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+-∞  作者: チキンフライ
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【二〇《特別じゃない人》】:一

【特別じゃない人】


 窓から見える広い海は、ユラユラと波を立てながら、キラキラと太陽の光を反射させている。その広い海の上を真っ白い船がスーっと進む様子をボーッと眺めてつくづく思う。

 もう既に疲れた……。


「カズ、次カズの番だぞ」

「あー」


 栄次が持つ扇状に広げられたトランプから一枚カードを引く。そして、手に残った残りのカードと数字が合ったのを確認して、真ん中にある簡易長テーブルの上に柄を表にして置く。


「上がりだ」

「また凡人が一抜け!?」

「多野くん強い!」


 今日から、二泊三日の予定でキャンプがある。

 そのキャンプは凛恋と赤城さんの友達の両親が保護者として来てくれる、らしい。そしてそのキャンプなのだが、正確な人数は分からないがそこそこの大所帯になるようだ。

 そうなると、当然みんなで一緒に行くことは出来ない。だから、現地集合をすることになった。


 俺はその主催の人達とは面識が無い。それにその他の人とももちろん面識は無い。

 実際は、カラオケの時と俺品評会の時に会ったようだが、面識が無いも同然だ。

 そんな人達とは一緒に長旅をする気にもなれず、俺は凛恋に「俺は一人で行くから、凛恋は友達と一緒に行きなよ」と言った。だが、凛恋は「凡人と一緒じゃないと嫌だ」と言って聞かなかった。


 そういうこともあって、栄次や赤城さんも一緒に電車で目的地へ向かうことになった。


 回転クロスシートと呼ばれる、座席を一八〇度回転させられるタイプの二人席を回転させ、向かい合わせにして座る。

 窓際に設置された簡易テーブルを展開した座席で、凛恋と栄次と赤城さんがワイワイとトランプのババ抜きを楽しんでいる。俺はそれに半強制的に混ぜられている。


 目的地のキャンプ場は海水浴場と併設された場所で、海水浴場と併設だから当然海辺にある。

 そして、俺達が住んでいる場所からはとてつもなく遠い。だから、始発列車に乗る必要があり、朝は三時起きだったのだ。


 三時に起きて電車に揺られ、欠伸を噛み殺しながらのババ抜き。結構辛い……。

 しかし、辛いのは俺だけのようで、凛恋はもちろん、赤城さんも栄次も明るく楽しそうにババ抜きをする。

 朝三時起きなのに、いったい何処にそんな元気があるのだろう。


「やったぁー! 二抜け二抜け!」


 さっきまで四連続で負けていた凛恋が抜ける。そして、ニヤニヤしながら栄次と赤城さんを眺めていた。


「ほらほらー、罰ゲームはどっちかなー」


 人の悪い笑みを浮かべた凛恋は、いつぞやの罰ゲーム付きゲーム対決で使った罰ゲームアプリケーションを起動したスマートフォンを二人にチラつかせる。


「栄次……」

「希、ゲームだから」


 ニコッと笑った栄次が赤城さんのカードを引き、揃った手札を表にしてテーブルの上に置く。

 赤城さんは、手に残ったジョーカーのカードをテーブルに置いてガックリと肩を落とした。


「はーい、希! 罰ゲーム罰ゲーム!」

「凛恋楽しそう」

「そりゃあ遂に私以外が罰ゲームだし!」


 スマートフォンの画面をタッチした赤城さんは、真っ赤な表情で首を横に振る。罰ゲームを拒否する無言での意思表示だ。


「キス顔を五秒間披露! ただし凡人は目を瞑ってること!」

「……なんで俺だけ目を瞑るんだよ」

「何よ! 希のキス顔、見たいの?」

「カズ?」


 凛恋からは怖い顔で睨まれて、栄次からはニッコリと笑われる。

 どうやら二人して「分かってるだろうな?」と俺に言っているようだ。

 一抜けしたのに罰ゲームから除外されるとは。

 まあ見たら、凛恋と栄次の二人から非難囂々だろう。だから、見ないのが吉だ。


「分かった分かった。窓の外を見てればいいんだろ」


 窓の外に顔を向けて、俺はため息を吐く。ああ、めちゃくちゃ眠い……。


「キャー! 希のキス顔チョー可愛いッ!」

「り、凛恋……恥ずかしい……」

「まだ五秒間経ってないわよ!」


 後ろからは凛恋の楽しそうな声と、赤城さんの恥ずかしそうな声が聞こえる。

 全く、これが深夜ではなく昼に行われているのだから恐ろしい。深夜テンションならぬ旅テンションというやつだろうか?


