表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BOX  作者: 碧猫
4/10

洋平-2



◆◆◆洋平-2◆◆◆




自室に入り、机に向かう。脇にあるCDプレイヤーに手を伸ばした。電源を入れ、再生ボタンを押す。CDが回転する軽やかな音がした後、管楽器の甲高い音が聴こえる。マーヴィン・ゲイの『愛のゆくえ』だ。

洋平はこの歌が大好きだった。淡々としているようで実はこの上なく情熱的であり、軽快で楽しげだが一方で深い悲しみの影を感じさせる。この不思議な歌声の虜になっていた。

バッグから教科書とノート、ペンケースを取り出す。

数学の演習問題を解き直し始める。高校二年生の7月ともなると、やはり内容はレベルアップしてくる。ノートを元に授業の内容を思い出していると、同時にあの初老の数学教師の、嫌でも耳にこびりつく粘着質の声が聴こえるようだった。たしか今日も、何かくだらないことを言ってクラスの失笑を買っていた。受けが良かった試しなんて無いくせに、なぜいつもあんなに堂々としているのだ。

解き進める。快調にペンが動く。だが次の問題に行ったところではたと立ち止まる。解法をひねり出そうとする。出ない。耳を澄ます。ちょうどマーヴィンが見せ場の高音を頑張っていた。それから、間奏部分に入り、種々の楽器とコーラスが折り重なる。良い音を出すな、と思う。もちろん楽器や奏者、歌手も一流揃いなのだろうけど、プレイヤーも大きく貢献している。

二年前の洋平の誕生日に、父、雅夫は、かなり高価な大型コンポを奮発してくれた。両親とも帰りが遅く、家族と過ごす時間などほとんどないのに、どうやって僕の音楽好きを知ったのだろうと、当時洋平は不思議がった。

実は慶太がこっそり教えてやっていたこと知った時は、急に弟が愛おしく見え目頭が熱くなったが、報酬としてゲームソフトをねだっていたことを母が暴露し、台無しとなった。

ノートを見る。さっきの問題に再度取り組む。今度はスムーズに進む。ノートや教科書を理解してしまえば当然のようにスラスラ解ける。それは喜ばしい反面、味気なくも感じた。答えが用意されているというのは、どうも味気ない。


しばらくして、一通り復習を終えた。

ベッドに横たわる。マーヴィンの甘い声から打って変わり、レイ・チャールズの重低音が心地良い。低い天井を見ていると、気分が塞ぐ。目を閉じて、歌声に身を委ねる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