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めぐり愛

作者: 道永純生

 尾崎昇は、手術室へ向かうストレッチャの上に横たわっていた。

「尾崎さん、じゃあ頑張って」

 広瀬桂子が、肩に手をかけていった。それを合図とするように、ストレッチャを押す看護師の手に力がこもった。キャスタ部分がきしんで耳障りな音を出す。桂子の姿はみるみる足元に追いやられ、やがて見えなくなった。昇はぼんやりと天井を眺めた。パイプや通気用のダクトがむき出しになっていて、一様に薄汚れている。古い病棟とはいえ、感心できる眺めではないなと、心のなかでつぶやいた。

 昇はこれから椎間板ヘルニアの手術を受ける。さして難しい手術ではない。けれども、手術前は、誰もがそうであるように、とても心細かった。たとえようのない孤独と不安に苛まれていた。娘にいっておかねばならないことを、なにもかも忘れていたと思った。幾つもの言葉が、頭の中に渦巻く。由紀はどうしているだろう。父親が手術だからといって、学校を休ませるまでもないと思ったのだが……。

 死んだ妻の顔と娘の顔がひとつに重なり合い、胸が張り裂けそうになった。俺はまだ死ぬわけにはいかない。

 昇を乗せたストレッチャは、そんな彼の思いをよそに、手術室へ向かう最後の角を曲がり終え、スピードを落とした。

看護師が屈みこみ、耳元でいった。

「尾崎さん、着きましたよ。手術はうつ伏せで行います。介添えしますから、手術台に移ったら、寝返りをうってくださいね」

 やれやれ、ひとの痛みも知らないで。昇は鷹揚に頷き、苦笑した。

 彼が笑ったのは、それが最後となった。

              *

 橘光明は、ナースステーションで、看護師を相手に、雑談をしていた。すでにこれから行う椎間板ヘルニアの手術の事前確認は終わっていた。ガラス越しに、患者の尾崎が運ばれていくのが見えた。神経質そうな顔は青ざめているが、落ち着いているようだった。

 橘は手術の説明のときに会った広瀬桂子を思い浮かべた。

身寄りがないという尾崎とともに橘の説明を聞いたのは、彼の近所に住んでいるという桂子だった。子ども同士が同級生で寡婦だという。母子家庭と父子家庭の母と父という関係だけなのか、それ以上なのかは判らない。

質問はもっぱら桂子のほうがした。涼しげに響く声が印象的だが、気が強いのかもしれない。尾崎とは好対照だった

「それで、万にひとつも命に関わることはないのでしょうか」

「まず、ありません」

「では、以前のように不自由なく生活できると考えてもよろしいのですね」

「多少生活に制限が残る可能性もありますが、まぁ十中八九、そのようなこともないと思います。もちろん仕事を続けることもできるでしょう」

 目元に笑みを浮かべてはいるが、桂子の真剣な眼差しにわずかに臆して答えたのを覚えている。

 橘にとっては、失敗のしようのない簡単な手術といえた。

レントゲン写真も、CTスキャンの結果も、腰椎第四椎間の髄核の突出を明瞭に示していて、この脱出部分を切除するだけだった。

「先生、そろそろ手術室へ」

 看護師のひとりが促した。

「ああ、そうだね」

 橘光明は首肯して、ゆっくりした歩調で、ナースステーションを出ていった。彼が執刀する手術もまた、これが最後となった。

              *

 澄みわたった空の青さに雪化粧が眩しい。御影石の古い門柱を過ぎると、二十段ばかりある石段が迫って見える。寒々しい木々の間から、隣接する高層マンションの雄々しい姿が垣間見えるので、いまの時節なら、市街の一角にあることが窺い知れる。これが夏になれば鬱蒼とした木々に阻まれて、あたかも江戸時代にでも逆戻ってしまったような錯覚に陥るに違いない。石段を登りつめると、正面には寺の本堂があり、右手の古風な木戸越しには、石を敷きつめた細い道があって、その奥には墨を流したような色合いの古い屋敷があった。

「ごめんください」

「はい」

 若い修行僧が玄関先に現れ、丁寧に手をついた。

「こちらで吉田さんとお会いする約束をしている雉打という者です」

「うかがっております。どうぞ、こちらへ」

 長い廊下を二度曲がり、最近増築したらしい、新木の香りがする部屋に通された。吉田通子と会うのはおよそ一年ぶり。懐かしさとわずかばかりの緊張が、雉打の心におとずれた。

