第六話『アルカディアのエルピーダ』
リカルダスは、スパルタ軍の本陣に来ていた。論功行賞により、褒美が与えられていた。
「リカルダス、今回の働きは見事である。褒美をとらす」エピテリコスは言った。
「(オッサン、偉そうだな。無策だったくせに)」バンディドスに小声で言った。
「まぁまぁ、勝てたんだし、君はすごく感謝されてるよ!」
「まぁ、そうか? 金は邪魔になんねぇから貰っておくよ」といって、100万ドラクマルク頂いた。
「エライ大金だな。ありがと~」軽く受け取ると、本陣を足早に立ち去ろうとした。
「これから、何処へ行く?」エピテリコスは聞いた。
「うう~ん。ハッキリと決まっちゃいないけど、北かな~?」
「それならば、アテネ軍に見つからないように、オリンピアへ向かうと良い」
「う~ん。考えてみるよ」
二人は、夕焼けに向かって歩き出した。胸元からリスが顔を出した。
「きゅ~っ」
「分かってるよ~。呀龍が蜘蛛の糸にかかったのは、エルデムちゃんが助けてくれたんだよね~?」
「きゅ~」エルデムは、リカルダスの肩を駆け回った。
「しかし、何で急に東洋の暗殺者が現れるのかね~。良く分からないぜ!」
「きゅ~」
この先に待ち構えていたのは、リカルダスが待ち望んでいた「見知らぬ者たちとの戦い」の連続だった。
茶色のローブを着た男が一人、1.5mほどのクルミの杖をつきながら歩いていた。アルカディア地方の山岳をブツブツと独り言を言いながら歩いていた。
【アルカディア(Arcadia)】ペロポネソス半島の中央部で海に面していない。山岳に囲まれており『理想郷』として文学や絵画に影響を与えた。
「そうだね~。その話は聞いたね~。気が付いたら死者たちの魂を慰めていたんだよね~。月の明るい晩だったね~」
「きゅ~」
「そうだね~。死体が千体も転がる中に、君一人だけ佇んでいたね~。その前は覚えていないかな~?」
「きゅ~?」
「そうか~。思い出そうとすると、頭の中が暗くなるのか~。それでは仕方ないね~。無理はしない方がいいね~」
「きゅ~」
「俺が強そうだからついて来たって~? ありがと~。でも力は弱いよ~」
「きゅ~」
「魔力の方? 魔力は強くもないよ~。術はだいたいストックなんだよね~」
「きゅ~」
「気にすることないって~? 優しいね~。ありがと~」すれ違う人々は、一様に怪しがっていた。
「(何だ、あの男は? ぶつくさと、気持ち悪い・・・)」
「(酔っぱらっているのか? 昼間っから・・・)」
「(誰と喋っているんだ?)」人の姿が見えなくなって、一時間ばかり過ぎようとしていた。
「エルデムちゃん、そこなんだよね~。いつも気にかかるのは。何なのかな? 辿り着けそうな人って?」
「きゅ~」
「うまく説明できないって? 出来るようになったら、教えてね~」細い道を抜けて広場に出た。山賊たちにとっては絶好の場所だった。
「何で時々居なくなるの? 何処に行ってるの?」
「きゅ~」
「俺が戦っているからなの? エルデムちゃんは戦いが嫌いなんだね~。気が付かなくてごめんね~。そうだね~。誰だって、血は見たくないもんね~」
リカルダスが我にかえると、当然のように山賊たちに囲まれた。
「おい、お前! 荷物を全て差し出しな!」
「!」リカルダスは、取り囲まれてから気付いた。来た道は、他の山賊によって塞がれていた。
「考え事をしていて、気付かなかったぜ・・・」一、ニ、三、・・・五人ほどいた。
「退治すれば、飯と宿にありつける! ・・・訳ないか。悪意の塊だ!」
「何が悪意だ? 俺たちの縄張りに勝手に入りやがって!」
「通るだけだよ~。許してね~」通り過ぎようとすると、山賊の一人が攻撃を仕掛けてきた。
「! 入れ替わり(カンビアス)」と言って、首領らしき男と入れ替わった。攻撃を仕掛けてきた男は首領を斬った。
「ぐわ! 痛ぇ~!」
「あわわっ、すいません」斬りかかった男は、首領に謝った。
『LOST !』
「ちっ! 消滅抽選に当たっちまった。一回しか使っていないのに・・・」リカルダスは、そのまま逃げた。
「くおのー! 待てー!」山賊たちが追いかけてきた。
「山火事になるから、火は使えないな~。ならば足止めだ! 雷!」全員に雷を落とし、失神させた。
『LOST !』
「これで、しばらく大丈夫だろう・・・」再び歩き出し、アルカディア地方の西に位置するオリンピアに辿り着いた。
「ちっ! 雷も消滅抽選に当たっちまった。今日はツイてないや! 何処かで手に入れないと、この先苦労しそうだ」オリンピアの町は、そこそこ活気づいていた。
