第7話~三戦士の指導、仕上げ編①~
たいへんお待たせしました。第7話が書き終わりました。今回はミーティングルームから話が始まります。最後まで読んでもらえると嬉しく思います。
~フォビアの民の手紙~
内閣調査室にフォビアの民からの手紙が届いてから1週間後。ツバキプロジェクトのメンバー、炎基、伝雷、氷姫、瀬戸逹は研究所のミーティングルームに集まっていた。Jam所長は、パンパンと手を叩き、ミーティングルームにいる全員の視線を集めた。
「みんな~注目ー。1週間前に内調に届いたフォビアの民からの、手紙の内容を瀬戸さんから教えてもらうから、みんなよく聞いておくように。それでは瀬戸さんお願いします」
「わかりました。それでは、まずは手紙をそのまま読み上げます。『脆弱なる人間諸君。見事、三戦士を倒し三竜様達への挑戦権を得た。まずは、おめでとうと言っておこう。三竜様達も、久しぶりに骨のある奴らがいたと。お喜びになられている。三竜様達は、このゲームをさらに盛大な祭りにするおつもりだ。その為に我々フォビアの民は、最高の舞台を準備している最中だ。観客席も用意している。貴様らが死ぬ所を見せたいのであれば、観客も連れて来るがいい。この手紙が届いてから、2週間後には完成する。場所は、色紙町の倉庫街の地下。ルールやハンデはこの前と同じだ。今から2週間後から、いつでも挑戦を受ける。今日の夜からジャッチを我々と貴様らの伝言係として倉庫街に待機させておく。時間は20:00~24:00の間だ。我々に伝えたい事があればジャッチに言えば我々に伝わる。まぁ、貴様らが三竜様達に敵うとは思わないが、せいぜい祭りを盛り上げて、三竜様達を楽しませてくれたまえ。脆弱なる人間諸君』手紙の内容は以上です。この手紙は1週間前に届きました。なので三竜逹の準備は、後1週間程で終わると思います。私が知りたいのは、ツバキプロジェクトメンバーの皆さんの準備が、いつ整うかです。どんな感じなのですか?Jam所長」
Jam所長はボサボサの頭を掻きながら、口を開いた。
「それは炎基逹に聞いた方がわかりやすいか………どうなんだい?炎基」
「そうですね……未来は、出した課題をほとんどクリアしているので、あとは仕上げといった所ですね。そうだろ未来」
「まぁ、俺にかかれば、ざっとこんなもんだよ炎基」
「まだまだ余裕そうだな。そうか、なら仕上げは、もっと厳しくいくか」
「えっ、マジで……」
未来の額から大きな冷や汗が流れた。それを見ていた、なちょが。
「お兄ちゃん、変に余裕ぶるからそういう事になるんだよ」
「そういう、なちょはどうなんだよ」
「なちょは、ちゃんとやってるよ。もう少しで目標を達成出来そうだし。ねぇ~氷姫」
「そうね。確かに私が思っていた以上に、なちょは上達が速いわ。こっちも仕上げといった所ね」
「なちょは、やればできる子なんだよ~氷姫」
「なちょ、そういう事は自分で言わない方がいいわよ」
「えぇ~何で~、だって事実だからいいじゃん。氷姫」
「自分で言わない方がいいこともあるの!それで納得しなさい。めんどくさいわね」
なちょは、口をとがらせて、ふてくされた顔をしながら、氷姫にブーイングをした。
「わけわかんなーい。ブー、ブー」
氷姫は、なちょのブーイングを無視して、伝雷に話しかけた。
「伝雷兄さんの方は、どんな感じ何ですか?」
「そうだな~、結論から言うと、秋人のトレーニングは、既に仕上がってるよ。まったく、秋人のトレーニングのやり方や上達の速さには、俺も驚かされたよ。トレーニング開始4日目の午前中には課題をクリアしたからな。まぁ、俺の言った量の3倍の量をやってたからな秋人は。4日目の午後から昨日までは実践形式のトレーニングに切り替えて、やってたよ」
伝雷の話を聞いていた未来は、目をランランと輝かせて尊敬の眼差しで秋人に話しかけた。
「マジっすか、秋人さん!やっぱり秋人さんは凄いっすね」
秋人はニンマリと笑みを浮かべながら、(ヨシッ!これで兄貴分の面子は保てたな)と思い、心の中でガッツポーズをしながら未来に答えた。
「そんな凄くないよ。未来も仕上げ頑張れよ」
秋人に励ましの言葉を受けて、未来のやる気が熱く燃えだした。
「はい!秋人さん。よっしゃあー、やってやるぞー!炎基、厳しくだろうが、仕上げだろうが何でも来い!全部やってやるぜ」
