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小さな森の大きなユートピア〜或いはディストピアか?  作者: 清水 蒼
第1章 冒険の始まりは公園?
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脱出・脱走、拉致?

 亘が目を覚ますと、暗闇に包まれていた。


 だが、半瞬して、何かで頭を覆い被せられているのがわかった。

 息は苦しくない。覆いが被せられているだけのようだ。

 体が横になっているのがわかったので、起き上がろうとすると、両手首に鈍い痛みが走った。どうやら手首を何かで締められているようだ。


「大丈夫? お腹痛くない?」


 夕の声が聞こえた。


「大丈夫だ。この頭に被せられてるものを取ってくれないか。」

「私たちも手首を繋がれてるの。それに……。」


 それに何だろう、と亘は思ったその時だった。


「おい、おしゃべりは止めろ。静かにしてろ!」


 怒声が亘の前、それもだいぶ離れたところから聞こえた。


「どこに何人いるんだ?」


 亘は小声で夕の声がした方に向かって、囁いた。


「見張りは2人。私たちは7人いるの。みんな後ろ手に縛られてるんだ。」


 夕の頭には覆いは被せられていないようだ。

 

 亘が気を失ってからのことを小声で尋ねた。


「あの刀みたいなの、刃があまり研がれてなかったみたい。おじさんのお腹に思いっきり当たっておじさん倒れちゃうから、死んじゃったかと思ったら……。」


 夕と他の女の含み笑いが聞こえて亘はちょっとほっとした。

 夕たちの心は死んでいないようだ。兎に角、この状況から逃げ出さないと、亘は他の村の人のことが気になった。


「沢渡さんとおばあちゃんはどうしたんだ?」

「彼らの食事の準備とかさせられてるみたい。さっきここにも夕飯持って、来させられてたから。それと……。」


 夕が何かを言い淀んだ。すると他の女のささやき声が聞こえた。


「私たち、同じ中学の同級生なんです。」

「中学生!」


 亘は大きな声を出しそうになるのを堪えた。


「中学生が何でこんなことを……。」


 すると夕の声が不満そうに言った。


「高校生だっているんですけど。」

「高校生って三枝さん、高校生だったの?」

「だった、じゃなくて現役です。失礼しちゃうな。どうせ、また年上に見えたんだ。全く男ってやつは……。」


 夕が高校生だってことに亘は驚いたが、あの男たちと、ここにいる女たちが中学の同級生だったことにさらに驚いた。


「ちょっと、三枝さんの件は後にして、君たち同級生、ってことは男たちの事も知ってるの?」

「はい、あの人たち元からやんちゃばかりしていて、先生たちも手を焼いていたんです。それから何でかわからないけど、小さくなっちゃって、それでご主……吉田さんにあの人たち騙されてついてきたら、ここで奴隷にされちゃって。」


