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夢の国の裏側で  作者: 臥亜


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第29話:外側への干渉

扉に触れた瞬間、指先の感覚が消えた。


いや、正確には“意味を失った”。


触れているはずなのに、触れていない。存在しているのに、定義されていない。


「……これが、“外に繋がる”ってことか」


太郎が低く呟く。


リュエルナが隣に立つ。


「違う」


静かな声。


「これは“入口”じゃない」


「じゃあ何だ」


「“境界を越えるための問い”」


その言葉と同時に、扉の輪郭が揺れる。


表面に、文字のようなものが浮かび上がる。


読めない。だが理解できる。


――“あなたは、何者か”


太郎の喉が鳴る。


「ふざけてる場合じゃねえぞ……」


早乙女が冷静に言う。


「いいえ、重要よ。ここで定義される」


「……さっきリュエルナが言ってたやつか」


「ええ。“意味を与えられる”」


太郎は拳を握る。


「答えなかったら?」


リュエルナが首を振る。


「通れない」


「答えたら?」


「固定される」


沈黙。


背後では、まだ“戦い”が続いている。


空間が裂ける音。何かが削られていく感覚。


時間がない。


「……太郎」


リュエルナが言う。


「ここで間違えると、“戻れなくなる”」


「戻る気あるのかよ」


その問いに、リュエルナは少しだけ微笑む。


「ないよ」


太郎は息を吐く。


「だよな」


扉の問いが、再び浮かび上がる。


――“あなたは、何者か”


頭の中に、いくつもの選択肢が浮かぶ。


キャスト。


人間。


異常個体。


観測対象。


どれも、違う気がした。


「……違うな」


太郎は呟く。


「俺は――」


言葉を探す。


その時、後ろから声がした。


「“選ぶな”」


ミックーの声。


振り返る。


ミックーは、観測者に押されながらも、まだ立っていた。


「定義されるな!」


その叫びが、空間を震わせる。


「この世界みたいになるぞ!」


観測者の腕が振り下ろされる。


ミックーの体が大きく歪む。


それでも。


「“お前が決めるな”」


太郎の目が見開かれる。


「……!」


「“決めさせるな”だ!」


その言葉が、雷のように頭を打つ。


太郎は扉を見つめる。


問いが、まだそこにある。


――“あなたは、何者か”


太郎は、ゆっくりと首を横に振った。


「知らねえよ」


その一言。


扉が、揺れる。


早乙女が息を呑む。


「太郎、それ――」


「決めねえ」


太郎は続ける。


「ここで決めたら、終わりだろ」


問いが、歪む。


文字が崩れる。


「俺は――まだ決まってない」


空間が軋む。


扉が、ひび割れる。


リュエルナの目が大きく開かれる。


「……それ、“拒否”」


「そうだ」


太郎は一歩踏み出す。


「勝手に決めんな」


次の瞬間。


扉が、砕けた。


光でも闇でもない、“未定義の空間”が広がる。


「開いた……!」


早乙女が呟く。


だが同時に。


背後で、大きな音が響いた。


太郎が振り返る。


ミックーが、膝をついている。


観測者の“手”が、その体を貫いていた。


「……ミックー!」


駆け出そうとする太郎。


だがミックーが手を上げて止める。


「来るな」


声が、かすれている。


それでも笑っていた。


「……正解だよ」


その一言。


観測者が、さらに力を加える。


ミックーの体が、崩れていく。


「“未定義”は……一番、厄介だ」


太郎の目が滲む。


「だから、通れる」


ミックーは最後に、リュエルナを見る。


「君も……消えない」


リュエルナの瞳が震える。


「ありがと」


その瞬間。


ミックーの輪郭が、完全に崩壊した。


音もなく。


ただ、“存在が削除された”。


観測者がゆっくりとこちらを向く。


だが、その動きがわずかに鈍い。


「……間に合った」


早乙女が言う。


「今なら、干渉が弱い」


太郎は歯を食いしばる。


そして、前を向く。


「行くぞ」


三人は、“未定義の空間”へ踏み込む。


その瞬間。


視界が反転する。


世界の外。


その一歩手前。


そこには――


無数の“物語の断片”が浮かんでいた。


そして。


そのすべてが、こちらを見ていた。

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