『37』 躊躇い
そろそろ終わりにしたい。早く帰って休みたいもん。家に帰ったらすぐに寝られる気がする。子供は眠くなる生き物だからね。疲れていれば秒で寝れちゃうもん。
《お………のれ…………エルフという三下種族の分際で………》
「もう終わりにしたいからさ。とりあえず、倒されてね?ていっ!!」
___キィィィィン!!ザシュッ!!____
《がぁぁぁぁ………!!!!》
(うん………?終わりにするってことは………この竜を殺さなくちゃいけないってことなの?嫌、それしかないよね)
竜との距離をもう一度詰めて、お腹の辺りに大きめの斬撃を入れ、それを食らって今にも意識が遠のきそうな竜のことを見つめている。
終わりにする………つまり、この竜を殺す、ということ。
今更ながらに気付いた私は、目の前で苦しんでいる竜に対してトドメを刺すことが出来なかった。本当に、ただの大きいトカゲだったとしたら………まだ倒せたかもしれない。
けど、この竜は人のように話すことが出来る。心の何処かで竜のことを″人″だと思っちゃっていたみたいだ。左手に持っている灰色のスキルを纏った″ぺいん・ばるきゅりあ″が小刻みに震えている。
心と体と共に、竜を殺すことを嫌がっている。
「はぁ………はぁ…………出来………ないよ…………」
《な、何をボソボソと…………さっさと………殺してくれないか………ここまでされて………もう抗うことも………生きようとも………思……わ………ない…………だから………ひと思いに………殺すが良い………》
「だから………それが出来ないんだって………!!」
どうしても………どうしても………殺してやろうと思えない。思い切れないんだよ。立ち尽くしている私にラークさんが近付いてきた。
「何があった?」と聞いてきた。私は何も応えることが出来ずに、固まっていることしか出来なかった。でも、それ以上にしつこく聞いてくることは無かった。何かを察してくれたんだろうね。
ユーリさんも私に近付いてきたけど、何も言わずに私の頭を撫でてくれた。そしてユーリさんが1人、竜の視界に入るであろう位置に向かっていった。
背中の剣を抜いて竜の顔の前に来ると、抜いた剣を鼻の辺りに突き付けて何か話し掛けていた。そこまで大きな声で話しているわけでも無いから、何を話しているのかは聞き取れなかった。
口パクだけ見ても分からない。でも、竜の顔がどんどん曇っていくのが分かる。竜に対して良いことをいった感じではないよね。何を言ったのか、凄い気になるんですけど………
「ユーリさん、竜に対して何を言ったんですか?」
「うーん?まぁ~、簡単に言うとだな…………『アヤテトの優しさのお陰で命拾いしたんだから、命の恩人には無駄に挑まないことだ』的なことを言ってきた」
《……………………………………………………》
「えっ、あっ、でも…………クエストのクリアが____」
「翼を貰っていく。倒したという証拠として、体の一部を持っていけば達成と見なされて報酬が貰える。それ以降は、竜には人目の全く付かない裏世界的な場所に移ってもらう。それなら、誰も死なずに済むだろ?なぁ、竜。お前もこの条件………飲んでくれるよな?」
《分かっている。命の代わりに翼を失うくらい、安いものだ。この縄張りも手放す………約束する。さぁ、女剣士。私の翼を切り落とすのだ》
「えっ………あっ………はい…………」
竜に言われるがまま、私は竜の翼を剣で切り落とすことになった。殺さなくて済むということから、そこまで渋ることなく翼を両方切り落とすことが出来た。
片方だけで良いんじゃないかなって言ったけど、本人が納得しないようなので、両方切り落とした。
翼を失った竜は、ユーリさんの魔方陣の力によって、何処かの場所へと飛ばされることになった。その作業もすぐに終わったので、竜には軽い別れの挨拶をした。
…………私の初めてのクエストは、少し予想外の展開になって終わりをむかえることになった。