その様子を見ていたJam所長は、フッと鼻から軽く息を吐き笑みを浮かべて、未来に言った。
「未来、やる気を出すのはいいけど、くれぐれもオーバーワークにならないようにね。それと、他のメンバーの事も聞かせてくれないかな?」
炎基はJam所長の方に顔を向け話始めた。
「未来の他にはヘイゼルと実践訓練をやってました。今ではもう俺と互角に渡り合えます。対炎の対策も、申し分ないですね。それにヘイゼル本人も楽しくやってたみたいですし」
炎基はヘイゼルの方に顔をむけた。
「そりゃもう楽しかったでぇ、今まではほとんど1人でトレーニングしてたさかい。やっぱり相手がいると楽しくトレーニングできるし、色々勉強にもなる。毎回いい汗かかせてもらうてますわ炎基には」
「その事なんだけど」
伝雷が話始めた。
「俺も秋人の方が仕上がって、あとは秋人自身の調整だから、ヘイゼルの方の実践訓練に参加しようと思ってるんだけど、どうかな炎基兄さん?」
「そうだな、そろそろ相手を、変えてもいいだろう。どうだいヘイゼル?」
「おっ、次は伝雷が相手かいな。ええよ、今から楽しみやなぁ~」
氷姫が手を上げた。
「Jam所長」
Jam所長は氷姫の方を向いた。
「氷姫、聞かせてくれるかい」
「はい、私は、なちょの他に女性陣に体術を指導しています。各自それぞれ、私が作ったトレーニングメニューをやってもらってます」
「氷姫が1人ずつのトレーニングメニューを作ったのかい?」
「そうです。基本のトレーニングメニューはあるのですが、それをやってもらってるのは椿さんだけですね。あとはそれぞれの異能力に合わせた体術のトレーニングメニューをやってもらってます。体術のトレーニングは仕上がりとかはありません。日々のトレーニングの積み重ねですので、それと秋人さんにお願いがあるのですが」
「なんだ、氷姫?」
「秋人さんに灰音さんの組み手の相手をしてほしいのですが」
「ああ、いいよ。多分俺のトレーニングにもなると思うし」
「ありがとうございます秋人さん。詳しくは後で話しますので」
「ああ、わかった。灰音ちゃん、そん時はよろしくね」
「秋人さん、アタシ手加減しませんよ」
「おう、いいぜ。どんと来い灰音ちゃん」
Jam所長は疑問に思い氷姫に尋ねた。
「氷姫、何で灰音ちゃんの相手が、秋人何だい?」
「灰音さんは、強化クローンの身体能力を100パーセント使いこなせるのですが、経験が少ないためにそれを活かしきれてなかったので私が直に教えていたのですが。どうも灰音さんはスピードタイプが苦手のように感じるので、秋人さんにお願いしたんです」
「そうか、もし手伝える事があるなら、遠慮なく、私や横ちゃんやオコメちゃんに言ってくれて構わないからね氷姫」
「わかりましたJam所長」
「瀬戸さん、現状はこんな感じですね。あと1週間はあるので……う~んどうしようかなぁ~……」
Jam所長はボサボサの頭を掻きながら考えてると、炎基がJam所長を呼んだ。
「Jam所長」
「なんだい、炎基?」
「対戦の日取りなんですが。これから1週間、みっちりトレーニングしたあとに3日間の休息をとってからの対戦が良いと思います。休息と言っても、軽い基礎トレーニングぐらいにして、身体を休ませて、万全の体勢を整えてから臨んだ方が良いと思います」
炎基の後に続けて伝雷が口を開いた。
「そうだな炎基兄さん、1週間をトレーニングと休息で分けると、きつきつになるし、俺もその方がいいと思いますよJam所長」
「う~ん、氷姫も同じ意見かい?」
「そうですねJam所長。その方が焦らずにトレーニングができて休息も充分にとれて万全の状態を作りやすいと思います」
Jam所長は少し考えたあと口を開いた。
「う~ん、そうだな。よしっ、では三竜との対戦は10日後にしよう。それと今回は、コントロールルームで待機ではなく、皆で行こう。フォビアの民が観客席つきの会場を用意してくれてるみたいだから。勿論、私と横ちゃんも会場に行く。オコメちゃんはコントロールルームで留守番をお願いね。瀬戸さんはどうしますか?」
「私も同行させてください。それと今回はもう1人エージェントを連れて行きたいのですが良いでしょうかJam所長?」
「もう1人?瀬戸さんの同僚か部下とかかな?」
「はい、まあ位置的には部下にあたります。名前はA級エージェントの瀬戸勇磨、私の弟です」
Jam所長は少し驚いて、瀬戸に聞き返した。
