『98』 テントで飲み会? ~その2~
2人の悪ノリをボーッと見ていると、テントの入り口の方で人の影が動いているのを見つけた。見えたのは1人だけだった。多分、何か用があるのかもしれないね。
2人のノリを一旦静かにさせて、私はテントの入り口の方に向かっていった。女の人……?うん、女の人だね。ポニーテールだし、動きが女の子みたいだもん。これで男だったら、どうあいてしたらいいのか分かんないけど。
テントの入り口から体を出して、訪ねてきた人を見てみる。人の影を見たときは1人しか見えなかったけど、実際には3人がテントの前で待っていた。
そして、その3人の手には色紙と思われる厚紙があった。な、何でこんな物を持っているのかな?
「すみませ~ん。あっ、アヤヒちゃん。ごめんね、こんな暗い時間帯に………」
「いえいえ、ちょっと馬鹿騒ぎしているところなんで大丈夫ですよ~」
「やっぱり可愛いなぁ………じゃなくて、アヤヒちゃん!!」
「ひゃっ!?な、何でしょう!!」
「私達に………サインをください!!」
「……………………へっ?」
急に迫られたと思ったら、サインを書いてくれるように頼まれた。
何で私なんかのサインが欲しいのかな?芸能人っていうわけでも無いのに。ただ単に、少し戦いが強いからって有名になっているだけなんだけどね。
そもそも、サインの書き方なんて分からないもん。書いたことないし、書こうと思ったことも無いもん。
芸能人のちゃんとしたサインって、フニャフニャ~ってした字を書くけど、慣れていない人がそう簡単に書けるってものでもないと思う。普通に名前を書くだけになっちゃいそう。
…………うん、それでもいいのかもしれないね。
欲しいって言ってるんだから、何かしら書いてあげないと。
3人から厚紙を受け取って、そこに自分の名前を書こうとした。ペンが無かったから、3人のうちの1人にペンを借りて名前を書いた。
漢字で『沢城彩陽』って書いた後、その周りに何個か星を書いて3人にそれぞれ渡した。どうやら、3人とも漢字が読めるらしくて、ボソッと私の名前を呟いた。
名前を呟いた3人は、顔を紅くして慌てるように「ありがとうございます!!」と言って、走ってテントに戻っていった。
何か、忙しそうな3人だった。その様子を3人が見えなくなるまで見た後、テントの中に戻った。
「うぃ~!!お帰りなさいませ!!ご主人様!!」
「何言ってんの?誰もラークさんのご主人様になった記憶が無いんですけど?」
「ひゅ~ひゅ~、モッテモテじゃねぇかぃ~?男にも女にもモテるって最高じゃねぇか~!!」
「モテてる………っていうわけじゃないと思うんだけどね」
「またまた~、ご謙遜なさるなって~、そんなこと言ってるとファンの子達が泣いちゃうぞ?シクシクエーンって~」
「ふぁ、ファンって………そんなに大した人間じゃないんだって」
まぁ、嫌われているっていうよりはマシだけど。
でも、あの3人が私のファンっていうのは、また違うんじゃないかな。あれだけ恥ずかしがっているところを見る限り、おふざけ半分っていうわけでもないよね?
もしかして………他の人達にもサイン求められるのかな?嫌、それは無いか。あの3人が私のことを押しているってだけだよね。
私のファンになるメリットなんて無いもん。ファンが出来るって人柄ってわけでも…………
「うむむむ………………何で私なん_____」
「ハィィ!!飲み会でテンション低いは御法度だぜ!!」
「ひゃうっ!?も、もう………いきなり大声出さないでよ………ビックリした」
そんなこんなで、コーラオンリーの飲み会は楽しく進んでいきました。




