勇者悲哀譚 後編
「私を追放した国王が死んで3代目だったかな、戦争を好む王であり最後には戦いに負けて王都を滅ぼされてしまった、それは事実上国がなくなってしまったということ、その知らせを聞いた時私は何のために戦ってきたのか、国を滅ぼすために戦ってきたのかと悩むようになってな気がついたらここに足を運んでいた」
―なんと? 恩を仇で返しそれがかえってきたというわけか、傑作だな、だから何度もいったであろう? 人は守るに値する生き物なのかと―
「そうだな、ないかもしれない」
そういって老人は目を伏せ仰向けに倒れ抜け落ちた天井をみる、そこには光が差し込んでいて、その光を掴むように手をふるわしながらのばす。
「だが、それでも守りたかったのだあの村の、街の、都の、人たちの笑顔を、希望を未来を!!」
老人はそういうと、かすかに声を震わし嗚咽とともに涙を少しだけ流す。
―ならばそれは叶ったではないか? 我を倒してすくなくともこの魔王から希望や未来をまもったではないかね? それとも今度は戦争を繰り返す愚かな者相手に闘いでも挑むかね?―
「それは勇者だったものとして出来ない、もちろん只の人としても、だからこそ葛藤し訳がわからなくなってしまった」
―ふん、お前はずいぶんと弱気になってしまったな? 少しがっかりだあの時の威勢はどうした―
魔王の問いかけに、そうだなと力なく答える老人だった。
―まぁよい人間が愚かにも歴史を繰り返すように、我ら魔族もまた繰り返すこの意味わかるな?―
その言葉にハッとする老人が問いかける。
「どういう意味だ」
―そのままの意味だよ、いずれはまた人間の世界を手中にせんと意気込むものがまた現れるだろう、その時貴様らにショボくれられては困るんだよ張り合いがない―
「私達人が歴史を繰り返すように、お前達魔族も歴史を繰り返すと?」
―そういう事だ、かつては私も前の魔王のようにはならぬと意気込んでいたものだがこのありさまだ、そしてこのありさまにした貴様がショボくれていては腹がたつ、何度でも言おうあの時の貴様はどこへいった!!―
「あの時のおじ様はどこへもいってませんよ魔王さん」
会話を遮るように澄みわたる凜とし声が響く、そこには金色が眩しい長髪をゆらし、碧い瞳には強い意思を感じさせる女性がたっていた。
「おまえか、よくここがわかったな」
老人が女性の方を振り向き呟く。
「子どもの頃よく私に語ってくれたではありませんか魔王との闘いの話を、だからすっかり覚えていますとも」
―ほう? わかるぞ言葉にせずともなお前の孫あたりか? その凜とした気配、意思の強い瞳あの時のお前にそっくりだな?―
「はい、孫です魔王さん、そしておじ様はおじ様です、ただ長い間闘ってきたので疲れているだけなのです」
―ほう、疲れているとな? だったら連れて帰れ! これ以上ショボくれた顔みたくもないわ!!―
「はい、そのつもりできました、帰りましょうおじ様みんな心配していましたよ、それと―」
そう言うと腰の剣を抜き魔王に突きつける。
「先ほどの話、新しい魔王が台頭するとかしないとか、だったらなんどでも私、いや、おじ樣の志しを継ぐものが何度でも倒してみせます! 人がどれほど愚かでも私は人が好きだから!!」
その言葉とともに辺りの空気が一気に震え緊張が高まると同時に老人がハッとする。
―ほほう! 久しい空気だな、間違いなくお前の力を受け継いでおるわ! これなら安心してまかせられるな? 元勇者よ―
老人は何か言おうとするが女性が言葉を遮る。
「ええ大丈夫です、例え私がおじ樣と同じ歩みをしようともその時は助けてくれる人もいるでしょう、決して後悔はいたしません」
―決意は固いようだな、なんだショボくれていた割にはしっかり後継者をつくっていたではないか? 少し安心したよ魔王の私がいうのもへんだがね―
「はい、そこで安心して見ていてくださいこれからの私達を! ではこれで失礼します魔王さん、いきましょうおじ樣」
そう言いながら老人の手をとり階段を降りる、それを見てまたなと言葉をかける魔王に手をふって答える2人であった。
それから数年の後、新しい魔王が台頭して女勇者とその仲間が激しい闘いをくりひろげたのはまた別のお話し―
―それから更に数十年後ある田舎町の一軒家、一人の老婆が椅子に座り窓から景色を眺めていた、傍らにはかつてともに闘った仲間とあの老人の写真―
「おじ樣、そしてみんな、私は満足でしたよ、後悔しそうになった時もあったけれども子や周りのみんなが支えてくれましたからね」
そう言うと写真をなでて窓の向こうの空を見上げるのであった―
―完―