「えっ、弟?姉弟揃って、内調のエージェントなの?」
「はい、弟が結構、暇をもて余してたので、私の仕事を手伝ってもらう事にしました。同行させてよろしいでしょうかJam所長?」
「ああ、特に問題はないよ。同行しても大丈夫だよ」
「ありがとうございますJam所長」
「それと瀬戸さん、1週間以内にジャッチへの伝言を頼めるかな?今日から10日後に対戦したいと」
「わかりました。明日の夜にでも倉庫街に行きます」
「瀬戸さん、よろしくお願いします」
椿が瀬戸に質問した。
「瀬戸さん、弟の勇磨さんはどんな人何ですか?」
「そうですね………」
瀬戸は右手に顎を乗せて考えてから、答え始めた。
「身長は私より少し高いくらいですね。ですが格好が内調のエージェントっぽくないですね。内調では特に、服装の規定はないので、何を着てもいいんですが……まあ、近いうちに顔合わせに連れてきますよ。それとJam所長」
「なんだい、瀬戸さん」
「これからの事について、Jam所長と横田さんと私で話し合いをしたいのですが、午後から時間とれますか?」
「私は特に急ぎの仕事がないから大丈夫だけど、横ちゃんはどうなの?何かある?」
「今日の午後からなら大丈夫ですよ所長」
「そうか、それなら場所は所長室にしよう。それでいいかい瀬戸さん?」
「はい、それでは、一旦内調に戻って準備をしてきます」
「了解、瀬戸さん。それじゃあ~……う~んと、どうしようかな~……」
Jam所長は腕組みをして考えながら壁掛け時計を見た後に話し始めた。
「11時30分すぎたあたりだから……まずは、みんなお昼ご飯にしよう。午後からは、私と横ちゃんは瀬戸さんとの話し合い、オコメちゃんはコントロールルームでトレーニングのサポートかな。それじゃあミーティングはこれで終わり、解散しよう」
みんなが席を立ってミーティングルームのドアに向かっている中、炎基は稚依子に話しかけた。
「稚依子さん、お昼ご飯に、みそ汁はでますか?」
「みそ汁?う~んと何だっけ今日のお昼?」
稚依子は辺りを見回し、椿を見つけ話しかけた。
「椿ちゃんお昼ってなに?」
「今日のお昼はカレーライスだけど、どうしたの、ちーさん?」
「カレーか、炎基さん、みそ汁はなさそうですよ」
「そうですか……」
炎基は少し残念な顔をした。それを見て椿が炎基に話しかけた。
「炎基さん、もしかして、みそ汁食べたいんですか?」
「ええ……まあ……朝食にも出てなかったのもので……」
「それなら僕が作ろうか」
「いや、そんな悪いですよ稚依子さん」
「大丈夫だよ炎基さん。1人分なら、すぐ作れるし。椿ちゃん、冷蔵庫の中に何があったっけ?」
「みそ汁の材料なら、ネギと豆腐があるよ。ちーさん、私も手伝おうか?」
「大丈夫、大丈夫、1人分だから僕1人でいいよ。炎基さんネギと豆腐のみそ汁でいい?」
「はい、それでいいです。なんか気をつかわせたみたいで、申し訳ない」
炎基は稚依子と椿にペコッと頭を下げた。
「そんな遠慮する事ないですよ。ねー椿ちゃん」
「そうですよ。私達はもう仲間じゃないですか。ねぇ、ちーさん」
「そうそう、炎基さん達のおかげで僕達はレベルアップしてるし。それにしても炎基さんは、みそ汁好きですね」
「ええ、この世界の料理で一番、気に入りました。みそ汁もですけれども、味噌が好きになりました。キュウリにつけて食べても旨いし、この前、未来と夜のトレーニングの後、夜食に椿さんが作ってくれた。味噌焼きおにぎりも旨かったですね」
「そういえば、未来お兄ちゃんと夜食でカップラーメン食べてた時も味噌ラーメン食べてましたね。炎基さんは」
「あれはあれで、みそ汁とは味が違って、旨かったですね」
「それじゃあ、僕はサクッと作ってくるから」
「稚依子さん、お願いします」
~炎と鎧~
昼食後、炎基は未来専用のトレーニングルームにいた。
「未来、これからはトレーニングの仕上げに入る」
「よ~し、どんと来い!」
「いい返事だ。未来、炎の循環は完璧にマスターしたな」
「ああ、循環だけなら12時間は、ぶっ続けでテレビを見ながらでも出来るぞ」
「そうか……それなら、炎帝モード・コロナの状態だと、どのくらい保っていられる?」
「コロナの状態か……う~ん……」
未来は、腕組みをして考えこんだ。
「多分……コロナの状態だけなら3時間位は保ってられると思うぞ」
「やはり、そうか……」
