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BOX  作者: 碧猫
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研究室-4



◆◆◆研究室-4◆◆◆




「『箱』を輸送していたトラックが、爆破されました」


サマルは、開いた口が塞がらない。

ニル博士とケイスも、頬をひきつらせる他無かった。

一拍置いて、サマルを寒気が襲う。

まずい。かなりまずい。

天才の"勘"は、やはり当たっていたということか?

現に輸送車は爆破され、たぶん『箱』も奪われた。証拠隠滅、ということなら、この研究室だっていつ襲撃されてもおかしくない。たまらず、サマルは声を上げる。

「ニル博…」

「逃げるぞ」

博士が言葉を被せる。


…え?

サマルとケイスは、ポカンとする。


「早く、逃げよう。おいみんな!撤退だ!考古学者が歴史から抹殺されては、笑い草だぞ!」


研究員たちは事態が飲み込めないながらも、危険を察して慌ただしくなる。それぞれが持つ重要書類なんかを急いで鞄に詰める。



サマルとケイスがどうしようもなくうろうろしていると、

「君たちは車、持ってないだろ?わしと一緒にきなさい」

ニル博士の手が差し伸べられる。

「ジェイナくん!運転を頼む」

すらっと背の高い、ジェイナが駆け寄る。

3人は、彼について研究室を出る。ドアを飛び出し、長い廊下を抜ける。すると出入口のところに、がたいのいい男が息を切らして立っていた。膝に手をつき、肩で息をしている。

「ユグマ君じゃないか!危険な目に合わせてしまって申し訳ない、こんなことになるとは…」

この男、どうやらニル博士の知り合いらしい。サマルに面識は無かった。

ユグマの額は、何やら赤く汚れている。血だ、と分かると、彼の正体に見当が付いた。

「ユグマ君は、あのトラック運転手だよ」

博士が教える。

「心配してたんだ。生きていて何よりだった!君の顔を見て安心したよ」

ユグマは息を整えると、博士を見据えて言った。


「私は運良く、軽傷で済みました。博士が指示なさった品は…盗まれましたが、何かしなければと思い、走って来た次第です」

「ありがとう、やはり君を選んで正解だったようだ。ひとまずここは危ない、車で話そう。ジェイナくん!5人乗れるな」「危ない」という言葉に、ユグマは目を丸くする。なんだそれ、聞いてないぞ。

5人は、車に飛び乗った。



道路を、白の自動車が突っ切っていく。

追っ手は、無さそうだ。

ひとまず安心か。


「ユグマ、分かることを、全部教えてくれないか」

ニル博士はいつにも増して、必死だ。さすがの天才も事態を持て余しているらしい。未知の前で、人は誰も臆病なのだ。

「分かることと言っても…車を走らせていると、いきなり、ぼかん、激しく揺れて」

ニル博士は、一語たりとも聞き逃さん、といった様子でユグマの話に集中する。

「次の瞬間には、トラックが横転していた。もしやと思ってコンテナを見ると、無かったんです。例の品が。」臨場感溢れるユグマの説明に、一同は引き込まれる。

「そして犯人らしき数人が、そのまま車で逃げてしまった。中型トラックで他にも色々積んでいたのに、あいつら、目ざとく探して、奪って行った。あれがプロの仕事ってやつでしょうか。俺だって車の運転なら負けないのに」

サマルは、なるほどそんな感じだろうな、とユグマの話に納得した。

しかし、そこでニル博士が首を傾げる。

「おかしい」

え?首を傾げたいのはサマルの方だった。今の話の、どこがおかしい?

「10分ほど車に揺られて、ようやく頭が冷えてきたよ。この件は何かおかしい。君のトラックには、わしが頼んで『ダミー』も積んでもらっていたな?」

「そうですね、似たような包装を、たくさん積みました」

へえ、博士も考えてたんだな、とサマルは感心した。ケイスも博士の話に聞き入っている。

「あの容量のコンテナ一杯、大きなものじゃないから、ダミーが200は入っていた。わしは重要とみなした遺跡には、いつもそうして慎重を期すのだ。その200の中から本物を見つけることが一一一ユグマくんがトラックを降りるまで、せいぜい一分、たったその間に一一一果たして可能なのだろうか?」

サマルは、200個の荷物を頭に思い浮かべる。気が遠くなった。

ジェイナも運転席から、聞き耳を立てる。

「第一、どうやって本物を見分けるのだ?そしてもう一つ気になる。それはユグマくん、君が今、生きているということだ」

はて、どういうことか。サマルは話の続きを待つ。ケイスも頭を捻る。

「"機密装置説"を採用すれば、トラックを襲った何者か一一一おそらく国家組織一一一は、国家機密の、おおかた新兵器か何かの存在を隠す為に、我々を消そうとした」

サマルの脳内で、論理が連鎖していく。

「そうであれば輸送する者も対象だ。『箱』を奪うと同時に、殺さなければおかしい」

ケイスも、しきりに頷く。

「国家レベルの組織が、それをしないわけがない。とすれば、ユグマくんが生きていることが、犯行は国家によるものでないことを示している」国家の犯行ではない。絶望的な心境だったサマルにとって、それは救いの言葉だった。

博士はそこでこほん、と咳払いをし、ただし、と語調を強める。

「ただし」

ただし、何だろう?


「ユグマくんが裏切り者でない前提で、だ」


突如として容疑者候補が生まれ、一同に緊張が走る。



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