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小さな森の大きなユートピア〜或いはディストピアか?  作者: 清水 蒼
第1章 冒険の始まりは公園?
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おじさん疲れた日常、そして反乱

 全ては植物の産物だった。

 

 わたるが驚いたのは、村から少し離れたところに小さいながらも、しっかりとした畑があることだった。


 吉田を恐れていた老人、沢渡は農家だったので、畑の作り方や野草などに精通していた。

 ここで農業指導をしていたと言う話だ。


「沢渡さん、この草はみんなこの森で?」


 亘は本当は年上の男性が苦手だった。

 だが、沢渡のどこか人懐っこい顔つきや表情豊かな仕草に安心感を覚えていた。


「そうだよー。みんな食べられるの。ナズナだって、タンポポだって食べられちゃうよ。まぁ、畑で育てなくてもこれらはそこらじゅうに生えてるけどね。」

「吉田……さんが使っていた毒っていうのも植物から採ったんですか?」

「ありゃーわたしゃ知らないんだけど、毒草って結構あるからねえ。チョウセンアサガオなんて結構生えてるしねえ。」


 吉田が使っていた毒が、何かはわからなかったが、植物から採ったものなのだろう。

 吉田はまだ毒矢を持って、その辺をうろついているのだろう、と亘は考えている。


「沢渡さん、たんぱく質はどうしてるんですか?」

「ああ、夕ちゃんがね、虫とか採ってきてくれるから大丈夫なんだあ。あの子大きいからねえ。」


 虫、昨日の夕食にも入っていたのだろうか、と亘は少しショックを受けた。

 昆虫食ブームなんてものがあるようだが自分には無理だなと思っていたのに、意図せず虫を食べていたのかもしれない。


 亘は佐渡に村に戻ると伝えると、少し村の方へ歩いて誰にも見咎められないところで、横になった。


 亘は肉体的にかなり疲れ果てていた。

 昨日1日で、体調を崩して以来の1年分の運動をしたような気がした。


 だけれども、精神的な不安定さや、憂鬱とした感じに覆われ死んでしまおうなんて思い、それに絶え間ない頭痛なんて、どこかへ吹っ飛んでいってしまってる自分に少し驚いている。


