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庭園の国の少女  作者: ぎじえ・いり
庭園の国の少女
6/25

また最初の街へと戻り

「それでは、改めまして。こちらはいかがいたしましょうか?」


頃合いを見計らって戻ってきたランプの人が持って来たのは、殺人鬼の装備だった。

鉈を手に取り、振ってみる。


私が使っている剣よりも長く、刃は厚く、重い。

バランスも刃先の方が重くなっていて、私にとっては単純な振り下ろし以外に振りようのない代物だった。


「これは私には使えない」

「そうですか。魔力を帯びた魔剣の類いですが、よろしいのですね?」

「使えない物を貰っても仕方無いわ。処分して頂戴」


倒した賞金首の装備は報酬としてもらえるらしい。

そのままギルドでお金に換えてももらえるとの事だったので、鉈はお金に換えてもらった。


さらに鎧もあったが、それも同様にお金に換えてもらった。

私の倍もある殺人鬼が着ていた装備を私が着られるはずはない。


そして、最後に弓を手に取った。

戦いの最中に見た鈍く光る弓。

それは最初、金属弓かと思ったが、どうやら金属と木と魔獣の革とを組み合わせて造られた合成弓だった。

同じ素材の揃いの矢籠もある。

手にした感じは想像したほどには重くない。


弓を構え、弦を引いてみる。

今の弓よりも長く、引くのにもより力がいる。


引けない事は無い。

しかし、安定して素早く引けるかと言えば難しそうだ。

引ききらずに、そっと弦を戻した。


改めて弓を見る。

今すぐ使いこなせるかというと、駄目だろう。

今の弓の方がはるかに使いやすかった。

しかし、今まで見た弓の中で最も美しい弓だ。

これほどの弓は二度と手にする機会は無いかもしれない。


「これは貰っておくわ」

「そうですか。分かりました。それではこちらが剣と鎧の分になります」


鉈がかなり価値のある物だったようで、かなりの金額になった。

リデルはやはり預かっていて欲しいと言ってきたので、私が預かった。


「それではお疲れでしょう。しばらくお休みになった後にでも、またお越し下さい」


その言葉に甘えて、私たちは宿へと戻った。






ダメージもあったので、しばらくは簡単なトレーニングをして過ごした。

リデルに魔力の使い方を教わり、筋力強化のつもりで合成弓を引く。

リックの散歩がわりにリデルの無駄遣いにも幾度か付き合った。

彼女が街で買ったのは他愛も無い物が多かった。

のんびりとした毎日。

宿でトレーニングを続けていると、不意に思いついたようにリデルが尋ねてくる。


「これからどうするんですか?」

「そうね」


これから。

差し当たって目的は無い。

今の私のやりたい事といえば、合成弓を使いこなしたい、そのためにも魔力の使い方を覚えたいという事だけだ。

そしてそれはどこでもできる。


お金に困っている訳でもない。

依頼を受けなくても何とかなるし、いざとなれば家に帰れば良い。


「リデルは?何かやりたいことはある?」


魔力の使い方を教わっていたり、助けてもらっているのだから、リデルの希望を叶えて上げたいと思った。


「私ですか?私はですねぇ……」


リデルは何かを言いかけると、ベッドの上から下で寝ていたリックのおなかへと急にダイブした。

それなりの衝撃だったように思ったけれども、リックは頓着せずに寝たままだ。

リックが寝たままなのを良い事に、リデルはおなかの上でぐりぐりと暴れる。


「何かあるのね。なに?」

「えーっと、結構大変かもしれないんですけど、良いですか?」

「良いも悪いも言ってもらわないと判断のしようが無いでしょう」


嘆息しつつ告げる。

なおもリックのおなかの上で暴れていると、さすがにリックも起き出して、立ち上がった。


「ひゃん」


リックは床の上に落ちたリデルを気にせずに、私に近づいてきたので頭を撫でてあげる。

リデルは床の上に座り込んだまま、私を見上げると、やがて意を決したようだ。


「実はですね。その、西に行ってみたいんです」

「西?」


