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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

学校の姫とホワイトモンキーだった私たちへ

作者: にわととり

一夏(いちか)

この話の主人公。現在中二。バカだけど優しい心の持ち主。運動が好きでよく動き髪が白いことからあだ名がホワイトモンキーになった。


胡桃(くるみ)

同じく中二。頭が良く学年トップ。優しく面倒見がいいが眼力が強く凛々しいことから近寄り難く姫と呼ばれている。本人は知らない。

「なんで貴方はこんなに頭が悪いの?!!」


お母さんの悲鳴にも似た怒号が家に響く。また近所迷惑で怒られるんだろうなぁ……。


「誰が悪かったの?!私?それともお父さん?!いっつもヘラヘラして赤点とって!!!」

「ねぇなんで?!なんでもっといい点数も取れないの?!!あぁそっか、私の子供じゃないんだわ!だってそうじゃなきゃこんな点取らないもの!!」


あたしの母はこんな性格でよくヒステリックになる人だから親は早々に離婚。あたしが小学生1年生の時にお父さんがいたか覚えてはいないけどその時にはもう疎遠になっていた気もする。中学生になってからはテストが難しくなり元々勉強より運動が好きなあたしはどんどん成績が落ちていくだけだった。着いたあだ名は「ホワイトモンキー」酷いものである。


パシンッ!


「痛っ」


頭を頬を背中を沢山蹴られて殴られて叩かれて。いつもどうりの日常にはもう慣れた。


(跡、残らないといいなぁ)


翌日、案の定跡は残っていたが服で隠れる程度の大きさだったのでまぁさしたる問題はないだろう。もはやあざと親友になれる気もする。痛いのは嫌だけど。


「よしっ、行こう」


学校は嫌いじゃない。学校にはあたしをいじめる人がいないし家よりずっと居心地がいい。


「一夏!おはよ〜!」

「おはよー!!」

「お前昨日のテストやばかったじゃん、今日補習?」

「うぁー、言わないで……忘れてたんだから」


ドッとクラスの中で笑いが生まれる。くそう、調子こいてられるのも今のうちだぞ!!次こそいい点数とるんだから!クラスの人にも友達にも、あたしの家庭事情は言っていない。言われても困るだけ出しね。今回もテストダメダメだったし、やっぱ一年から復習しなきゃなのかなぁ……、くそう授業中に寝なきゃ良かった。


(図書室で一年生の範囲勉強しなおそうかな……)


そういえば先週も同じことを考えた気がする。あの時は友達と公園で遊んで行くの忘れてたっけ……?思い出せない……。まあ今日は勉強しよう、そうしよう。


「ふわぁ〜〜、やっと放課後……」


さっきの授業何言ってるか全くわかんなかった……もっと日本語を話して欲しいものだ、どの教科も。寝てしまうだろう。それはそうと、さぁ図書室へ行こうじゃあないか。これが大天才一夏ちゃんの第一歩なのだ!!


一度家に帰り荷物を置く。お母さんはまだ仕事だよね。一年生の時の勉強道具をもって水と鍵とあとそれとーー


「って、やばいもう4時半じゃん!」


急がないと図書室閉まっちゃう…!!確か6時半までだったよね、行くのに30分くらいかかるから大体5時かな…。よっし、ダッシュで向かおう!

「はぁーふぅ、」

着いた!!5時になる前に!優等生じゃんあたし!


「失礼しまーす」


全く人が居ない。目に見える範囲では1人も見えないし人気もない。まぁだから選んだって言うのもあるけどね、放課後は委員会の人も居ないのかな?それともサボり?まぁいいや。


静かに机に向かい、荷物を置く。チラリと周りを見ると最近入荷されたのか、新しい小説達が本棚に並べてあった。

あれ、この恋愛小説面白そう……あ、こっちはこの前気になってたやつ!あっちのは映画化されてたやつじゃん!!わぁ〜、すごい!読もうかな!


「ん〜、どれから読むかなぁ…」


どれも全部面白そう……!あっ、後ろにもあるんだ。ちょっとだけ、ちょっとだけ見てみよう!