炎基は右手に顎を乗せて考えた。数秒間の沈黙の後、口を開いた。
「3時間か、まあまあだな。未来、実際の戦闘になると、コロナの状態で動いたり、技を使ったりする。そうなると、いくら循環してるとはいえ、炎や体力の消費が激しくなる。今の状態なら1時間持つかどうかだな」
「炎基、やっぱり実際の戦闘だと、そうなるのか?」
「そうだな、俺も剛炎を体の周りに纏わせるだけなら丸1日は保ってられるが、未来との戦闘で俺も力を使い果たしたろ」
「そうだな……炎基、この時間を延ばす方法ってあるのか?」
「延ばす方法は、基本的な循環の時間を延ばせば、それに比例して延ばすことはできる。あとは実践トレーニングや戦闘経験を積むしかないな。ここからは一長一短では難しいな未来」
「やっぱり、そう簡単にはいかないか……」
「そうだ、そんなに甘くわないぞ未来。それでだ。これからのトレーニングは実践トレーニングを、みっちりやっていく」
未来は左の人差し指を顎にあてて視線を天井に向けて
「う~ん……ということは……炎基と組手ってことか?」
「まあ、俺との組手もやっていくんだけど、今日の相手は違うぞ。未来、今から行くからついてきてくれ」
「今日のトレーニングは此処じゃあないのか?」
「ああ、そうだ。行くぞ未来」
そう言うと炎基はトレーニングルームのドアを出ていった。
「あっ、炎基。ちょっと待ってくれよ~」
先に行く炎基に追いつこうとして、未来も小走りでトレーニングルームのドアを出ていった。未来は炎基に追いつくと炎基に話しかけた。
「いったい何処に行くんだ。このままだと研究所を出るぞ?」
「研究所の裏庭に、トレーニングに丁度いい場所があるから、そこに行く」
「でも炎基、研究所敷地内でトレーニングしたら、被害が凄くなると思うんだけど?」
炎基はズボンのポケットから小さな黒い箱を取り出して、未来に見せた。
「このブラックボックスを使ってフィールドを張れば、被害を最小限に抑えられる」
未来は、ブラックボックスを見てハテナ顔を浮かべ、炎基に聞いた。
「…………何だっけそれ???」
未来の言葉をきいた炎基は、未来の頭を右手で鷲掴みにすると、力を入れて、未来の頭を押さえつけグリグリと右手の掌を左右に回転させた。
「覚えとらんのかぁぁぁー、おまえと戦った時に倉庫で使ったろ」
「わっ、わっ、やめろ炎基。それ以上グリグリされたら、髪の毛が抜ける、抜けるって。思い出したからやめてくれぇ~」
炎基は未来の頭から右手を離した。
「たくっ、本当に思い出したのか?」
未来は炎基にグシャグシャにされた髪を手で直しながら答えた。
「あれだろ、倉庫が火事にならないように、倉庫の内側に超耐火性のフィールドを張ったやつだろ……んっ……でも、炎以外できるのかそれ?」
「ああ、元々このブラックボックスは万能型なんだ。戦闘の被害を最小限に抑えるために造られたからな」
「へぇ~そうなんだ。凄いなそれ」
話しながら歩いている炎基と未来が研究所の裏庭に着くと、先に裏庭で待っていたであろう人物から2人に声が掛けられた。
「おー、炎基に未来こっちや。待っとったで~」
未来は声の掛けられた方を向くと、そこにはヘイゼルが立っていた。
「ヘイゼル??……ということは……」
未来は炎基の方を向いて聞いた。
「炎基、トレーニングの相手ってヘイゼルなのか?」
「そうだぞ、ヘイゼルだ。教えている俺にとっては、ヘイゼルの対炎の仕上げもできるし未来の仕上げのトレーニングにもなるから一石二鳥なんだ」
「んっ……それって……炎基が楽しようとしてないか?」
未来は細目でジーっと炎基を見ている。
「そんなことはないぞ未来。一辺に2人の経過を見れるんだから一石二鳥だろ。それに後々に色々な条件をつけて、トレーニングやるから楽しようとはしてないぞ。ではさっそく始めよう。未来、ヘイゼルの近くに行こう」
炎基と未来がヘイゼルの所に着くと、炎基は未来とヘイゼルにトレーニングの説明を始めた。
「この裏庭は研究所の裏手にある雑木林と研究所の間にある開けた場所だ。広さも結構あるのでトレーニングには丁度良い場所だ」
ヘイゼルが口を開いた。
「そうやな~Jam所長が言うには、バスケのコートくらいの広さはある言うてたぞ炎基」
「そこでこのブラックボックスでフィールドを張って周りの被害を最小限に抑えれば良いトレーニング場所になる。但し地面にはフィールドを張らない。張ってしまうとヘイゼルが不利になってしまうからな」