「雉打警部、お久しぶりです」

 座卓の奥に座っていた通子が立ち上がり、雉打潔の手を取った。

「横浜からはいつ」

「昨日からです」

「お母様は」

「病院に入院していますが、検査なので心配は要りません」

 通子は年老いた母親を自宅で介護している。検査入院がなければ、こちらに足を向けることはできなかっただろう。

「松本までいらっしゃっているとは思いませんでした。それに再会の場所がお寺とは……。それも市街の、こんなに間近なところで……」

「ここの和尚の玉井さんは、わたしの古くからのお友達です。いまは法事で留守にしていますが、和尚と警部はきっと気が合うと思います。以前は大学で教鞭を執っていました」

「はぁ」

「専攻は物理。家業を継いで僧侶となってからは、曼荼羅の図柄上に、その仏教的解釈にあわせて、数式を書き込むことに熱をあげています。昨日、それを拝見しましたけれど、筆で書かれた数式というのはなかなか美しいものですよ」

 齢六十をこえていながら、くりくり動く黒目がちな瞳とはりのある声は、まるで少女のようで、顎の輪郭もすっきりと若々しい。口の周りの細かな皴と、ちらほらと目立つ白髪が、年齢を感じさせるものの、それさえ昔から通子を知る雉打には、彼女の魅力を減じるものではなかった。

 雉打潔は大きな座布団に腰をおろし、修行僧が運んできた茶をゆっくりとすすった。

 思い起こせば、吉田通子と初めて会ったのは、四十年前。

 彼女は地学の教師で、雉打が高校二年のときの担任だった。二年三組は、彼女が教員になって初めて受け持ったクラスだった。

 雉打は、ひと目みて、通子が好きになった。好きで、好きで、たまらなくなった。

 そして……、いつのまにか四十年が経過した。その間、通子は結婚し、別れた。雉打のほうも伴侶を得て、十年前に死別した。片思いの年月は、長くて、短かった。淡くあまやかで、苦しく重たかった。恐らくはこの先も通子との距離は縮まることはなく、どちらかが一生を終えるまで、このままなのだろう。そんな、どこか諦観めいた気持ちを抱えて、雉打は眩しそうに通子を見返した。

 軽い電子メールと、年始や暑中の時候の挨拶。さりげなく取り交わすそれらのやりとりと、年に一度か二度、あたかも何かのついでのように会う約束を取り付けることが、雉打ができるすべてだった。ひそかに心の奥底にしまった通子への気持ちに思いを巡らせるとき、妻の顔がよぎることがあった。そんなときは後ろめたい気持ちになった。

 ひとしきり、取りとめのない会話を交わしたのち、通子がいたずらっぽくいった。

「忙しそうですね」

 通子が笑顔でいった。

「ええ、いつものことです。実をいうと、名探偵用の事件を、今日もひとつ用意しています」

「あらあら。困ったこと」

 通子と会う口実は、いつの頃からか、自分の扱う事件になった。民間人に刑事事件の捜査状況を話すのは、明らかに公務に背を向けることだ。しかし、彼女は名探偵だった。彼女の推理のおかげで、解決した事件はすでに片手を超えている。それに、彼女のほうも、相談を受けることを楽しみにしているふしがあった。

「いや、本当に聞いてほしいのですよ。今回もほら、事件のあらましがわかるように、新聞の切り抜きを持ってきています」

 雉打は鞄からクリアファイルを取り出して通子に渡した。

「いつもながら手回しがよいこと。どうやら逃げられそうにありませんね」


 手術ミスで執刀の医師自殺か?

                   二月十二日 信州日日新聞

 長野県松本市、貝瀬病院(院長 貝瀬祐介)で、この八日、椎間板ヘルニアの手術を受けた患者が、二日後の十日早朝死亡した。術前の説明では、安全性が高いといわれていたため、遺族が手術に何らかのミスがあったのではと、同日夜、松本署に届け出た。警察では、これを受けて、遺体をS大学法医学教室に送り、解剖を要請する一方、病院関係者から事情を聴取していたが、十一日午後二時過ぎ、執刀した整形外科部長、橘光明医師(四九)が、同病院内で、腹や首を刃物で切り、死んでいるのが見つかった。患者の死に思い悩んだ末の覚悟の自殺と見られている。

 手術後に死亡したのは、松本市高松、タクシー運転手、尾崎昇さん(三七)で、椎間板ヘルニアの治療のため、八日午後一時半より、同病院で手術を受けた。病院側の説明によると、尾崎さんの手術は、三時間を要したが、病根のヘルニアは、順調に摘出できたという。この手術はうつ伏せになって行われるため、病室に戻った後、仰向けに直したところ、血圧が上がらず、腹部で大きな出血を起こしていることが判明した。同病院では、吉本外科部長らが、再び緊急の開腹手術を施し、出血部位の止血を行うなど、全力の治療にあたったが、その甲斐なく腎機能が低下し、十日早朝死亡した。