「さぁここにはどんな本があるのかな゛っ?!」


人にぶつかった。その衝撃で尻もちをついてしまった。おしりが痛い……。


「いっててて……」

「わっ、大丈夫ですか?」


手を差し伸べてくれたのでその手をとり前を見る。

(誰だろう……?声的に女子だろうけど)


この時間に来るということはかなりの勉強好きか本好きかなぁ……

「ありがとうございまーー」


「はわ、え、え、胡桃さんですか……?!!」


「……ぇあ、はい。そうですけどーー」


胡桃さんといえばこの学年の成績優秀者として一番と言っていいほど有名な人だ。テストを受ければ学年トップの点数だし運動も出来て素行も良くて自ら進んで挨拶運動をする。そんな絵に書いたような皆が憧れる優等生、それが胡桃さんである。


「胡桃さんも勉強をしに来たんですか?あっ、あたし一夏って言います!」

「うん、そうだよ。私普段は放課後ここで勉強してるから」


すごい、やはり優等生はルーティンまで違うのか。あたしなんて普段は腹だしながら寝てるか遊ぶかの二択だぞ。


「あたしもってことは、一夏さんも勉強しにきたの?」

「まぁそうですね、ちょっとテストの点数がやばくて……一年生の範囲からやり直そうかなって」


「そうなんだね。……良ければだけど、私が教えようか?」

「えっ!いいんですか!!!??」

「うん、私もちょうど一年の範囲復習しようかなって考えてた頃だし」


あぁ、天使かな。胡桃さんが優等生と言われるのも納得がいく。やはり持つべきものは頭のいい人である。


「あ、胡桃さんって言わなくてもいいよ。私もその方が気楽だし。」

「じゃ、じゃあ胡桃ちゃんで……!!」

「うん、これからよろしくね。」


ーー数十分後


「どうしよう、わかんない……」


本当に、さっぱり分からない。授業は寝てなかった時期のはずだ。なのに何故解き方が分からぬのだ……!

「うぅ……、胡桃ちゃんおじえで〜」

「ふふっ、いいよぉ。ここはね、」



「あっ、なるほど!?」

「わかった?」

「うん!本当にありがとう!」

「ならよかったよ」



閉館のチャイムが図書室に響く。もう六時半か。


「ね、ねぇ胡桃ちゃん!」

「なぁに?」

「明日も、勉強教えてくれない?!」


胡桃ちゃんは一瞬きょとんとして

「ふふっ、いいよぉ」

とさっきみたいに穏やかに返してくれた。


それから毎日のように放課後は胡桃ちゃんに勉強を教わった。分かりやすかったし優しいからあたしもだんだん一人で問題が解けるようになって、胡桃ちゃんが自分の勉強をする時間が増えてきた時だった。


「あづ〜い、ここ冷房弱いよ……」


パタパタとシャツで仰ぐ。なんだろう、生ぬるい風しか当たらない気がする……。これでも外よりだいぶ涼しいんだけどなぁ……


「うーん、やっぱり夏はどこでも暑いからね……」


胡桃ちゃんがこっちを向いた。多分、見えたんだと思う。私が服で隠していたあざのが。幸い下シャツがあったから全ては見られていないけど、これを見たであろう胡桃ちゃんはしばらく固まっていた。


「……ぁー、みちゃった……?」

「いや、実はさ、最近ここぶつけちゃってー」

「……違うでしょ、だって、これーー」


(あーあ、ばれちゃった)

だから嫌なんだよ。今まで仲良かった人も、これを見ると皆心配そうにして気を使い始めるから。これで胡桃ちゃんともう話せなくなっちゃうのか、やだなぁ沢山勉強教えて貰って、嬉しかったのに。


胡桃ちゃんは何かを察したような顔をしてから、




「そっか、一夏ちゃんも同じなんだね」


「……え?」


意味わかんない。同じってどういうこと?こんな回答されたの初めてなんだけどーー、


「ちょっとまってね、」

胡桃ちゃんがシャツの袖をまくる。腕の丁度洋服で隠れて見えない場所。そこには私と同じような、拳ぐらいの大きさのあざがあった。


「は、なにこれ」


話を聞くと、胡桃ちゃんも私と同じく親からの暴力が激しかったようだ。この前も100点を取れなかったからと体中を殴られたらしい。


「あたしと同じ境遇の人がいるなんて……」


「それ私も思った」


その日はお互いが自身の話をして、親の悪口を言って、ずっと笑いあっていた。


あの日以来、あたし達は一緒にいる時間が増えた。多分、似たもの同士の共感と安心があったのだろう。放課後だけじゃなく休み時間や休日も一緒に勉強したり本を読んだりしていた。