 ま、そんなこと考える暇がなかったな、と亘は昨日から今朝までのことを思い返して1人ニヤついた。


「あ、こんなところでサボってる! それになんかイヤラシイなぁ、1人でニヤニヤして。」


 夕がすぐ傍に立っていることに全く気がつかなかった。

 君のおかげかもな、と亘はらしくないことを考えた。


「いや、もう体がボロボロなんだ。」

 本音だったが、伝えたいことはそんなことじゃないな、と亘は思ったが口にはしなかった。


 夕が寝転ぶ亘の隣に座って言った。


「まー、確かに昨日はいろいろあったから。運動不足のおじさんには辛かったっしょ?」

「辛いなんてもんじゃないよ。」

「30歳になるとこれくらいでばてちゃうのか。あー歳はとりたくないっすねー。」


 夕の何かを探るような視線を感じた。


「おじさん、何か病気してる? いじめられてた?」

「な、何でだよ。」


 亘は見透かされたような気になり、鼓動が高鳴った。そんな素振りを見せたか、と不安に襲われた。


「私、いじめられてたんだ。」


 亘は夕の告白に驚くとともに、自分のことじゃないのかと安堵したが、少し居心地の悪い気分になる。


「そんな風には見えにないけどな。」


 夕はため息をついて続けた。


「人は見た目じゃないよ。私子供の頃から体が弱くてさ。友達、少なかったんだ。それでかな? いじめられたの。」


 亘には夕がいじめられていた、ということが信じられなかった。明るく活発で元気な姿しか見ていなかったからだ。と言っても、たった1日の付き合いだけれども。


「どうしてそんなこと俺に‥‥。」

「んー、なんとなく。私に近い人なのかな、って思っただけ。忘れて、今の。」


 というと夕は立ち上がり走っていこうとした。

 亘は夕の感受性と観察眼の鋭さに驚いた。夕は亘が体調が優れず孤独だってことを感じとったのかもしれない。


「あ、そうだ。これ使って」


 夕の掌に小さな光る刃物があった。


「みっともないよ、おひげ長いと」


 そう言うと、夕は走り出した。そして振り向き様に叫んだ。


「おばあちゃんがおじさんにも服を作ってるって! かっこいいのだといいね!」


 照れ隠しなのか、笑顔でそういうと村の方へ走っていく。


 亘はその背にありがとう、と叫ぶと少し安心した。

 10代の頃の気持ちなんて忘れてしまった亘には、夕の抱えている悩みに、的確な答えを出してあげるなんてことはできそうになかった。

 自分のことさえままならないのになぁ、と思った。


 しばらく休んだ亘はそろそろ何か手伝わないと、と重い体を起こした。


 のんびり歩いていくと、村が近づいた辺りで亘の耳に歓声と悲鳴が飛び込んできた。

 何があったんだろう、と重い足を少し早めた。


「やめて!」という声が最初にはっきりと聞こえた。

「お前さっきからうるせえんだよ。命令ばっかりしやがって。」

「そうだ、ったく。俺たちは自由になったんだからよ。好きにやらせろや。」


 5人ほどの、亘の腰ほどの大きさの男たちが、喧嘩腰で夕に食ってかかっている。


 亘より小さい男たちが大声で怒鳴る姿を見て、腰が引けた。

 亘は嫌な気分に襲われた。

 自分が怒鳴りつけられている、そんな感覚を覚えた。

 足がすくみ、前に踏み出すことができない。

 相手は小さな男たちだ、と自分に言い聞かせてなんとか一歩ずつ近づいていく。

 

 怒鳴り散らす男たちと対峙する夕の傍らには、小さな女たちが群れている。夕は男たちよりも大きいが迫力は男たちの声の方があった。


「ここにはここのルールがあるのは知ってるでしょう?! 昼食の準備なんだから手伝ってよ!」


 夕が必死になって男たちを説き伏せようとしているようだ。亘は思い切って声をかけた。


「ど、どうしたんだ?」


 すると、男たちの1人が、背後から男の腕の長さほどの日本刀のようにやや湾曲したモノを取り出すと、素早く夕の傍にいた女の腕を捕り、その男の方へ引き寄せる。

 日本刀のようなモノを女の喉へ当てがい、高らかに叫んだ。


「人質だー! これ本当に切れるからな!」

「ちょっと、それどこから手にいれて……。」


 夕の言葉が詰まった。亘は早く割って入らないと、という思いと喧騒の場へ近づくのを恐れる思いとで頭の中が真っ白になり、身動きが取れなくなった。


 刃物を持った男、あれだけの長さがあれば自分くらいの大きさでも一溜まりもない、夕が危ない。

 だけど、彼女には拳法のような技がある、大丈夫だ、と亘は自分に必死に言い訳をして、「落ち着け、落ち着け」と心の中で唱えていた。


「それを一体どこで手に入れたの!」


 夕が叫ぶ声が聞こえる。亘は目を閉じ頭の中の混乱が落ち着くのを待った。


「これはなあ、さっき森の中でお前に言われた通りに木の実を探してたら、あるお人からもらったんだ。」


 亘は今の言葉を聞いてハッとなり目を開け、男の持っている刃物を見つめた。あるお人、この小さくなった森での言葉使いにしては奇妙な表現だ、と考え込んだ。


「この女を殺されたくなったら、言うことを聞け!」


 男たちが下卑た笑い声をあげる。その笑い声が亘の癪に触った。


「おい! その子を離すんだ!」


 亘は震える足を悟られぬように、大声で叫んだ。


「あー?お前は新参だろうが、俺たちの言うこと聞くよな?」


「いいから離せ!」と亘は刃物を持った男に近づいていった。


 すると、男は刃物を容赦なく振りかぶり亘に斬りかかるそぶりを見せる。

 また、刃物男か、2日連続で刃物に縁があるな、などと考えても仕方ないことを思った。


 亘はいい加減頭にきていた。

 昨日と今日とトラブルに連続して見舞われ、元の大きさに戻る方法を探るどころか、のんびりと疲れを取る暇さえない事に苛立ちが募っていた。

 

 やけ気味に亘は刃物を持った男の頭部を殴りかかった。

 すると、刃物の男は戸惑いの目を一瞬見せたものの、亘を斬りつけた。

 その刃は亘の脇腹に当たり、鈍く重い感覚を亘は覚えて、途端に息苦しくなり目の前が暗くなった。


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