「561」 已己巳己
組織の圧力すらも押しのけてしまうような力が無ければ……そこまで好き勝手にやれるだけの力を持たなければ、守りたいものが守れるわけがない。
自分の身すらもろくに守ることが出来ずに搾取されるだけの立場の奴が、搾取されそうになっている誰かを守ることが出来るわけがない。
大切な誰かを守るためならば、どんなにも手を汚してもいい………どんなに周りから嫌われてもいいと思えるほどの精神力を前提条件に行動できる人間以外の「大切な人を守りたい」という発言は全て嘘だと言えるだろう。
中途半端な覚悟しか持たずに、綺麗事だけを並べるような奴が何かを守ること、何かを成し得ることなど不可能。
誰かを守りたいとか言いつつ、最終的に我が身可愛さを捨てきれずに、最終的に「大切な存在」だと垂れ流していた他人を平気で見捨てる人間を私は飽きるほど見てきた。
綺麗事を言うなとは言わない。ただ、言ったからには自分の発言として責任は持つべきであろうということは言わせてほしい。
では、ここら辺で私のしょうもない愚痴を終わりにして、私が集めてきた情報の概要でも話させていただきましょうか。
私が集めてきた情報、ツリーハウスのあるエルフの森での謎の連中の気配の正体………それを突き止めることが出来た。
齏懿蕐と同じように精霊化と精霊としての受肉をしている奴等………ただ、元は何かまでは突き止められていない。
完全に人の姿をしていたため、最初は人間が死んで精霊化したものかと断定しようとしたところ、齏懿蕐が「見た目に人間の要素しか無いとしても、元の生物が人間だったとは限らない」と言われた。
実際に競走馬から精霊化を果たして人の姿になり、人間と同じような生活と言語によるコミュニケーションが可能となっている以上、確かに元が人間とは言いづらい部分があるとしても、齏懿蕐のように精霊化の前の身体的特徴を表すような耳や尻尾などが名残としてあるわけでもなく、私と変わらない人の姿をしていた。
もし、人間以外の生物から精霊化して人の姿を取っているのだとしても、精霊化する前の身体的特徴が反映されるならば、人間には無い特徴が発言するのでは?と齏懿蕐に問い掛けた。
その問い掛けについても、齏懿蕐は「身体的特徴が残っている方が珍しい。精霊化した場合は、等しく人間と全く同じ見た目になることが殆ど」だという。
齏懿蕐のように精霊化する前の身体的特徴が反映された状態で精霊化する方が圧倒的少数派らしい。
ただ、あくまで外見の身体的特徴だけが人間のものを踏襲しているだけであって、身体能力や五感なとは精霊化前の生物の特徴を受け継いでるはず………というまでが齏懿蕐の見解だ。
本人が精霊化している存在であり、他にも自分と同じ境遇の存在を当たり前のように見掛けている立場の齏懿蕐の意見なので、信憑性の高さは安心出来る。
もとより、最初から疑っていたわけではないが。
ただ、解明された謎が謎を呼んでしまっただけだ。その程度の課題ならいくつも乗り越えてきた。
今更焦ることでも落ち込むことでもない。




