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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
金木犀と春風の闇
11/181

私なんてただの美少女ですから

2018/11/04 会話表示修正

「うおあ……あふう」



 なんとか爺さんから了承を得て、ここに居候させてもらう事ができた。

 明日から自身のスキルやこの世界の事を調べつつ、まずはしっかりと自分の立ち位置を確立せねば。



「あーやば、これ、ああ」



 良いスタートを切り出せたと思う。いきなり森に投げ出されてどうしようかと思ったが、運良くレイに見つけてもらって助かった。

 稀少らしいスキルがあるといってもこんな貧弱ステータスじゃいつ死んでもおかしくないからな。

 レイには感謝してもしたりないな。きっちり料理を作ってやるか。と言っても俺一人暮らしで適当に作ってただけだから全然料理とか得意じゃないけどな。


 さっきちらっと調理場を見てきたが、なんとコンロがあった。電気やガスが無いのだが代わりに魔力鉱石なるもので動くらしい。

 まさにファンタジー、どういった仕掛けなんだろうか。手軽に火が使えるなら俺でも飯くらい作れる。


 このように、意外とこの世界は便利な物が多い。水も綺麗な物が流通しているようで、飲み水に困るということは無いようだ。そういや森の泉も綺麗だったな。

 以前海外旅行に行った時、水道水は飲むな絶対に買えと言われたのを思い出して警戒していたが、どうやら大丈夫そうだ。さっき少し飲ませて貰ったが普通に美味しい。

 それに……



「あう、あ、あひぃぃぃぃぃぃぃ」

(ハナ様、お風呂ぐらい普通に入って下さい……)



 そう。家の外に風呂があるのだ。びっくり。

 先程言った魔力鉱石で沸かすらしい。便利だなこの石!

 てっきり行水でもしてんのかと思いきや、既に入浴の概念が浸透しているとは。日本人に優しい。



(まさか初日から風呂に入れるとは……日頃の行いが良かったからだな)

(ハナ様が来る以前の調停者が作成し、世に広めたそうです。その他にも調停者が生み出した物が数多く出回っています)

(そっか、前々から転生者はいたんだっけか)

(はい、調停者にも寿命はありますからね。カラー様による選定の元、定期的に転生を行っています)



 ナイス以前の転生者。やっぱ風呂は必要だよ! ちょっと古くさいのが気になるが。

 セピアが言うには他にも便利な出回ってるらしい。早く見て回りたいな。

 だが、まずは今日の疲れを癒やす事が大事だ。いや極楽極楽。



「ははんはんはーん」

(む、何かの呪文ですか? 魔法に詠唱は必要ありませんよ?)

(違うわ! なんで風呂で呪文を唱えなきゃアカンのだ! 風呂に入ったらこうやって歌を口ずさむもんなの、美女のシャワーシーンでよくあるだろ!)

(な、なるほど……勉強になります)



 やれやれ、セピアにはこれからもっと美少女の常識を教えていかねば。

 500年程の長い付き合いになるからな。うーん、なげぇ。盛り過ぎじゃないか?

 歳を取ったら100年なんてあっという間だったよなんて言っちゃうのかな。歳取ると過ぎていく年月が早く感じるって言うしな。俺その前に死んだけど。

 そう考えると……セピアには今後も世話になりっぱなしなんだろうな。



(セピア)

(はい、なんでしょうか?)

(ま、その、なんだ。今日はありがとう。最初にセピアがいなかったら途方に暮れてたかもしれない。助かったよ)

(え!? あ、いえ。補助神として私はまだまだ未熟です。次こそはもっとスムーズに事へ当たれるよう――)



 こいつは本当に真面目だな。素直に感謝の気持ちを受け取ればいいのに謙遜して小難しいことばかり考える。



(だーもう! どういたしましてで良いんだよ! 今後も付き合い長いんだからもっと気軽に頼むぜ)

(はい! すみません!)



 駄目だこりゃ。女神さんといいどうも神様ってのは真面目なのが多い。今後ゆっくりと分かってもらえればいいけどな。

 俺は風呂から上がって家の中へと戻る。もう外は真っ暗だ。家に光があるので何も見えないわけではないが、足元に気をつけなければいけない。

 さて、外に出る際にローブを置いておいたんだが……。



(む? なんか色々増えてるぞ)

(簡素ですが服がありますね。ダズさんが置いていってくれたのでしょうか)

(気が利くな爺さん)



 後で礼を言っておかないとな。俺はその服に袖を通す。

 無地の白シャツに簡素なズボン。初期アバターだこれ!



(明日は初期投資してアバター揃えなきゃ……いや、金無いんだけど)

(何の話です?)



