあと500年ほど続けたい」
「うまい」
「こらこら、こういう時はもっと優雅に、慎ましやかに言うんやで」
「おかわり」
「食い過ぎだから。晩御飯まで待ちなさい」
「むう」
美少女二人で――という訳でもなく、今日は珍しくジナが一緒にいる。
どうやら冒険者ギルドのマスター、マリーが帰ってきたそうだ。最近根詰め過ぎていたという事もあって、暫く休む事にしたらしい。
「でも良いんですか? 私達と一緒に居て。他にもやる事があるんじゃないですか?」
「今日はお前に紹介したい奴がいたからな」
「え?」
だからスムーズだったのか。この店にこようってい言ったのもジナだし、おかしいと思ったんだよな。アナタ絶対来なそうだもんなこういう店。
でも、人と会う時くらいもっと早く言ってくれよな!
顔でそんな表情を出していると、ジナは苦笑いで返してくる。
なんかイラっとしたので、ヤツの痛いところを突っつくような感じで切り返す。
「またレイをほったらかしにして。見限られても知らんぞ」
「いいや……ここ数日は逆に構いっぱなしで『今日は大丈夫』って言われたんだぞ……」
「なんでそう極端なんだよ……もっと加減しろよ」
ジナがしょぼくれている。心なしか自慢の筋肉までしょぼくれているように見える。
レイは少し大人びているので、ジナが気にしている事を察したのかもしれない。
誰かジナに子育てアドバイスをしてやってくれ。俺? そんな経験無いから……。
「とーちゃん」
「ボタン、励ましてくれるのか」
「めし」
「まぁそんな事だろうと思ったよ」
ジナは自身が食べている料理を催促するボタンへ分けると、表情は変えず、しかし喜んでいるのが分かるくらいウキウキとしてそれを頬張り始める。
それから、レイになんか買っていってやれとか、ディゼノを連れ回してやれとか色々アドバイスしながら、時間が過ぎていく。
そろそろおあいそかなと、席を立とうとした所こちらへと近寄ってくる人影が。
ジナが言ってた人かな? でも、3人いない? 一人子供だし。
「ジナ殿。参りましたよ」
「来たか。今までなんだかんだすれ違ってたからやっとだな、フロクス」
「ええ、ご迷惑をおかけしました」
「気にすんな、こっちがお願いしてる立場だからな」
長身の男性が会うなりジナへと謝罪する。
どこか貴族を思わせるような気品のある服。そして中々顔立ちの良い長髪の男性だが、なんやそのピンピンした眉毛は。それにフロクスってどっかで聞いたことあるような……うーん、まぁいっか。
会った事は無い筈だ。そんな眉毛見たら忘れないしな。
そのチクチク眉毛の両脇に、魔女……と言うよりは、占い師が着てそうな黒いスケスケローブを着た、すっげえ美人で巨乳のお姉さん。多分今まで見た中で一番デカい。あのリコリスよりもだ。凄いぞ。
もう一人は、これまた俺と同じくらいな年齢の、橙色の短髪が綺麗な美少女がいた。目をキラキラとさせて、四方八方を見ている。
その二人を指して、ジナは呆れ顔で口を開いた。
「で、なんでいるんだお前等。特にそこのちっさいの」
「酷いっ! 私だってディゼノを見て回りたいんですよっ!!」
「この街に、お前が興味あるものなんてないぞ。大体、お前等が街中歩くだけで物騒なんだよ。フロクス、両腕両足縛っておかなくていいのか?」
「歩けないじゃないですかっ!!」
「ハハ、まぁ大丈夫でしょう。この街で暴れたらマリー殿がすっ飛んでくるので」
「そりゃそうか」
厄介者みたいな扱いに美少女は憤慨しているが、ジナが言うなら余程だろう。
そしてその隣の美人なお姉さんは一言も喋らず、じっと俺を見ている。俺がすかさずにっこりと美少女スマイルを返すと、あちらも微笑みを返してくれた。可愛い。
更に俺の頬を引っ張るボタン。今いいところだから大人しくしてなさい。
「おっと、紹介がまだだったな。そこで頬を引っ張られているのがハナ。引っ張っているのが従魔のボタンだ」
「ハアえす。よろひうおえがいしあう」
「んー」
口を引っ張られたままなので大分失礼な挨拶となったが、フロクスと呼ばれた男は笑ってよろしくと返してくれる。貴族っぽい見た目なのだが、ジナも畏まった様子は無かったので問題無いだろう。
「私は――」
「はーい! 皆さんご存じクーヤマーヤですっ!! よろしくね、ハーちゃん!」
「誰や」
「クーヤマーヤですっ!」
皆さんご存じと言われても俺は知らんけどな……フロクスがいきなり前に出てこられて驚いているぞ。
後、なんだハーちゃんて。初対面でめっちゃ馴れ馴れしいぞこの子。
「ハナ、アイツは気にするな。元々呼んでない。反応するともっと騒ぐからスルーしておけ」
「酷く無いですか?」
「私はフロクス。一応、この街で冒険者をやっている。君の事は聞いているよ、ハナ殿。同じ魔物使いとして、ジナ殿から教えてやってくれと乞われてね」
「……ああ! そう言えば前にそんな事言ってましたね」
「酷く無いですか?」
フロクスの視線を手でばっ、ばっと遮るように主張するクーヤマーヤだが、それも無視され話は進行する。
