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+-∞  作者: チキンフライ
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【二七《特別な普通。普通になった特別》】:二

「手料理の話をしてたんだ。俺はよく凛恋に作ってもらってるけど、栄次は希さんの手料理を食べるの初めてみたいだったから」

「そっか。でも私は凛恋の言う通りに動いてただけだから」

「もう、出来上がったの?」

「うん。煮込みハンバーグだから、後は食べる前に温め直すだけだって」

「そっか。あっ! 俺、風呂のお湯を沸かしてくる」

「あっ! 私も一緒に行く」


 立ち上がった栄次の後ろに付いて行った希さんが、俺にパチッとウインクをした。おそらくそれは何かのサインか何かだったのだろうが、イマイチよく分からない。


 栄次と希さんが部屋を出て行って、俺は仕方なくゲームの相手をプレイヤーからコンピュータに変えて一人で敵と戦い始める。しかし、戦い始めて数秒で俺はコントローラーから手を放した。

 部屋に入って来た凛恋にいきなり押し倒されたからだった。


「凡人……ごめん」

「り、凛恋!?」


 エプロン姿のまま俺に覆い被さる凛恋は、俺を痛いくらい抱き締めて謝る。


「……希から聞いた。最初にカーテンの向こうに行こうとしたのは栄次くんだったって」

「ああ、さっき希さんが凛恋に説明しといたからって言ってたな」

「てっきり、凡人が先に入ろうとしたと思って……」

「まあ爽やかイケメンの栄次と俺を比べたらそうなるのは仕方ないな」


 それに丁度凛恋が俺に詰め寄って来た時は、俺が一八禁コーナーの方を指さしているところだった。

 まあ、あんなところを見れば、俺が栄次を連れて入ろうとしたと思われても仕方ない。


「か、凡人、エッチだから……その、我慢出来なくなったのかなって、思って……」


 …………凛恋はどうやら俺を性欲の塊か吹き溜まりか何かだと思っているらしい。


 確かに俺も男で、思春期男子で、凛恋という可愛い彼女が居る男だ。そういう欲求は多分にある。だが、理性くらいはちゃんと最低限は持っている。

 それに、優愛ちゃんが来る日は何もなく終わるのだから、一日くらいなんてことはない。だが、凛恋はそうは思わなかったらしい。

 ガッカリしたり凛恋への気持ちが冷めたりすることはあり得ないが、心外ではある。


「凛恋。ほとんど毎日って言ってもしない日もあるだろ? いったい、凛恋は俺をどんな――」

「……私が、我慢出来るか不安だから、凡人もかなって思って」

「…………ビデオショップで凛恋が今日くらいは我慢してって言わなかったか?」


 俺がそう聞き返すと、凛恋は真っ赤な顔で視線を逸らす。


「だって、初めてのお泊まり会で凡人と一緒に寝るのよ!」


 もの凄い圧でそう言って、凛恋は勢い良く上から俺の唇を塞ぐ。俺は絡む凛恋の舌を受け入れながら、凛恋の背中に手を回した。



 何とか理性でキスだけに抑えた俺は、この悶々とした気持ちをぶつけるために凛恋チョイスのゲームを栄次とともにプレイしていた。

 栄次と希さんが戻ってきた時の二人の雰囲気から、俺は希さんのあのウインクの意味を悟った。あれはお互いに二人っきりになろうという合図だったのだ。ということは、栄次と希さんもそれなりのことはしたのだろう。……この野郎、頭がふわふわしてその手の思考が離れない。


「カズ、今二人が入ってるがお湯は張り替えるからな」

「もちろんだ」

「凛恋が浸かった残り湯に入れさせん」「希が入った後のお湯は使わせない」


 同時にそう言って視線を交わす。お互いに考えることは同じらしい。


 俺だって凛恋と一緒にお風呂なんて入ったことないのだ。仮に残り湯だとしても栄次を入れてやるほど俺は寛容じゃない。


「上がったら凛恋にお湯を全部抜くようには言ってる。その代わり、家主の栄次が先に入れ」

「そっか。まあ俺はカズを先に入れたいんだけど、その辺は絶対にカズは譲らないから諦める」


 再びゲームに戻って一心不乱に敵を倒していると、部屋に凛恋と希さんが入って来た。


「上がったよ。二人とも先に入らせてくれてありがと」

「二人ともありがとう」


 凛恋は半袖のゆったりとしたTシャツにクォーターパンツで、綺麗な肌の手足がおしげもなく露わになっている。そんな凛恋は、隣に居る希さんにジトっとした目を向ける。


「希に裏切られた!」

「えっ?」


 希さんは半袖とハーフパンツの可愛らしいパジャマを着ていて、恥ずかしそうに手を前で組んでいた。


「だっ、だって……こういうのしかなかったから」

「もー、希は可愛いパジャマで私はラフなTシャツとクォーターパンツはないじゃん!   凡人! 希の方ばかり見ない!」


 どっちかというと、凛恋の露出が激しいから視線を向け辛いだけなのだが、凛恋にはそうは見えていないらしい。


「じゃ、じゃあカズ、お先に」

「おう」


 栄次が立ち上がって部屋を出て行くと、凛恋が俺の隣に座って顔を覗き込む。


「凡人、私がパジャマじゃなくてガッカリした?」

「いや、その格好はパジャマより破壊力あり過ぎだって」


 隣から漂うシャンプーの香りと、ホカホカとした空気。それに心臓がドキドキと鼓動する。


「そ、そう?」


 心なしか嬉しそうに見える凛恋に黙って頷きを返すと、凛恋がギュッと俺の腕に抱きつく。布一枚で凛恋の温まった体がムギュムギュと押し付けられる。


「あ! これやってるんだ! コントローラー片方空いてるから私やる!」


 凛恋が栄次の使っていたコントローラーを手に取り、俺はそれを確認してポーズ画面を解除する。俺が凛恋と一緒にゲームをプレイしていると、凛恋の隣に座った希さんがクスッと笑う。それを見て凛恋は視線は画面に向けながら希さんに尋ねた。