続けて話すリデルの言葉を聞いていて、思い出した。

前の街のギルドでトカゲ男が話していた事をリデルは言っているのだ。


西にはリデルと同じ種族の人がいるらしい。

それだけでなく、魔法に関する技術を持った人が集まる街がある。

リデルはその話に強い興味を持っていた。

私の手前、すぐにでも行きたいとは言い出せなかったらしい。

トカゲ男が言った、遠いという一言を気にしていたようだ。


「そう。じゃあ、ここのギルドで取りあえずは話を聞いてみましょう」

「良いんですか!」

「顔に飛びつくのは無し。良いわ。私も少し魔法や魔力を帯びた武器に興味が湧いてきたから」


殺人鬼の鉈は私には扱えなかったけれど、リデルの魔法を打ち払ったあれは確かに良い物だった。

ああいう武器が他にもあるなら見てみたい。


トレーニングの途中だったので、最後まできちんとやりたかったけれども、リデルが急かすので切り上げて、ギルドへと向かった。






「それでしたら、一度、戻られた方が宜しいですね」


どうやら西のその街へはここから直接向かうよりは、最初の街に戻ってから向かった方が早いらしい。

ギルドでランプの人から聞いた話ではかなり遠かった。

ここと最初の街でも大分遠い。

西の街にはその3倍くらいの距離があるらしい。


途中に難所もあるようで、歩いて向かうのは危険との事だ。


「馬があれば大した事はありませんよ」


ランプの人の言葉に考える。


馬か。

きちんと乗馬を習った事は無い。

遊びで家の近くで暮らす友達の背に乗っていたくらいだった。


勿論、馬車で向かうという手もあるけれども、少ない荷物で長距離を移動するなら、馬車よりもそのまま乗馬してしまった方が機転が利く。

そもそも馬車を買おうとなったら、馬よりもお金がかかる。


とにかく、ランプの人に馬を卸しているという業者を紹介してもらった。


業者の店は街のはずれにあった。

店の脇には柵があり、そこに数頭の馬が放されている。

大きな馬が多かった。

少しの間、眺め、やがてリデルに入りませんか?と言われて店の中へと入った。


説明を受け、他にも色々と話を聞き、そして実際に馬を見せてもらったものの、結局は買わなかった。

手持ちのお金が足りなかった訳では無い。

ただどうにも、ピンと来なかったというだけだ。


「ピンとですか?」

「ええ。ただ言われるままに買って使うのでは、どうもね」

「どうもですか」


私の説明にリデルは首を傾げている。

そんな事よりもまた歩きじゃないですよね、としきりに確認された。

もしかすると、リデルはあの黒犬の事を心配しているのかもしれない。

ひとまずはギルドに戻ってランプの人と話をした。


前の街へと向かう依頼がないか確認すると、10日ほど先ですが、と前置いてランプの人はひとつの依頼を紹介してくれた。

実は元々私たちに紹介するべく残してあった依頼で、私たちが来るのを待っていたらしい。

それは、隊商の護衛依頼だった。






7台の馬車と10頭の騎乗した馬は北へと進む。

その中のひとつの馬車に私とリデル、そしてリックが乗っている。


依頼の内容自体は以前にも受けた荷運びの護衛とほとんど変わらない。

しかし、何と言っても今回はその規模が大きい。

前の商人は周辺の街(周辺といっても私にとってはかなりの広さだ)をぐるぐると回るだけだったが、この隊商はもっとずっと南から北上してきているらしい。


ギルドで依頼を聞いてから3日後に隊商は到着。

1週間、街で市を開き、売り買いを行った後、湖の街から私が最初に訪れた街へと向かって出発した。

市では見た事のない食べ物や服、それに様々な武器防具が並んでいた。

リデルと一緒に見て回ったけれども、私は何も買わなかった。


リデルは珍しい生地があるとかで、何やら買い込んでいた。

それよりも身を守る防具でも買えば良いのに。

そう思ったけれども、彼女のサイズの防具は市でも打っていなかった。


街を出る前に、服を仕立ててもらったようで、リデルは今はそれを着ていた。

正直、色以外に違いは良く分からない。

相変わらず水着のような、体にぴったりと張り付いた青い服。

