『5』 ラークハルト・ステルマ
「それじゃ、自己紹介からさせてもらうぜ。俺の名前はラークハルト・ステルマ。ラークって呼んでくれ」
「よろしくお願いします。私は、沢城彩陽です。この世界について分からないことが多いので、色々と教えてもらえると嬉しいです」
ラークさん、それが私がいきなり攻撃をしちゃった人。相手が名乗ってくれたので、私も軽い自己紹介をした。
先端が金色で、それ以外は黒という髪の色をしていて、何処にでもいそうな雰囲気を持った男の人。
後は、何となく高校生くらいっていう感じの見た目。服は黒のコートに、半ズボンをはいていた。
名前を言うとラークさんは首を縦に振って、「アヤヒちゃんか、可愛い名前だね」と言ってきた。まさか、と思って身構える。
駄目だ……今の私は、男の人が言うそういことには、変に反応しちゃう。こうなったのも、さっきのろりこん3人のせいだもん。いきなりナイフで服切られるなんて相当だよ。
しかも服切られた時なんて、普通に街中だったし。よくそんなところで女の子の服を切り裂けるよね。もはや、そのメンタルの強さに感激するよ。
さっきから、あの3人の愚痴が止まらないな。もう、愚痴るのは止めよう。ずっと愚痴っていると、男の人が全員そう見えてきちゃうから。
切り替え、大事だよ。うんうん、切り替えよう。
「ど、どうしたんだ?1人で百面相なんか初めて………」
「あっ、別に、何でも無いです」
「そうか?なら良いんだけど」
どうやら、悩んでいるときに感情が顔に出ていたんだね。
駄目だなぁ~、考え事とかすると顔に出ちゃうからね。でも、こんなに訳の分からないことが同時に起これば、誰だって悩むでしょ。
悩んでいることを分かってくれたのか、ラークさんは「街を案内する」と言ってくれた。不思議と、変なことをされるという不安は無かった。
どれだけ良い人そうでも、初対面の人についていくのは良くないことだって分かってるよ。だけどね、会ってすぐに攻撃仕掛けちゃった相手をそのままにしておけないよ。
本当に大丈夫なのかな?灰色の方のヤツが、お腹に思い切り当たっていたんだよ。見た目と当たった音的に、流石にヤバいって思った。
鈍い嫌な音がしたのに、よく平気で居られるよね。平気というか、回復が早いというか何というか…………
「そういや、アヤヒ。さっき『この世界について分からないことが多い』って言ってたよな?」
「はい、言いましたけど。それがどうかしましたか?」
「アヤヒ、異世界から来たんだろ?うーんと、迷い込んだって言った方が正しいのか?後、敬語禁止な?距離を感じで話すのは好きじゃないから」
「えっ……と……何で分かったの?」
ラークさんの推理、大当たりです。見事な推理力を見せられて、私は頷くことしか出来なかった。”こーてい”することしか出来なかった。
私がポロッと言った言葉を聞いたラークさんは、右手の人差し指を顎に当てて考え始めた。やっぱり、結構な面倒ごとになっちゃってるの?
しばらく考えた後、何かを閃いたようで、ラークさんは顎に当てていた右手を体の前に出して、手招きをするような仕草をした。
(何してるのかな?誰かを呼んでいるのかな?)
「ありゃ?こりゃどうなってんだ?”扉”が出てこないな」
(とびら?とびらって、あの扉で良いんだよね?一応、どういうことなのか聞いてみよう)
「扉が出ないって何のことですか?」
「本当だったら、こうやって手を振りかざせば空気が割れて、そこから異世界へ行ける道を作れるんだけど。それが出来なくなっているみたいなんだよ。多分、アヤヒがこっちの世界に、本人の同意も無く来たことと関係があるのかもしれないな」
は、はい……話の内容が難しくてあまりついていけなかった。分かったのは、ラークさんには別の世界に行ったり来たりする力があるということ。それもスキルっていうヤツなんだと思う。
私が別の世界に来たと言っても、その事には驚かなかったのは、そういう理由があったからだね。自分が行ったり来たりしているんだから、他の人が来ても今更ビックリしないって事だよね。
今は、そのラークさんが悩んでいる。ラークさんに分からないことに私が分かるわけがない。つまり、色々と変なことが起きちゃっているって事なのかもしれない。
困ったな、今日はなるべく早く帰りたいのに。卵の特売だから買いに行かなくちゃ駄目だし。
ふぅ~、何で別の世界に来ちゃったんだろ。私なんかが来る理由でもあったのかな?