初めてギルドに行く前に魔物使いと会わせてくれるって言ったきり、音沙汰無かったからな。普通に忘れてた。
「そしてこちらはブローディア殿。【占術師】と呼ばれ、特級冒険者として名を馳せている一人だ」
「よろしく……」
儚げで、ぼそぼそとした声を振り絞りながらお辞儀をするブローディア。
おお、なんだ特級って。ジナよりも偉いのかな。凄い人連れてきたな。
「なんでお前も来たんだ。苦手だろこういう場は」
「……冒険者ギルドの方が辛い。暑苦しい……」
「そりゃそうだが」
確かに、あそこは人の密度が高い。通気性はあるとはいえ、女性には辛い部分もあるだろう。
しかしそのひらひらしたマント凄いな。歩いてると踏んでズッコけそうなんだけど。
「この街のギルドは特に筋肉男が多すぎる……夢に出る……死ぬ……」
「死ぬかそのくらいで」
「きっつ……」
「俺を見て言うな」
筋肉の権化みたいな人を見て苦痛を伴った言葉を吐くブローディア。
男というより、マッチョが苦手らしい。
「貴方も暑苦しい……ほんと無理」
「本人の前で無理とか言うな傷付くだろ」
凄い気だるげにブローディアはジナから視線を逸らす。どうやらこんな見た目だが良い性格をしている様だ。
ごほんとフロクスが咳払いをして、話を戻すために話し始める。
「まぁ、この二人は気にしないで下さい。私はあくまで、ハナ殿に魔物使いの基本的な知識を教えに来ただけですので」
「ああ、すまんな。普通の魔物使いならともかく、ハナは俺じゃ手に余るわ」
「お任せ下され」
そんな人を厄介者みたいに言うなよ。
だが、教えてくれるというなら助かるぞ。どっちかと言えば魔物使いの知識というより、今後魔物を使役していく上で必要な一般常識が知りたい所だ。
少しワクワクしてきた所に、横からクーヤマーヤが近づいてくる。
「へえ!! ジナさんが手を挙げる程ヤバいんですかハーちゃん!!」
「人に指さしてヤバいとか言わないでくれる? 馴れ馴れしいよキミ」
思わずタメ口が出たが、そんなの気にしないといった風にクーヤマーヤは俺の手を取る。
「良いじゃないですか、あ、私の事はクーヤでもマーヤでもなんでも好きな呼び方でお願いしますね」
「存在が忙しいよ~~」
「ボタンちゃんもよろしくねっ! うーん、ボタリンが良いですかね?」
「むり」
「え~~、せっかく可愛いと思ったのに」
手を掴んでぶんぶんと振ってくるクーヤマーヤ。
鬱陶しい事この上ないのだが、純粋な気持ちを前面に押し出してくる感じなので振り払う気にもならない。
腹立たしい事にめっちゃ可愛いしな。また美少女か。この世界レベルが高すぎるぞ。
まぁ、いつも言ってるが俺が一番である事には変わりないのだが。
「んじゃ、人が出揃った所だし行くか」
「……貴方も来るの?」
「こっちのセリフだよ??? 本当はフロクスに任せようと思ったけどよ。仕方ねえだろお前等がいるんだから。もう少し自分が爆発物だと自覚しろ」
会計を済ませた後、嫌そうに言ったブローディア。
そんなブローディアに、頭を掻きながらジナが返答するとそれに乗っかる様にクーヤマーヤが口を開く。
「そうですよブロちゃん。お外を回る時は絶対スキル使っちゃダメだって、さんざんマリちゃんから注意されたじゃないですか。しっかりして下さいね」
「だから……ブロちゃん言うのやめてって……なんかイヤ……」
「大体、お前が一番心配なんだよ……」
「私は大丈夫ですっ!! 精々、小火で済む程度に今まで収めてますのでっ!!」
「むり」
「否定が早いですよ!!」
ブローディアのお陰で新しい言葉を覚えたボタン。使いどころが多くて何よりだ。
さて、ここを立つのは良いんだがどこへ向かうのだろうか。そんな疑問を、ジナが聞いてくれた。
「何処へ向かうんだ?」
「アルタ教会へ行きましょう。私の従魔もそこで待機していますので」
「……私も教会に用がある」
フロクスに続き、ブローディアも口を開く。
教会……以前、ここでお食事をご一緒したプリムさんが言ってた場所か。
どんな所か興味があったんだよな。出来れば一度お祈りしてみたり。神聖で潔白な美少女とか最高じゃないか。
「……元々、教会に用があったの」
「じゃあ、なんでフロクスに付いてきたんだ」
「スキルで、付いて行くべきだと判断した」
【占術師】だっけか。占いっていうと前の世界では……まぁ、主観にはなるがあんまり信用は無かったな。
こっちだとどうなんだろうな。果たして未来が見えるとか、魔法の世界で更に魔法みたいな事が有り得るのだろうか。
俺がそんな事考えているうちに、クーヤマーヤが俺とボタンの手をしっかりと握ってぶんぶん振りながら歩きだす。
「よしっ、じゃあ行きましょう!」
「ハナ、ボタン、しっかりその手を握っておけ。見た目に騙されるなよ、そいつは本当に何をするか分からん」
「むしろ、手を放して遠くから見守っていた方が安全かもしれませんね」
「どんな評価だよお前何なんだよマジで」
「クーヤマーヤですっ!」
そんな騒がしい6人で、目的地の教会へ向かうべくディゼノの街を歩くのだった。