「どうしたのよ、希」

「うん、今日は四人でずっと居られるんだって思ったら嬉しくて」

「だよね。いつもならみんなそれぞれの家に居る時間に、みんなが同じ場所に居るってだけですっごく嬉しい」


 凛恋と希さんの会話を聞きながら、俺も思う。


 初めは案外普通だな。なんて思っていた。

 やってることはみんなで話してお菓子を食べて。でもそれが時間が経つに連れてどんどん特別が増してくる。

 彼女が作ってくれる夕食に、その夕食をみんなで一緒に食べる。風呂上がりの彼女にドキドキして、いつもなら一緒に居られない時間に一緒に居られる。

 そして、まだずっと明日になっても一緒に居られるのだ。それはもの凄く特別なことだ。


 それが凛恋だけでも凄いことなのに、四人で一緒にとなればもっと凄い。これが、お泊まり会の楽しさなんだと思う。

 いつも家で普通にやってることが、みんな一緒なら特別になる。それが出来るからお泊まり会は楽しいのだ。両親を説得してでもやりたくなるのだ。


 それを知れたこと、それを四人で経験出来たこと、それはきっと……いや、絶対に忘れない最高の思い出になる。



 時間はもう深夜を軽く過ぎている。そして、流石にそろそろ寝ないと、ということになったのだが……。


「凡人、絶対に手を放さないでね!」

「分かってるって」


 栄次の部屋を出て、一階にある和室に向かう途中、凛恋はそう言って俺の手をギュッと握り締めた。その原因は、みんなで観たDVDにあった。


 最初は初めて四人で観に行った映画を観て楽しんでいたのだが、その後に観たのがホラー映画だった。

 ホラー映画が苦手な凛恋は、散々喚き散らして猛反対したが、結局希さんに逆らえずみんなでホラー映画を観ることになった。その結果、すっかり怯えてしまっている。


「ダメだって言ったのに……」

「画面ほとんど観てなかっただろ?」

「音だけでダメなのよ……あの音楽と叫び声が……」


 凛恋は俺にしがみつきながら、体をブルリと震わせてしがみつく手に力を込める。怖いんだから思い出さなければいいのに。

 階段を下りて和室に入ると、とりあえず電気を点けて布団を敷く。敷く間も俺の側を離れないように付いて来る凛恋は可愛かった。


「さて、寝るか」


 電気を消して布団に入ってフーっと息を吐き、吸う直前で隣に寝た凛恋が俺の体に抱きつく。


「凡人……真っ暗……」

「そりゃ電気を消したからな。点けた方がいいか?」

「私、明るいと寝られない……でも暗いの怖い……」


 電気を点けた方がいいかいいのかどうか迷っていると、凛恋は俺の手を自分の腰に回させる。俺はその手で凛恋の体を抱き寄せた。


「大丈夫。今日は俺が隣に居るだろ?」

「うん」


 横になったままコクリと頷いた凛恋は、ゆっくりとその顔を上げて呟く。


「……希達、今日するって」


 俺はそれを聞いて心臓が跳ね上がるのを感じる。希さんから誘ったと言っていたし、凛恋に協力を

求めるために話しててもおかしくはない。しかし、このタイミングでは反則だ。


「ひゃっ……凡人、触り方エロいっ……」

 シャツの上から柔らかい凛恋の胸に触れると、凛恋は声を上げそうになって手で口を塞ぐ。その姿がとてつもなく可愛かった。


「んんっ!」


 空いてる手の指先で凛恋のスベスベとした太ももをなぞると、凛恋が背中を逸らしながらくぐもった声を漏らす。


「風呂上がりの凛恋見た時からヤバかった」


 凛恋の体に触れながら、啄むようにキスをする。

「……私は凡人とキスした時からヤバかったし」

「……前から思ってたけど、凛恋って意外と――」

「凡人に言われたくないし」


 凛恋が俺の体に触れながら言い返す。俺はそれにやり返すために、更に強く凛恋の体に触れた。

 お互いに触れ合い、更に強く、更に激しく、そうやり合っているうちに、いつの間にかお互いを激しく求め合っていた。


 凛恋に名前を呼ばれる度に凛恋の名前を呼び。凛恋に好きだと言う度に、凛恋から好きと返ってくる。

 俺にとって特別だったそれが、繰り返す度に普通になっていく。でもそれは色褪せない。

 濃く強く鮮やかに、二人の心を彩る。そして、重ねる度にどんどん色濃く塗り重なっていく。


 特別だったことが普通になり、そしてそれは思い出になる。


 そして思い出は、気付けば確かな絆になっていた。

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