舌を軽くべーっと出して悪戯な美少女アピール
ロメリアが埋まってユーリとアルスの一騎打ちとなった。
的確に蔦をいなしながらユーリに攻撃を試みている。ユーリは近くに寄られる度に土魔法で邪魔しながら距離をとっている。あいつ、ライオンの癖に全く自分の体躯を利用しないな。
「攻撃の手段が固定されてしまっているでしな。いざという時にパッと適解が出ないのでしよ。経験が無いからそこは仕方ないでしが」
「耳が痛いでし」
「真似するな」
ぐにーんと頬を引っ張られつつ、ユーリの動きを見る。確かに同じ事しかしてねーな。
「でも、ロメリア殿を一時的に封じたのは良かったでしな。本当の戦いなら、全部埋まってるでし」
「あんなゴツい鎧つけてりゃ沈むわな」
いまも必死に抜けようとしているが、思う様に抜け出せていないな。ユーリの奴、どんだけ魔力使ったんだ。
「やっぱりまだ戦い自体に慣れてないでし」
「まぁ生まれたばっかだしな。本当は戦って欲しく無いくらいだよ」
「でも大精霊は乗り気じゃないか。なぁセントレア」
「そうでし……え?」
いつの間にか隣にルビアがいた。
家に来た時もそうだったが神出鬼没だ。なんかスキルでも使ってやがるのか?
「うわ覗き魔じゃん」
「……確かに一言かけるべきだったとは思うが、覗き魔は酷いだろ」
「やーいやーい覗き魔~! スケベ~! 変態~!」
「子供か!」
「子供ですが?」
正直に言うと、ステータスを見られた事に対してそこまでの怒りは感じてないので揶揄うのはこれくらいにする。
「急に沸いてきやがって」
「そんな虫みたいな言い方するなよ、私だって傷つくぞ」
「だったらそれ相応の態度を取るでし。覗き魔やってたりぶらぶらほっつき歩いてるから人心が離れるでしよ」
「ぐっ、べ、別にほっつき歩いてる訳じゃないし。今回だってちゃんと仕事だ、仕事。全く」
そう言ってルビアはユーリとアルスの戦いを観戦し始める。
「ほう、流石に元傭兵はやり慣れてるな。精霊相手とは言え思考が人寄りだからフェイントも上手く入れている」
「型も何もあったもんじゃないでしが」
「そりゃそうだろ。多少教えは受けてるだろうがお行儀の良い騎士とは違う」
二人で話し始めたので俺はユーリに念話を入れる。
(オイ、ユーリ。動きが単調だって言われてんぞ)
(だってこの兄ちゃん全然捕まえられないんだもん!)
(だから、同じ動きしてっからだろ。意表を突け意表を)
(例えば?)
(そうだなぁ……)
土魔法と蔦だろ? 元が植物だから……そうだな。俺はそれっぽい技を考えて、ユーリに伝える。
俺の話を聞いた途端、ユーリは尻尾をぴんと伸ばし、攻撃態勢に移る。
「よっしゃ!! 今度はこっちから行くぜッ!!」
「なんだいきなり」
アルスは身構えるが、ユーリはいきなり土魔法を行使すると――土の中へ潜った。
「いやモグラかよ」
「ああん? なんだってえ?」
ユーリが入り込んだ穴から声が漏れたと同時に、至る所から蔦が生えだした。
「なんっじゃあああああ!?」
「必殺!! 蔦連撃!!」
ご機嫌良く技名まで叫んで、四方八方からバシバシと地面から生えだした蔦でアルスを襲う。
完全に触手じゃん。男が触手に絡まれてる所なんて見たくねえよ。アルスじゃなくてロメリア狙えや。
「おおーなんかすげー事し始めたぞ」
「うおおおおおいいい!! 壊すなって言ったのにぃぃ!!」
地面が捲れ、いたる所がひび割れている。
セントレアがはしゃいでいるが、ユーリが勝つためなので目を瞑る事にする。
そう知らんぷりしていると、ルビアが俺にちょっかいを掛けてきた。
