第五話『初めての臨死体験』
じりじりと円を描きながら動いていると、呀龍の顔に光があたる位置に来た。
「火の矢!」リカルダスは、三本の火矢を呀龍の頭、右わき腹、左ひざに放った。
「ここだと思ったで御座る! 仕掛けてくるのは! 定石通り動かない雑魚は嫌いで御座る。手の内が読めないで御座る」と言って、躱すと同時に姿を消した。リカルダスは既に、次の呪文を唱えていた。
「蜘蛛の糸! その通り! 定石通りに動かない雑魚は怖くない! 定石通りに動くならば、敵の背後を狙う筈だ!」背後に蜘蛛の糸を広げた。呀龍を覆い包むように広げたが躱された。
「左様! 拙者は雑魚では御座らぬ! そして、一流は定石通りの読まれた攻撃を躱すもので御座る!」
「そうさ、お前は一流だ! しかし俺は、超一流だ!」リカルダスは、次の手を打っていた。リカルダスの頭上に飛び跳ねた呀龍は、目の前に女性の生首が現れたのを見た。
「! ゲッ、何だこれは!」術で逃げようとしたが、判断が遅れた。
「そして、超一流は、躱されることを想定して次の手を打つ! 上だ!」蜘蛛の糸を頭上に広げ、呀龍を捕えた。
「ぶわさっ」そしてレベルを吸い取り始めた。
「吸収!」
呀龍を捕えたまま、地面に叩きつけた。
「べっぎッ!」骨が折れる鈍い音がした。
「空蝉の術!」叩きつけられた瞬間に転がっていた丸太と入れ替わった。
「? アンタも術を使えんの~? 捕らえられる前に使えばいいのに・・・」
「ふ~、ふ~」少し苦しそうに息を吐きながら答えた。
「こんなものは、痛くは御座らぬわ!」
「それ、俺の質問の答えじゃないよ~。そんな術を使えるんなら、俺の頭上で使えばよかったじゃん」
「・・・」言い訳をしなかった。
「結構強いね。体術Lv28。でも吸い取ったから、Lv27だね。今からアンタは、どんどん不利になるよ~」リカルダスのストックレベルは32に増えた。
「まさか、相手のレベルを吸い取れるとは・・・。止むを得ませぬ・・・」呀龍は、深呼吸をして息を整えた。
「分身の術! ぶわっ、ぶわっ」っと、呀龍の身体から像が分裂した。呀龍本人の姿はまだ揺れて、ぶれていた。
「! スゴイね~! 五体も増えたね~。それ同時に動かせんの?」
「さぁ、いかがかな~?」
「べっごッ!」寄宿舎裏から、金属が破壊される音が聞こえた。バンディドスはB班と合流し、牢獄を破壊した。一瞬だけ歓声が聞こえたが、すぐに仲間の注意によってかき消された。差し当たっての目的は達成された。
「あちらさん、うまくやったみたいだな」リカルダスの心配事は消えた。
「まぁ、良いで御座る。拙者は、強い相手と闘うことが楽しみなので御座る。そのために、大陸に渡ってここまで辿り着いたので御座る・・・」
「これ時間がかかるんだよね~」と言って、呪文を唱えた。
「わが忠実なる下僕に命ずる。我とともに戦いて、敵を成敗せよ! 召喚! 召喚! 召喚!(コイツは実戦で使うのは初めてだ) レベルの上乗せだ! 上昇! 上昇!」地面が盛り上がり、石製人造人間(lv.26+5)が現れた。周囲の空気が一転に集中し光ながら弾けると骸骨騎士(lv.26+5)が現れた。どこからともなく、怪鳥が鳴きながら現れた。体が全体に燃えている不死鳥が召喚された。リカルダスのストックレベルは22に減った。
「! マズイ! 劣勢で御座る!」と言って、呀龍は増えた五体を怪物たちに任せて逃げた。リカルダスは呀龍を追いかけた。現れたばかりの不死鳥は宿舎裏に飛んで行った。
「! 何だこれは! 鳥が燃えているじゃないか!」二人の見張りと格闘していたバンディドスたちは驚いた。そして、不死鳥は倒れているモンターニャとリノの意識に呼びかけた。
「復活を恐れてはいけません。解毒はしておきました。今、目覚めても問題はありません」と教えると、戦闘に復帰しに行ってしまった。モンターニャとリノは、無事に目覚めた。
「お、お~!」バンディドスたちは、歓声を上げた。
「あの鳥が来る前に目覚めていたらど偉いところだった!」そしてバンディドスたちは、見張りを圧倒し追っ払い監獄の破壊活動を始め、残りの仲間たちを助け出した。
暴れまくるゴーレムに、分身忍者の攻撃はきかなかった。分身が三体がかりで攻撃していたが、忍者の攻撃がゴーレムに当たっても有効打にならず消滅抽選に至らなかった。逆に、ゴーレムの一撃は悉く有効打になり分身忍者は一体ずつ消えていった。あっという間に三体の分身忍者が消えた。
