美少女二人で風呂入ってる構図も微笑ましくて悪くない
家に戻った俺は速攻で部屋に引きこもる。
だが、リコリスに強制連行されてレイと一緒に日が落ちる時間まで運動させられた。
相変わらずのスパルタである。
「だあー、もう無理。リコリスほんとバカ。無理」
「ふむ、少しは体力が付いてきたか?」
「最初の頃は一緒に走って5分も立たずにバテてたもんね」
「小僧。お主も、もう十分冒険者の端くれとしてやっていける程度の体力はあるのう」
「そうかな?」
俺がバテて庭でぜいぜいと息を整えている横で、リコリスとレイが話をしている。
ったく、先日体動かしまくったから暫く休みたかったのにな。
「よし、風呂だ風呂。レイも一緒に入るか?」
「何言ってるの!? 僕は後で良いよ!!」
赤面しながらぴゅーっと家の中へ戻ってしまった。かわいい奴め。
「これ、あまり揶揄うな」
「にっししし。冒険者になるとああいうハニートラップも多いからな。今のうちに慣れさせておくのだ」
「まだ色も知らぬ小娘が何を言っておるのか」
「じゃあ今から教えてくれよ。風呂場で」
「たわけ」
リコリスは家の中へと帰ってしまう。やれやれ、偶には俺の我が儘に付き合って欲しい物だ。
「仕方ねーな。行くかボタン」
「うん」
人の姿でずっと俺に付き添っていたボタンが、こくりと頷いて俺の後に続く。
こいつ、やたら風呂好きだが入ってて気持ち良いのだろうか。特に暑い寒いの感覚無いのに。
俺はすぱぱーっと服を脱いで、風呂場へと向かう。ふむ、以前より少し暖かくなってきたか?
「んふ」
「ああこらこら、ちゃんと体拭いてからだ」
既に湯船にはお湯が入っている。リコリスが準備してくれてたからな。偶には従魔らしく気を利かせるじゃないか。
その湯で、ボタンの体を丁寧に拭いてやる。俺と違って汗かかないからあんまり汚れて無いが、一応だ。
石鹸はあるにはあるんだが……硬いしじゃりじゃりしてて肌に悪い。どっちかと言えばありゃ洗剤だ。
ディゼノに良い石鹸無いかな~と探してはいるが見つかっていない。安値で安定供給できるのがあれば良いんだがな。
……それにしてもすげーな【変化】。全身拭いてやったが、マジで人間にしか見えねえぞ。
「もういい?」
「おう、ゆっくり入れよ」
「ん!」
案の定、じゃぽーん! と勢いよく突っ込みやがった。そんなに好きか。風呂。
俺も好きだけど。動いた後の風呂は体と心に沁みるぜ。
ボタンに続き、俺もゆっくりと湯船に浸かる。
「ぐへええぇぇぇぇぇ……やっぱ最高やな」
「んふ」
俺が腰を付けると、ボタンがぎゅっと抱き着いてくる。
うむ、良いな。美少女二人で風呂入ってる構図も微笑ましくて悪くない。流石に誰かに見せつける訳にはいかないが。
「ボタン、身内には良いが、知らん奴には気安く抱き着くなよ。危険だからな」
「うん」
色んな意味でな。
これ以上トラブルを被りたくない。
ボタンの頭を撫でながら、今日の事を振り返る。
と言っても、先日の事話しただけで大分時間とられたな。ただ、王都で腕の傷を治してもらう約束が出来たのは良かった。
(王都か。どんな所だろうな)
(私も実際目にした事はありませんが……ディゼノ以上に頑丈な、大きな壁に囲まれているとの事です)
(へえ、これまた窮屈だな)
ディゼノも結構大きいと思ったけど、どうやって立ててるんだろうな。やっぱ土魔法だろうか。でも、そんな簡単に壁が作れるならどこの村も簡単に作れそうだけどな。
当然、それだけ大きけりゃいろんな店もあるに違いない。ツバキおばさんの妹さんも王都に居るって言ってたな。紹介して貰おうかな。
(ディゼノ以上にお洒落なお店いっぱいあるんだろうな。まだ、ディゼノすら十分に回れて無いのにな)
(そんなに焦る必要はありませんよ。ハナ様にはまだまだ時間があります)
(おろ、せっかちなセピアがのんびりしろなんて、珍しいじゃない)
(そうでしょうか?)
強くなれだの知識をつけろだの、割とせっついてる印象があるからな。
だが……そうだな。毎回あんなバケモンに襲われてたら身が持たん。
さっきみたいなトレーニングは欠かさないとして、何かこう、劇的に変わる様な事をしないと危険かもしれん。
(その為にも、呪術の確認は急がないとなぁ)
(その言葉を、半年前のハナ様に聞かせてあげたかったです)
(半年前の俺は無垢だったんだ。戦いに明け暮れてこんなにスレちまったよ)
(ご安心ください、何も変わっておりません)
精神性が何も成長していないと断言されて俺はショックだよ。
ショックなので、いつかシバくとセピアのおしおき負債を頭の中で追加しながら、明日の事を話す。
(ユーリの魔法を教えるって言ってたけど、一日でどうにかなるモンなのか?)