「お前何かしたか?」
「別に~~?? 何も~~??」
「そうか」
「ちょっとハナ!! 加減を考えるでしよ!!」
「いやだからなんもやってな……こらこら、首をがっくんがっくんさせるな、髪がボサボサになる」
その間にも、アルスはどんどん追い詰められていた。
ユーリを叩こうにも、土の下を移動しているのか狙いが定まらない。
「ふっ、ふうっ、こりゃヤバいな。ガチな戦いなら逃げてる所だ」
「おーいアルスー! 降参しても良いぞー!!」
「誰がするか!!」
アルスは蔦を避けながら、一気に走り抜ける。
向かう先は――
「兄さん。逃げてきたの……?」
「うっせ、大体二対一なんだから協力しないのがおかしいんだ」
「ふーん……私を無視しといて……ふーん」
「拗ねとる場合か!!」
兄妹喧嘩をしている間に、沢山の蔦が一斉に襲い掛かる。
大量の土埃が舞う。その中で、ズドンズドンと重量のある音が響いている。
「おいおいやり過ぎじゃないのか?」
「さっきの見てる限りあれくらいやらないと止まらなそうだからな」
「おバカ!! もうやめるでし!! 私の休日が返上されるぅ!!」
「はっ、まさか――私にも責任が!? そうなれば兵長と二人で訓練所の整備を……!!」
「お前もバカ!!」
やかましいセントレアを宥めつつ、ユーリたちの様子を見る。
蔦の攻撃が収まった――いや、違うな。うねうね動いてはいるが、どうにも様子がおかしい。
焦るように、蔦が必死に元の場所へ戻ろうとしている。
「ふふ……捕まえたのよ……」
「今度は千切るなよ」
ロメリアが蔦をがっしりと掴んでいた。他の蔦は、アルスが二つの剣で無理矢理に止めている。
手繰る様にして蔦を引き、ロメリアは土から脱出する。
「せーのっ!!!」
「おひょお!?」
抜け出したロメリアが、ぐっと力を入れて蔦を引くと、ユーリが土から引っ張り出された。
そのままグルグルと、ジャイアントスイングでユーリをぶん回している。
「すげー、あいつ結構重かったよな?」
「あぶねーな、こっちまで飛んで来ねえだろうな」
「何でそんな冷静!? あれ見るでし!! ボロボロでしよ、ボロボロ!!」
「兵長、心配するのはそこではないかと」
そのまま、ロメリアは手を放してユーリを開放した。
結構な勢いで地面に落ちたが大丈夫だろうか。
「お、お、おおお、凄い、なんか地面が斜めに……」
滅茶苦茶目を回している。ふらふらと歩いた後に、バターンと音を立てて倒れた。
見た感じ大丈夫そうだったが、不安なので直ぐにユーリの元へ駆けつける。
「おーい、生きとるかー?」
「な、なんとか……」
「ったく、威勢の割にすぐヘタレるんだから。ゆっくり休め」
「おう~」
ぐるぐると目を回しているので、無理に起こさず暫く寝かす事にする。
後ろから、アルスとロメリアがやってきた。
「おう、見ての通りだ。今回は勝ちを譲ってやる」
「なんでそんな偉そうなんだ」
「勝てたんだしいいじゃない……ユーリくん、大丈夫?」
「平気だ。目を回してるだけだよ。そっちは?」
「余裕だ余裕」
「泥まみれなのよ……早く体を洗いたいワ」
二人は問題無さそうな様子だが、やはり疲れが見えるな。
あんだけ走り回って転がりまくってるんだがら、流石に体力も相当使っただろう。
「じゃあ仕方ねーから数日手伝ってやる。ユーリが」
「ああ、取り合えずそれは後日だな」
「ユーリくんに乗って冒険出来るのよ……楽しみだワ」
このゴツいの乗せるの? 拷問かな? 昔の野球漫画みたいな事にならんか?
