第十二話『神々の試練』
オリンポス山の頂上には、神々しい神殿が建てられていた。残念ながら、その神殿は選ばれた者にしか見ることが出来なかった。
【オリンポス山】ギリシャのテッサリア地方にある、オリンポスの神々が住むといわれる山。標高は、約2,918m。
入り口には瘦せこけた門番が立っていた。山頂にも関わらず、布一枚だけの薄着だった。小間使いのようにも見えるし、妖精のようにも見えた。
「こんにちは!」リカルダスが元気に挨拶をした。
「! 何でぇ、お前ら見えるのか・・・(ちっ、さゆり陣営かよ・・・)」門番は、声をかけられて驚いていた。
「見えます。しっかりと!」
「見えねぇ奴らには、タダの山頂なんだがな。神殿が見えるんなら、仕方ねぇ。受けに来たんだろ?『神々の試練』を」
「その通りです。挑戦させて頂きます」すんなりと神殿内に案内された。
「山頂だとばかり思っていたが、神殿の中がこんなに広いなんて」リカルダスは感心した。
「当たり前だろ。ここはお前たちとは、異なる世界の異なる時間なんだから」門番の言葉には棘があった。神殿内は、暗く静まり返っていた。通路沿いにロウソクが灯っており、20mほど歩いた先の奥の間に案内された。
「ほら、ここだよ。彼が神祇官のシントリスタ(sintoista)だ。『神々の試練』を受けてこい」ツッケンドンに言った。奥の間では、シントリスタが待っていた。
「もぅ、良い。下がりなさい。キミの言葉には棘がある。あとは、私に任せなさい」と言って、二人を見つめた。
「(ふむぅ。この二人は、さゆり陣営か・・・。しかしこの女性は、・・・人間ではない・・・、何ものだ?)」シントリスタは訝しがった。
「ほ~い」と言って、門番は行ってしまった。
奥の間の玉座には星型の紋章があり、神殿の主の権威を象徴していた。壁には、オリンポスの神々の肖像画が飾られており、幾つかの彫像も見られた。床は石畳みで中央は星型に模られていた。星の中央から12本の矢印がそれぞれの方向に向かって放たれており、行く先を天使たちに導かれていた。シントリスタはリカルダスとエルピーダを促した。エルデムには、何も言わなかった。エルデムの姿が見えているはずだった。
「さぁ、どれでも好きな矢印を選びなさい。オリンポスの神々に関係の深い怪物が現れる。そいつを倒して勝てば『神のご加護』が得られる。何が出てくるか分からないし、どのように勝つかでも『神のご加護』の内容は変わってくる」と、シントリスタが言った。
「最近誰か、挑戦しましたか?」リカルダスは聞いてみた。
「毎年一人、いるかいないかだ。しかし最近は忙しいものだ。この二年ほどで十数人が試練を受けに来たが、失敗したのは僅かに二人ほどだ」シントリスタの声は重かった。
「? そんなにいるのですか・・・?」リカルダスは不思議でならなかった。
「まぁ、神さまがたも何かとゴタついているからね。手ゴマが欲しいのかも知れない・・・」とぼやいた。
「? 神さまがゴタついている?」
「ああっと・・・!」シントリスタは口ごもった。
「それでは、わたしから選ばせて頂きます」エルピーダが前に出た。
「はい。どうぞ・・・」シントリスタは邪魔にならないように後ろに下がった。
「・・・どれにしようか・・・」どの矢印にも違いはなかった。奥の間から、外の世界の方角が分かるわけでもなかった。従って勘で選ぶ以外に方法はなかった。
「(ふふふ・・・。自分で好きなものを選んでいるつもりだろう・・・。しかし、どれを選んでも何が出てくるのか分からない・・・。ふふふ・・・。自分で運命を決めているのではない! 決められた運命を歩まされているのだ!)」シントリスタは、ほくそ笑んだ。
「いや、違いますね」エルピーダは否定した。
「『自分で選んだ』と納得することが大切なのです。運命や他の人に責任転嫁出来ないのですから」
「・・・考え方の違いじゃないかのぅ」
「そうです。考え方が違うだけなのです!」
「あなたは、私の心が読めるのか?」
「読める訳ではありません。考えていることが分かるだけです」と言って、中央に向き直った。
「? (同じじゃないのかのぅ・・・?)」シントリスタには、違いが理解できなかった。入って来た入り口の右側(七時)の矢印を選んだ。
「(変わってるなぁ。大概のヤツラは、見えている方向の矢印を選びたがるのに・・・)」
