美少女の暴露会
現在、飯を食い終わった俺はジナとリコリスを連れて俺の部屋に来ている。
ボタンはと言うと、既に布団で寝ていた。スライムなのに、人よりも健全な睡眠を取っている。
そして、俺達は呪術書を囲うように座っている。何かの儀式かもしれない。
「これがケイカんちにあった本ね」
「……これをお前さんが扱えるのか?」
「まーな」
「お主……【呪術師】も持っておったのか」
結局、リコリスとジナには俺のスキルを話す事にした。ケイカには悪いが、段階というものがある。
「手に入れた経緯も俄かに信じ難い内容じゃが」
「嘘ついたってしゃーねーべ? ケイカの親父からスキルを継承したんだよ」
「それで、モント山でぶっ倒れたのはそれが原因と」
「それも仕方ないだろ? 使わなきゃ死んでたし」
あの時は必死だったなぁ。良く本当にあそこから生き残ったわ。しみじみ。まだ一ヵ月も経ってないんですけどね。
因みに、ケイカの父(名前忘れた)の事は、ケイカ自身がジナやリコリスに予め話していた様でスムーズに伝える事が出来た。
俺が感慨に耽ていると、ユーリがちょいちょいと前足で本を弄っている。猫かお前は。まぁネコ科だが。
「こらユーリ。一応、ケイカの親父の遺品なんだからそれで遊ぶんじゃない」
「うう、すまん。なんか積み重なってる本見ると崩したくなる」
「猫の本能だな」
「獅子だろ?」
「いや精霊だってばよ」
と言いながらも前足で本をつついている。聞き分けの悪い子である。
仕方が無いのでユーリをこっちへ引っ張り、ブラッシングしてやりながら話を続ける。
「という事は、ここに載っている呪術は全て扱えるという事かのう?」
「多分な。と言っても、いまいち使い道無いのが多いなぁ」
「俺も詳しくは分からん。だが、対価を必要とする物が多いらしいからな。しかし……【呪術師】か。ケイカの親父さんには悪いが、厄介なモン貰ったな」
ジナは少し下を向き、懸念する様に言った。
「何か問題でもあるのか?」
「そうだな。『指定能才』と呼ばれるモノがあるんだが」
「なんじゃそりゃ」
「ふむ、我も聞かんのう」
「言ってしまえば勅命……いや、国令と言った所か。要は、そのスキルを見つけたら国のお偉いさんに報告せにゃならん」
元の世界で言う政令みたいなものだろうか。まぁ、それは良いとして話の流れ的に嫌な予感しかしないんだが?
「その中に……と言っても三つしかないんだが。【呪術師】が入っちまってるんだな。参ったぜ、ハハ」
「参ったな、ハハ」
「ハハでは無いわ」
リコリスにスパーンと突っ込まれつつも、ジナの言う通り厄介な事になってしまった。
まさか【呪術師】も曰くつきだとは思わなかった。あのおっさんめ、語感が可愛いからなどと気軽に渡しやがって。
「因みにじゃが、他の二つはどんなスキルかのう」
「一つは【死霊術師】だな。【呪術師】もそうなんだが、過去に問題を起こした奴がいてな」
「だからっていきなりとっ捕まえるなんて酷くね?」
「いやいや、いきなり捕らえる訳じゃないさ。モノがモノなんで、その人物を精査する必要があるんだ。まぁ、場合によっちゃ捕まっちまうな。最近……と言っても数十年前か。そんなケースもあった」
なんか研究施設的な所に放り込まれるのだろうか。だとしたら絶対に隠さなければ……もう、どれだけ隠さないといかんのよ。
俺がガクブルしていると、ジナが更に追い打ちをかけてくる。
「そのケースで捕まった爺さんが最後のスキル。【人形遣い】だな」
「ォ……」
喉の奥から掠れるような変な声が出てしまった。
「フム、それは我でも知っておるな。あの偏屈な爺さんじゃな」
「お前さんも偏屈な婆さんだろ。まぁ、アレは度が過ぎるがな。捕まった後も、ゴネて罪人の収容所に自分の工房立てる様なデタラメ爺さんだし」
「人形を操れる、と言うだけで罪人になるとは不憫な爺やだと思っておったが。あれは納得じゃなぁ。むしろあれでは足りぬ。絶海にでも隔離しておいた方が良い」
「知り合いだったのか?」
「少しな」