【オリンピア】ペロポネソス半島の西部に位置する古代オリンピック発祥の地。紀元前10世紀頃からゼウス神を祭る聖地として栄えた。古代オリンピックは、紀元前776年にスポーツの祭典として始まった。当初は短距離走だけだったが、中距離走や長距離走、ボクシング、レスレング、パンクラチオン(総合格闘技)などが加わっていった。
「(金はあるが、術は心許ない。誰かから買えないかな? 戦はどこにも起きていない。従って死体から奪えるわけでもない。さぁ、困ったぞ! 誰かと闘って盗めるか?)」ぶつくさ言いながら、オリンピアの町を散策した。ここは体技の町だった。そこここで戦闘の訓練をしていた。広場で剣と盾を振り回して訓練していた男たちの中に、ボロをまとった奴隷が一人動き回っていた。小間使いを命じられ、用事を一つ果たすごとに蹴飛ばされたり殴られたりしていた。
「きゅ~」
「ん~。そうだね~。可哀想だね~。必死に命令を聞いているのに・・・」しかし、リカルダスは、妙なことが気になった。殴られたり蹴飛ばされたりするたびに、体を捻って受けていた。
「? 何だアイツ・・・。体さばきが妙に上手いな~」
水道の脇で座って休んでいると、その奴隷が水を汲みに近づいてきた。
「すいません。ちょっとお借りします」
「あ、邪魔だった? ごめんね~」リカルダスは避けながら術を使ってみた。
「(状態)」奴隷少年の基礎能力を探った。
「(ほほぅ! 身のこなしがいい訳だ。知力25、体術18、剣術13。一般人の年齢と基礎レベルは同じくらいだから、この子は基礎力が相当高い! 13歳くらいなのか・・・?)」リカルダスが感心していると、水を汲んで行ってしまった。
「(臭かったな。風呂にも入っていないのか? しかし、アイツの身のこなしは見事だ。アイツは出来るな・・・。奴隷のレベルじゃないな・・・)」彼の素性が気になった。広場から怒鳴り声が聞こえてきた。
「エルピーダ(elpida)! さっさと水を汲んで来い!」命令していた男(mys)は、筋肉はあるが動きが遅かった。
「はい!」と言って、また水を汲みに来た。リカルダスは聞いてみた。
「君は、訓練しないの? 結構強そうだけど?」
「ボクはいいんです。奴隷だから」
「ふ~ん。奴隷でも勝てばのし上がれるんじゃないの?」
「ボクが、のし上がってもダメなんです。父が犯罪者なんで・・・」
「・・・ふ~ん・・・」何も言えなかった。そして彼は行ってしまった。別に急ぐ旅でもなかった。だから三日後に行われるという「オリンピア格闘技祭り」を見学することにした。毎日まいにち、エルピーダのあくせく働く姿を遠巻きに眺めていた。
「アイツ、働くな~」と、感心していた。
訓練が終わり、上官から叱られた者たちは例外なくエルピーダをぶっ飛ばしてストレスを解消していた。ボロボロになって帰る彼に、父は病床で涙を流して言った。
「エルピーダよ。この町を出なさい。好きな生き方をしなさい」
「そんなこと出来ないよ。病気の父さんを置いて、どこにも行けないよ」
「俺が悪かったのだ。あんなことさえしなければ・・・」
「きゅ~」クンクンと、鼻をぴくぴくさせてリスが逃げていった。
「? 今、リスがいた? こんな夜に?」エルピーダは不思議に思った。
エルピーダの父が自宅に火を放って自害したのは、「オリンピア格闘技祭り」の前日だった。エルピーダに残されたのは、祭りへの参加料3,000ドラクマルクだけだった。
「お前が強いのは知っている。これで『オリンピア格闘技祭り』に参加しなさい。自分の運命を変えなさい」父の残した最後の手紙だった。
「ふ~ん。そんなことがあったのか。エルピーダはこれから、どうするんだろう・・・」
「きゅ~」
「そうだね~。可哀想だから、何とかしてあげたいね~」
「きゅ~」
「? 俺も出るの?」
「きゅ~」
「出ても勝てないよ~」
「きゅ~」
「う~ん。エルピーダの優勝する確率が上がればいいって?」
「きゅ~」
「・・・仕方ないな~」嫌々ながらに、リカルダスは祭りへの参加を決めた。
【オリンピア格闘技祭り】
『ルール』パンクラチオン部門
・噛みつき、目つぶし以外有効
・武器の使用不可
・魔法禁止
・相手に有効打を与えること
・素足で、下履きだけ認める
・リングは半径1.5mで、故意に外に出ると戦意喪失とみなし減点とする。
・3点の減点で、失格
・参加料 3,000ドラクマルク
【優勝】
・優勝賞金 10万ドラクマルク
・副賞① 望みを一つ叶えられる
・副賞② 免除期間終了時の兵役時に、一年間の間、階級を二つ上げた待遇を受けることが出来る
・兵役の免除(2年間)
・免税(2年間)
・優勝者は、名誉として代々語り継がれる
【準優勝】
・賞金 3万ドラクマルク
・副賞 免除期間終了時の兵役時に、一年間の間、階級を一つ上げた待遇を受けることが出来る
・兵役の免除(1年間)
・免税(1年間)




