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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
我が道進む百合水仙
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やっぱ俺は天才だな

 休憩が終わったと思ったら、セントレアがユーリの上へ跨っている。

 何か楽しそうに話しているが、何をしているんだろうか。



「何遊んでんだアイツら」

「魔法の訓練じゃねえのか? ユーリの方は魔力練ってるみたいだし」

「え? わかるの?」

「いやなんとなく」



 なんとなくかい。

 確かに指導を受けてるように見えなくも無いが。



「アレは自身の魔力を探し出す訓練だワ」

「おお、すげーそれっぽい!! あれだろ、まずはおへその辺りの魔力を感じてみろだのなんだの言って集中させてるんだろ」

「ごめんただの当てずっぽうなのよ……」

「君たちィ」



 美少女に適当な事を教える鬼にはおしおきだ。ロメリアの胸の辺りをべしべし叩いて罰を与える。

 くっ、鎧がカタすぎて幸せを感じない。流石は春の新作である。


 暫くすると、ユーリが下を向いて手を地面にすりすりしている。恐らく魔法を行使すべく集中しているのだろう。

 セントレアはユーリの背中をすりすりしている。お前は毛を触りたいだけだろ。



「羨ましいのよ……」

「ん? 後でユーリ貸そうか?」

「そうじゃなくて……魔法、使ってみたいなぁ、って」



 ああそっちか。確かに、持ってない身としては羨ましくはある。

 やっぱ冒険とかで便利なんだろうな。火とか、水とか。土も汎用性高そうだし、期待しているぞ。



「アルスも魔法使えないのか?」

「ああ。鬼人で使える奴は珍しいな。いない訳じゃないけどな」

「そうなんだ。知り合いでいるの?」

「私達のお父さんが使えるのよ……しかも、二属性」

「それって凄いの?」

「鬼人だけで言えば他に聞いた事ないな」

「ほーん」



 まだそこまで鬼人を見てないから、生返事になってしまったが結構凄いらしい。

 確かに二つ属性持ってる人、そんなに見て無いな。リナリアくらいか?



「親父も傭兵なの?」

「傭兵もなにも、傭兵団の団長だよ」

「えっ、マジかすげえじゃん」

「凄い……のか?」

「お父さんは凄いかもしれないけど私達は関係ないのよ……」

「そう言うなよ、親父の事なんだから少しくらい誇っても良いだろ」



 身内の事だと実感が沸かないのだろうか。二人はいまいちピンと来ない、みたいな顔をしている。

 俺が別の世界から来たからか、傭兵団の団長がなんか凄い強い奴という先入観がある。


 ふと視線を前に戻すと、なんとユーリの前に土の壁が現れているではないか。

 まさかアイツがやったのか? なんかやたら喜んでるし。



「こんなに簡単に魔法使えるもんなのか」

「才能があるならイケるんじゃねえか? だってアイツ精霊だろ?」

「やっぱり精霊は凄いのよ……」



 もっこもっこ土が盛り上がっているのを、「やりすぎでし!!」と、セントレアに止められて怒られている。

 気持ちは分かるがな。魔法ってテンション上がるよな。魔糸を出した時もちょっぴり浮かれたし。

 それから、凄い勢いでユーリがこっちへ向かってくる。



「ハナ! オイラ出来たぞ! 魔法! 土魔法!」

「おう、見てたぞ。良くやった」

「ユーリくん、今のままじゃ戦闘で役に立たないでしよ。ほら、戻って続きをするでし」

「はい! 先生!」



 いつの間にか先生になっていたらしい。とことこと元の場所へ戻っていく。



「ユーリくん、可愛かったのよ……」

「可愛いかあれ」

「ええ、女の子ならああいうペットに憧れるワ。兄さんにはわからないのよ……」

「そんなもんかねぇ」



 可愛いペットの大きさじゃないと思うんだが……まぁ、元の世界とは尺度が違うのだろう。



「……やっぱり後で貸そうか?」

「……お願いするワ」



 鬼っ子に可愛がられるなんて羨ましすぎるぞお前。魔法よりよっぽど羨ましい。まぁ鎧越しだからありがたみ薄れるけど。

 ……うむ、良い事思いついたぞ。



「折角だから、訓練終わったらユーリと戦ってみる?」

「え? 良いのか?」

「良いも何も別にダメとは言ってないだろ。それに、ユーリだって土魔法試したいだろうし」

「願ったりなのよ……。魔獣……精霊だけど、獅子型の魔物だっているし、良い経験になるワ。ねえ兄さん」

「勿論だ!!」



 ここに来てアルスがめっちゃやる気を出している。君達、この後衛兵と訓練だよな? 俺から言い出した事だけど体力大丈夫か?



