第二話『宿探し・困難を極める』
リカルダスは、宿屋を探していたが、どこもかしこも門前払いだった。
「ダメだね~。よそ者は、誰かの紹介じゃなきゃ泊めさせるわけにはいかん。このご時世だ。アテネの兵隊や間者かも知れん」主人は体格が良く、左目に刀傷があった。
「違うよ~。俺は、ロードス島から来たんだ。今日は山賊たちに襲われて疲れているんだ。泊めてくれよ~」
「他をあたりな」バタンと扉を閉められた。にべもない対応だった。
「これで8軒だ。今夜は野宿かな~?」トボトボ歩いているところへ、バンディドスが子分を引き連れて現れた。
「困っている様子だな。助けようか?」
「え~っと、誰だっけ?」
「さっき、お前を襲った山賊だ!」バンディドスは怒鳴った。
「あ~、さっきのオッサン達か。助けてくれんの?」
「お前には、聞きたいことがある。こっちに来い! 飯はたらふく食わせる!」その一言に釣られて、リカルダスはノコノコついて行った。辿り着いたのは、町はずれの場末の酒場だった。バンディドスは子分たちを帰し、リカルダスと二人だけになった。
「命を救われたんだ。一杯奢るよ」ジョッキになみなみと注がれたワインと肴が出された。
「おほっ! 奢ってくれんの~。ごちそうさま~」リカルダスは一杯目をグビグビグビリと飲み干した。
「きゅ~」懐から出てきたリスに木の実を食べさせた。
「ほ~ら、エルデム。これはお前の分だ」バンディドスは黙ってその光景を見ていた。リカルダスは、食事をしながらバンディドスに聞いた。
「戦争中で、町中カッツカツなのに、俺にこんなに食わせてい~の~?」
「うむ。構わない」
「ん? オッサンはエール(ビールの一種)なの? ワイン飲まないの?」
「うむ。おれはこれでいい」と言って、グビリと半分ほど飲んだ。
「どうにも、お前が分からない・・・」バンディドスかぶりを振りながらは呟いた。リカルダスは、肴をつまみながらワインを喉に流し込み聞き返した。
「何が~?」
「命を狙った山賊から酒を飲まされているのに、危険を感じないのか?」
「感じないね~。さっきの戦闘で、オッサンたちのレベルが分かったもん。どうやったって、俺には勝てないよ」
「酒を飲ませて、酔わせて襲うという手もある」リカルダスをギロリと睨んだ。
「そんな面倒なことするもんかねぇ~。オッサンは、俺に用があるんだろ? それが済んだなら分かるが、今は俺を襲わないさ」バンディドスは図星を突かれて動揺した。そして落ち着きを取り戻して話し始めた。
「先ほどの戦闘で確信した」
「何を?」
「お前さんの腕が確かだということだ」
「誉めてくれて、ありがと~」リカルダスは肉を食い散らかしながら聞いていた。
「最近、アテネとの戦で町中がイライラしている。よそ者に対する警戒は厳しい。お前はロードス島から来たらしいが、クレタ島を通って着たんだろ? アテネから襲われた筈だが、何故お前は無事でいる?」
「あぁ、そのことか。俺は、アテネとクレタ島の戦争には直接関係ないからね。俺の出身は、ロードス島だよ。俺たちはそこで術を学んだんだ」隠しておくべきことを、事もなげにサラリと答えた。
「お前は本当に、『魔術の島』ロードス出身なのか?」リカルダスは手についた調味料をぴちゃぴちゃと舐めながら言った。
「質問が多いオッサンだ。好奇心が強すぎるよ」
「クレタ島の戦争で無傷で返って来たお前のことだ。何か秘密がある筈だ! それを知りたい!」リカルダスは、耳をほじくりながら聞いた。そして、ほじった耳クソをふっと吹いて答えた。事実を話すとき、この男の目は冷たく鋭くなった。そして決してウソは言わなかった。圧倒的な力を持つ者が見せる余裕だった。
「戦争では大量の人が死ぬからね。死ぬ間際の人間たちからレベルとスキルとライフをごっそり頂いてきたんだ。今の俺は、満タン状態だ」ニヤリと笑みを浮かべ、鋭い目つきをした。バンディドスは背筋が凍り付く思いだった。
「(簡単に襲える相手ではない!)そんなものが簡単に手に入るのか?」
