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「愛を誓う箱庭」

作者: かおるこ
掲載日:2026/05/20

 ステンドグラスから差し込む陽光が、純白のドレスを七色に染め上げていた。祭壇の前で彼は、彫刻のように冷たく私を見下ろしている。百合の強烈な芳香が鼻腔を突き抜け、脳を麻痺させる。


「ねえ、本当にこれでいいの?」


私が掠れた声で問うと、彼は鼻で笑った。


「君が望んだことだ。家のため、そして僕の事業のためだ」


識字障害の私は、彼が用意した「僕に全権を委譲する」契約書を確認できず、彼の言葉を信じてハンコを押し続けた。彼は私を、一生操れる便利な人形だと確信している。だが、それは演技だ。私は彼の裏切りを半年も前から暴く準備をしていた。


「私が望んだんじゃない。あなたが決めたことでしょう。私はもう、あなたの都合のいい人形にはならないわ」


「結果は同じだ」


彼は冷笑しながら私のブーケを乱暴に奪い、テーブルへ叩きつけた。終わりの合図だ。


「婚約、キャンセルしましょう。それと、あなたが私を騙して作成させた全ての契約書、無効にする手続きは昨日、公的に済ませてあるわ」


聖堂の空気が凍りついた。彼は嘲笑を浮かべたまま、一瞬、理解不能という表情を見せた。


「何を言っている? 契約は完璧だ。君の署名もある」


「ええ。でもね、識字障害の私が内容を理解していなかったと立証する証拠と、公証人による録画が揃っているの。あなたの私的流用も、全てね」


扉が開き、私の弁護士と共に金融庁の査察官が入ってきた。同時に、私の実家が彼の事業への出資を即時打ち切り、担保を全額差し押さえたと通知が届く。彼の顔から色が消えた。私が今日、このドレスを着たのは婚約のためではない。彼の傲慢さがすべて砕け散る瞬間を、特等席で眺めるためだった。


「待て! 話せばわかる! 君がいなければ、事業計画は全て破綻するんだ!」


彼は必死に縋り付いてくるが、私は冷たく彼の手を振り払った。かつて私の世界のすべてだった背中が、今はただの哀れな敗者の残像にしか見えない。


「破綻して当然よ。あなたには、私を愛する資格も、支配する知性もなかった」


私は彼を置き去りにして聖堂の扉を開けた。振り返れば、彼は床に崩れ落ち、私という資産を失ったことに絶望している。もう、この箱庭には戻らない。私自身の意志で扉を開け、眩い光の中へ踏み出す。


冷たい風が頬を撫でた。過去の呪縛は断ち切った。光の向こう側に、私の未来がある。誰にも支配されない、私だけの物語を紡ぎ出すために。今日から私は、真の意味で私自身になる♪。


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