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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
金木犀と春風の闇
10/181

ちょっと真剣な雰囲気で覚悟を決めた美少女が老人にお願いするシーン

2018/05/03 一部修正

2018/11/04 会話表示修正

「まずは……そうじゃな、まだ名前も教えてなかったのう。儂の名前はダズ。さっきも見た通りこのルマリで薬屋をしておる」

「ルマリってこの村の事ですか?」

「うむ、少し小さな村じゃがな。大陸の外れじゃが、きちんと物品は流通しておるし暮らしに不便は感じぬよ」



 ダズ爺さんは穏やかにそう話す。なるほどルマリ、大陸の外れにあるのね。つまり田舎か。

 街の雰囲気ものんびりしていたし、比較的安全な所なのだろうか。



「少し歩くが近くには大きな街もあってな。ディゼノと言う所なんじゃが、ここよりも活気に溢れておるわい。ギルドなんかもそこまで行かねば無いのう」



 孤立している訳では無さそうか。そのディゼノって所に行けばここよりいろんな物が見られそうだ。と言ってもまだルマリ村すら殆ど見てないんだけどな。

 それにギルドか。レイの奴も言ってたが冒険者ギルドとかあったりするのだろうか。後で詳しく聞いてみるか。



「じゃがまぁ、儂は騒がしい場所は苦手での。ここでひっそり暮らしていたほうが気楽じゃわい」

「そうですね、私も静かな方が好きです、ダズお爺様」

「ほほ、ダズお爺様か。孫に女子おなごがいればそう呼ばれていたのかもしれんのう」

「爺ちゃんがそんな風に呼ばれるかなぁ?」



 田舎すぎても不便だし、かと言って人ががやがやしてるのも好きじゃない。

 そういった意味じゃここはかなり良い立地なのかもしれない。都心まで電車で一時間くらいの田舎、といった所か。



「話を戻すぞい。儂とレイは二人で住んでおってな、儂の息子……ジナと言うんじゃが、割と有名な冒険者でな。今もあっちこっち飛び回って活躍しておるんじゃ」

「父ちゃんは凄いんだぜ! どんな魔物だって一瞬で倒しちゃうんだ!」

「そうじゃな、どっちが魔物だよって感じだったのう。儂の息子とは思えないくらい筋肉隆々のマッチョマンじゃ」



 レイが興奮して話し出す。なるほど、親父に憧れて冒険者になったのか。

 一瞬というのは些か大袈裟だが、きっと凄い強いのだろう。有名だって言ってたしな。



「それ故に、中々帰ってこないのじゃよ。偶に顔を出しには来るんじゃがな」



 冒険者で出稼ぎしてるってわけか。それで夜になってもいなかったのね。

 ん? ってことは母親も一緒に冒険者やってるのだろうか。俺はつい流れで聞いてしまう。



「では、レイくんのお母さんはどこにいるんですか?」



 その質問をした直後、レイの顔に陰りが見えた。

 しまった、もう少し気を使うべきだったか。両親が家にいない時点である程度察するべきだった。

 少し間を挟んで、爺さんがゆっくりと話し出す。



「息子の妻……レイの母は3年前に病気で亡くなってな。名前をヘレナと言うんじゃが、とても柔和で包容力のある、温かな女性であった」



 病気で亡くなったのか。辛かっただろうな……まだまだ甘えたりないだろうに。

 レイは直ぐに顔を上げ、笑顔で俺の方を見る。俺はそんなレイに、思わず謝ってしまった。



「レイくん、辛い事を思い出させてごめん……」 

「大丈夫だよハナちゃん。確かに最初は辛かったけど、僕はもう平気だよ。ううん、悲しくないと言えば嘘になるけど、そんな事言ってる暇があったらもっと力を付けるよ。1日でも早く父ちゃんに追いついて、一緒に旅をするんだ!」