なんか詳しい話を聞くたびに俺の存在が禁忌みたいになってくるな。自惚れとかではなく。
属性盛りすぎなんだよな。銀髪ハーフエルフの美少女ってだけで良いんだよ。いらないんだよ禁忌スキルいっぱい持ってるとかそういう裏社会的地位は。
「どうしたハナ。なんか……なんだ? 形容しがたい顔をしてるぞ」
「ウム、『苦虫を嚙み潰したような顔』じゃな」
「ォ……ォォ……」
俺はオウムの赤ちゃんみたいな声を出しながら魔糸を飛ばし、以前ルーファ(ノイモントへ向かう途中ディゼノで出会った物売りの美少女)から購入したぶちゃいくなぬいぐるみへと繋ぐ。
「初メマシテ! 【人形遣い】ノハナチャンデス! ヨロシクネ!!」
そのぬいぐるみを動かしながら、俺の前へと持ってきて一礼させる。
可愛らしく自己紹介すれば、納得してもらえるだろうと一芸入れてみたのだが。
「……」
「……」
「くふわぁぁぁぁぁぁ」
ユーリが気持ちよさそうに欠伸をしている中、二人はまさしく『苦虫を嚙み潰したような顔』をしていた。
「すまん、我とした事が放心しておったわ」
「俺もだよ……どうすりゃいいんだこれ」
「お主がそれを言ったら大半はどうしようも無かろう」
暫くユーリのブラッシングに勤しんだ後、二人が苦虫を噛み潰し終えた様で反応が返ってきた。
なんだかんだ、驚きつつも俺の事を考えてくれている様で嬉しくはある。
「ハーフエルフで、【魔物使い】、【呪術師】、【人形遣い】。まぁ……確かにこれは隠すしかないわな。良く話してくれた」
「お主、まだ何か隠してはおらぬか?」
「これ以上何を出せってんだよ。あれか? 俺のスペシャル悩殺プロポーションでも見せるか?」
「まぁ、これ以上は出ないだろ……多分」
まぁ、これ以上があるんだがな……言うのは流石に憚られるが。
ユーリは俺の人形をまたも前足でちょいちょいとつついている。あと、俺のプロポーションを無視すんな。
「相談出来る奴がかなり限られるな……リナリアは行けそうだが」
「騎士達は?」
「アイツらはやめた方が良いだろうな」
「今日の件もあるしの」
つーんとした感じでリコリスが言う。見られても問題無いとはいえ、やっぱり気になってはいたのかもしれない。
「まぁ、スキルの件は追々だな。俺から教えられる事は……正直に言うと、無いな。だが、ある程度基礎は鍛えてやれる」
「え? なんですげー自然な流れで鍛錬の話になってんの?? いいよ別に」
「良くない。これからを考えるとお前さんは鍛えておいた方が良い。事情を知ったら尚更だ」
「そうじゃな。我も協力するぞ」
めっちゃやる気に満ち溢れとるやん……何度でも言うぞ、俺はただ美少女として過ごしたいだけなの。
王都に行ってお年頃のお洋服着て目立たない程度に、でも一目置くような可愛い美少女する予定なんだ。
「うええ~~やだぁ」
「駄々を捏ねるな。王都へ向かうのであろう? 少しは護身を身に付けよ」
「もう十分だよ十分。短剣の扱いだって完璧だぜ?」
「じゃあ俺が見てやる。楽しみだな~」
「ぐぬぬ……」
「安心せい。そんな不安であれば我の体術も教えるぞ」
「ぐぬぬぬぬぬ……」
どうやら、王都へ行くまでスパルタ指導が続く様だ。憂鬱。憂鬱だよ。
美少女の暴露会が終わり、ジナとリコリスはここ一番疲れた表情で自分の部屋へと戻っていった。
『指定能才』か。まさか二つ被ってるとは思わなかった。【死霊術師】も手に入ったりして。……まさかな。
しかし、溜まってるものを吐き出すとスッキリするな。安心感が違う。
(もっと早くジナさんやリコリスさんに話すべきでしたね)
(ああ。信用できるやつにそれとなくスキルの事聞いてくれるみたいだしな。自分の足で回って聞くより手っ取り早い。出来れば楽したいモノだ)
【人形遣い】だった爺さんは有名らしいからな。どんな能力だったか、どんな風にスキルを使っていたかくらいは直ぐに分かるだろう。
【呪術師】も、これからこの本を読んで有用な呪術をセピアに覚えてもらえばいい。あんな長くてワケわからん呪文を沢山覚えるなんて俺には出来ないからな。