 二度目の手術を担当した吉本医師が、「出血していた動脈は、ヘルニアを起こしていた部位に隣接する左総腸骨動脈で、動脈瘤が破裂していた。ヘルニアの手術との直接的な因果関係は認められないが、手術後の何らかの外的要因で、出血に至ったものと推測される。体内の大出血により、脳や副腎その他の全身障害に陥り、結果的には急性腎不全で亡くなった」と、遺族に死因を報告したため、遺族は病院側の解剖の要請を保留としたまま、「ヘルニアの手術で死ぬはずはない。手術ミスが疑われるので調べてほしい」と、松本署に届け出た。このため同署では、遺体をS大学法医学教室に送るのと並行して、カルテの任意提出を求め、関係者から事情を聴いていた。橘医師の死体が見つかったのは、十一日午後二時過ぎのことで、同病院リハビリテーションセンターの物干し場そばで倒れているのを、通りがかった看護師が発見した。死因は頚動脈切断による失血死で、近くに手術用のメスが落ちていた。折からの積雪の上を、流れ出た血が真っ赤に染め、凄惨な光景だったという。

 松本署では、橘医師が、尾崎さんの死にショックを受けて、思い悩んでいたという同僚の医師の証言と、雪上に本人の足跡しか認められなかったことから、自殺の可能性が高いとしながらも、慎重に捜査を続けている。なお、S大学の解剖所見が事件後明らかにされたが、手術のミスを指摘できるものではなかった。


「医師の自殺を不審に思っているのかしら」

 新聞の切り抜きを読み終えた通子がにっこり笑っていう。

「そうです。さすがのあなたでも、手術がミスかどうかはわからないでしょう」

「誰かに殺害されたと思ってらっしゃるのね」

「雪上の足跡がひとつしかなかったので、そこまで確信しているわけではないのですが、納得がいかないのです」

「ともかく、お話をうかがいしましょう」

 通子に促されて、雉打は胡坐を組みなおした。

「それでは、事件そのものに触れる前に、尾崎昇とその家族について説明しましょう。尾崎昇は、新聞記事にもあったように、市内の大手タクシー会社に勤める、勤続二十年近いベテラン運転手です。座りっぱなしの仕事ですし、職業病といったら言い過ぎでしょうが、今年の初めから腰痛が悪化し、会社指定の貝瀬総合病院で、診察を受けたところ、椎間板ヘルニアと診断されました。これが一月三十日のことで、その三日後に入院しました」

 背筋を伸ばして、聞き逃すまいとする通子の瞳を見据えて、雉打は続けた。

「家族は由紀という小学五年生になる娘だけで、妻の安子は三年前に乳癌で他界しています。尾崎の両親はすでに亡くなっています。安子の母親は生きていますが、認知症を患って現在介護施設にいます」

「ということは、由紀ちゃんはひとりぼっちになってしまったのね」

「そうです。孤児として施設に入りました。ただ、近くに住む広瀬桂子という人がいろいろと世話をやいています。桂子には智彦という息子がいて、智彦と由紀は同級生です。尾崎が存命中から家族ぐるみの付き合いをしていたとのことです」

「桂子さん、ご主人は」

「ああ、智彦が生まれてすぐ事故で亡くなっています。だから片親同士なのです。四人で旅行に行ったりもしていたようです。いずれは結婚するんじゃないかと、近所では噂になっていました。尾崎昇はすらりとした優男で、広瀬桂子のほうがぞっこんだったようです。智彦と由紀も同い年ですが、なんというか、姉弟のような感じですね」

「新聞では遺族が病院を訴えたって書いてありましたけど、そうすると……」

「ええ、小学生の由紀が警察に届け出たわけではありません。届け出たのは広瀬桂子のほうです。新聞では遺族とありますが、これは間違いです。聞くところによれば、勝気な彼女は、由紀と自分の息子を引き連れて、大変な剣幕で、橘医師に詰め寄ったらしいです」

 雉打が胸元のポケットに手をやりかけて、あたりを見回したのを見て、通子は部屋の隅におかれた碁盤の下から絵皿を取り出して卓の上においた。灰皿として使ってよいらしい。

「伊万里焼ですね」

「ええ、染付山水文という絵柄です」

「掛け軸の花鳥図といい、この焼き物といい、住職は趣味がいい」

 雉打はうまそうに煙草を燻らせながらいうと、通子が嬉しそうに顔をほころばせた。

「ところで、病院と尾崎宅は、距離にしてどのくらい離れているのですか」

 通子が何気なく尋ねた。

「ええっと、一キロメートルぐらいかな。それが何か」

「徒歩圏かどうかが気になりました」

 雉打は、S大医学部法医学教室で作成された解剖報告書のコピーを鞄のなかから取り出した。

「それでは次に、尾崎昇の解剖結果を見てください」

 通子が恭しく受け取る。

「まず死因ですが、これは解剖所見でも急性腎不全です。腹内大出血のせいで、先に脳と副腎に機能障害が出て、最終的に腎不全に陥り、亡くなっています。ここで問題となるのは出血部位ですが、結論から先にいうと、二回目の手術の前の状態がどうであったかは不明ながら、鋭利なメスの切り傷等、人為的なミスの痕跡は見つけられませんでした。病院側の説明のとおり、患部に隣接する部位に動脈瘤があり、破裂様を呈していました。ヘルニアの影響からか、周辺の動脈硬化も進行していて、血管が古いゴム管のように、ひび割れていたことも確認されています。可能性としては、病院側の主張どおりであると思料される状況でした」