 レイは本当に少年なのだろうか。見た目からして10歳くらいだろ? 異世界の子はメンタルが強すぎる。



「レイくんは強いね。レイくんならきっとお父さんに追いつけるよ。早く一緒に旅ができるといいね」

「うん、ありがとうハナちゃん。僕頑張るよ」

「ほほ、追いつくのはいいがあんな暴走ゴリラみたいになってはいかんぞい」



 暴走ゴリラは言いすぎじゃね? いや実際見てないからわからんけど実の息子を暴走ゴリラって言う奴は初めて見たぞ。というかこの世界にゴリラいるのかよ。

 ……くそっ、ちょっと気になるじゃねえかコノヤロウ。せっかくレイが格好良いこと言ってたのにそっちが気になって仕方ねえ。

 俺がそんな下らないことで悶ている中、爺さんが話を続ける。



「そういう訳で、この家には二人しかおらんでな。料理は勿論、家事もからっきしなんじゃ。日中は薬も調合しないといかんしのう」

「だからといって豆と草だけでは……体によくありませんよ」

「それにな、もう一つ理由があるんじゃ」

「理由?」



 理由とは一体……。今まで話してくれた事に関係があるのあろうか。

 肉も魚も食えないなんてよっぽどの事に違いない。



「儂、脂っこいものが苦手でのう、歳も歳じゃから些と胃にくるもんで……」

「ん? え? はあ」



 えっ、普通に私事? 今までの話関係ねーじゃねーか!

 つか子供にはきっちり食わせてやれよ! 育ち盛りなんだからよ!



「僕も肉はちょっと……」

「ああ?」



 肉が嫌いな男の子! これが本当の草食系男子……もう死語だわ。

 腹減ったとがっついてた割にはそんなに食べないのな。



「あと儂、生臭いのが苦手で……」

「いやもうええわ!!」



 俺は思わずいつもの調子でツッコミをいれてしまう。

 単なる好き嫌いじゃねえか、色々心配させやがって!

 


「……こほん。別に肉が全部脂っこいというわけじゃないでしょう? それに魚だって火を通せば……」

「火は以前火傷した時にトラウマになって……」

「オイコラジジイ!!」



 それじゃ何もできねーじゃねーか! と言うかよくそんなんで薬師務まるな!

 ああもう全然話が進まんし面倒になってきたぞ。



「わかった。つまり料理が面倒なんだな? どうせ出来合いの物とか外でしょっちゅう買ったりしてるんだろ?」

「な、何故わかった……まさかお主、人の心が見通せるのか!」

「えっホント!? ハナちゃん凄い!!」

「違うわ! 爺さんが分かりやすいだけだ!」



 医者の不養生とはこの事か。この爺さんは薬師だけど。

 こんな偏った飯食ってたらレイが全然育たねーじゃねえか。


 ……チッ、せっかく楽に居候出来ると思ったのに。やはりそう簡単にはいかないか。



「よし、俺が明日から飯を作ってやる。だからここに住まわせろ」

「何が良いのか全然わからないんじゃが! と言うか最初と全然雰囲気違う気がするぞい」

「レイくんは素性も知らない私に優しくしてくれたわ。家まで連れてきてくれて、食事まで頂いた。そんな優しいレイくんの為に、私も何か役に立ちたいの」

「棒読みなせいで投げやり感が否めないんじゃが」

「気のせい気のせい」



 予定してた導入からは大幅にズレたが、やっと話を切り出せた。話が長いのは苦手なんだよ。



(大分無理やりですよね……それに、そこまで長くなかったような。ハナ様の自己陶酔する時間の方がよっぽど)

(シャラップ!)



 なんにせよ、これからここに住むのは決定事項だし飯の事は看過できん。贅沢は言わないが質素で栄養バランスが偏った食事ばかりで肌はカサカサ、体はガリガリ、髪はボサボサ。それだけは許さん! もっとこの美少女に相応しい料理があるはずだ。

 俺は爺さんとレイに畳み掛ける。



「それにな、爺さんとレイだけじゃやっていくのは大変だろ? 俺だって薬草集めとか店番とか出来るぜ?」

「爺ちゃん、僕もハナちゃんに手伝って欲しい! いいじゃん!」

「うーむ、しかしのう。店番は兎も角、薬草集めは些と危ないと思うぞい。そういえば森で迷っていたと言ったが、一体お主は何をしておったのじゃ?」



 来たか、ここが大事だ。不審に思われないように慎重に伝えよう。

 セピアと共に話し合って纏めた事を思い出す。えーっと、村から捨てられて行く宛もなく何とか食いつないで……。

 俺は少し目線を下にする。物憂げな表情を作り、口を少し引き締めて如何にも言いたく無さそうに……。



「実は……、私は村を追い出されてしまい行く宛もなく放浪の旅を続けていました。売れる物は売って何とか食べるものを確保してきましたが」

「嘘じゃな」

「いや、せめて最後まで聞けや!!」

「儂、長い話は苦手でのう」



 ふざけたジジイだ。薄幸美少女が自身の悲しい生い立ちを話してるんだぞ。少しくらい我慢しろよ!