ざっくり今後の事を考えていると、ユーリが急かす様に話しかけてくる。
「ハナ、もう寝ようぜ。明日はオイラの晴れ舞台だからな!」
「晴れ舞台? ……いや、別に訓練するだけじゃん」
「魔法習うんだぞ魔法!! 興奮して寝れねーよ!!」
「自分で早く寝ようっていったのにな」
転生者よりも魔法に対してがっつくやん。そんなに使いたいもんかね。【人形遣い】が便利すぎて、他のは良いかなとか思っているハナちゃんです。
ふと窓の外を見れば、すっかり暗くなって星々の輝きが見える。いつ見ても幻想的だな。
よっこいせーっと布団へ潜り、星の光を感じながら眠りにつく。最近は、そんな健全な就寝スタイルだ。
という訳で、次の日。
珍しく朝に起床できたので二度寝しようとしたらユーリに邪魔され、なんとか朝飯までたどり着く。
その後、衛兵の訓練所へと向かう。場所は昨日と一緒だ。
「ハナ、待ってたでし」
「おはよ。……おいおい、衛兵長がお出迎えかよ」
「既に一仕事終えてきた所で丁度良かったでしな」
どうやら、早朝にさくっと書類仕事を終わらせたようだ。こいつ実は有能なのでは。
軽く話した後、直ぐに訓練所まで連れてこられる。ユーリのテンションが高い。
「まずはこちらの訓練からお願いできましか?」
「えっと、対魔獣訓練だっけ」
と言っても俺は外野から見てるだけ。楽でいいわ~~。
ユーリと衛兵たちが配置につき、実際に戦う……いや、演習というか、動きを指導している感じか。以前セントレアと戦った時みたく、兵士たちが必死に蔦を捌いている。
「おへー、こっからみてもすげえ迫力。うわ、兵士がぶっ飛んだ」
と、ついつい独り言を言ってしまう程のド迫力がある内容だ。あ、ハリスがぶっ飛ばされた。南無。
「あの精霊、すげぇ馬鹿力だな。今度、強引に仕掛けてみるか」
「兄さんじゃ直ぐ返り討ちなのよ……」
「戦う事に意味があんだよ。経験だ経験」
何故か隣に、鬼兄妹のアルスとロメリアがいる。
「……なんでいるの?」
「おう、ハナ」
「あ、はい、おはようございます」
「おはようハナちゃん」
アルスはいつもと同じ服装だ。めっちゃ薄着。胸とか出ちゃってるし寒くないのだろうか。
ロメリアは新調した甲冑を身に着けている。あっちにいる衛兵よりも兵士っぽい。重装歩兵だ。
「また一段とゴツいの付けてますね」
「春の新作なのよ……」
その甲冑とファッショナブルな女性服を一緒にするのやめてくれません?
「ったく、こればっかで全然貯まんねえんだよな、金」
「兄さんは兄さんで武器にばかりお金かけてるのよ……使わないのに、絶対無駄金だワ」
「そんな事ないぞ。ちゃんと手入れはしてるしな」
「手入れだけじゃ意味ないのよ……買われた武器が泣いてるワ」
早速コントを始めたぞ。多分終わらないので、強引にこちらの話に引き戻す。
「なんか依頼でも受けたんですか?」
「依頼と言うか、要請だな」
「私達も訓練に付き合うのよ……」
なるほど、衛兵の方から声を掛けたのか。
「なんでまた。お前らランク低いだろ」
「低くねえよ!! この年齢にしちゃ高い方だろ!!」
「兄さん、子供相手に見栄張っちゃみっともないのよ……」
「うっせ!!」
確か、ケイカより一つ上だって言ってたからな。ケイカがEだから……Dランクか。
Dランクと言えば物語的にこなれてきて、デカい仕事引き受ける手前って印象だな! そんな偏った知識だが、ケイカの話を聞いてるとあながち間違ってもなさそうだった。
「私達は元々傭兵出身だから……普通の冒険者よりも、実戦経験はあるのよ……」
「と言っても、対人限定だがな。魔物相手はまだまだひよっ子だよ」
「ああ、そんな事言ってたな」
確か、傭兵は堅苦しいから転職したって言ってたな。傭兵って言うと、こっちの世界でもまさに字の如く金で雇う兵士なんだろうが、今は戦争も無いしどうやって稼いでるんだろうか。
と、お話している内に、衛兵たちも一度休憩に入る様だ。息が上がっている。まぁ傍から見てもあの蔦の威力は凄まじいしな。初見で涼しい顔してさばくセントレアがおかしい。