(個人差はありますが、ただ行使する分には問題無いかと。十全に扱えるようになるには時間が掛かりますが)
(んじゃあ、セントレアには今後も度々お世話になるかもなぁ)
一応騎士の長だし、そこまで甘えて良い物かと思うが、あっちから催促されるなら問題無いだろう。
しかし、わざわざ外で話さなくてもあの場で言えばよかったのに。
(騎士にも、複雑な関係があるのやもしれませんね)
(痴情のもつれだな、ルビアとセントレアが俺を取り合ってるに違いない)
(ふてぶてしさも板についてきましたね)
(オメーもな!!!!!)
まぁ、冗談だ。どうせサボりたいとかそんな適当な理由だろ。
しっかし土魔法ねえ……リナリアの使った、ヤバそうな魔法も出来るのだろうか。
(ユーリさんであれば、ゆくゆくは可能かと)
(すげーなアイツ)
ふふ、俺の戦力が更に増強されるでは無いか。
これならユーリだけに任せておけば俺が頑張らなくても……と、考えているところにぺちっと頭を優しく叩かれる。
「むう」
「どうしたボタン。腹でも減ったか?」
少し不満そうな顔をしながら、ぺちぺちとしてくる。なんなんだ。
おお、少し頬を膨らませているぞ。俺のゲキマブ技術を見て覚えるとは流石だ。
「こら、大人しくしなさいって。お湯が流れちゃうだろ」
もしかして、ユーリの事考えてたから嫉妬してんのか? だとしたら、相変わらず嫉妬深い奴だ。
こういう時は褒め殺しに限る。
「ボタンもこの前は良く頑張ったな。うりうり」
「……きゅう」
「よしよし、良い子だボタン」
美少女が美少女の頭を撫でてやる光景は一般人には尊すぎて直視できないな。
髪はサラサラだし、肌もすべすべだし、文句のつけようが無いな。これは褒められて然るべきである。
そのままのほほんとして、二人で浸かっていると良い時間になった。
「そろそろ出るか。ちゃんと拭いてやるから濡れたまま家に入るなよ」
「んー」
ボタンは立ち上がって、ぴょいっと湯船の外へと出る。滑りそうで見てて怖い。まあこいつは滑っても問題無いだろうが。
俺は持って来ていた布切れを肩にかけ、その一枚でボタンの頭を拭いてやる。
少しは温かくなったと言ってもまだ寒いからな。風邪は……コイツは引かんだろうが、家に濡れたまま入ると怒られちまう。
「しっかし綺麗な髪だな。俺を模倣したなら当然だが」
「んふー」
丁寧に拭いてやると、ボタンは気持ちよさそうにしている。
俺と違って短いから直ぐ乾くな。
すると突然、ボタンがピーンと背筋を伸ばす。
「わ、どうしたボタン」
「んっ!」
「うおいっ!!?」
急に飛び出して行ってしまった。どうしたんだいきなり。
つーか全裸でどっか行くのはまずいだろ!!
「待て待てボタン、ストッープ!!」
ボタンの後を追い庭へ向かう。
そこに、いつの間にか戻って来ていたケイカと、何故かダイナ、ガーベラがいた。もうそんな時間になっていたか。
「けいかー」
「おや、ボタンさ――ぶはっ!?」
ケイカがボタンの姿を見るが早いか、一瞬でボタンを隠す様に覆いかぶさる。今のめっちゃ早かったな。これも冒険者としての経験の賜物か。
「オッス、もう帰ってたのか」
「ハナさんも!!? 何してるんですか早く隠して下サイ!!」
「あ? んな事言ってもな」
肩に薄い布一枚あるだけで隠しようがない。
「ダイナは見ちゃダメ」
「お、おお」
ガーベラは、さっ、と手でダイナに目隠しをしている。
まだ10歳のガキなんだからそんなん気にする事じゃねえのに。
「けいかー、にく」
「ボタンさん、ごはんの時間はまだですよ。早く服を着て下サイ」
「ん」
「そうだケイカ、髪拭いてくれよ。髪が長いと自分で拭くの中々難しくて」
「後でお部屋に伺いますから早く隠しなサイ!!」
「へいへい」
なるほど、ケイカが帰ってきて飯の時間になると思ったのか。食いしん坊め。
「それで、なんでガーベラちゃんがいるの?」
「ダイナが、貴方に用があるって」
「俺に?」
「ああ、聞きたい事があるんだが……後で良い」
「おう、じゃあちょっくら待ってな」
ダイナが俺にねえ。……そういや、ヴェガとの戦闘の中でポロっとアイツのスキル言っちゃったんだっけ。
まぁ良いさ、俺も聞きたい事があるし丁度良かったぜ。俺の事も打ち明けて、情報共有できれば御の字だ。
俺はボタンを引き連れて、風呂場へと戻っていった。
「ダイナ、ケイカが抱いてた子……」
「ああ、言わなくても分かってる。聞きたい事が増えたな」
「本当に、秘密が多い子だね」
やべ、咄嗟の事だったから仕方ないとはいえボタンの事がバレたな。もう少し隠しておこうと思ってたのに。