 つーかなんでいきなり嘘ってバレるんだよ。



「大一、村を追い出された者がそんな小綺麗なものか。ローブもわりかし綺麗じゃし、見たところ怪我も無さそうじゃのう。健康そのものではないか」

「それは」



 ぐ、飄々としている癖に割と鋭いジジイだ。まずいな、下手な事を言って追い出されたら野宿することになってしまう。

 それだけは避けなければ。だが、こうもあっさり嘘だって言われると後が続かない。どうしよう……。

 いきなり出鼻を挫かれた俺が切羽詰まっている時、レイが口を開く。



「爺ちゃん、ハナちゃんは本当に困ってた。それを僕が無理に連れてきたんだ。僕は、ハナちゃんの事を信じるよ」

「レイ……」



 何が無理に連れてきた、だ。俺から提案したことだろ。嘘を嘘で庇いやがって。

 ……あーくそ、俺は誠意だの筋を通すだの、そういう言葉がえらっそうで大嫌いなのに。



「おい爺さん。すまんが詳しいことは言えない。だから信じてくれとも言えん。だけど、これだけは言わせてくれ。俺は……」

「別にいーよ、ここに住んでも」

「だから最後まで言わせろって!!!」



 なんなのこのジジイ……。せっかく俺が真面目にお願いしようと思ってたのに!

 ちょっと真剣な雰囲気で覚悟を決めた美少女が老人にお願いするシーンが台無しすぎる。



「悪い子じゃないのは見ればわかるから心配しとらんよ。いや、口は悪いがのう、ほほ」

「ぐぬぬ……なんかうまく踊らされた感があってムカつく」

「ほっほっほ、伊達に長く生きとらんわい。それにそろそろ跡継ぎを作ってもいいかなと思っていた所じゃて」

「跡継ぎって爺さん、バイトはすっけど、俺はずっとここに居座るわけじゃねーぞ」



 さすがにずっといたら正体バレるしな。姿形変わらんし。



「そのうち気が変わるかもしれんぞ? ま、何にせよ今人手は足りとらんのは事実じゃ。レイも今年で10歳になり、後5年もすれば冒険者として旅立っていく。それまでずっと薬屋の手伝いをさせるわけにもいかんしのう」

「爺ちゃん、僕は大丈夫だよ? 剣の練習しながら爺ちゃんも手伝うよ」

「ほほ、まぁ、そこそこお願いはするがな。じゃが、もっと鍛えねば儂も安心できんのう。あのゴリラは家の事そっちのけで鍛えまくってたからのう」



 あんたの息子さんどんだけ脳筋だったんだ。んで、その脳筋からなんでこんな良い子が生まれたんだ。母親の血が強かったのか。



「わかったよ。手伝うって言ったしな、ちゃんと働くよ。3日に1回は」

「3日かァー! せめて半日だけでも良いから毎日がいいんじゃがなァー!」



 色々調べて回らないといけないからな。それに俺はまだ少女! いや美少女! 子供のうちは遊んですくすく成長するのが健全なのだ。

 俺は冒険者になるつもりもないし、日々自身の美を追求していくのだ。それが俺の異世界に転生した理由!



(いや、調停者バランサーとしての仕事もこなしてください)

(ま、それは副業と言うことで)

(副業!?)



 セピアが何かぼやいているが気にしない。女神さんに自分優先でいいって言われたんだ。好きにやらせてもらうさ。



「俺は体力Gだから3日に1回が限界なんだ」

「お、儂もGじゃ。爺さんだけにな」

「チッ」

「舌打ち!?」



 セピアと似たような反応するなジジイ。下らないことばかり言いやがって。

 まぁ、素性も知らない怪しい美少女を住ませてくれるんだ。言われんでも積極的に手伝うさ。



「じゃあレイ、爺さん。明日からよろしく頼……」

「む? どうしたんじゃ?」

「レイくん、お爺様、明日からよろしくお願いしますね♪」

「よろしくね! ハナちゃん!」

「レイ、お主は誠実に育つのじゃぞ。ゴリラやこの娘のようになってはいかん」



 どういう意味だジジイ。まだあって数時間しかたって無いのに酷い言われようだ。と言うかゴリラと一緒にするな。

 何はともあれ、こうして俺はレイの家に住まわせて貰うことができた。

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