「そりゃ堪忍やで炎基」
「ああ、大丈夫だヘイゼル。それをしてしまうとヘイゼルと未来のトレーニングじゃなくて、ヘイゼルだけのトレーニングになってしまうからな」
未来がハテナ顔で炎基に聞いた。
「んっ……何で地面にフィールド張るとヘイゼルの不利になるんだ炎基?」
「ヘイゼルの異能力は地だからな未来。地面にフィールドを張ってしまうと、ヘイゼルは異能力が使えなくなってしまうだろ」
「あっ、そうか。でもそれってヘイゼルの弱点なんじゃないか?もし敵に異空間に連れて行かれて、そこで戦わなければならない状況になったりしたら」
「その辺は今、Jam所長と横田さんに相談して対策中やで未来」
「へぇ~そうなんだ。ヘイゼルも色々やってんだな」
「そやで~俺もいつでも現場に出れるようにしてないとアカンからな。それで炎基、未来と戦えばいいんか?」
「そうだヘイゼルの相手は未来だ。今から俺を中心にフィールドを張るから俺の近くに集まってくれ」
炎基は未来とヘイゼルが近くに来たのを確認すると、ブラックボックスの蓋をスライドさせて起動のボタンを押した。炎基を中心に裏庭全体に透明なフィールドが広がっていった。
「今日は雲1つない天候だから光の加減でフィールドの壁が分かると思うが、どうだろうかヘイゼル、未来」
ヘイゼルと未来は辺りを見回して裏庭全体を確認した。フィールドの壁が光の反射を受けて微妙にキラキラと光っている。ヘイゼルと未来は、大体のフィールド内の広さを確認すると、ヘイゼルが炎基に向かい口を開いた。
「ほぼ裏庭全体に広がっとるなぁ。確かこのフィールドに炎が当たると炎が消える仕組みやったっけ炎基?」
「炎も消えるが、今回張ったフィールドは万能型のフィールドだ。炎は勿論の事、氷も当たった瞬間に蒸発するし、電気なんかも壁に当たった瞬間に消えるぞ。あとは衝撃にも強い。隕石群でも降ってこない限りフィールドが消える事はないからな」
未来が炎基に話しかけた。
「相当、頑丈って事か……なら結構派手に暴れても大丈夫って事か……でも炎基、裏庭の地面がボコボコになったらどうするんだ?」
「それはまあ、しょうがない事だ」
ヘイゼルが炎基にツッコミを入れた。
「しょうがないんかい!!」
「まあ、形あるものは、いつかは壊れるしな」
ヘイゼルがまた炎基にツッコミを入れた。
「地面に形なんかないわ!!何を自然の摂理みたいに言っとるんや炎基」
「でもヘイゼル、よく考えると周りの雑木林が、火事になったり研究所を破壊するよりは地面だけで済むんだから、被害を最小限に抑えられてるだろ」
「それはそうやけど、もし地面がボコボコになったら、そのあとはどないするんや炎基?何か嫌な予感がするんやけどな」
炎基はニコニコしながらヘイゼルに言った。
「そこはヘイゼルの異能力の見せ所だと思うぞ、なぁ~未来」
炎基に話しを振られた未来は炎基の意図を察して、ニコニコしながら炎基に言葉を返した。
「そうだなぁ~炎基」
炎基と未来はニコニコしながらヘイゼルの方を見た。
「なんやねん、2人してニコニコして……」
炎基と未来はニコニコしている。
「わーった、わーった、トレーニングの後処理は俺がやればええんやろ」
炎基と未来は声を合わせて言った。
「さすがヘイゼル!!」
「何が、さすがやねん。たくっ……ところで炎基、組手は、どんな風にやるんや?、普通に未来と組手したらええんか?」
「そうだな、ヘイゼルは常に“鎧武者岩石“の状態で組手してくれ。未来はヘイゼルの硬さ知らないだろ。こういう敵もいるということをまず未来に体験してもらいたいからな」
「さっそく岩石を着てもええんか炎基?」
「ああ大丈夫だ」
ヘイゼルはクラウチングスタートのように片膝を地面につけて、しゃがみこみ気合いを入れた。
「はあぁぁぁ~」
ヘイゼルが気合いを入れると地面が隆起していき、ヘイゼルを包み込んだ。
「鎧武者岩石!!」
ヘイゼルが言葉を発すると、包み込んでいた大地が消え、そこには戦国武将のような岩の鎧を装着したヘイゼルが立っていた。ヘイゼルの姿を見た未来が。
「へぇ~それがヘイゼルの異能力か初めて見たな。結構、硬そうだな」
「それだけやないで~未来。この岩石は俺に力を与えてくれるんや」
炎基が未来に話しかけた。
