表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BOX  作者: 碧猫
2/10

研究室-2


◆◆◆研究室-2◆◆◆




乾いた音が、研究室の埃っぽい空気を波立たせる。ついに空襲か、と思ったが違った。

ドアが開き、初老の男が現れる。伸ばしっぱなしの白髪はぼさぼさに飛び散り、もう買い直せばいいのに、ベージュの作業着は染みと継ぎ接ぎだらけだ。

入って来るなり、声を裏返らせる。

「と、届いたか?」

考古学者のうちで彼一一スクペコ・ニルの名を知らない者はなかった。

その見た目の奇抜さもさることながら、大胆な発想力や頭の回転、それに裏打ちされた実績の数々は、誰もが認めざるを得なかった。ケプダ・サマルがニル博士と初対面したのは7年前一一彼が考古学界に飛び込んで2年目の年一一地道な研究ばかりと思っていたこの世界にも、やはり天才というのはいるんだなと、感心した記憶がある。


「誰か、おい、サマル、届いたか?」

先月新発見された遺跡のデータ解析に熱中していたサマルは、はっと気が付いて応じる。

「いえ、さっき遅れると連絡がありましたが、1時間以内には着くとのことでした」

彼がニル博士の助手となったのは、去年からだ。

親交の深い先輩教授の推薦で、この第二国立研究室で勤務できる話が上がり、すぐに飛びついた。

より高度な研究ができる環境は魅力的だったし、偶然にも、新米の頃衝撃を与えられたニル博士と同じ仕事ができるとあれば、迷う余地は無かった。


「1時間…」

「はい、向こうの不手際で検問所の手続きに時間がかかったのと、それから今は、渋滞に巻き込まれているようです」

「まあいい。それならそれで、再度資料を見直しておくとしよう。サマル、出してくれ」


さっきまで仕事していた机の上には、大量のデータ資料や文献が乗っている。それを一旦脇に寄せて、引き出しの中から、分厚い冊子を取り出す。


博士に差し出しながら、サマルは疑問をぶつける。

「これ、そんなに重大な発見なんですか」それが発見されたのは、一週間前だ。海外の考古学者が見つけたらしく、発見者、他の考古学者とも、関心を示さなかった。しかしニル博士が三日前にそれを知ったとき、ひどく興奮し、即刻、この研究室に取り寄せることにした。発見者である研究チームも一通り調べたが大した収穫は無かった「どうでもいい遺跡」だったので、交渉はスムーズに進み、そして今日、それが海を渡ってやってきたのだ。

「サマル、驚くべき真実というのは、いつもかくれんぼしているものさ。それを見抜くには、何物にもとらわれず、よく、見ることだ。」

そして彼は、いいか、イマジネーションだ、と続けた。


いまじねーしょん、サマルは口の中で繰り返した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