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庭園の国の少女  作者: ぎじえ・いり
庭園の国の少女
7/25

西へ

目的の西の街までは遠い。

受けた依頼は、その街の中間地点にあたる街までの商人の護衛だった。

とは言え、商人も市が立っている間はこの街で商売をしている。

つまりすぐの出発ではなかった。


出発までには時間がある。

せっかくなので、まずはいつもの工房で装備の手入れを頼んだ。

ついこの間頼んだばかりだったのに、殺人鬼との戦いで、鎧はともかく、剣はまた気になる状態だった。

せっかく信頼出来る職人のいる街にいるのなら、私がやるよりもその方が良いだろう。

工房の人は苦笑しつつも、気持ちよく引き受けてくれた。


リデルは靴が欲しかったようだ。

しかし、この街の職人には彼女の小さい足に合った靴を作るには道具も無いし、これまでに作った事も無いので難しいと断られていた。

どうやら私とお揃いのブーツが欲しかったらしい。

一応、他の工房やお店も回ったけれども、彼女の足に合う物は無かった。


「せっかく、お揃いのブーツが履けると思ったのに」

「それは同じ工房で作ってもらえれば、同じようなブーツになったでしょうけど」


今、リデルが履いている物、腿の辺りまでを覆っているそれは靴というよりも、タイツのような物に見える。

確かに、あまり頑丈そうには見えない。


「もっと丈夫そうなのを探さないとね」

「モリーアンは分かってないです」


何故か、ため息まじりに言われてしまった。


「色が合ってないんですよねぇ。せっかくいい色なのに」


服の胸の辺りを少しつまんでこぼす。

今着ている青い服に、ピンク色のそれは言われてみれば確かに合っていないように見える。


「ああ、そういうこと」

「そういうことです。モリーアンはもっと綺麗な服とか買わないんですか?鎧は手入れされててそれなりに綺麗ですけど、鎧を脱いだら何て言うか、その、そこらへんの男性でももうちょっと綺麗な服を着ていると思うんですけど」

「そう?」


今も、鎧を脱いで服にブーツの軽装だ。

着ている服の胸のあたりを少しつまんで、改めて見てみる。

随分前にこの街で買った服。

頑丈な厚手の生地の色は薄い茶色。

元々はもう少し白に近い薄い黄色だったような気はする。

確かに、所々ほつれていた。

破れてはいないものの、生地が薄くなっている箇所もある。


「そうですよ。街の外にいる時はともかく、街にいる時くらいおしゃれしましょうよ!」


その後は強制的に服を探しに回らされた。

結局、リデルの勧めで1着だけ、たまたま作り置きでお店にあったサイズの合う物を買ったけれども、あまり頑丈そうには見えない服だった。

さあ!着て下さい!それで街を回りましょう!と、リデルは息巻き、仕方なしに夕食はそれを着て食べに出た。

真っ白な、ドレスにも似たそれを着て出かけるのは、気恥ずかしい。

リデルはそれでも不満げで、今度は靴を買いましょう!かわいいの!としきりに勧めたけれども、今のブーツは気に入っているので適当に聞き流す。

途中、ばったり出会ったトカゲ男が何かを言いかけたのを、目線で制して宿に戻った。






ギルドで簡単な依頼も受けた。

前にも受けた事のある、近くの森で山鳩を獲ってくる狩猟依頼。

これには合成弓を持って出かけた。

以前に使っていた弓を処分して、完全に切り替える事にした。


この頃、なんとなく魔力を使うという事が分かってきた。

いや、元々、無意識の内に多少は使っていたのだろう。

意識的に使うようになって、そんな気がしてきていた。

戦いに意識を切り替えた時に体に流れる感覚と、魔力の流れをコントロールして力へと換える時の感覚とが似ているのだ。


瞬発的に自身の筋力の上限を大きく超えたような魔力の使い方はこれからの課題だ。


魔力の扱いに慣れてきたのに合わせ、既に隊商の護衛の途中からあの殺人鬼の弓を、襲ってきた敵に合わせて使っていた。

魔力を使うトレーニングだけでなく、筋力のトレーニングの効果も出ているのか、以前の弓と同じような自然さ、無意識をもって扱うには至っていないが、使い続ければそこに到達出来る。そんな確信がある。