 吉田の名前を聞いて、亘はハッとなった。あの亘を殴った刃物を持った男、刃物をあるお人からもらったと言っていた。確証はないが吉田の事か、と思った。


 まだ吉田が暗躍している。彼らを焚きつけたのも吉田かもしれない。


 亘は刃物で思い出した。夕にもらったカミソリのような刃物が、腰巻き替わりにしている葉の後ろ側にあるはずだ。落ちていなければ使える、と亘は脱出の算段を始めた。


「今何時くらいだろう?」亘が夕に尋ねた。

「時計があるわけじゃないから、正確にはわからないじゃない。」


「だいたいでいいんだ。陽が落ちてどれくらい経つ?」

「このお腹の減り具合から考えて、いつもの夕飯の時間から4時間くらい、かな? 本当、もうお腹ペコペコ。」

「三枝さんの腹時計は信頼できそうだね。」


 亘が言葉に笑いの成分を混ぜて小声で言うと、夕が憤慨して言った。


「ちょっとそれどう言う意味? 失礼よ」

「ごめんね」と笑いながら謝罪すると、「あと2時間ほど仮眠をとっておいて。」

「この状況で眠れって……。」


 亘はいいから休んでおいて、とみんなに改めて小声で言い自分も目を閉じた。



「おじさん、そろそろ2時間経つんじゃない?」


 夕の声で目を覚ました亘は、夕に尋ねた。


「見張りは? 誰かと交代した?」

「ううん。ずっと同じ人たち。あくびしてる。」


 亘は計算通りだな、と後手に握っていた夕からもらったカミソリを、小刻みに動かし始めた。


「おじさん、何やってるの?」

「三枝さんは、彼らが俺の方を向いたらそっと知らせて。」


 と、亘は告げるとカミソリで、手を縛っている紐状のものを切り続けた。


 それから2時間ほど経っただろうか。亘の両手首は傷だらけになっていた。映画のように上手くはいかないものだな、と亘は痛む両手首の傷に耐えながら紐を切った。


「三枝さん、彼らは?」

「1人寝ちゃったみたい。やっぱり中学生だね。夜中は寝ちゃうんだ。もう1人もボーッとしてるから時間の問題だね。」


 それを待ってたんだ、亘は自分の目論見が上手くいきそうな事に安堵した。


 夕に亘はいつも以上に、慎重な小声で囁く。


「三枝さん、俺の方に後ろ手を向けて。」


 亘を信頼した夕は言われるがまま、亘の方へ縛られている両手を差し出したようで、亘の膝に当たった。


 亘は慎重に夕の手を傷つけないように、手探りで紐を確認してカミソリで切り出す。


「動かないで。」と夕が振り向こうとする気配を察して、亘は紐を切り続けた。

 両手が自由になった亘が、夕を縛り付けている紐を切るのにさほど時間はかからなかった。


「もう1人も眠そう?」


 亘は夕に聞くと、膝に当たっていた夕の手が離れた。腰を浮かせて、様子を伺っているのだろう。


「半分寝てるみたい。コクコクしてるよ。」


 小声で話す夕の声を聞いて、亘は頭の覆いをそっと外し始め、目が見えるくらいまで押し上げて辺りを見回す。


 彼らが奴隷扱いされ閉じ込めらていた、檻の中のようだ。亘のそばに夕がいたのは幸いだった。他の女の子たちも、さほど離れていないところにいたが、亘がカミソリで両手の枷を外せる場所にはいなかった。


 そして、見張りの男たちを見ると、確かに1人は完全に横になって眠り込み、もう1人は座ったまま眠っているようだった。


「檻は何かで縛られている?」

「前と同じで何も鍵みたいなものはないみたいだよ。」


 亘は夕に小声で「三枝さんは右、俺は左。檻を出たら、すぐに口を塞いでこの中へ。」

と告げると、夕は亘のやりたい事を承知した様子で頷く。


 2人で忍び足で檻の扉へ近づく。亘は心臓の鼓動が高鳴る音が耳障りだ、と思いながらゆっくりと檻の扉を開けた。


 そして、2人で見張りに飛びかかるようにして、口を塞いで開いてる檻の中へ引きずり込んだ。パニックになっている、2人の中学生を哀れだと思いながら、亘は後手に縛り付けた。


「やめろ、やめろよ。ふっざけんな! こんな事して許されると思ってんのかよ!」


 威勢のいい言葉が2人の男から発せられたが、亘は無視して、他の縛られていた女の子たちの枷をカミソリで切っていく。


 囚われていた全員が檻を出て、喚き散らす男2人は放置しておいた。檻の扉に紐状の蔦で亘は厳重に縛っておく。ここの声は村まで聞こえやしないのは確認済みだった。


「これからどうするの?おじさん……おばあちゃんたち……。」

「ああ、わかってるよ。あの刃物で脅されて言う事を聞かせれてるんだろうけど、こんな時間だ。みんな寝てるよ、安心してね。」


 村に全員でたどり着くと、亘の読み通りテーブルの上には散らかした食べ物が、散乱したままの状態で、3人の男たちが眠りこけていた。その場におばあちゃんや沢渡さんはいなかった。


「穴で眠っているのかも。」


 夕が忍び足で一緒に眠っていた、おばあちゃんの穴に入っていった。そして亘は無造作に落ちていた、昼間気絶させられたなまくら刀を手に取った。動揺していたとはいえ、こんなもので気絶させられるとは、と亘な情けない気持ちになった。


 刀の傍で眠りこけていた男が、人の気配を察したのか目を覚ましたのに亘が気づいた。男は目を剥き、叫び声をあげそうだったので、亘は自分の腰くらいの男の口をそっと抑えて「しーっ」と反対の手に持っていた刀で殴る仕草をして見せた。

 

 3人を見張りの2人と同じように、後手に縛り上げると、みんなシュンとした。そして口々に愚痴り始めた。


「だから、あいつの言う事なんて聞く必要なかったんだ。」

「だって、また脅されたら怖いじゃん。」


 亘は口を挟んだ。


「あいつってのは吉田さんのこと?」

「そうだよ……あっ。」

「馬鹿、話すなって言われてただろう。」


 どうやら口止めをされていたようだ。明日の朝にでも様子を見に来て、状況が吉田にとって芳しければ、この村に戻ってくるつもりだったんだろう。


「おじさん!」

 背後で夕の叫び声が聞こえた。

「おばあちゃんが居ない! 沢渡さんも見当たらない……。」


 読みが外れたと亘は唇を噛んだ。吉田におばあちゃんと沢渡さんが拉致されたかもしれない。

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