「そうだぞ未来、この状態のヘイゼルは常に大地から力を得ている。未来の“コロナ“と違ってヘイゼルが気絶でもしないかぎりはこの状態でいられる」
「どういう事だ炎基?おれも気絶したら“コロナ“が解除されるけど」
「未来の場合はもう1つ、力を使い果たしても“コロナ“が解除されるだろ。ヘイゼルの場合はそれがないんだ。ヘイゼルの場合、地面があれば絶えず力を大地から得られるんだ。ほぼ自動的にだったよなヘイゼル」
「そうや、岩石を着ている時、限定やけどな。でも永久に出来るわけでもないで、岩石を解くと着ていた時間に比例して一気に疲れがくるんや、だから連戦や長期戦になると、後々きつくなるからあまり長く岩石を着ていると、解いた瞬間に気を失う事もあるから要注意やねんな」
未来が炎基に話しかけた。
「炎基、俺はどうするんだ。始めから“コロナ“使った方がいいのか?」
「それは未来に任せるよ。ヘイゼルと組手してみてから使った方が良ければ途中から使ってもいいし、最初から使ってもどちらでもいいぞ」
「そうかわかった。じゃあそろそろ始めようぜ炎基、ヘイゼル」
未来とヘイゼルは裏庭の中央辺りに行くと少し距離をとり向かい合わせになった。炎基は未来とヘイゼルを交互に見ると口を開いた。
「それでは、2人とも構えて」
炎基の言葉を聞いて、未来とヘイゼルはそれぞれに構えた。
未来は左足を後ろに引いて前後に足を開き腰を落として、顔の右斜め前に右手を構え、左手は拳を軽く握り腰の辺りに構えた。一方ヘイゼルは、左右に足を開き腰を落として相撲の腰割り構えをとった。ヘイゼルの構えを見た未来は口を開いた。
「ヘイゼル……それが戦闘時のヘイゼルの構えなのか……」
「そうやけど、どないしたんや未来?」
「いや………その……相撲好きなヘイゼルらしい構えだなぁ~っと思って………ハハっ………」
「うん………何か馬鹿にされたような気がするんやけど……」
「そんな馬鹿に何てしてないぞヘイゼル。炎基、早く開始の合図してくれ」
未来に言われ炎基は開始の合図をした。
「それでは、始め!」
先に地面を蹴ったのは未来だった。未来は前方に跳躍した。
「ブースト!!」
未来は跳躍しながら背中全体からロケット噴射のように炎を出し跳躍のスピードを上げてヘイゼルとの間合いを一気に詰めた。未来は、ブーストで得た反動や加速を最大限に使いヘイゼルの顔面めがけて、左ストレートを放った。
「ハッ!」
ヘイゼルは未来の動きを観察し未来の攻撃に備えていた。ヘイゼルは左ストレートが当たる10cm手前で顔の前に右手を構えて、左ストレートを右手の手甲部分で受け止めた。
ガチィィィィン!!
辺りに激突音が響いた。“鎧武者岩石“のあまりの硬さに未来はビリビリとした痺れが左拳から体全体に駆け巡った。
「いってぇぇぇぇー!かってぇぇぇぇー!」
未来は左拳を右手で抑えながら辺りをピョンピョンと跳び跳ねた。それを見ていた炎基は軽く目を閉じ、右手の親指と人差し指で目頭を抑えながら呟いた。
「まさか、素手でいくとは…………」
未来はしゃがんで、左手にフゥーフゥーと息を吹きかけながら。
「ヘイゼル、何が岩石だ。全然、岩の硬さじゃないぞ」
「当たり前やないか未来、俺の異能力は更に硬くできるんやからな。岩程度の硬さなわけがあるかい」
未来は思考を巡らせた。
(“コロナ“を使うか……いや、まだだな。なら“炎帝剣“か……でも、あの硬さだと……何かで油断させて隙を作る事ができれば……そうか、“あれ“をやってみるか……)
「ヘイゼル、この技は防げるかな」
「おっ、何かやるんか未来」
未来はズボンの後ろポケットから左手でサツマイモを取り出した。ヘイゼルは、ハテナ顔で。
「サツマイモ??」
未来はサツマイモを5秒くらい炎に包み込むと、サツマイモが、できたてほやほやの焼きイモになった。未来はヘイゼルに向かって焼きイモを投げた。
「くらえ、タキビヤキイモ!!」
ヘイゼルは投げられた焼きイモを右手でキャッチしたが、できたてほやほやの焼きイモはかなり熱く片手では持っていられなかった。ヘイゼルは焼きイモを右手と左手に交互に放った。
「熱っ!熱っ!」
ヘイゼルの意識が、焼きイモに向いた所を狙って未来がヘイゼルに向かって駆け出し間合いを詰めた
「今だ!隙あり!!」
「しまった!………ってアホか!!」
ヘイゼルは向かってくる未来の顔面めがけて焼きイモを投げつけた。
バチィィィン!!
