『28』 夢の中
「ありがとう、ラークさん。おやすみ………」
「あぁ」
「すぅ………すぅ…………」
「寝るの早っ!?本当に眠かったんだな………」
* * * * * *
全身が不思議な、言葉にするのは難しい感覚に包まれている。別に気持ち悪いとか、そういうのは無い。ちょっと心地良いくらいでもあるね。
(多分………夢?なのかな………)
私は目を開けてみる。そこは、ラークさんが寝かせてくれた部屋、そしてベッドの上ではない、私が全く知らない場所だった。
空間という空間が薄い水色で包まれている。
これは間違いなく夢ですね。私は立ち上がって少し歩いてみることにした。歩く度に足下から波紋が広がっていく。水浸しって訳でもないのに、不思議な空間だ。
うーん、予想はしていたけど………本当に何も無いね。
水色しか無い。こんなにも何も無いって世界、何か嫌だな。有りすぎるのも嫌だけど、全くないっていうのも嫌だね。普通の世界なら、どこに行っても何かしらあるもんね。
歩いている音すらも聞こえないというのが不気味。早く目を覚まさないかな?あまりに早く起きちゃうのも、寝る時間が少なくなるかもしれないから、ある程度早い時間で。
《まちたまえ。そこの者よ》
「ふへぁ!?今度は誰なんですか!?」
《また会えたな。どうだ?ヴァルドヘイムでの生活は慣れたか?》
ありゃ?この声、聞き覚えがある。
うん、間違いない。私が異世界に飛ばされる前に聞こえた声だ。でも、声だけは聞こえても姿が見えない。一体、どこから私に話しかけているのかな?
「すみませ~ん。人と話すときは、ちゃんと目の前に出てこないと失礼ですよ~?」
《まぁ………出てきてやっても構わないが》
(地味に上から目線なんだよなぁ…………何でこんなに上から目線で話してくるのかな?何かと偉い人だったりするのかな?そもそも人なのかどうかっていうのも怪しいし)
私がそう言うと、「出てきてやる」と言って声の人は静かになった。
30秒くらい待っていると、目の前に紫色の光の粒が無数に出てきた。おっ?何か綺麗だね。スマホがあったら写真を撮っておきたいくらいに綺麗な光の粒だった。
その光の粒が人の形になるように集まっていく。
そして、その無数の光の粒が弾けると同時に、割とイケメンのエルフの男の人が出てきた。
灰色の癖っ毛短めの髪で、顎に髭を少し生やしている。服装は全身が紫色だ。どうやら紫色をゴリ押ししていくスタイルみたいだね。出てくるときも紫の光の粒だったし。
「自己紹介からさせてもらおう。俺の名前はジェラール・ヴァルドヘイムだ。あの世界、ヴァルドヘイムの創世者だ」
「そ、そうせいしゃ?」
「あぁ、あの世界を作った者………って考えてくれればいい」
「ヴァルドヘイムって、自分の名前から取った名前だったんですね」
「他に良い名前が無かったからな。おそらく、この名前なら失敗しないだろうと思って付けたのだ。世界の名前だ、半永久的に消えるのことのないのだから、慎重に付けなくてはいけないのだよ」
「名前の由来はどうでもよくて………聞きたいことがあるんですよ?ジェラールさん。何で私を異世界になんて飛ばしたんですか?何か理由でもあったんですか?」
何で異世界に来てしまったのか?これは私が一番知っておかなきゃいけないことだよ。
私じゃなくても良かったはずなのに、何で私なのか?小学生の女の子を異世界に飛ばした理由を知りたいんだ。何か理由があるはずなんだよ。
私がその質問をすると、ジェラールさんは腕を組んで悩み始めていた。そこまで悩ませるようか質問をしたのかな?ただ単に、私が異世界に来ちゃった理由を教えてほしい。
てか、飛ばした張本人なんだから理由くらいハッキリしているでしょ。流石に理由も無く、小学生の女の子をこんな危険な場所に飛ばしたりしないでしょ。
理由がないとが言ったら最悪だよ。それこそ訴えられるレベルだよ。
ジェラールはしばらく黙る。嫌、黙っていないで何か話してくださいよ。会話が止まっちゃいましたから。質問されているんだから、ちゃんと納得が出来るような答えをしてくださいね。
「うーん………何て言えば良いのだろうか?」
(まだ、悩んでいるの?何か言えない理由でもあるのかな?)
言えない理由………それがあるなら、逆に何としてでも聞き出さなきゃね。こんなモヤモヤした気持ちのまま生活したくないもんね。