 俺はさっと服を着て2階に上がる。部屋が幾つか余っているようで、そのうちの一室を貸してもらえた。割と広い。持て余しているようだったので遠慮なく使わせてもらおう。

 掃除は定期的にやってるようだが少し埃っぽい。二人だし頻繁に掃除するほど余力は無いか。 



(ま、埃っぽいのは慣れてるしな。俺掃除苦手だし)

(美少女らしからぬ発言ですね……ハナ様が雑なのは今に始まったことではないですが)



 君ってさあ真面目なくせに、時たま切れ味の良いナイフで俺の事刺突してくるよね。正論って良くない。

 俺は部屋を見渡していると、レイが布団を持って部屋に入ってきた。



「ハナちゃん、布団持ってきたよ。洗ってあるから汚く無いと思うけど、少ししなびてるかも」

「お、すまんなレイ。いいよ、布団があるだけありがたい」

「じゃあここに敷くね」



 レイはバサッと布団を置く。確かに少しシワシワであまり柔らかそうではないな。まあクッション性があれば十分だ。

 枕をポスっと置くと、レイは俺に話しかけてくる。



「お風呂どうだった? 気持ちよかったでしょ」

「おう、ポカポカで最高だ。どこにも置いてあるものなのか?」

「人によってあったりなかったり。僕の家は父ちゃんが好きだから作ったらしいんだけど」



 親父ナイス! 広々として良いお風呂でした!

 お陰で足を伸ばして優雅に入浴する美少女を堪能できた。あああ、良い、凄い良かった。

 にへらと笑っている俺を、レイが怪訝そうな目で見てくる。



「大丈夫? のぼせてない?」

「ああ、大丈夫だぞ。自分にのぼせてるだけだから」

「ハナちゃんってやっぱりどこかおかしいよね」

「おかしくない! 人間誰だって自分の良い所に酔いしれるはずだ!」



 面と向かっておかしいとか言うな! セピアと言いレイと言い何故こうもズバズバするのか。

 俺はバサッと布団に倒れる。うん、まあまあ柔らかい。



「レイ、明日からさっそく飯を作るから適当に起こしてくれ。俺起きるの苦手だから」

「わかったよ。僕も手伝う?」

「そうだな、今後自分でも作れるようにしといたほうがレイの為にもなるだろ。冒険者やるなら」

「うん! わかったよ!」



 俺の為にもなるしな。毎日は流石にだるい。飯作る日をローテーションにすれば俺の労力も減る。

 その為にも早くレイには料理を覚えてもらわねば。先は長そうだ。

 考えているうちにうとうとと眠気が出てきた。結構歩いたしな。



「レイ、そろそろ眠たい」

「分かった。明日は僕が起きるのと同じ時間で大丈夫?」

「おう、それで頼む……くふぁあああ」

「あはは、じゃあおやすみ」



 レイはそう言って部屋を後にする。

 と、その前に……



「レイ」

「ん? どうしたの?」



 レイは振り返って俺を見る。

 こうやって布団でうとうとするくらいのんびり出来るのもレイが俺を見つけてくれたおかげだ。

 いきなり俺がここに住むって言ってくれるのを勧めてくれたし。子供心に好奇心があったのかもしれないが、それでも嬉しい。



「レイ、今日はありがとう」



 短く、ハッキリとレイに伝える。



「え? 何のこと?」

「いや、わからんならいい。おやすみ」



 なんとなく、そんな反応が返ってくると思った。天然ジゴロめ、将来苦労するぞ。

 レイはどこか嬉しそうに笑みを浮かべ、うんと頷くと部屋を後にする。

 俺は布団に潜り込むとそのまま直ぐに意識が落ちていった。



























 気がつくと、そこは白い世界が広がっていた。オフトゥンの中で寝ていたはずなのに。

 何処かで見たような場所だ。デジャヴか? 俺は起き上がり、キョロキョロと辺りを見回す。



「お疲れ様です。雪中様」

「その声は……」



 後ろに振り返ると、そこには青い髪の美女。

 この人は……そう、女神。女神のカラーさんだ。

 まさかこんなに早く会えるとは。俺は意識がだんだんとはっきりしてくる。



「転生して早々、喚び出してしまい申し訳ありません。今回は……」

「ありがとうございましたッッッ!!」

「!?」



 俺は空かさず女神さんに土下座をする。

 また会えたら絶対礼を言いたかった。俺の人生をバラ色に変えてくれたのだから。



「いきなりどうしたんですか!?」

「私なんてただの美少女ですから、私めが女神様と目を合わせるなど恐れ多い。へこへこ」

「卑屈に見えて全然卑屈じゃない!? 良いから顔をあげてください!」



 俺は言われたとおりに顔をあげる。

 やっぱ美人だなこの人。流石俺の体を作り上げただけはある。スタイルもいいし。



「で、急に喚び出して今度はなんだ?」

「切り替えはやっ! あ、えっとですね、まずは転生お疲れ様でした。いきなり危険な森の中へ飛ばしてしまい申し訳ありません。なにせハーフエルフという種族の都合上、人目が少ない場所への移動に制限されてしまうものですから」

