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BOX  作者: 碧猫
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研究室-3



◆◆◆研究室-3◆◆◆




ごおおお、と、軍事演習中の戦闘機が曇り空を切り裂いていく。誰もが自分の利権ばかり追いかけているようなこのご時世に、考古学なんて必要あるんだろうか、とサマルは疑いたくもなる。だがニル博士が子供のように生き生きと、夢中で研究に打ち込んでいるのを見ると、うだうだ考えてばかりいることが馬鹿馬鹿しく思えてくる。

俺は好きでやってるのだ、必要とされずとも知ったことか!理由などそれで十分なのかもしれない。

ニル博士はさっきから、資料を捲ってはマーカーで印を付けたり、何やらメモを書き込んだりと忙しくしている。

僕はさっきの仕事の続きをしてもいいのだけれど、なんとなく博士の言う「大発見」が気になって、机の脇で、彼がマーカーを付けた場所を覗き見たりしながら、ぐずぐずしていた。

いまじねーしょん、僕にも備わっているだろうか、などと考えていると、肩を叩かれた。


「サマル、『箱』はまだか?」

「お、ケイスか」

ケイスはサマルと同期の研究員だった。彼はケッグル教授の助手をしていて、研究チームは別だが同い年の親近感があって、よくつるんでいる。

サマルは首を傾げる。

「箱?箱って何だ」

ケイスは目を丸くした。

「お前、箱って言うと例のやつだよ、ほら、ニルさんが目ェ付けた」

と言って机にしがみついたままのニル博士を一瞥する。

「『大発見』?箱だったのか」

「知らないのか、俺達のチームでも話題沸騰中だ」

「そんなにすごいのか」と、さっき博士に聞いたのと同じことを口にしてしまう。

「そりゃあすげぇんだろ。だってさ、かのニル大教授様が何か感じたんだろ。何かあるのさ。大体、写真見ただろ?あんなへんてこな箱、見たことない」

「そうだ!絶対にあれには何かある!」

突然会話に横槍が入った。誰だ、と思ったら、かの大教授様のお声だった。一体いつから聞いていたのだ。

「何かある!君、あれはきっと我々の文明が生み出した産物ではないぞ!あれはきっと異星人の落とし物だ」

博士の熱弁につられてケイスが興奮気味に口を挟む。

「異星人?何故です?地中から見つかったなら、地球の古代文明のものと考えるほうが自然では…」

「今回見つかった箱には、明らかに高度な科学技術が使われておる。さすがに今はもう機能しないだろうが、どうやら機械なのだ。古代文明の遺跡で科学文明の所産である機械が見つかるのはおかしい。いや見つかってもいいのだが、そうであれば他にもたくさん見つかるはずだ。今、見つかったのはたった一個。そうなると」

「なるほど、誰かが"落としていった"と考えざるを得ない…」今度はサマルが同意する。

「ま、待ってください、考えの飛躍では?高度な文明を持った誰かが落としていった、そこまでなら分かります。だけど、それは異星人じゃなくてもできるはずです、例えば現代の地球の、誰か悪い技術者が、発掘された遺跡に"イタズラ"した…。つまり、自作したへんてこな機械をボロボロに壊して遺跡に埋めた、とか」

「何がしたいんだ、そいつは」言ったのはサマルだ。

「だからイタズラでさ。自然というなら、そっちの方が自然だ」

「それも一理ある」今度はニル博士だ。

「だがイタズラ、という説明では色々無理が生じる。第一、我々考古学者を翻弄したいのであれば、古代人に作れそうなものを捏造した方が効果的だ。現に発見者はただの壊れた機械が紛れ混んだとみなして重要視しなかった」

「それを博士が引き取ったんでしたね」

ケイスはもう言い返せず、しゅんとしている。

「ただ」

ニル博士が声を張る。

「ただ、現代の地球人の仕業だ、という可能性は私も考えているのだ」

サマルとケイスが、顔を見合わせる。

「異星人説と同じくらい有力と考えられることが、1つある。機密装置説だ」

博士の顔に、急に深刻さが刻まれる。

サマルは機密装置、という言葉に馴染みがなく、存在する言葉なのか博士の造語なのか判然としなかった。

「つまりどこかの国が、国家機密で何らかの機械を開発しており、それがどういうわけか遺跡に埋められた」

そうか、とサマルは納得した。新開発の機械であるなら、僕らが見たこともない形であることにも頷ける。ただ、それが砂漠のど真ん中にあったのはどういうわけか。

ごおおお、大気を振動させながら、また街の上を戦闘機が過ぎた。

そこでようやくサマルは、はっとする。今の説が本当なら、かなりまずいのではないか。

「古代に訪れた異星人の落とし物であるなら、まだロマンがある。ただ今回はそうそう楽観的にもしていられないかも知れん」

国家機密、砂漠の真ん中、軍事演習、点と点が音を立ててつながり、線となっていく。


「機密装置説を信じるなら」


『箱』の正体は、


「十中八九、」


ほぼ間違いなく、



「爆弾だ」



言ったのはケイスだった。

台詞を取られてしまった博士は、少し拗ねたような顔になる。

爆弾一一それも国家機密の一一それが、もうすぐやってくる。本当ならこれはなにかやばいことなりそうだぞ、背筋を、冷たいものが走っていくような気がした。あの砂漠で軍事演習なんて、聞いたことがない。極秘に行われたということか?つまり戦争の準備を進めている?どこの国だ?そして僕たちは"知ってしまった"?

破壊兵器、世界大戦、口封じ、不安が不安を呼び、悪い想像はどこまでも膨らむ。

いやいや何を考えているんだ、とんだ被害妄想だなこれは、笑い飛ばしてしまおうと決意したとき、


「ニル博士!」

誰かが叫んだ。

突然響いた大声に、3人はびくっとした。

呼んだのは、サマルと同じくニル博士の助手をしている、アムタだった。

「ど、どうした?」

血相を変えて駆け寄ってくるアムタ研究員を前に、博士も動揺する。

「なにか不都合か?」

アムタは一息ついて、言った。

「『箱』を輸送していたトラックが、爆破されました」


3人は、凍りついた。

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