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『59』 夕飯の支度

 ようやく買い物を終えて家に着いたのは暗くなってからだった。スパイスをいくつか買った後にも、プラプラ~っと寄り道をさせられてしまったせいで、こんなにも遅い時間になってしまった。

 

 本当に、ご飯食べる前に寝落ちしちゃうよ?お腹ペコペコのままスヤスヤしちゃうよ?


 ゴッソリと買った材料を冷蔵庫に片っ端から突っ込んでいくユーリさんとラークさん。もう少し、丁寧に扱おうよ?食べ物をそんな乱暴にしちゃ駄目だって。



(何か、雑に扱われている材料達が可哀想だなぁ~)


「アヤヒ!!」


「ふえっ!?な、何!?急に名前呼んで!!」


「これからな?シェフが料理をするんでな?その手伝いをしてほしいんですけどな?よろしいですかな?」


「その言葉の最後に″な″を付けるのやめて。微塵切りにしたくなるから」



 私は、部屋に入ったときに外し忘れていた『あいあん・めいでん』の方を背中から引き抜こうとする構えをして、ラークさんを脅してみた。

 特にムカついたって訳じゃないけど、あまりツッコまないでいると、絶対に調子に乗っていくパターンな感じだったから止めたくなった。見るのに耐えられなくなる前に止めておきたかったんだよ。


 ビビっているラークさんの横では、気分良く鼻歌を歌いながら料理の準備をしているユーリさんが居る。相当夢中になっているのか、こんな近くで起こっている事に何一つとして気にしている様子が無い。


 少しくらい気にしようよ。女の子が剣を部屋の中で振り回そうとしているんだから、何か触れようよ。



「今日は″オーディスペン″の足の肉を使いますよぉ~?」


「″おーでぃすぺん″?それは、今日買ってきた肉の中のどれの名前なの?」


「どれと聞かれれば、これ」


「んっほうっ!?な、ななな………!?イボイボのヤツのことだったの!?」


「そうです。選ばれたのはイボイボでした」



 何かの生き物の名前と思われる単語が出てきて、それが何なのかを聞いてみたら、ユーリさんは調理台にイボイボいっぱいの足の肉をゴトンと置いた。

 まさかの、私がお店の名前で思わず叫んでしまうほどのインパクトがあった、あのイボイボのヤツのことだった。

 しかも、また叫んじゃったし。ユーリさん、何食わぬ顔でイボイボの肉を慣れた手付きで素早く捌いていく。綺麗に捌かれていくイボイボの足を見て、私は固まっていた。


 イボイボの部分は。皮と一緒に剥がされて綺麗に無くなって、プリップリの美味しそうな肉の部分が出てきた。イボイボが無くなってお肉の部分が見えると、ようやく何とも思わずに見れる物になった。


 でも、ユーリさんは剥いだイボイボの皮を湧かしておいたお湯の入った鍋の中にぶち込んじゃったんだ。鍋にぶち込まれた皮は、最初はプカプカとお湯の上を浮いていたけど、ゆっくりと鍋の底に向かって沈んでいった。


 もしかして、もしかすると…………出汁を取ろうとしているんですかね?それしか考えられませんけど。ユーリさん、出汁も自分で作っちゃうなんて、本当に本格的だね。



「アヤヒ。何でユーリの料理の様子を見ながら、1人で百面相なんてやっているんだ?表情筋が仕事し過ぎていたぞ」


「何か、ユーリさんの作っているところをマジマジと見てみると、何か凄いなぁ~って思っちゃってね」


「当ったり前よ!!シェフだぞ?シェフ。これくらいのクオリティなんて何でことないのがシェフの力なんだよ!!格の違いを分かっているのか?」


「フフーン!!キラッ☆マジ俺天才1000%!!」


(な、何でラークさんは自分の事みたいに話してるんだろう…………後、褒められたユーリさんの乗っかり方がちょっとウザかった)



 「キラッ☆」ってまでは別に気にはならなかったけど、その後の「マジ俺天才1000%」はウザかった。言ってるときにウインクしながらドヤッていたから余計だよね。

 料理しているんだから、手元と火元はちゃんと見てなきゃ駄目だよ。料理って本当に危険がいっぱいあるんだから、あまり気を抜いていると、あっという間に火事とかにもなっちゃうから。


 普通に手とかも怪我するかもしれないしね。

 「そんなこと、するわけないじゃん」って言ってるほど、包丁で指スッパリいっちゃうんだから。上手い人ほど、そういうところを気を抜かずに、ちゃんと料理を作ることに集中するべきだよ。


 私が料理するときに、いつも思っていることだからね。どんなに簡単な料理を作るときでも、私は常に気を付けながら料理をしているから。怪我とかしたくないし、火事になったらヤバいどころの話じゃ済まなくなっちゃうし。



「おぉ~?出汁が良い感じに仕上がってきましたぞよ!!そろそろ良いか」 


「その出汁って何に使うんだ?」


「見てれば分かるから、それはお楽しみって事で。俺的には、完成するまでは見てほしくないんだけどな。作っている間、何がどうなっているのかを想像しながら待った後の飯は美味ぇぞ?」


「分かった。そうする」


「うぐっ………!!ラークさん………!!いきなり襟掴まないでください………!!首絞まってるぅ………!!後……チャック食い込んで凄い痛い……!!」



 ユーリさんにそう言われて、料理しているところを見ないようにしようと思って台所から離れようとしたら、ラークさんがパーカーのフードと襟の間の部分を掴んでソファの方に引っ張っていった。


 これが本気で死ぬところだった。首が絞まっているだけでもキツいのに、チャックの金具の部分が喉の下の辺りに突き刺さるように食い込んでいて、洒落にならないくらいに痛かった。


 本当にヤバかったので、解放された瞬間にラークさんの股間に思い切り蹴りをかましてあげた。今のは流石に悪気が無かったっていうのが言い訳にはなりませんからね?


 あぁ………戦いとかじゃなくて、訳分かんないところで死んじゃうところだったよ。

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