「椎間板ヘルニアのほうは、ちゃんと治療されていたのですね」

「はい、解剖の報告では、うまい具合に切除されていたとあります。ただ、最近の手術では、椎弓の上下に孔を開けてヘルニアを取り出す術式もあって、橘が選択したやり方が適切だったかは異論もあるようです」

 通子はにこやかに頷いて、解剖所見を返し、咳払いをした。

「さて、本題に入る前に、珈琲でも入れてもらいましょう。警部は珈琲、お好きでしたよね」

 通子によって襖が音もなく開かれた。

 この部屋に招じ入れてくれた修行僧が、顔を真っ赤にして座っていた。

「利発なお小僧さんのようですが、好奇心が強すぎるのが玉に瑕みたい」

「藤村と申します。雉打様が現職の警部でいらっしゃるとお聞きして、どのようなお話か気になってしまい、つい……。大変申し訳ありませんでした。すぐに珈琲をお持ちします」

 藤村は額を敷居に擦り付けるように頭を下げてから奥へと消えた。

「警部さえよければ、彼も話に加えてやってください。彼は推理小説とクラシック音楽が何よりも好きだとか。それで、現職の警部がお見えになると聞いて、とても楽しみにしていましたから」

 通子が拝むようにしていった。明るいそんな仕草は、まるで少女のようだ。

「しかたないなぁ、もう聞かれちゃっているから」

 雉打は苦笑いしながらいった。今日は彼女と二人きりだと思っていたがしかたがない。

 しばらくすると、藤村が珈琲を三つ、盆に載せて現れた。通子が雉打の了解を得ていると思ったのだろう。彼は珈琲を二人に配ると、座卓からいくぶん離れた部屋の隅に正座した。雉打は藤村に礼をいった後、他言無用と釘を刺し、通子のほうへ向き直った。

「さて、橘医師についてお話ししましょう。彼は貝瀬総合病院では、古参の医師の一人でした。整形外科医としての腕はよく、過去に一度も大きな失敗はありません。貝瀬院長は、今年いっぱいで引退することを年頭の挨拶で表明していて、橘医師はその後任の院長候補として名前が挙がっていました。院長の引退は高齢によるもので、経営権は息子の貝瀬孝男を中心とした一族に、院長の座は在職中の有能な医師に譲ると明言していました。新院長については、院長と孝男の間で、これまで何度か相談がなされていました。橘を推す院長と、吉本外科部長を押す孝男が、ともに譲らず、決まっていなかったそうです。院長は橘の穏やかで誰からも好かれる人柄を重んじ、孝男は吉本の大学病院や医薬品会社、医療機器メーカーに太いパイプを持つ政治的手腕をかっていました」

「なるほど、そんな覇権争いが渦巻いている最中だったのですね」

「まぁ、そんな事情で、病院内部では利権がらみの暗闘があってもおかしくない状況でした」

 はたして、そんな利権がらみで人殺しが起きたのだろうか。そうだとしたら、うかつに病院にも行けない。雉打はいたたまれない気持ちになる。

「橘医師の死体の状況を説明します。発見されたのはこの辺りです」

 雉打は八十分の一の縮尺の病院の地図を座卓の上に置いて、中央付近を指差した。それから、鮮血が雪を真紅に染めている現場の写真を数枚(遺体が持ち去られた後ではあったが)、鞄から取り出し、地図の横に並べた。

「入院病棟は五階建てですが、リハビリテーションセンターは二階建てです。二つの建物は、屋根付きの渡り廊下でつながっています。病棟からリハビリテーションセンターに向かって渡り廊下を進むと、右側手前に花壇があり、向こう側に物干し場があります。死体はそのちょうど真ん中辺り、渡り廊下から直角に五メートルほど離れた場所でした。写真では、雪面が乱れていますが、現場保存は完全でした。地域課の巡査が到着したときには、橘医師の足跡だけが、その倒れた位置まで、一筋に刻まれていたことがわかっています。発見した中山公代という若い看護師は、ひと目で死んでいるのが判ったので、近寄ることもせず、すぐに警察に連絡したと供述しています。警察が連絡を受けたのが、午後二時五分、その十分後には巡査が到着し、死亡を確認しました。巡査が到着する前に、渡り廊下には病院関係者が何名も集まっていましたが、彼らも橘医師本人の足跡のほかに、足跡はなかったと、声をそろえて証言しています」