ボーンナイトも同じだった。細身の忍者刀での攻撃は、骨だらけのボーンナイトとは相性が悪かった。分身忍者は、室内に転がっている苦無を拾っては投げつけたが、骨の間を通り抜けてしまい、やられるのを待つばかりだった。ゴーレムに続いて、ボーンナイトも二体を消し去った。そこに不死鳥が合流した。
リカルダスは、呀龍を建物の隅に追い詰めた。
「さぁ、とどめと行こうか! 火の矢!」十本の火の矢を放とうとしたところにゴーレムとボーンナイトとフェニックスが向かってきた。
「ドス、ドス」
「だっだっだっ!」
「くぇ~!」
「(え? 何だ? 忍者を片付けたら、ゴーレムとボーンナイトは消えるはずだ! まだ、何かいるのか?)」躊躇したところに、後ろから忍者刀で刺された。
「グッサッ!」
「くっくっくっ! ひと思いに首は撥ねませぬ。まずは動きを封じさせて頂くで御座る。まだ何か見たことのない秘術をお持ちならば、出すで御座る! 鈍い動きで出される新しい技を、楽しませて頂くで御座る」薄れゆく意識の中で、呀龍の声を必死に聞いた。
「分身が五体だと思ったで御座るか? 六体で御座る。六体目は常に私の影に隠れているで御座る。こんな時のために・・・。くっくっくっ」忍者刀を片手に近づいてくる呀龍にゴーレムとボーンナイトが飛び掛かった。
「やれやれ、厄介で御座る。この石の塊と、骨の騎士は忍者と相性が悪すぎるで御座る」二対二で対決しているのを眺めているうちに意識が薄れてきた。
「(簡単に死んではいけません。毒はまだ、全身に回っていません。体中が麻痺している訳でもありません。まだ戦えますよ)」
「? 誰だ? この声は・・・」
「ひゅ~ん!」とリカルダスの周りを飛んだのは、フェニックスだった。
「我が主君よ。解毒は終わりました。傷も治しました。目覚められよ!」そして、どこかに飛んで行ってしまった。くわっと目を見開いて立ち上がると、忍者の分身は倒されていた。そしてゴーレムとボーンナイトは内部から瓦解し、砂塵のように消えてしまった。
『任務完了! LOST !』
「あ~。いっぺん死んでみないと、復活の仕方が分からないもんだ。死んだ感覚がないな? 俺は生きてんだろ? 死んでないよな?」周囲を見回すと、喧騒は静まり返っていた。
「はーっ、はーっ」息遣いが荒い呀龍だけが残されていた。
「形勢逆転だね」リカルダスがにじり寄ると、呀龍は外に逃げた。走りに走って、呀龍を崖まで追い詰めた。
「火の矢! これで終わりだ!」リカルダスは、呀龍に七本の火矢を放った。呀龍は崖から飛び降りた。
「鼫の術! 失礼仕る~。魔術師どの~!」
「ずり~よ~。アイツ飛べんのかよ~」リカルダスは、不服そうだった。
「見たことのない攻撃ばかりだ。やめらんね~な~」その後、バンディドスたちと合流し、本陣に救出を知らせた。形勢は一気にスパルタ軍に傾いた。アテネ軍は撤退し、スパルタに平和が戻って来た。
数日後、呀龍はアテネ軍の本陣に姿を見せた。
「クロマ(Chroma)将軍、ただ今戻ったで御座る」呀龍は、事後報告のため兜をかぶった女性将軍の前で跪いた。クロマは、アテネ六将軍で唯一の女性将軍だった。
「うむ、ご苦労・・・」クロマは呀龍を労った。
「と言いたいところだが、今回のお前のざまは何だ!」と怒鳴りつけられた。
「拙者の情報が誤っていたで御座る。前日に魔術師で軍師の若造が戦争に加わるとは思っていなかったで御座る」と、言い訳をした。
「言い訳は聞きたくない。これを持って消えろ!」ドサッと目の前に投げられたのは、皮袋に入った金貨だった。呀龍が数えてみると、3万ドラクマルクだった。
「お約束では、50万ドラクマルクの筈で御座るが?」
「お前の失敗は目に余る。解雇だ! 消えろ!」にべもなかった。呀龍は軽く頭を下げて、本陣から立ち去った。立ち去る呀龍に同僚が話しかけてきた。
「お主はボロボロでは御座らぬか。その傷は、いかがなされたか?」着物を着たサムライだった。
「魔術を使って、拙者のレベルを下げる化け物と出会ったわ! 解雇にされた借りを返しに行くで御座る!」サムライは、黙って話を聞いていた。
「拙者たちが、日本に帰れる情報を掴んだら教えてくれ給う! 拙者もお主に情報を伝えるで御座るよ!」
「あぁ、分かったで御座る」
「お主は、これから何処に行くで御座るか?」サムライはたずねた。
「北だ! アイツらはきっと行くはずで御座る! 神の山・オリンポスへ! そこで奴を殺すで御座る!」
「確信はあるのか?」
「ないが、奴がそこに行くという自信はありまする! 雪玄斎どの、お主は何処に行く?」
「拙者は、明日からトロイア遠征で御座る!」
「お互い、気をつけようぞ!」
「無事で会おう!」と言いながら、北に向かって歩き始めた。