いつからか、みんなの間で「学校の姫とホワイトモンキー」と言われるようになっていたが、いくらなんでもホワイトモンキーは酷すぎると思う。なんやかんやであたし達はお互い名前を呼び捨てできるほどの仲になっていた。


「胡桃ってさ、スノードロップみたいだね」


一緒に見ていた植物図鑑を見たがら言う。


「えー、本当に?」

「うん、なんかこう、凛々しい感じが?」

「ふふっ、それなら貴方はクリスマスローズみたいだね」

「まじで?いやー、ちょっと照れちゃうわありがとう」

「ちょっと、まだ何も言ってないんだけど」

「大丈夫!あたしぐらいになると心も読めちゃうんだから!」


びっくりした表情をしてから嬉しそうに胡桃は

「……なにそれ!」

と笑いだした。



胡桃の教えあってかそれから私の点数はそこそこに上がっていき、補習を受けることも無くなった。お母さんにはまだ怒られて暴力を振るわれる日々だけど、先生には泣き出した人もいるほどだ。ちょっと酷くない?


「いやー、もう中三かぁ……」

「夏休み前に何言ってんの一夏」

「いや、だってこの時期が一番大変じゃん!だって勉強漬けだよ??いやだぁ〜!」

「まぁね。今年も学校とかで一緒に勉強する?」

「する!!」


こんな楽しい日々が続いていくんだと思ってた。勉強は嫌でも、胡桃となら頑張れた。でも、夏休みに入ってから2週間がたったころ胡桃は学校に来なくなった。胡桃の居ない図書室は寂しくて、他に誰もいないから退屈だった。

それから1週間がたって、胡桃からメールがきていた。

いつもは親に管理されてて連絡ないのに珍しいな。


『この世界は私には大きすぎたみたい』

『色んな人の声でうるさいの』

『ごめんね』


何を言っているかわかんなかった。なんで謝るんだろう。最近ずっと来ないから?その前の文も分からない。


それから夏休みが終わるまで、胡桃は図書室に来なかった。



夏休みが明けてすぐ、学年集会が開かれた。面倒臭いとか思いながら行って聞いた話は、


「胡桃が死んだ」ということだった。


そこからはあまり記憶が無い。先生からの励ましの言葉も、あたしの耳にははいってこなかった。ただ、呆然として涙も出なかった。周りの友達のすすり泣きの声がきこえた。でもあたしの心はすっからかんで、涙がでないのにもう胡桃と勉強は出来ないのだと、それが頭から離れなかった。


あとから聞いた話で、胡桃は自殺したらしい。自室の鍵を閉めてから首を吊っていて、完全に死ねるようにするなんてどこまでも胡桃らしいと思った。


クラスメイトは最初あたしの事を「友達のしを悲しまないなんて、冷たいやつだ。」と言ったが、何日かたって反省したのか大体の人があたしに謝りに来た。


それでもずっと、私の心は空っぽだった。もう何も分からなかった。知りたくもなかった。でも、でもやっぱり涙は出ないんだね。悲しいのかも分からない。


クラスメイトが私を遊びに誘ってくれた。でも楽しめそうになくて、断った。好きだった運動も、あまり魅力を感じなくなった。


それから気づけば私は勉強にのめり込んでいた。多分、胡桃との思い出にしがみついてたんだと思う。胡桃との少ない接点だから。私たちの一番多い思い出で、出会ったきっかけだから。



私は学年トップレベルまで成長した。胡桃みたいに100点は多くなかったけど、それでもどの教科も95点以上は取るようになっていた。


周囲の人達は私のことを「すごいね!」や「よく頑張った!」と褒めたたえた。あの親でさえ、「貴方はやれば出来る子だって信じてたわ」と言ってきたほどだ。私はずっと憧れてた場所に立つことができたよ。

この前まで散々私を貶して馬鹿にしてたくせに。忘れてないからね。私がいい点数を取った瞬間態度が変わったの、面白かったよ。






ーーあーあ、本当に馬鹿みたい!みんな、みーんな本当に





「ねぇ、胡桃。()()()この世界は小さいと思うなぁ」


XXXX年〇月△日

ーー市で現在高校一年生の牛田一夏さんが自宅の部屋で〇体として発見。

首をロープで吊っており警察は自殺の原因として一夏さんの周囲の環境を捜査してーー





おしまい

花言葉、調べてみてください。私は忘れました。

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