第三話『スパルタ軍大将 エピテリコス』
夜明け前に全員が集合になった。リカルダスは別働部隊に合流し、作戦の確認をした。
「? 何~? 何も決まっていないのか?」リカルダスは驚いた。
「本体からは、総員突撃したらスキをついて突撃するように言われている」バンディドスが答えた。
「それでは、勝てる戦も勝てないだろう。敵の本陣は今どこに布陣している?」リカルダスは頭を掻きむしりながら聞いた。
「5kmほど先の平地です」と言うウノの返事に、リカルダスはしばし考え込んだ。
「作戦の練り直しだ。本部には出陣を待つように言ってこい」と言うリカルダスの命令で、ウノが伝令として作戦本部に走った。リカルダスは、印を結んで呪文を唱えた。
「索敵」リカルダスは、白い雉のような鳥を10羽ほど放った。鳥たちは、数分で敵陣に辿り着くと上空を旋回し始めた。
「! (斥侯だな・・・。敵に術者はいない筈だが?)」黒装束を身にまとった敵の一人が、鳥に気付いた。
「ふむふむ・・・。敵は500人ってところか、少ないな。こちらをなめてかかっているかも知れん。好機だ!」再び印を結んで唱えた。
「地図作成!」鳥が帰って来ると、10枚の羊皮紙に姿を変えた。
「よし、バンディドス。これを持って本陣に行くぞ! 作戦会議だ!」バンディドスは慌ててついて行った。
リカルダスは、本陣に駆け込んだ。
「話がある。大将を出してくれ!」
「何だ、何だ、お前らは!」番兵が狼狽えた。
「至急の用事だ。総大将のエピテリコス(Epitelikos)を呼んでくれ!」バンディドスが番兵に言った。
「ははっ!」番兵は、総大将のもとに走った。10分後に、面会が許された。
「どうした、バンディドス? 怖気づいたか?」エピテリコスは、跪くバンディドスを見下ろしながら言った。
「僭越ながら、作戦の提案があります」
「急用だというから急いで来たのだが・・・。作戦の提案だと? 下郎の意見は、聞く耳を持たぬわ。下がれ!」エピテリコスは、にべもなかった。
「ちょっと待てよ、アンタ!」リカルダスが、食ってかかった。
「? 誰だ、コイツは?」
「ロードス島のリカルダスだ。この地図を見てもらおう」10枚の羊皮紙を並べて説明した。
「ふ~む。正確な地図だのぅ」エピテリコスは感心した。
「敵本陣は、兵500。少なすぎる。恐らくこちらが突っ込めば、伏兵がかくれているかも知れぬ」
「伏兵など、蹴散らしてくれるわ!」
「兵の犠牲を少なくするのが、大将の役目だ! 本陣のコイツを見ろ!」黒装束の男を指さした。
「忍者だ! 東洋の暗殺者を雇っている。コイツがいるから敵が少ないのかも知れない。無策で突っ込むのは愚策だ!」
「どうしろと?」と言うエピテリコスの返答に聞く耳を持たず、リカルダスは右手の人差し指と中指を伸ばして、エピテリコスの額を突きながら呪文を唱えた。
「状態!」エピテリコスは、少しの間固まった。
「無礼者!」と飛び掛かる衛兵を、バンディドスが制した。
「ふ~む。知力レベル15。作戦能力10。低いね~。上げといてやるよ。上昇!」
「ギュイーン!」と言う音がした。
「はっ!」我に返ったエピテリコスは、深く息をついて指示を飛ばした。
「本陣の300を正面からあたらせる。100ずつ両脇から狙い打て! 別働部隊の指示は、バンディドスに任せる!」
「!」衛兵も、バンディドスも、声を荒げるエピテリコスに驚いた。
「承知しました!」と言って、持ち場に戻った。
「これで、あのオッサン生まれ変わったゼ。攻撃されてレベルが下がるまでは、名将だ! 知力と作戦能力をレベル20まで上げといた」リカルダスのストックレベルは15減って65になった。
「・・・お前、そんなことも出来るのか?」
「使わなくてもいいものを使わされた。これで、俺たちが動きやすくなったろ? 俺たちは俺たちで作戦会議だ!」
全員がバンディドスに合流し、バンディドスが命令を出した。