「あんまり無理しなくても大丈夫だぞ? なんだったら日を改めても」

「余裕だ、余裕。ちょっと休めば元気になる」

「鬼人の体力を甘く見ちゃいけないワ」

「あそ。んじゃあ良いけど」



 今からやるって訳でもないのに、準備体操してるぞ。アルスはともかく、ロメリアは大人しめの女の子だと思っていたが、鬼人は好戦的なのかもしれない。



「ただ戦うってのも面白くないし、なんか賭けようぜ」

「別にいいけど、大層なモンは賭けられねえぞ」

「おう。もしユーリに勝てたら……そうだな、数日そっちの依頼を手伝ってやる。ユーリが」

「おっ、そりゃ助かるな。それでいいぞ」

「楽しみなのよ……」



 もう勝った気でいるのか。ふふん、あんまり舐めてると痛い目見るぞ。



「因みにユーリが勝ったら、今日一日ロメリアの鎧を外してもらう」

「は? え? なんで?」

「俺が見たいから」

「良いぞ」

「ちょっと兄さん!!」



 ロメリアが言語道断と言うばかりに、アルスに詰め寄っている。



「別にいいだろ。これから先、いつまでも鎧付けて街中歩くわけにはいかないだろ。練習がてら丁度良いじゃねえか」

「そっ、それはそうだけど! 急すぎるワ!」

「負けなきゃ良いんだ。負けなきゃ」

「……本気出すワ。武器取ってくる」

「いや今すぐにって訳じゃないから。落ち着きなさい」



 二人でなんとかロメリアを宥める。そんなに抵抗感があるのか。重症だな。

 しかし、上手く行ったぞ。勝ったら俺はロメリア見れて眼福だし、負けてもユーリが良い経験つめるしで良い事づくめじゃないか。やっぱ俺は天才だな。

 