ヘイゼルが投げた焼きイモは見事に未来の顔面に直撃した。直撃を受けた未来は、もんどり打って倒れ、顔を押さえて地面を転げ回った。
「あっちぃぃぃぃ!いってぇぇぇぇ!」
炎基はまたもや、軽く目を閉じて親指と人差し指で目頭を押さえながら未来に質問した。
「未来……今のは何なんだ?」
未来は起き上がり炎基に答えた。
「今のってタキビヤキイモの事か?」
「そうだ」
「タキビヤキイモは、猫だましみたいな技だ。敵だっていきなり焼きイモを投げられたり渡されたら、一瞬ポカーンってなったりして隙ができるだろ炎基」
「……そうなのか?……ヘイゼルに冷静に対処されたみたいだが……」
「あれは、俺が隙ありって言っちゃったからだ。失敗だった」
「……未来、頼むからもう少し真面目にやってくれ……」
「俺は、いつだって大真面目だぞ炎基」
未来は立ち上がると服についた埃をパンパンと払った。
「よしっ、ヘイゼルの硬さも大体解ったし、そろそろやるか」
未来は、目を閉じ呼吸を整えると目を開けた。
「炎帝モード・コロナ!!」
未来の左手から炎の薄い膜が全身に張られていった。
「いくぞ、ヘイゼル。怪我しても恨むなよ」
「おっ、未来も本気かそれならば」
ヘイゼルは腰割りの構えをとり左手の手のひらを未来に向けて前に出し右手も手のひらを広げて後ろに引いた。
「いくでぇ~未来。突っ張り鉄砲!!」
ヘイゼルは声と同時に左手を後ろに引きながら右手を前に出した。未来は、見えない何かが自分に向かってくるのを感じ、咄嗟に左に避けた。未来が避けた2秒後にフィールドの壁が何かにぶつかり音が響いた。
ドオォォォン
「ヘイゼル、衝撃波か」
「おっ、気づいて避けよったな未来」
「今の音……当たったら相当ヤバいやつだろ……」
「そうかぁ~?強化クローンやし、未来はコロナ使こうてるし、ある程度は大丈夫やろ。まあフィールドが無かったら壁に手形がつくか、穴が開くかのどっちかだと思うんやけど」
未来は顔の前で左手を左右に振りながら。
「イヤイヤイヤ、大丈夫じゃないだろ。思いっきり殺りにきてるだろ。トレーニングだぞヘイゼル」
「そうや、実践形式のトレーニングやぞ未来。まあ、ある程度の怪我ならJam所長か横田さんがすぐに直してくれると思うで」
未来はヘイゼルの言葉を聞いて察した。
「……あっ、そういう事かヘイゼル」
「そういう事や未来。次は連続でいくでぇ」
「連続か……それなら、このままじゃ駄目だな」
未来は気合いを入れた。
「ハァァッ!」
気合いを入れると未来が纏っている炎の膜の両腕部分の形状が変わっていった。両腕とも肘から手にかけて、物凄い速さで炎の膜が螺旋状に巻きついていき、瞬時に両腕に荒々しい炎を纏った。それを見た炎基が口を開いた。
「ほう、そこまで出来るようになってたのか未来」
「炎の循環のトレーニングしてる時、なんとなく何処まで炎を広げて循環できるだろうかと思ってやってみてたんだよ炎基」
「そうか、ということは未来が自分で気付いたって事か」
「うん?何がだ炎基?」
「今、未来がやっているのは循環の応用編だ。循環させながら部分的に炎の形状を変化させるという。でも、その両腕の炎の纏いかた……俺の剛炎に似てるな」
「まぁ、そうだな。炎基の炎の纏いかたをヒントにしたからな」
「なるほど、どうりで似てるわけだ」
「そうだなぁ……もし名前をつけるなら“剛炎未来式“ってとこかな。まぁ、炎基の剛炎とは比べ物にならないくらいに及ばないけどな」
「フッ、それは剛炎だけの話だろ。今の未来はコロナの状態だからな。その両腕、かなりの熱量じゃないか」
ヘイゼルが2人の会話に割って入った。
「なんや、未来も炎基も、お互いの技を使いあって、炎基も俺と組手の時によく未来のブースト使うてたで」
「そうなのか炎基?」
「まあな、未来程上手く扱えないけどな。ブースト擬きってとこだな。使ってみると、何気に使い勝手が良くてな。いろんな場面で応用が効くし扱い方しだいで多様に使えるからな」
「だったら循環を教えてもらったお返しに後で炎基にブーストの応用技のやり方教えてやるよ」
「ああ、後でお願いするよ未来」
「炎基、任せとけ」
未来はヘイゼルの方を向いて右手で挑発のポーズをとった。