「我々の作戦の目標は、捉えられている人質の解放である。牢獄を襲撃する際に、隊を二つに分ける。ウノ、ドス、トレスの三人はB班を命ずる。解放された囚人を、安全な場所まで誘導すること。戦闘行為はなるべく避けろ。一人でも多く生かして返すことが目的だ!」
「おお!」威勢の良い返事が返って来た。
「俺とモンターニャとリノは、A班とする。戦闘を担当する!」
「おお!」威勢の良い返事が返って来た。
「よ~し、A班はここに並べ」リカルダスは、一人ひとりに呪文を唱えた。
「命!」呪文を唱えると、説明を始めた。リカルダスのストックライフは1になった。
「A班は、一回だけ生き返れるが、毒にだけは気をつけろ。毒を受けたまま生き返ると、そのまま死んでしまう。難しい話だが、ゾンビ状態から頑張って解毒しろ。それから生き返れ!」A班に動揺が走った。
「そんなことが出来るのか?」
「一度失った命を、解毒しないまま、再び失うのは馬鹿だ。清々しく生き返りたければ工夫しろ!」一同納得せざるを得なかった。
「それもそうか」続いてA班に呪文を唱えた。
「上昇!」A班は力が漲るのを感じた。三人合わせて46上げたので、リカルダスのストックレベルは、19まで減った。
「説明しておく。昨日、バンディドスのオッサンは俺にレベルを下げられた。オッサンの基礎レベルは7だから、レベルを吸収した俺は7レベル貰った。オッサンは、あの時レベル6に下がったが、オッサンは俺と戦い続ける限りレベルが下がり続ける。それが窃盗師と闘う怖さだ。一人から吸収できるレベルは限界があるから、オッサンと闘い続けても俺にうまみはない。そしてオッサンは、レベルが下がっても1時間もすれば自然回復でレベル7に戻る。だから、オッサンは今、基礎レベル7だ」バンディドスは納得した。
「これが、窃盗師と闘うときに注意しなければいけないことだ」
「なるほど、触られると厄介だ」一同が納得した。
「問題は、ここからだ。A班の3人をレベル20まで上げた」
「それで、力が漲っているのか!」
「強くなったもんだ!」
「100人倒せるわ~」盛り上がるA班を制した。
「今の状態で、物理的な攻撃か、魔法攻撃を食らうと、消滅抽選で上昇した分が吹っ飛ぶ」
「・・・」一同は、声を失った。
「一撃喰らえば、物理攻撃レベルが19に下がる。1/19の確率の消滅抽選に当たると上昇分が吹っ飛び元の基礎レベルに戻ってしまう。2回攻撃されてレベル18に下がれば、今度の消滅抽選は1/18になる。消滅抽選に当たった場合、バンディドスの場合だと基礎レベル7まで落ちてしまう。文字通り魔法が消えるのだ。窃盗師の攻撃じゃなければ基礎レベルより下に下がることはない。運が良いと12回の攻撃を食らうまで優位に立って(レベルアップ状態で)戦える」
「・・・なるほど・・・」上昇分を失いたくない気持ちが伝わって来た。
「盾で攻撃を躱すのは最悪だ。進んでレベルを下げに行くようなものだ。気をつけるように」
「・・・それは、キツイ」ウノが質問した。
「それでは、リカルダスが100レベルに上昇して相手を圧倒するのはどうだ? 一気に片付くが?」当然の疑問だった。
「そんなに都合よくは出来ない。俺たちは自分の基礎レベルからせいぜい+5レベルまでしか上げることが出来ない。それ以上上げるには、限界突破が必要だから今は無理だ。窃盗師は窃盗師以外の誰かを、+20~30上げることも出来るがね」
「それは、不自由だな~」一同が納得した。
「不自由だからこそ面白いんだよ、この世の中は。出来ないことの方が多いんだ」そう言われて、それぞれに覚悟を決めた。
「逆に言えば、敵の攻撃さえ当たらなければ、無双状態が続くのだ! くれぐれも飛び道具にも気をつけろ!」
「おお!」
「良し! 準備は整った! 行くぞ!」
「おぉ!」全員の戦闘態勢が整った。リカルダスは、震えていた。死ぬ思いで獲得した技を、相手に遠慮せずにぶつけられるのだ。この日のために、苦しい修行を耐え抜いてきたのだ。勝って、勝って、盗みまくるのだ。正体の分からない相手だからこそ燃えるのだ。
「東洋の暗殺者? 忍者がナンボのもんじゃ!」