「誰も近寄らないなんて、医療関係者なのに薄情ね。助かる見込みがないと思ったのかしら」

 通子のこの問いに、雉打には答えようがなかった。確かに誰もの心の中に、曰く言い難い保身という悪魔が巣食って、見殺しにしたのかもしれない。

 写真のひとつをひらりとつまんで、通子は続けていう。

「傷は、ええっと、首でしたね」

「はい、左の頚動脈です。腹にも刺し傷がありました。こちらのほうは鳩尾あたりで、着衣の上からでした」

 雪の上が真っ赤に染まっている。

「それにしてもすごい血」

「大半は首から噴き出したものです」

「凶器はこのメスですね」

 通子が写真を指差す。

 雉打は黙って頷く。

 メスは、雪が血に染まって乱れた場所の端のほうに、半ば埋まったかたちで写っていた。自ら首を切り、万歳をした格好で倒れこめば、ちょうどこんな具合になるだろう。実際、遺体はそうだったのだが、さすがに通子に見せるのは憚られた。

「雪の上には本人の足跡のみで、まわりの雪には乱れもない。渡り廊下からも、かなり離れている。そんな状況なのに、警部は殺人を疑っているというのかしら」

 通子の疑問はもっともだった。いくら考えても殺害方法はわからない。しかし、自殺であったとしても、わざわざ雪のなかに歩を進めた理由もわからなかった。

「甚だ消極的ですが、他殺を疑う理由ならあります。橘医師は、十二時過ぎに、眼鏡屋に電話しています。つるの部分が緩んで変形してしまったので、夕方持参するから直してほしいという依頼でした。これから自殺しようとする人間が、そんな電話をかけるとは思えません」

「たしかに矛盾しているわね」

 通子は首を傾げて、珈琲をひと口すすり、雉打を斜めに見上げるようにして、小さな声でいった。

「それからメスです」

「メス。メスは手術室から持ち出されたのでしょ」

「それが凶器となったメスは、病棟の廊下に置いてあった回診車というステンレスワゴンから盗まれたものでした。たまたま病室で応急処置の必要な患者がいて、菊野という医師の指示で看護師がメスを回診車のホルダーに入れておいたところ、目を離しているうちになくなってしまったというのです。関係者で消えたメスを探していたとき、橘医師の遺体が見つかって、大騒ぎになったとのことでした。病院側がいうには、遺体とともに発見されたメスは、病棟でなくなったこのメスと同じタイプで、ほかに所在のつかめないものはないとのことです」

「それが、どうして自殺を否定することになるのですか」

「ああ、すみません、言い忘れていました。橘医師は、この日、病棟ではなく、リハビリテーションセンター内にある運動療法の控え室にこもっていたのです。その控え室にもメスが置いてありました。つまり、橘医師は、わざわざ病棟へ行き、廊下のワゴンの上におかれたメスを盗まなくても、もっと簡単にメスを手に入れることができたのです」

「なるほど、それは道理ですね」

 通子はゆっくりと頷き、額に下がった前髪を手で梳き上げた。そして俯いたまま動かなくなった。雉打はその様子を見守った。

 突然、携帯のバイブ音が鳴った。

 藤村がいかにも慣れた手つきで作務衣の懐からスマートフォンを持ち出した。剃髪した修行僧と文明の利器のとり合わせに、雉打はわずかに違和感を持ったが、いまの時代なら、さもありなんと思い直した。そんな雉打の気持ちにはお構いなしに、藤村は口を押さえ、小さな声で二言三言交わして電話を切った。

「吉田様、和尚から伝言です。法要の会食の席を断りきれず、遅くなるそうです」

 藤村は通子のほうを向くと、いくぶん胸を反らして、そっけなくいった。その言葉には、わずかに悪意がにじんでいるように思えた。

「あら……、そうですか」

 通子は寂しそうな顔をした。心外そうでもあった。

 通子は、玉井が、直接連絡せずに藤村を介したことに、そして、彼女が逗留中なのに帰りが遅くなっても頓着しないことに傷ついたようだ。

 雉打はその様子から、通子が玉井を愛していることを悟った。

 瞬時に理解したのだ。

 見つめる雉打の目を避けて、通子がいった。

「雉打君、遺体が見つかった辺りというのは、人通りが少ないのですか」

 たいていは警部と呼ばれ、雉打と苗字で呼ばれることさえ、ここ数年はほとんどなかった。ましてや君付けでは高校時代に遡りだった。そんな様子にも通子の動揺が垣間見えた。

 雉打はその様子に胸が苦しくなったが、何も気がつかないふりをした。

「そうですね、日曜日の午後だったので、リハビリテーションセンターへ向かう患者はいませんでした。医師の往来も皆無といって差し支えないでしょう。これが平日であれば、間断なく行き来があるようですが……」