「この矢印を選びます!」エルピーダの選択を、シントリスタは承諾した。
「出でよ! 試練!」と言う叫びと同時に棍棒を持った巨人が現れた。
「! 大きいですね!」3mもありそうな巨体だった。
「開始!」ギガンテスは、徐に棍棒を振りかぶると、勢い良くエルピーダに振り下ろした。エルピーダは呪文を唱えながら移動した。
「岩! 人形!」エルピーダの残像と見間違うほどの土人形が五体、六体と作り出された。人形たちはギガンテスを取り巻き挑発した。狙いを定めるギガンテスの左わきからエルピーダは懐に飛びこんだ。
「吸収! レベル52頂き!」ギガンテスがガクンと膝を折ると畳みかけた。
「禁断の秘術! 掘削!」ギガンテスの周りの石を削り取って、ギガンテスを穴に沈めた。そして堀削った岩をギガンテス体に浴びせた。ギガンテスは動けなくなった。
「挑戦者の勝ちー!」シントリスタは、勝ち名乗りを挙げた。
「撃破する必要はないのです。要は、戦闘不能に追い込めばいいのです」
「カッコいいじゃないですか、エルピーダくん。禁断の秘術まで使えるなんて!」リカルダスは感心した。
「リカルダスさまが、病と闘っておられるときに勉強させて頂きました」エルピーダは軽く頭を下げながら言った。
「頼もしいね」と声をかけただけだが、嬉しくて仕方ないはずだった。口元のニヤケはおさまっていなかった。俄かに周囲が明るくなった。エルピーダの目線の高さにピンク色の光が現れ、次第に大きくなっていった。エルピーダよりも大きな像に膨れあがると兜をかぶり盾と槍を持った(知恵・芸術・工芸・戦略の神)『アテナ』が現れた。
「以後、お主を見守ろうぞ」と言ってくださった。
「ありがとうございます。力をお貸しください」と、エルピーダは畏まった。
「次は、俺の番ね」リカルダスはシントリスタを促した。
「一番、強いのどれ?」と聞いたが、シントリスタもそれは知らなかった。
「存じませぬ」と答えただけだった。
「う~ん・・・」と考えながら、入って来た入り口の左側(五時)の矢印を選んだ。
「対称だからですか?」エルピーダは聞いた。
「そうだね。考えても分からないもの」リカルダスは微笑んだ。
「そうですね」エルピーダも微笑んだ。
「出でよ! 試練!」と言う叫びと同時にトロルゾンビが現れた。辺り一面に腐乱臭が立ち込めた。
「くっせー!」リカルダスは大袈裟に苦しんだ。エルピーダは鼻をつまんだ。エルデムは何も感じていなかった。
「開始!」宣言と同時にゾンビはリカルダスに飛び掛かった。拳を振り上げ、リカルダスの頭を狙い、地面まで拳を叩きつけた。
「ドッガッ、ドッガッ」石畳が割れるほどの威力だった。
「当たったら、死ぬなー」とリカルダスは冷静だった。
「(ゾンビなら、幻惑や麻痺は効かないな。物理攻撃は効くのか?)」リカルダスは作戦を練りながら逃げていた。
「まずは、小手調べ。火の矢!」矢を5本ほど放ち、ゾンビの様子を見たがまるで無傷だった。
「ダメか・・・。ならば! 粘着!」ゾンビの周りにガムを広げ、ゾンビを絡めた。
「続いて、蜘蛛の糸!」その上から、蜘蛛の糸で身動きを封じた。
「ゾンビのレベルって吸えんのかな?」試しに少しだけ吸収してみた。
「吸収!」リカルダスに悪寒が走った。
「ぐっわ~! 気持ち悪い! こんなのいらんわ!」死体なのでマイナスのレベルだった。
「物は試しだ!」とばかりに、5レベルほど上げてみた。
「上昇!」ゾンビは浄化され、苦しみながら崩れ落ちた。
「? 勝ったの?」訝しんでいると、
「挑戦者の勝ちー!」シントリスタは、勝ち名乗りを挙げた。
「こんなの窃盗師しか勝てないじゃん」
「聖職者でも勝てます」シントリスタが言った。
「ふ~ん」納得しているリカルダスの目線の高さに青白い色の光が現れ、次第に大きくなっていった。リカルダスよりも大きな像に膨れあがると黒いローブに身を包んだ(魔術師・冥界の神)『ハーデス』が現れた。
「以後、お主を見守ろうぞ」と言ってくださった。
「ありがとうございます。力をお借りします」と、リカルダスは畏まった。
読者諸兄姉にお訊ね申す。
これほど、安易に神の力をお借りすることが出来るのだろうか?
答えは「否!」
【神々の試練】を受けた者たちは、いずれもが神の名を借りた代理戦争に巻き込まれることになるのだった。




