re.cord {twenty-six}
芽郁さんは優香に詰められて帰ってしまった。
優香がここまでになったのには……5年ほど前のこと。私が中学の卒業式の少し前。
私と芽郁さんで異界貴族九刃と対峙してしまったことがある。その時の序列とか誰だったのかっていうのは未だに分からないけど。
優香自身も感情的になりすぎて覚えてなかったくらいだし。
その時の戦いで、私はその異界貴族九刃の1人に致命傷を与えられてトドメを刺されそうになった。その時に芽郁さんは結憂さん達から「逃げてください」という指示があったみたい。
死にかけた私からしたって、結憂さんの指示は本当に正しいと思う。戦いで誰かが死ぬのは必然なんだから……それが私になっていた、はずだったっていうだけの話。
芽郁さんも流石に躊躇していたのは知ってるけど……その芽郁さんの後ろから、優香が現れて異界貴族九刃から私を引き剥がして何かの術式を使って、どこかへ無理矢理に転移させたのをうっすらと覚えている。
その時の優香の顔が………今まで一番見た、優香の一番の怖い顔だった。
たまたま別のクエストか何かをやっていたみたいだけど、優香が私の危険を察知して無断放棄で私のところに駆け付けてくれた。
あの時、優香が来てくれなかったら………確実に死んでいた。致命傷も優香がある程度治してくれたから、後遺症も残らずに今はこうして元気に居る。
そこからだよね。更に優香と一緒に居るようになったのは。私が危険に晒されたりした時から何も言われていないはずなのに、必ず駆け付けてくれるから。
自分がどんだけボロボロになろうと、私のために自分の命を平気で投げ出すから………
正直、口でいうのが恥ずかしいくらいカッコいいと思う。同性なのにね。
「はぁ………やだやだ。どうやら、前の世代の最前線組っていうのも大したことねぇんだな」
「それは言い過ぎだって。優香がちょっと……無茶し過ぎなんだって」
「千春の命より大切なものなんてないよ。目の前で大切な人が危険な目に遭ってるのに、見捨てられるわけないじゃん。だったら私が死んだ方がマシなくらいだわ」
「死なないで。本当に………」
「…………あっ、うん。いや、流石に死んでも構わないって言っても簡単に死ぬようなことはしないよ。私だって死にたいわけじゃないから。まだ21歳だし」
「無茶振りの仕方が美紅さんよりも酷いんだよ」
「まぁ、あの程度で無茶になるんなら……時代に救われたんだよ。第三次世界大戦なんて大したことねぇなってなるわ」
「いや……とは言っても」
「芽郁さんとカルテナさんの2人相手でも負ける気がしないし。現に負けなかったし。なめすぎなんだよ、何においても」
「……………優香」
「敵を普通に仲間に引き入れたのは圧倒的な戦力とかそういうのがあったから……ってことだけど、今の時代、現状でそれが出きるとは到底思えないけど?娘までも同じようなことやってるし。そういう点では遺伝子単位での恥だと思ってるよ」
「そこまで言わなくても………」
そう言って優香は先に一人で歩き始めた。
ヴァルドヘイムの隠し球………敵側からすれば、本当の黒幕っていうことになるんだろうな。
敵からも知られていない。前の世代のネームバリューに埋もれてるから。だからこそ、自由にやれるからって……優香にとっては好都合なんだろう。
根本的な性格が身内の誰にも似ていない。ここまで身内にも敵にも非情な態度を取れるのは最前線組にはいなかった。
おそらく、万が一があれば……母親である結憂さんですら平気で殺すだろうね。