ともあれ、ユーリが負けてしまったのでアルス達の依頼を数日手伝う事に。まぁ、あんまり変な事はさせない様にちゃんと言っておこう。
既に日が暮れている。アルスとロメリアは先に帰ってしまった。セントレアとイルヴィラはユーリを使って穴だらけの訓練所を整備している。
ケイカやジナ達もそろそろ帰ってくるので俺も戻らなければ。
その前に、俺はルビアへ王都に行く事を伝える。
「無事に許可を貰えたようだな」
「心配なんだろうが、この傷は放っておけないしな」
「優しい奴じゃないか。昔はもっと自由だったのにな」
良い奴なのは否定しないが、今も十分自由だと思います。
「いつ頃来る予定なんだ?」
「明日いきなりってのは難しいからな。爺さんの店もあるし。2~3週間後くらい?」
「わかった。王都に着たらまず冒険者ギルドに寄ってくれ。話を通しておく」
「騎士なのにか?」
「関係ないさ。ネオもいるし問題無い」
ネオって確か第二王子だよな? バリバリ問題あると思うが……まぁ突っ込んでたらキリが無いか。
「昨日も言ったが、ここから王都までは距離があるからな。しっかり護衛は連れて行けよ。まぁ、リコリスが居ればまず大丈夫だが」
「その辺は平気だ。ボタンやユーリも連れてくしな」
「この国は賊の類は少ないが、いない訳じゃないんだ。のさばらせているのは騎士として申し訳なく思う。十分に気を付けろよ」
盗賊――犯罪者を全て捕まえるなんざ無理な話だからな。その辺は仕方が無い。
ルビアの言う通りリコリスいりゃ何とかなるだろうが、いつも何かしらのトラブルで危険な目に合うからな。念には念を入れて徹底的に準備して、今回こそは安全で優雅な美少女旅するんだ。
話してるうちに、日が見えなくなってきた。夜は村の中にぽつぽつと火が灯されるとはいえ、現代よりもずっと暗くなってしまう。そろそろ帰らないとな。
「んじゃよろしく頼むぞ」
「ああ、必ず伝えておく。では――」
「あ、ちょっと待った」
「なんだ?」
ぐふふ、良い事思いついたぞ。俺はその場を離れようとしたルビアを引き留める。
そして――ぐっ! と近づいて。ぐっ! と抱きしめた。
「は!? ちょ、おいっ!」
「おお、意外と肉付きが良い」
「余計なお世話だ!!」
褒めてるのに。まぁ、それは良いとして――
(セピア、ステータスを見せろ)
(え? ……ええ!?)
(早くしろ、あんまり長いと引き剥がされる)
(は、はいっ!!)
セピアを強引に説得し、ルビアのステータスを見させて貰う事にする。
俺のを見たんだ、見られても文句は言えまい。
名前:ルビア・バード・ストレチア
情報:半神人 女 279歳
体力:B
筋力:C
敏捷:C
魔力:S
知力:A
魅力:A
幸運:A
スキル:【光魔法】
【火魔法】
【重力魔法】
特殊スキル:【偽・補助神核】
【守護者】
どこから突っ込んで良いかわからんが……こいつ神だったんか。いや、神と人のハーフ? そんなのいるんだ。で、実は王族の279歳ってか。情報が多すぎる。
スキルの【偽・補助神核】と言うのも気になる。補助神と何か繋がりがあるのだろうか。是非、詳しく話を聞きたいものだ。
ルビアの結構ヤバいステータスを確認していると、戸惑ったような声でルビアが話しかけてくる。
「……おい、いつまでこうしてるつもりだ?」
「おっと、悪い。離れ離れになるのが寂しくてつい、な」
「もっとマシな嘘をつけ」
セピアにステータスを覚えておくように言い、ルビアから離れる。
「王都では慎め。そんな気は無くても、暗殺と間違えられて捕まったら事だぞ」
「大丈夫だ、俺だってそのくらい空気は読める」
「どうだか……」
一応魔導元帥だからな。あっちじゃ慕われて……まぁ、慕われてないにしても敬わないとな。
やべ、マジで暗くなってきた。まだ日が出てないと若干寒いんだよな。
「ほら、早く帰れ。お前が遅れてジナにどやされるのは私だぞ」
「へいへい、あっちに行ったらよろしくな」
「ああ。こっちに来るまで新しい傷増やすなよ?」
暗に気を付けろよと言ってくれる辺り、優しい奴なのは間違いないのだ。ちょっと強引なだけで。
俺はわかってんよ、と返しながら帰るべくルビアと別れる。
「あ、そうだ」
その前に、くるっと振り向いてルビアの方を見る。
「俺のステータスを勝手に見た件は無かった事にしてやるよ。……半神人さん。王都でゆっくりお話したいもんだな」
「……は?」
「おーい、行くぞユーリ!! にししし、じゃあまたな」
その言葉を聞いた後、ルビアは一瞬呆けて、直ぐに警戒した表情を向けてくる。
にしし、軽い意趣返しだ。舌を軽くべーっと出して悪戯な美少女アピールしてから、俺は答えを聞かぬままユーリを呼び戻し、その場を後にした。