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暁の太陽  作者: 如月土竜
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序章:極北の神話


 暁の時代、世界はたった一つの巨大な人鳥(ペンギン)の卵だったという。卵の中心で最初の鼓動が脈打ったとき、世界の時間が始まった。


 父鳥である太陽は卵を温め、卵の中で雛鳥はすくすくと成長した。やがて十分に成長した雛鳥は窮屈さと息苦しさに耐えられなくなり、卵の中で激しくもがいた。ついにその硬い嘴が殻を突き破り、その穴から父なる陽の光が差し込んだ。昼の時代の始まりである。


 陽の光に照らされて、すべての生きとし生ける者たちが形をなした。雛鳥の吐息からは風の精霊たちが生まれた。血潮は海の流れとなって、海の精霊たちを育んだ。殻の一部は雛鳥の頭の上に留まり、白く冷たい氷雪の大地となった。心臓は中心にあってすべての者に生命を注ぎ込み続けた。


 けれども父なる太陽は、彼らの一日である年の半分は餌を採りに海に入らなければならない。父鳥が去ると、夜の時代が始まった。母鳥である月がそれに代わったが、母鳥は父鳥の帰りを待ちきれず、海に入った挙句、鯱に襲われて死んでしまった。雛鳥は寂しさと寒さから鳴き声を発した。その際、両の嘴と鳴き声からは人が生まれた。


 ゆえに、人は正しい行いによって再び父鳥を来たらしめ、また生贄を捧げて雛鳥と親鳥に餌を食ませなければならない。


 ところが、当時の人々はおのおの好き勝手な時間に寝起きしていたのでお互いに協力することを知らず、むしろ不信から争い合い、その本分を忘れてしまった。ために父鳥は帰らず、雛鳥の命は風前の灯火となった。


 困り果てた精霊たちは相談して、一つの棄てられた卵に精気を吹き込み、聖なるものとした。その卵から生まれたのが、最初の王である。白熊の乳によって育てられた王はやがてその知恵と力によって大地に住む人々を従わせ、一つの国にまとめあげた。


 王は臣下たちに脈拍によって正確に時を刻む技を伝えた。これによって時に従う人の生き方を教えたのである。臣下たちもまた自ら良き時計となり、国中のすべての民が時に合わせてともに祈ったので、大地は再び日の目をみた。


 王は御国の中心に日時計を作り、すべての民に共通の一日を定めた。また月に棲むイッカクの角から生贄の刃を作り、人たるものの誇り、すなわち自ら定めたときに心臓を貫き、父なる太陽の糧となるべきことを教えた。逝く間際、彼は御国の時を400億拍と定め、それまでの間、すべての民が正しい時を刻むよう臣下たちに誓わせた。


 賢明な君主たちのもと、御国の繁栄は久しきにわたった。けれど定められた天寿を全うすることはなかった。海の果てに住む者たちの仕業である。彼らは再び人たるものの本分を忘れ、炎という偽りの太陽をつくり、その明りで夜を照らした。死を恐れて自らを生贄とせず、その数は増えに増えて海原を埋め尽くすほどとなった。その強欲は留まることなく、ついには巨大な煙を吐く船を造って聖なる御国に攻め上り、銃もて王を弑し、民を奴隷とし、国のすべての宝を奪うに至った。

                               

                               ……「北極大陸の神話と伝承」より

千秋一日、どうか気長にお付き合い下さいませ。

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