聞くと、飛ぶのにはそういう服の方が都合が良いらしい。


荷車いっぱいに乗せられた荷物の上で、私とリデルは周囲を見張り、隊商は進む。


これだけの規模になると、やはり目立つのだろう。

リデルとリックとで、歩いて湖の街を目指した時とは比べ物にならないくらい、幾度となく蛮族に、そして魔獣に襲われた。

しかし、護衛の数は多く、その質も高い。


リデルにはもしものためにと魔法を温存してもらって戦ったけれども、そのもしもは一度として訪れなかった。


隊商は危なげなく街へと辿り着き、私たちはそこで隊商と別れた。






私たちは特に大した働きはしていなかったように思う。

主に荷の上で見張り、現れた敵には弓で先制し、隊のフォローをしていただけだ。

しかし、隊を率いていたリーダーの鷲頭の男からいやに褒められた。

このまま依頼を継続して欲しいと頼まれたけれども、行き先は北東との事だったので断る。


依頼書に依頼を完了したサインと報酬をもらい、そのまままずはギルドへと向かう。


「あ」

「うるさい」


ギルドに入り、カウンターについた私を見るなり声をあげようとしたトカゲ頭の男の機先を制してはっきりと言葉にする。


「突っ込み早すぎない?」


トカゲ男は笑いつつ、渡した依頼書を受け取った。

私の肩に座っているリデルにも機嫌良くあいさつする。

リックは足下で早くも丸くなっていた。


ギルドはいつもより賑わっている。

隊商が通る事はあらかじめ知れ渡っていたようだ。


隊商が来るのに合わせて、周辺の街から商人や戦士が集まっているらしい。

商人は取引を、戦士は隊商に売り込みを。

隊商の護衛は実際、かなり良い報酬だった。

人気があるらしく、普通はすんなりと雇ってはもらえないらしい。

私たちはランプの人の口利きで、特に労せずに雇ってもらえた。

隊商の護衛だけでなく、他にも各地から商人が集まるようで、そっちの護衛依頼も多いようだ。


「あねさんなら引く手あまたなんだけど。あねさんはあまり興味なさげ?」


私が今までトカゲ男の依頼を積極的に受けて来なかった経緯から、ちらちらと伺うように聞いてきた。


「その中に西に行く依頼はあるのかしら?」

「え!?うそ!?受けてくれるの!?いやー、今ならいくらでもあるって」


手練のオーガを倒したんだって?いやー、またあねさんの伝説に新たな1ページが、とかなんとか言いながらファイルを探す。

どうやら既に湖の街のギルドから殺人鬼の討伐成功宣言が出ているようだった。


「リデルのおかげよ」

「おお、お嬢ちゃん、ちっこいのに手練なんだな。登録は?まだ?勿体ない。それならすぐにやるよ」


言葉を発さずに首だけ振ったリデルに早口でまくしたてる。


「無理に勧めない。そんな事よりまだなの?」


困ったように笑うリデルに食いつきかねない勢いで迫るトカゲ男の顔を押しのけた。

後で聞いた話では、リデルはちょっとトカゲ男が苦手らしい。

口の大きい相手が苦手とか。

トラウマが、とか言っていたけれども、何だろう?

虎と馬も苦手なのだろうか?


「もうちょっと。どこいったっけな。しかし、あねさんの周りには何だか凄そうな人が集まんね。あねさんの人徳かな」


ファイルを探りつつ、トカゲ男が不意に呟いた。

なんてことのないような表情で。

なんてことのないように。


「そうね。本当に」


私もそれに簡単に答えた。

なんてことのないような表情で。

なんてことのないように。


「お、あった。さ、あねさん、どうぞ」


そう言ってファイルを差し出したトカゲ男の顔は笑っていた。

いつもと違って、落ち着いた笑みだった。

使い古されたトネリコの弓

合成弓ビフォア・ザ・ウィンド

つる草を編んだ手製の矢籠 → 冒険者の矢籠ビフォア・ザ・ウィンド

スルゲリのナイフ

橋のトロワ

左手:黒水牛の小手

右手:黒水牛の小手

積層鎧

牛革のベルト

鹿革のブーツ


鷲頭の男はガルーダ。


思い出したように書きますが、上記装備の( )はブランド名です。

名工の手による逸品!

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