「よし!準備万端だ。ヘイゼル、いつでも来い!」
「それなら遠慮なくいくでぇ~未来」
ヘイゼルは腰割りの構えをして、突っ張り鉄砲の姿勢をとり、鼻から大きく息を吸い込んだ。
「突っ張り千手砲!!」
ヘイゼルは連続で手の残像が残る程の速さで右手と左手を交互に突きだしているため、ヘイゼルの手はまるで千手観音の手のように何本もあるように見えた。
「フン!フン!フン!フン!」
未来は視覚と聴覚に神経を集中させた。視覚で無数にも見えるヘイゼルの手の動きを隈無く観察し、衝撃波が、どの位置に飛んでくるかを予想し、聴覚では飛んでくる衝撃波の音を聞き、ある程度の正確な位置を知るためである。未来はヘイゼルの突っ張り千手砲を、ときには避け、ときには両腕に纏った剛炎で受け止めながらヘイゼルに向かっていった。未来はどんどんヘイゼルとの距離を縮めていき、あと5、6歩の所で両腕だけに纏わせていた剛炎を一瞬で体全体に広げて、前に跳躍した。
「はぁぁぁぁ!ブースト!!」
未来はブーストで跳躍を更に加速しながら左拳を後ろに引き、左ストレートの構えをとった。それを見たヘイゼルは。
(これは、千手砲やってる場合やない。両手で受け止めんとヤバいやつや)
ヘイゼルは千手砲をやめて、両手を前に出し、今から来るであろう未来の攻撃を受け止める構えをとった。未来は跳躍したまま、ヘイゼルに左ストレートを放った。
「炎帝打・剛!!」
ヘイゼルは両手で未来の攻撃を受け止めると辺りに衝突音が響いた。
ドガァァァン!!
ヘイゼルに攻撃を受け止められても、未来の勢いは止まらなかった。受け止められたままヘイゼルをどんどん後ろに押していった。
ズザザザザザザザ
ヘイゼルは土埃をあげながら後ろに押されていく。
(これは、気い抜いてられへん。両手が弾かれてまう。力を入れて踏ん張らんと、後ろにフィールドの壁もあるし)
ヘイゼルは押されながら、チラッと後ろを見てフィールドの壁までの距離を確認した。
(よしっ、壁までまだ距離はある。ほないくか!)
ヘイゼルは雄叫びをあげた。
「うおおぉぉぉぉぉ!!」
ヘイゼルは更に全身に力を入れて両足を踏ん張った。すると、ヘイゼルの押されていくスピードが徐々に緩やかになっていき、フィールドの壁2㎝手前で止まった。
「どうや、未来!受け止めきったでぇ~」
未来は笑顔でヘイゼルを見ている。
「なんや、止められたのにニコニコして」
「ヘイゼル、おまえ結構戦闘好きだろ」
「うん?唐突になんやねん?」
「だって、戦ってる時のヘイゼルの顔、すっごく楽しそうでニヤニヤしてだぞ」
「そうなんか?戦ってる時なんて表情なんかあまり気にしてへんしなぁ」
「戦ってる時に無意識で顔がニヤニヤするってことは戦闘が好きってことだよヘイゼル」
「そうなんやろか?」
「ああ、そうだよ。俺もヘイゼルとの組手、楽しいぞ」
「なんやそれ、ハハハハハっ」
ヘイゼルにつられ未来も笑った。
「ハハハハっ」
炎基は笑い合っている2人に近づき。
「そこまで、一旦休憩してから、また再開しよう」
ヘイゼルは未来に向かって口を開いた。
「今回は未来に攻められてしもうたけど、次はオレが、ガンガン攻めていくで」
「おう、望むところだヘイゼル」
~次回予告~
『なちょだよ~。お兄ちゃんもヘイゼルも炎基のトレーニングでレベルアップしてるなぁ~。でも、なちょも凄いんだよ。もう少しで目標を達成できるから。なちょはやればできる子なんだよ( ̄^ ̄)エッヘン。あっそうだ、目標達成したらご褒美にJam所長にケーキをホールで買って貰おう。大きさは8号にしてもらおう。チョコケーキ、イチゴのショートケーキ、チーズケーキ、う~~~ん、迷うなぁ~。うん、全部買って貰おう。あっそうだ予告だった。次回は、なちょのトレーニングのお話と他のみんなのトレーニングのお話だよ~。お相手は、なちょでした』
第7話を最後まで読んでいただき有り難うございます。今回はいろいろありすぎて投稿が送れてしまいました。第8話はもう少し早く投稿したいと思っております。これからも異能力者達の日常をよろしくお願いします。では、第8話の後書きで、またお会いしましょう。以上jamネコがお送りしました。