「俺たちは、窃盗師だ。相手の技を盗むのが生業だ。盗めるし、好きな相手に譲り渡すことも出来る! まぁ、この技を使える者も限られているけどね」リカルダスは、遠慮せずに、グビグビグビリとワインを飲み干しながら言った。
「お前の他にも、同じ技を使える奴はいるのか?」
「いるよ~。兄弟子に、弟弟子がいた。俺たち三人は仲が悪かったからね~。会いたくないよ・・・。アイツらは血の気が多いから、すぐに殺し合いになるんだ。げぷっ。おっと失礼」と、言うと懐からリスが出てきてリカルダスに噛みついた。
「! きゅ~! ガブッ!」
「いって~! ごめんごめん」リスに謝ったリカルダスだったが、リスは怒って懐にかくれてしまった。服の中を探しパンツ一枚までになったが、リスは何処にもいなかった。
「ごめんよ~。エルデムちゃん。許してよ~」たまらずバンディドスは質問した。
「女の子のような怒り方ですな。メスのリスですか?」
「エルデムは、女の子ちゃんなんだよ。一度人の目から逃れると、消えてしまえるから簡単には見つけられないんだ。異次元に逃げちゃったのかな~?」
「?」バンディドスには、リカルダスの言葉の意味が分からなかった。リカルダスが落ち着くのを待って、バンディドスは言葉を捻り出した。
「・・・俺を、助けてくれんか?」
「俺が? 何で? ど~すんの?」リカルダスは、再び肉をくちゃくちゃ食いながら話の続きを待った。
「先月のアテネとの衝突で、ワシの息子が人質になった。助けに行きたい。力を貸してくれ」と言って、頭を下げてきた。
「街の連中に頼めば? 軍隊を出せばいいんじゃない?」
「明日の朝、ミケーネで陣営をはっているアテネ軍に襲撃をかける」
「襲撃の前日まで、山賊稼業とは、貧困は罪だね~」
「長引く戦乱で、町全体が疲弊している。よそ者は、例外なく襲われる! そして、今のスパルタの軍に余裕はない。ワシらは別働部隊で乗り込む予定だ。ついて来て力を貸してくれ! 大した礼は出来ないが、出来る限りのことはする!」再び頭を下げられた。
「・・・しょーがねーなー。オッサンとは、命を賭けて戦った仲だ。暇つぶしになりそうだから、い~よ~」奥歯に挟まった肉を取りながら承諾した。
酒場を出ると、バンディドスが申し出た。
「今夜は泊るところがないだろう。俺が寝床を紹介するよ」
「何から何まで悪いね~」リカルダスは勿怪の幸いだった。
「明日は、働いてもらうからな。当然の待遇だ」連れて行かれたのは、先ほど断られた宿屋だった。体格が良く左目に刀傷がある親父は、リカルダスを覚えていた。
「何だ、またお前か? バンディドスの知り合いか? 面倒を起こすなよ」嫌々ながらに部屋に案内してくれた。
「悪いね~親父さん。世話になるぜ!」
「寝込みを襲われても責任は持てんぞ!」宿屋の親父は言った。
「番兵がいるから大丈夫だ!」と言って、部屋に消えた。そして印を結ぶと呪文を唱えた。「わが忠実なる下僕に命ずる。我の一晩の安らぎのため、職務を全うせよ。召喚」地面が盛り上がり、石製人造人間が現れた。
「!」隙間から見ていた、バンディドスと宿屋の親父は仰天した。続いて、別の呪文を唱え始めた。
「わが忠実なる下僕に命ずる。我の安らぎを妨げるものを、成敗せよ。召喚」周囲の空気が一点に集まり、骸骨を造り出した。剣と盾も持っていた。そして、リカルダスのベッドの脇に骸骨騎士が佇んだ。
「!」それを見て、宿屋の親父とバンディドスは再び驚いた。
「コイツを怒らせなくて良かった!」バンディドスは胸を撫でおろした。
「お前、こんな奴によく攻撃を仕掛けたな!」宿屋の親父は、感心した。
バンディドスが帰って夜もすっかり更けた頃、リカルダスの部屋から声が聞こえてきた。
「命を狙われたのに、助けるの? 物好きね~」女性の声だった。
「『一宿一飯の義理』ってやつだ。まぁいいだろう・・・」
「好奇心が強すぎるわね」
「まぁ、それが俺の良いトコロなんだがね・・・」
「好奇心が強い男は、最後に死んでみるのかしら?」
「死んでも、ついて来るかい?」
「どうしようかな~」
「ふふっ」
「ふふっ」
「・・・(誰と喋っているんだ?)」宿屋の親父は気が気ではなかった。




