「176」入り乱れる
秒速29万2792.458km……それを超える速度の物が出てくるどころか、並ぶことすらも難しいと言われている。
理論上は可能であっても、技術的……機材などの耐久性などによって再現することが出来ないという問題もある中、その事実だけで「無理だ」という事を決めつけるのは…………科学者がよくやることではあるかもしれないが、果たしてソレが本当に正当な判断を下したと言い切れるのか?
まぁ………言い切ってしまうから、あの金髪女なように誰から教わった程度でしかない知識に囚われて、自分の頭で物事を判断していくという事が出来なくなってしまっている人種が増えていくのだろう。
ある意味、現代科学の被害者ではあるが。被害者であっても、犯罪に巻き込まれたわけでも無ければ、自ら被害者になるために首を突っ込んでいるようにも見えなくもない奴等に同情する奴等なんて…………一体、どれだけの人数が居ることか。
ゼロ···············では無いのは間違いないが、多数派の意見にも成り得ないのが現実かね。
その少数派に取り憑かれたことで、自分の寿命を縮めるなんて……馬鹿らしい。
しかし、金髪女の見立て··········というよりも、普通の人間ならば「光より早く動くなんて不可能に決まっている」という事を考えない方がおかしいのも現実。
···············それを本当にやってしまった私自身も驚いている。
強くなりたい、どんな奴等が現れたとしても、誰も死なせないための強さが欲しかった………そんな力を意地でも手に入れたかった。
そのために、事務所の誰にも悟られないように……総督府の演習場に向かっては、閃光スキルや刀の使い方をひたすらに極めていた。
バランス良く、色々な戦い方が出来た方が良いという話は聞いていたものの、それだと突出した何かが無くなってしまい、自分よりも総合的に優れている奴との戦闘で、ソイツの不意を突けるような戦い方というものが出来なくなってしまう。
個人的にそう思ったということもあり、まずは………私は、自分の得意な戦い方である、閃光スキルと刀を使った戦い方を、誰にも出来なかった戦い方というレベルまで引き上げることに専念している。
過去形ではない。今も尚、少しでも時間があれば、自分の体を壊さない程度に…………自分の体と相談しながら鍛錬を積んできている。
楓夏依達もやっているのは知っている。でも、皆と足並み揃えているだけでは、絶対に守りきれない誰かが出てくることは分かっていたから。
現に、分かってていても……………失ってしまったのだ。そういう世界であり、いつ何が起こっても……誰が死んでも、おかしくない状況に陥ることが分かっていて、それに備えて………誰も死なせないために動いていたとしても、守れないものは守れないのだ。
光を超える速度の斬撃…………総督府の演習場にある速度計を使って、自分の使える閃光スキルの速さを常に測りながら、昨日よりも速く移動するということを考えながら………ずっと延々と閃光スキルばかりを使っていた。
音速ほどの速さを身に付けている状態からの、本格的な演習を初めて…………光を超える速度でも、質量があるものでなら測れる機能がある。
一応は光の速度………限界に挑戦してみることにした。閃光スキルによる高速移動による体の負荷は、どんな速度で動いてもほとんど無いに等しいという事も言われていた。
どういう原理なのかは知らない。武器を振り回していたとしても、その速度による慣性の影響も受けない。
この時点で速度に関する定義が崩壊している状態の閃光スキルという存在だったからこそ、光の速度以上も鍛錬次第では追い越す事が出来るのでは?と思ったのだ。
失敗が無いに等しい…………失敗が無いのならば、死ぬリスクもない。どこまで自分が極められるかを試したくなった結果…………本当に光の速度を超えてしまった。
改めて、光の速度は秒速29万2792.458km。これが最も正確な光の速度を現している数値だという。
この数値だけは私の頭の中に、あの金髪女が説明する前からも強く残っていた。意地でも超えたかった壁の数値でもあったから。
ずっとやってて……………そして昨日、初めて《《超えられた》》。
誰にも知られることもない、孤独の広い演習場で、速度計が映し出した数字は300010.023km/sだった。
少しだけではなく、かなりの数値を上回る結果となった。光よりも更にマッハ20も速い速度で移動することが出来るようになったのだ。
ここまで極めるのは頭おかしいだの、ここまでして、速さだけを極めてどうするつもりだ?……なんて笑う人も居るかもしれない。
過去にも、誰も成し得なかった実績を……誰にも知られないままに持っておけば、それは確実に大きな武器になる。
楓夏依達には、後でタイミングを見て話したいと思うが………しばらくは話さないでおこうと考えている。
当分は、閃光スキルのことについて触れられても、適当に質問を聞き流す対応でやり過ごす。