「どうせならアイツらもいた方が良かったんだがな」

「アイツら?」

「ケイカちゃんとスノーちゃんなのよ……」

「リアムもな」

「……うん」



 ケイカから聞いていたが、普段は5人で組んでいるらしい。

 割とバランスが良いらしいが、俺としてはスノーとかちゃんと連携取れているのか心配である。



「スノーとリアムは依頼受けちまってるし、ケイカはリコリスと遠出してるからなぁ」

「ケイカが遠出?」

「聞いてなかったのか? なんかノイモントの近くまで行ってるぞ」

「は? 全く聞いてないんだが。と言うか昨日の今日でそんな所まで行けるのかよ」

「リコリスさんなら行けると思うのよ……」



 そうか、幻獣形態になれば問題無いか。ケイカが尻尾にくるまれてしんどいだけで。

 アイツら……ご主人様の俺に言わず無断で遠出するなんて。ちょっぴり寂しいじゃないのよ。



「心配する程じゃ無いだろ。別に日を跨ぐ訳じゃないしな」

「うん、普段の依頼とそう変わらないのよ」

「なら良いけどな」



 ノイモントか……まさかリコリスの奴、冒険者活動を口実にして苺をねだりに行ったんじゃあるまいな。そこまでがめつくは無いと思うが……否定できない。

 アイツらも、俺が見ない所で頑張ってるのかね。ケイカも実力不足を気にしてたし。……明日は、一緒にお出かけするのも悪くないかもな。


































 現在、ケイカとリコリスはノイモント手前に位置する高原で、魔物の狩猟を行っていた。

 太く強靭な足を持ち、馬よりも速く、鋭い嘴で敵を穿つ。『ローフット』と呼ばれる鳥型の魔物だ。

 空を飛ぶ事は出来ないが、その自慢の二本足で敵に接近する。



「ケイカ」

「はい、問題ありません」



 角の先端が欠けている物の、以前に比べ大分伸びてきた犀人の少女、ケイカ。

 魔法を行使すべく、角に蓄えていた魔力を全身に巡らせる。


 手を上に挙げると、ケイカの回りに強風が巻き起こる。



救世旋風イサ・イーバ



 ケイカの回りに、つむじ風が発生する。

 以前レクスへ放った物よりも範囲は狭いが、しっかりローフットの動きを制限する。

 しかし、強靭な脚を持つローフットは飛ばされる事なく、そのままケイカへ向けて突き進む。


 その状況を焦る事なく、ケイカは観察する。

 所々切り傷を負ったローフットが、興奮した様子でケイカの目の前まで辿り着こうとした時――



暴風砲火サイクロン



 つむじ風が止んだと同時に、ローフットの真正面から暴風が襲い掛かる。

 風向きが一瞬で変わり、バランスを崩したローフットはたちまち吹き飛ばされる。



「フッ!!」



 既に空へと追っていたリコリスが、腕から伸びた氷剣でローフットの首を刎ねる。

 血を散乱させない様に、直ぐにローフットを拾い上げケイカの元へと向かう。



「う~ん……無事に終えて嬉しいんですけど、何というか淡々としてて成長してる気がしません」

「まぁ、ローフットではな。しかし、安全に越したことは無いぞ」

「そうですけど。折角遠くまで来たのになぁ」

「そう言うな。以前より魔法の制御も上手くなっているからの。決して成長していない訳では無いぞ」



 そよ風を出しながら、ケイカは不満を溢す。



「大体いつも竜巻をどーんって撒いてから、サイクロンでどーんてやるだけなんですよ!!」

「後衛なんてそんなもんじゃろ」

「そうですけど!! もうちょっと多(サイ)になりたいです!! リナさんの風の鞭とかやってみたいです!!」

「じゃがのう。お主、制御が甘いからすぐリナリアの様に行くまい」

「むむむ、前途多難です。……そうだ! リコリス様の体術を私も教われば……!!」

「……まぁ教えてやることは出来るが。そう簡単に行くものではないぞ」



 リコリスはそんなケイカの様子を見ながら、ローフットを氷漬けにする。

 切り落とした頭をも凍らせ、大きな風呂敷へと簡単に包む。



「相変わらず図体のデカい鳥じゃな」

「一体でも凄いお肉の量ですよね」

「脚は筋張って食えたものではないがの。まぁ味はそこそこじゃった」

「食べた事あるんですか?」

「……そんな目で見るな。我、一応幻獣じゃぞ?」



 幻獣形態だと生でいくんだろうか……と、ケイカは口には出さず心の中で邪推する。

 そんなケイカを、リコリスはぴこっとデコを指で弾いた。



「長居する必要もあるまい。このまま戻って、依頼を完了させるぞ」

「ノイモントへ寄らなくても良いんですか? 折角近くまで来たのに」

「良い。別に顔を合わせるくらいいつでも出来るからの」

「苺を譲って貰えるかもしれませんよ?」

「……」



 いつになく真剣な表情になり、その場で考え込む。

 氷の様に冷たく、冷徹な瞳とは裏腹に、三つの尾はくねくねとコミカルに動いている。



「ふむ……」

「え? そこまで悩みます? 悩むくらいならちょっと行って貰ってくれば良いじゃないですか」

「いや、しかしのう」



 風呂敷を地に置き、リコリスはモント山を見る。



「ハナになんと言われるか……」

「ハナさんは咎めたりしませんよ。また一緒に来れるんですから」

「食い意地が張ってるとか言われるであろう」

「え? そっち? 別に良いじゃないですかそんなの」

「ダメじゃ!! 我の威厳が落ちてしまうではないか!!」



 思っていたより大したことなかったので、ケイカは気にせず身支度を始める。



「じゃあ帰りましょうか」

「む、待て。もう少し考えさせてくれ」

「別にそこまで考える事じゃないですよ……寒いから早く行きましょう」

「いやしかしじゃな!!」



 リコリスがゴネていると、遠くからガヤガヤと話声が聞こえてくる。

 ここは馬車道から少し離れた高原であり、魔物の討伐以外では人が寄る事は無い。



「ケイカ。誰かが近づいてくるぞ」

「え? どこですか?」

「向こうじゃな。数が多い。魔物……の様に感じるが何か違うような」

「えっ!? 魔物ですか? しかも複数ってまずいんじゃ」

「我が居れば問題無い。最悪、お主を連れて直ぐに離脱できるからの。じゃが、恐らくこれは――」



 リコリスが注視していた先から、一台の馬車がこちらへ向かってくる。

 その周りには、灰色の毛玉が跳ねるように付いて着ている。



「なんか……なんでしょうか。あの横でぴょんぴょん跳ねてるの。あれ、ライズさんですよね」

「ウム、ノイモントにいるライズとは違うがの。奴らは、ミ族じゃな」

「ミ族というと……」



 灰色の毛。大きさは大差ないが、ノイモントのラ族よりも毛は短く、その代わりラ族の倍近くある大きな耳が印象的だ。

 ケイカが言い終える前に、そのミ族が目の前に降り立った。



「冒険者とお見受けするが」

「ウム。そうじゃが、お主らは?」

「オイ!! ジダ!! まずは自分から名乗るのが礼儀だろうがッ!!」

「ボス!!」



 馬車の中から一際渋い声を上げて出てきたのは、貫禄のあるミ族のライズだった。

 目にはサングラス、腕にジャラジャラと魔装具を身に着け、ライズとは思えないほどかぶいた身なりをしている。

 そんなライズが、リコリスの前へとやってくるといきなり頭を下げた。



「すまねぇ。うちのモンが失礼をした」

「すんませんッ!!」

「い、いや。構わぬよ。のうケイカ」

「はい、いきなりでびっくりしましたけど」



 膝を着く(足が小さくて膝は見えないが)勢いで謝罪をするライズに少し引きながらも、ケイカとリコリスは目の前にいるボスと呼ばれたライズの話を聞く。



「俺の名はミ・ギグ。『教会』のモンだ」

「教会っていうと……」

「アルタ協会じゃな。ライズもいるとは」

「オイオイ、これでも俺ァ結構古株なんだぜ? ミ族と言えば教会。教会といえばミ族だ。分かるかいお嬢ちゃん」

「分かりません」

「くはっ!」



 耳をぱさぱさと手ではたきながら、ミ・ギグは笑う。



「ボス。あの子達、いきなりで困惑していますよ。説明をした方が良いのでは」

「良いんだ。謎多きライズ集団の方が都合が良いからな。無頼、そう、まさに無頼ズだ」

「……」



 ハナが居たら間違いなく舌打ちしていただろうなと思いながら、ケイカは目の前のサングラスな灰毛玉を見ていた。


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