以前の弓と同じように、一息に3本の矢を射る事はまだできない。

それでも今はリデルがいる。

彼女がいるなら、大丈夫だと思えた。

ひとりで戦うなら、何よりも早さが必要になる。

弓を射るのにもそうだし、動き回るのにもそうだ。


常に相手よりも早く動く事。

一瞬の思考の切り替えに合わせて動ける事。

そうでなければ、やがて追いつめられてしまう。

殺人鬼の一件もそうだった。

殺人鬼は私よりも早かった。

力が強い事よりも、早い事、それがあの追いつめられる事態へと繋がった。


自分ひとりなら攻めるのも守るのも自分ひとりで何とかしなければならない。

自分が相手よりも遅ければ、それだけで不利だ。

その不利を覆すには、相当に素早い思考が必要になる。

でも、それがふたりなら。

一回射る間に攻められても、リデルが守れる。

リデルが守っている間に私は攻められる。

私が守っている間にはリデルが。


あの殺人鬼が死んだのは、こちらがふたりで、あちらがひとりだったからだ。

彼女は自分を弱いと言う。

私は彼女が側にいる事を心強いと思った。


そんなとりとめの無い事を考えつつも、1本の木に山鳩が止まっているのを見つける。


狙い。

定め。

引き。

絞る。


山鳩は簡単に獲れた。

射た矢はまっすぐに山鳩へと到達し、その胸を貫く。

最後の1羽は、ギリギリまで接近して放ったからとはいえ、山鳩の目を寸分違わず射抜いた。

これには脇で見ていて驚いたリデル以上に私が驚いた。

やはりこれは良い弓だ。

改めてそう思った。

引くのに力は要る。

現状、それが難点なのだけれども、掛けた力が矢を飛ばす力へとそのままロスなく伝わる印象がある。

力がそのまま伝わる事は自然、射手の意志をそのまま反映してくれる。

意志をそのまま力へと変換してくれる、そんな印象。

せめて、あとほんの少し軽ければ。

一度弦を換えてみたが、結果はかえってバランスを悪くしただけだった。

この弓にはこの弦が合っているのだろう。

鍛錬を続けるしかない。


リックがいる事も大きかった。

一度、山鳩のにおいを覚えさせると、リックはすぐに山鳩を見つけた。

いくらでも獲れる気がしたけれども、依頼は5羽だったので、必要な分だけ獲って街へと戻った。






ギルドで依頼を受ける以外にもしていた事がある。

ギルドで紹介してもらった業者から、乗馬を教わっていた。

実は湖の街でも隊商が街を出るまで教えてもらっていたのだ。

ランプの人が口利きをしてくれたようで、タダだった。


それはこちらでも同じようで、お金を払っていないのに、朝から日が高くなるまで丁寧に教えてくれた。


トカゲ男に聞いたら、依頼によっては馬に乗れる事が条件の依頼もあるらしい。

そのための先行投資、そう言ってトカゲ男は笑っていた。


普通に走らせる分には何の問題もないくらいには訓練は進んでいる。

多少の障害も大丈夫だろう。

しかし、馬に乗ったまま戦うのは無理だ。

一度、試しに弓を持って走らせ、構えてみたけれども、あれでは威嚇程度にしか使えない。

状況によっては馬に振り落とされかねない。


指導してくれた業者の人も言っていた事だけれども、馬に乗っていて戦闘になりそうだったら、とにかく逃げる。

重い荷物を引いた馬車とは違って、人ひとりと多少の荷物を載せただけの馬の早さに追いつける蛮族、魔獣、妖獣はそう多くはない。

それでもどうしても戦わなければならないと判断したら、即座に馬を降りて、馬だけ走らせ、戦いが終わってから笛で呼び戻す。

それが最も合理的だ。


ただ、そう考えると、馬車で進む商人と行動を共にするなら私が馬に乗る理由は薄い。

守るべき馬車の歩調に合わせて進むなら、結局は以前と同じように馬車の上で対処した方が守りやすい。


万が一、魔獣と出くわしてしまった時に、おとりとして使うなら良いかもしれない。

魔獣が人を襲うのは、結局は食べるためだ。

食べる物を探して、人と出くわせば襲う。

何も人が憎くて襲ってきている訳では無い。

馬を与えれば、馬に満足する。

その間に逃げれば良い。


食べる目的でなくとも人を襲う妖獣の類いもいる。

それでもおとりとしては使える。

ただ、もしもの時のおとりとするために馬を買うのはやはり気が引けた。


結局、私たちは商人の馬車に乗せてもらい、街を出た。


馬車は西へと向かい進んで行く。

使い古されたトネリコの弓 → 処分

合成弓ビフォア・ザ・ウィンド

冒険者の矢籠ビフォア・ザ・ウィンド

スルゲリのナイフ

橋のトロワ

左手:黒水牛の小手

右手:黒水牛の小手

積層鎧

牛革のベルト

鹿革のブーツ


ここまでが第1章ですかね。

ちょっとお休みとさせて頂きます。前作が追い立てられるように書いてしまったので、今回はちょっと時間かけつつ進めます。

日常系として特に無目的でも良いような気もしますが。

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