「いやいいよ。セピアのお陰でなんとか切り抜けられたから。アンタが送ってくれたんだろ?」

「はい。彼はちゃんと役割を果たしているでしょうか?」



 女神さんは心配そうに訪ねてくる。そういえば新米だって言ってたな。

 こんな美人で優しい上司が気にかけてくれるなんてセピアは幸せものだな。滅多にないぞこんな良環境の職場。



「おう、バリバリ果たしてるぞ。心配すんな」

「そうですか! 彼は他の補助神と違って真面目な節があるから気がかりだったのですが、杞憂だったようですね」



 むしろ他の補助神は真面目じゃねーのかよ。そっちのほうが心配だわ。

 女神は続けて、俺に説明を始める。



「本来私の仕事は選定のみで終わりなのですが、雪中さんの場合、特殊な状態になってしまったので少し補足をするべく喚び出したのです」

「あ、俺のことはハナって呼んでくれ。とりあえずそれで通すことにしたから」

「わかりました、ハナさん」



 特殊な状態? 異世界転生した時点で特殊な状態だと思うのですが。



「特殊と言うのはハナさんのスキルの件です。人形遣いとは本来その血筋のみに受け継がれていくスキルなのですが」

「それは聞いたな。ランダムで貰ったから実感わかないが、凄いものなのか?」

「ええ、本来は転生時、選択肢に入らないものです。ですが、偶々その人形遣いのスキル保有者が数日前に亡くなってしまったのです。よってその瞬間から、人形遣いのスキルはあの世界から無くなってしまいました」

「そいつは子孫を残さなかったのか?」

「はい、気難しいお爺さんだと聞いています。」



 独り身の頑固ジジイか。職人気質だと有り得そうな話だな。

 と言うかこのスキルそこまで珍しかったのか。セピアが念を押して警告するのも頷ける。



「つまり、その絶滅したスキルが手違いで俺についたと」

「手違いというわけではありません。万が一スキル保有者がいなくなった場合、その数日間のうちに新しい保有者が生まれるという仕組みです。ハナさんは本来魔物使いのスキルのみでした。ですが転生した時に偶々、人形遣いのスキルも同時に復活したのです」

「ほほう、俺は凄い運が良かったというわけだな」

「そういう事になります。メリットばかりではありませんが」

「デメリットか。例えば力を利用しようとするやつに狙われるとか?」



 女神さんはコクリと頷く。当然稀少ゆえのデメリットもあるのだろう。セピアが言っていたようなことだな。

 あまり追われる身にはなりたくないのだが。



「はい。ですがご安心下さい。人形遣いに関して、流石にセピアだけではフォローできないので私でスキルに関してわかりやすく纏めてきました」

「おお、それは凄いありがたい! 複雑なスキルみたいだからな、資料があるとないとでは大違いだ」



 女神さんはごそごそと服の中から一冊の本を取り出す。

 それを俺にどうぞと手渡してくれた。

 題名は「女神のよくわかるシリーズ カラーのよく分かる人形遣い! ~これで君も一人前の人形師だ~」と書いてある。そういうのいいです。

 本の表紙にはなんか可愛い手書きの動物みたいなのがいる。これいる?



「どうです? 貴方が転生している間に1日で書き上げたのですよ? 可愛いでしょう」

「チッ」

「もう! そうやってすぐ舌打ちするのは悪い癖ですよ!」



 ペチンと頭を優しく叩かれて、めっと叱られてしまった。あ、胸が揺れた。誘ってんのか?

 舌打ちするのは仕方ない、俺が追われるという状況に対してあまりにもふわふわと楽しげにしていたのだから。というか悪い癖ってそこまで女神さんの前で悪態ついた覚えは無いが……もしかして俺の動向を見てたのかな。



「へいへい、というか見てたんだ」

「はい、今後も遠くから貴方を見守っていますよ」

「えっち」

「チッ」

「オイ!! 美人が舌打ちすると生々しいからやめろ!!」



 今後、俺もしないように心がけよう。美人にやられると結構来るものがある。

 美少女にあるまじき行為だしな。気をつけよう。



「ふふ、冗談ですよ。そうやってすぐ誂うからです」

「おちゃめな女神さんだな。度が過ぎると結婚できないぞ」

「フフッ」



 女神さんがすっと光の速さで俺の頬に手をやると、割と強めに頬を引っ張られる。って強っ!? 強い強い!! もげる! いたたたた!!



「いひゃいいひゃい! あやわゆ! あやわゆかや!」

「もう少し女性に……いえ、人に気を使わないとダメですよ。清廉な美少女でありたいなら尚更です」

「ひいひい……なんちゅう力じゃ」



 さては結構気にしてたな。神様の世界もそう言うご縁談とか敏感なのだろうか。

 もう地雷は踏むまい。俺は頬を撫でながらそう誓う。



「話はこれで終わりです。その本さえ読めば多少の理解は出来るかと思います。後はご自身の努力次第です」

「うん、ありがとうなカラーさん。大事にするよ」

「そうして頂けると作者冥利に尽きます」



 女神はそう言って微笑む。相変わらず綺麗で清楚な笑顔だな。負けてられん。



「これで本当に最後です。セピアにもよろしく言っておいて下さいね」

「俺は最後って気がしないけどな。機会があればまた会おうぜ」

「ふふ、そうあることを祈っています。では、また」



 ちゃんと「また」って言ってくれたな。また会えるさ。美人だから定期的に見たいしな。

 そういや俺ってまだ寝てるんだよな? この本どうやって持って帰るんだ?

 考えているうちに、俺はまた意識が落ちていった。

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