「そうですか、衆人環視のなかというのではないにしろ、人を殺すのにふさわしい場所ではなさそうですね」

「はい。ちなみに橘医師がこの日、病院に出ていたのは、休みの間も居所をはっきりさせてほしいと警察が要請したためです。『ひとり身だし、家にいてもしかたがないので、リハビリテーションセンターにいる』と我々には答えたのですが、ほかの病院関係者と顔を合わせたくなくて、休みの間は無人になるリハビリテーションセンターに閉じこもっていたのでしょう」

 会話はどこか作り物めいていた。それでも雉打としては如才なくつとめた。

「それを知っていたのは誰ですか」

 通子が首を傾げ、ぽつんといった。

「ああ、なるほど。殺しだとしたら、誰が彼の居場所を知っていたか、ということですね。うーん、残念ながら事件関係者はたいてい知っていたと思います。なんといっても彼は渦中の人でしたから。病院関係者はいうにおよばず、広瀬桂子も知っていたはずです」

「そうですか。ところで、凶器から指紋はでなかったのですか」

 通子が話題を転じた。

「出ましたよ。メスには橘医師の指紋がくっきり付いていました。そのほかに、もう二つありました。そのうちひとつが、回診車にメスを用意した看護師の指紋でした。天野というその看護師が病棟を離れなかったことは、数多くの証言から疑いようがありません。もうひとつの指紋の持ち主は……」

「まだ見つかっていないのですね」

「はい、何人かに指紋の採取をお願いしましたが、ほとんどの方に断られました。協力いただけたのは、第一発見者の中山公代と、広瀬桂子、尾崎由紀の三名です」

「刑訴法上、強要はできませんものね」

「そのとおりです。採取させてもらった人たちにも最初は抵抗を受けました。でも、ずっと疑われるのがいやだったのでしょう、最後は協力してくれましたけれど」

 通子が重々しく頷いた。

 いままでにも何度か相談しているので、彼女は刑法にも詳しい。テレビドラマのように、断りもなく、こっそり指紋を騙し取ることは違法であると知っている。

「さっき、病棟で盗まれたメスが凶器だったとおっしゃいましたけれど、それは天野さんの指紋が付いていたことからの特定ですか」

「そのとおりです」

 いくぶん元気を取り戻した口調に雉打は安心した。

「だいたいこんなところですが、最後にアリバイについて。橘医師の死亡時刻前後にアリバイがあるのは、自宅で弁護士と面会中だった、院長の貝瀬祐介ぐらいです。息子の孝男は、夫婦で買い物に出ていたと証言していますが、それを証明できる第三者はいません。吉本医師は、学会に発表する論文を自宅で書いていたというし、広瀬桂子はショックで寝込んでいた由紀を、パートからの帰りに見舞っていたというのですが、これらはアリバイとしては、いずれも不十分です。それと第一発見者の中山公代ですが、こちらはまさしく死亡直後に居合わせたわけですから、アリバイは成立しません」

 通子はなぜか苦いものを舌の上にのせたような顔で聞いていた。

 雄弁な沈黙。

 強く光る目が何かに気がついたことをうかがわせた。

 藤村が口を開いた。

「殺人とすれば、雪上の足跡が橘医師本人のものだけであるという難題を解決しなければなりません。渡り廊下から五メートルも離れているとなると、どんな方法があるのでしょうか」

 通子の目に憐憫の色がさし、口元が緩んだ。

「それはたいしたことではないのよ。玉井さんがそばに置くぐらいだもの、あなたが利発なのはわかるけれど、これはあなた向けの問題ではないかもしれない」

 藤村が憮然として、人差し指で耳の後ろをぽりぽりと掻いた。

 通子の生来の無邪気さなのか、藤村が電話を告げたときに見せた態度への意趣返しなのか、彼女の言葉は辛辣な色を帯びていた。

 通子がおもむろにいった。

「警部、橘医師はとても優しい方に相違ありませんね」

「はい、誰の人物評も、その点では一致しています」

 雉打は、通子が語りだすのを待った。彼女は冷めてしまった珈琲をすすって、考えをまとめているようだった。窓越しに外を眺めると、西日が木々の長い影をつくっていた。

 重たい口がとうとう開いた。

「これからお話することは、まったくの仮説です。どこかで考え違いがあれば、その時点でボツです。それから仮説である以上、警部が実証しなければ意味をなしません。いや、もっといいましょう。いいですか警部、あなたが実証しなければ、この事件は完全な自殺です。その点をよく考えてください」