「はい! 罰ゲーム終わり! さてトランプも飽きたし、罰ゲームやってない凡人と喜川くんも罰ゲームやろっか」

「…………凛恋。俺が納得いくような説明を頼む」


 予想だにしない展開に困惑しながら凛恋にそう言うと、凛恋は腕を組んで少し考え、ニコッと笑って言った。


「うーん……彼女二人に恥ずかしい思いさせて彼氏二人は平気なの?」

「それは納得いくような説明じゃなくて、納得せざるを得ない説明だ。栄次、どっちからやる?」


 彼女にそう言われてしまったら、彼氏は何も反論出来ない。


「こういうのは先にやる方が楽だから、俺が先にやる」


 サッとスマートフォンの画面をタッチしてさっさと罰ゲーム決めを始めた栄次は、スマートフォンの画面を見てニッコリ笑った。


「全員と握手して相手の良い所を一つ褒める。じゃあ希からだな。希は可愛い」

「ありがとう、栄次」


 赤城さんがはにかんで顔を赤らめる。次に凛恋と握手した栄次はニコッと微笑んだ。


「八戸さんはいつも雰囲気を明るくしてくれる」

「ありがとう、喜川くん」


 凛恋もニッコリと微笑みを返してそう言う。そして、栄次は俺に右手を伸ばした。


「何だよ」

「何だよって罰ゲーム」

「あー、はいはい」


 何だか栄次と握手するなんて気恥ずかしい。グッと俺の手を握ると、栄次はニッと笑った。


「カズはバカみたいに優しい」

「おい栄次、褒めろよ」

「褒めてるだろ?」

「バカって言葉は褒める時には使わないんだぞ」

「バカみたいに優しいは褒め言葉だって」


 そう言って手を離す栄次をジトっと睨み返す。

 栄次の罰ゲームは、罰ゲームにしては罰ゲームらしさが弱い。

 赤城さんがやった、まあ実際には俺は見てないが、キス顔披露の方が罰ゲームらしい。


 凛恋は、語尾系は引かなかったものの。告白の言葉を言うとか、ぶりっ子で一言とか、台詞系を四連続で引いていた。

 それを考えると、やっぱり栄次の罰ゲームは罰ゲームらしくない。全く運の良い奴だ。


「じゃあ次は凡人ねー」

「はいはい」


 スマートフォンを嬉しそうに差し出す凛恋に促され、俺はスマートフォンの画面をタッチする。

 すると画面には『質問に一つなんでも答える』と書かれていた。これならそこまで酷――。


「全員の質問に何でもちゃんと答える! ああとか、うんとか、そうだとか、曖昧な答えは無し!」

「凛恋……画面に表示されてる罰ゲームと違うぞ」

「えー、だって一人だけじゃ面白くないじゃん! 喜川くんは男らしく全員とやったのにー」


 栄次のはそもそも罰ゲームに『全員と』という指示があった。しかし俺の方は凛恋が改変したものだ。

 それに、適当にはぐらかすことも事前に封じられた。


「じゃあまずはー、一番優しそうな希から!」

「えーっと……」


 急に振られて困った表情を浮かべる赤城さんは、パッと明るい笑顔を浮かべる。


「凛恋の好きな体の部分は何処? 理由も教えてね」

「体の部分か……」

「ちょっ! 希! それ、私も火傷しちゃうやつじゃん!」


 赤城さんの質問に凛恋が真っ赤な顔をして言う。その凛恋に、赤城さんはニコニコ笑って答えた。


「大切な彼氏をいじめる彼女にお仕置き、かな。多野くんだからってあんまり遠慮なくやり過ぎだよ」

「ご、ごめんなさい」


 シュンとした凛恋の手をさり気なく握りながら、俺は答えた。


「顔が好きかな。色んな表情を見られるし。でも一番好きなのは笑顔」

「そっか。良かったね凛恋」

「ありがと」


 赤くした顔のまま握った手を凛恋が握り返す。


「次は遠慮なく言えそうな喜川くん」

「そうだなー……カズ、正直に答えろよ。希のキス顔、本心では見たかった? 見たくなかった?」

「「えっ!?」」


 ニタッと笑う栄次の質問に、凛恋と赤城さんが驚いて声を上げる。

 見たかったと答えても凛恋と栄次から非難囂々で、見たくなかったと答えても赤城さんを女の子として否定したと取られて傷付けかねない。

 どっちに転んでも、俺は不幸に陥る。


「俺達のことは気にするな。男としてどう思ったかでいいぞ」

「そりゃあ、大抵の男は見たいんじゃないか? 赤城さん可愛いし……」

「カズは?」

「……ちょっとだけ――」

「凡人の浮気者!」


 横から凛恋に頬を摘まれて引っ張られる。ほれ見ろ、やっぱり俺が不幸に陥るだけじゃないか。


「かーずーとぉー? 彼女の目の前で浮気するとは良い度胸じゃない」


 ムギュムギュと頬をつねる凛恋は、赤城さんと栄次から死角になるように俺の顔を覗き込み、目を瞑ってツンと唇を尖らせた。


「私のキス顔ならいくらでも見せてあげるのに」


 すねた表情を浮かべ小声で言った凛恋にドキリとし、自然と握っていた手の指を絡める。


「じゃあ、次は私ね! 浮気者の凡人にはちゃんとお仕置きしないと!」


 俺から顔を離して手を放し、腕を組んで考え込む凛恋から視線を外す。そして俺は栄次を睨み付ける。さっきの質問はいったいどういうつもりだ。

 栄次の隣に座ってる赤城さんはさっきからずっと俯いて大人しい。さっきの質問の件で気恥ずかしさから黙っているに違いない。


「よし! 決め――」

「駅に着いたな」


 電車のスピードが落ち、ゆっくりと停車する。窓からは海の見える開放的な駅のホームが見える。


「ちょっと! まだ罰ゲームが終わってないし! あっ! 逃げた!」

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