 雉打は、ただうなずくしかなかった。

「ところで警部は、本当のところ、橘医師の死をどう思われますか」

「わたしには自殺したとは思えない。死のうと思っているなら、眼鏡のつるを直そうとするわけがない。死のうと思っているなら、わざわざ病棟までメスを取りに戻る必要はない。だから……、彼は殺されたのだと思います」

「では、この事件の特徴は何でしょう。警部、犯人がいるとしてですが、その犯人は計画的だと思いますか」

 雉打は考える。菊野医師や天野看護師が証言したとおりなら、偶然ワゴンの上に出されていたメスを使ったのだ。計画的であろうはずがない。

「犯人の行動はとても衝動的ですね。たまたまメスを手に入れ、たまたま人目がなかったので、真っ昼間とはいえ橘医師を刺した、そんな行き当たりばったりの感じがします」

「そうなのです。大胆不敵にも程があります」

 通子はわが意を得たりと力強くうなずく。

「犯人の動きを想像してみましょう。犯人は病棟で偶然メスを手に入れて、懐に隠し持ち、橘医師のいるリハビリテーションセンターへと向かいました。ちょうどそのとき、橘医師のほうは、病棟へ戻ろうとしていました。犯人と橘医師は渡り廊下で、ばったりと出くわしました。それがわたしのイメージです。もちろん犯人がリハビリテーションセンターまで出向いて、橘医師を犯行場所まで連れ出した可能性もありますが、わたしはなんとなく出会い頭で凶行に及んだ気がしています」

 そこで藤村が口をはさんだ。

「ちょっと待ってください。彼の、橘医師の足跡は、渡り廊下から雪の上を五メートルも続いていて、その場所まで、ほかには足跡がなかったのですよ。どうやって殺したというのです。それも行き当たりばったりの犯人が……」

「くどいですね。ええ、確かに真正面に捉えたら、それはあなたの好きなクラシック音楽でいうなら、ストラヴィンスキーのペトリューシカのような難解さでしょう。でも、そうではないのです」

 通子はぶっきらぼうにいって、ふむと口元を強く結んだ。

 藤村は、うっすらと上気した顔で、通子を睨めつけた後、ふて腐れたようにぷいと横を向いた。

 玉井からの電話ひとつで、二人の様子はがらりと変わってしまった。藤村の若いきれいな顔は、稚児を思わせる。ひょっとしたら、玉井と男色関係にあるのかもしれない。そうだとしたら……。

「吉田先生、わたしも不思議です。犯人はどうやって殺したのですか」

 雉打はその場を繕うように、重ねて尋ねた。

「警部、その前に、この事件で、橘医師殺害の強い動機を持つのは、いったい誰だと思いますか」

 雉打は少し考えて、はっとした。

「まさか、尾崎由紀だというのですか」

「そうですね、由紀も強い動機を持っていますね」

「では、広瀬桂子ですか」

「彼女もそのくらい思い詰めていてもおかしくありませんね」

 通子は挑むような目を雉打に向けたままだ。違うというのか。しかし、そうなると……。

「であれば、吉本医師ですか。二回目の手術をわざと失敗したことを橘医師が気づかれたから、口封じのために殺したというのでしょうか」

「二度目の手術に立ち会っていない彼には気づきようもなかったのでは。この事件は、表面的な利害が引き起こしたものではないと、わたしは思っています」

 通子はゆっくりと首を横に振りながらいった。そしてひと言続けた。

「愛は巡る」

 雉打は何が何やらわからなくなった。通子は何をいいたいのだろう。

 愛は巡るだって。彼女はその後口を開かない。

 雉打は通子の顔を見続ける。

「行動するときに、結果について思いを巡らすことができるのが大人です。子どもは思ったことをして結果を考えない。だから子どもなのです」

 通子は、強い口調できっぱりといい切った。

 雉打がしびれを切らしていう。

「どういうことです」

「だから、そういうことです。愛が巡り巡って、子どもと大人が織りなした事件」

 雉打には何もわからなかったが、まずは犯人を知りたかった。

「というと、犯人は誰ですか」

「自殺です。橘医師は自殺したのです」

「それではさっぱりわかりません」

 禅問答のようだった。雉打は途方に暮れた。今回に限っていえば、通子の話は支離滅裂だった。とうてい論理的な答えに行き着いているとは思えなかった。いろいろいっておきながら自殺だとは……。

「吉田先生、今日の先生は……」

 通子が微笑した。その笑顔は悲しみをたたえていた。

「尾崎由紀は父尾崎昇を愛していた。広瀬桂子もまた尾崎昇を愛していた。広瀬智彦にとって尾崎由紀は初恋の相手で、もちろん母広瀬桂子を深く愛していた。となれば、智彦の心に橘医師への激しい憤りが生じてもおかしくはありません。智彦は橘医師をやっつけてやろうと思ったのです」

「なんですって、智彦が犯人だというのですか」

「はい、わたしはそう思います。でも、智彦は殺してはいません。彼は橘医師の腹を刺した犯人です」

「……」

「彼が一番しっくりくるのです。事件当時、広瀬桂子はパート帰りで、尾崎由紀を見舞っていたと供述しています。ならば智彦が家に居たかどうかは不明、つまり、彼にはアリバイはありません。そして、彼の家から病院までは苦もなく歩いていくことができます。さらに桂子が医療過誤だと病院へ乗り込んで来たとき、彼と由紀を連れてきました。つまり、智彦と橘医師は面識がありました。加えて指紋です。第三の指紋の主は、尾崎由紀でも、広瀬桂子でもありませんでした」

 雉打は、智彦と言葉こそ交わしていないものの、桂子と一緒に何度か会っていた。すっきりとした目鼻立ちのおとなしい子だった。いつも母親の影に隠れてこちらを窺っていた。

「まさか、あの子が」

「刺された橘医師自身も、まさかと思ったでしょうね」

「行きあたりばったりで、目撃されるリスクも高い。到底常識をわきまえた大人のやることではない……か」

「そういうことです。そして一方の大人、橘医師ですが、こちらはとても優しく、繊細で、明晰な人だったのでしょう。ええ、だからこそ彼は瞬時にいろいろなことを考えて、自殺しようと決心したのです」

 自分の腹にはメスが刺さっている。刺したのは死亡した患者の関係者の子どもだ。自分が助かったとしても、その後に、子どもを巡って起きることに耐えられそうにない。子どもの将来はどうなるのだ。すべては自分の手術の失敗が引き金を引いているのだ。所詮は一人暮らしの惜しくない命。誰が悲しむわけでもない。そして、もはや院長になることもあるまい。いっそのこと、ここで幕を引いてしまおう。となれば、他殺だとは決して思われないようにするのがいい。お誂え向きに、雪が積もっている。自分ひとりの足跡だけを雪上に残して死ねば、誰ひとり自殺を疑うものはないだろう。

 そう考えたというのだろうか。行動するときに、結果について思いを巡らすことができるのが大人で、子どもは思ったことをして結果を考えない。なるほどそういうことか。確かに、手術のことで深く悔いていた橘なら、そう考えてもおかしくはなかった。雉打は小さくうなり声をあげた。

「解明するつもりなら、智彦の指紋を採取することです」

 通子が乾いた声でいった。確かにそのとおりだった。

 雉打は窓越しに外を眺めた。

 逢魔が時。

 空は暗い橙によそおいを変え、闇が迫りつつあった。

 古くからある街では、人の営みが深い闇を引き寄せる。雉打はふとそう思った。

「一件落着ですね。吉田様、和尚はまだしばらく帰りません。警部と外で食事でもされてきたらいかがですか」

 藤村が軽い調子でいった。

 通子は複雑な顔をした。

              *

 雉打の前を通子が音もなく歩いている。

 一緒に食事をとる約束はしていないが、二人で出てきたのだ。

 暗くなった寺の境内、鬱蒼とした木々の合間を、縫うように進んでいる。あたりに人気はなく静かだった。もはや彼女の姿は影法師に近く、うっすらとした輪郭をとどめるに過ぎなかった。

 本当に彼女は生きているのだろうか。ふとそう考えたとき、通子が唐突に口を開いた。

「愛は巡るなんて、わたし、感傷的過ぎたかもしれません。なんだかとても恥ずかしい。結局は、チェシャ猫がにこにこ笑う理由について、チーズにありつけるからなのか、チーズに集まる鼠を捕獲できるからなのか、そんなたわいないことを、眉間に皺を寄せておしゃべりしていたような気がします。所詮はどうでもよいことですね」

 暗闇のなか、さばさばとした口調でいった。

 苦笑を浮かべているに違いない。

 雉打にはその比喩の意味がわからなかった。しかしその一言で、雉打の心のなかで、何かが壊れた。大切なものを、こともあろうに通子に侮辱されたように感じたのだ。

 愛は巡るのだ。自分と通子の関係だってそうではないか。

 自分は通子を愛している。

 通子は和尚を愛している。

 和尚は藤村を愛している。

 だが、自分のことを、通子が愛してくれることは一生ありえない。

 雉打はそのことを深く理解した。

 亡くなった妻の顔がぼんやりと浮かんだ。悲しそうな顔をしていた。

 失った四十年。

 自分がどうしようもなく間抜けに思えた。

 通子は雉打の恋情をきっと知っている。知っていて気づかないふりを続けている。そう、聡明な彼女なら、会ったその日からわかっていたかもしれない。

 目の前にほっそりとした通子の首が揺れている。

 一瞬のうちに、黒々とした殺意が芽生えた。

 雉打はその首に向かってすっと両手を差し出した。

 彼にはもはや迷いがなかった。


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