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第4章2

王家が支配し、白の教会の魔導士が魔法を使い、森に魔物が徘徊する世界。修行僧のイオは、成人のための修行の旅に出ていた。途中行き倒れたところを修行中の騎士と称するサリューに救われ、道連れとなる。困窮の旅を続けていたが、サリューを追いかけてきた者たちに捕まる。サリューは一国の姫で、城を抜け出してきたのだ。サリューを城に戻すために、まず、北の大国の首都に向かい、そこで国の隊商と一緒に帰国しようと算段していたのに、サリューはそこを抜け出し、王城に潜り込む。そこには嫁いだ姉姫がいるのだ。久しぶりに会ったのに、その矢先、戦争が起きた。サリューは戦争を止めるべく、西の国に向かった。


 渡河が終わって対岸に降り立つ。西の兵はこの光景に戦意を失っていた。遠巻きに一行を見るだけで手を出せない。

「アリ・ルマイヤの王さまはどこにいるの」

 サリューの問いに騎士の一人が蹲踞して答えた。

「王は都に……」

「わかったわ、ハリムの都ね。馬車を貸してよ」

「対岸の声が聞こえました。サリュキュリア姫様ですね。どうなさるおつもりですか」

「そっちの王様に話をつけんの。戦いなんてまっぴらなんだから」

 きっぱりと言い放つサリューに、西の兵たちはあっけにとられた。司令官らしき男が進み出る。

「あなた様なら、戦いを止めることができるかもしれません」

 含みのある言い方をした。見ると戦意は薄かった。兵士は皆疲れているような顔をしている。

 サリューは西の兵の馬車を借り受けて街道を進んだ。近衛兵には馬を借りた。一行は街道を西へ疾走する。


「大したじゃじゃ馬だな」

 両陣営を見渡せる崖の上でアダマは鼻で笑った。

「いいのですか。あそこまで兵を進め、ことを運んだのに」

 メンターアダマの脇で、サマールは訝しがった。

「いいのだよ。これで摂政ゾルバスの願いは聞き入れてあげたのだから。それにすでに道はできた。これでいつでも好きな時に、西に攻め込むことができる。そう急ぐことはないさ」

 アダマはごうごうと音を立てて逆巻く濁流を楽しそうに見おろしていた。

「しかし、あの姫が西の王を説き伏せて和平が成立したら」

 サマールは気が気ではない。この数年、時間をかけ、手間をかけ、要人を動かし、なんとかアリエステの計画を形にしてきた。摂政の野心を見抜き、それを焚きつけて国軍を動かした。その道のりは簡単なものではなかった。

「そうだな、悔しいが西には我らの力が及ばない。アリエステ様も西の統治にまで力を出すことはできないからな。だが心配するな。今の西の王は戦争のことしか頭にないそうだ。グールを飼っているくらいだからな。小娘の願い事などそう簡単に聞くものか」

 楽しそうにアダマは笑った。そのグールを西の王に遣わしたのはアダマ本人だというのに。


 馬車は街道をただひたすらハリムを目指した。サリュー達が乗る馬車をアクワ達の騎馬が取り囲む形だ。

「サリュー……」

 そっとイオは声をかけたが、返事がない。硬い椅子の背に身を預けてサリューは小さな寝息を立てていた。

「お疲れなのですよ。イオ、寝かせてあげてください」

 セスが小声で話す。サリューはイオにもたれかかっていた。

「はい」

 と、ずるっとサリューがイオの膝に倒れこむ。

「凄いね。サリュー」

 力を使い果たしたかの様に、サリューは深い眠りに落ちていた。

「姫様にこれを」

 イサが着ていた外套を脱いでサリューにかけた。

「姫様は風邪をひきやすいので」


「とんでもない姫君だ」

 アクワは部下に漏らした。街道の宿に泊まることが出来なかったので、一行は林の中で野営した。魔物が出てくるような森ではないが、万全を期して、火を焚き、馬車にサリューとセス、イサが乗り、周りを騎士とイオたちが固め、交代で見張りに立つことにした。

「あの火矢の中に飛び出していった時には、目を疑いましたよ」

 騎士の一人が感嘆の言葉を吐く。

 あれだけの矢が降り注ぎ、投石機が放つ石が弧を描くその中に飛び出していくなど、歴戦の勇士であるアクワでさえ、躊躇した。そのさなかにドレスをからげ、剣を抜いて走りだす。あの後ろ姿に比べれば、立ち止まってしまった自分が無様だ。

「無謀なのでしょうか」

「いや、ご自分の仲間を信じていらしたのだろう。そしてご自身の腕にも自信がおありだった」

 今でもまだ戦場にいるようだ。煌めく長い金髪をなびかせ、燃え上がる銀の髪を引き連れて突進していく様は、神々しくさえあった。

「あんな姫君、見たことがありません」

「私もだ。長く王宮にお仕えして、多くの姫や、貴婦人を見てきたが、あのような御仁、初めてだよ。どこにスカートをからげて走るような姫がいる」

「それに酷い言葉使いですね。下町の女だって、あのぐらいの年頃では品を作ってすましているというのに。でもなぜこれほどまでに命を張ってくださるのでしょう」

「みんなのためとか、おっしゃっていたが……」

 アクワは馬車を見つめた。王宮深くに守られているはずの姫がこんな林の中で野宿している。

 数人が眠りについたころ、イサが毛布を持って出てきた。リアンの脇にしゃがみ込む。

「リアン。起きてる」

 小さな声をかけると、リアンはさっとその手を取り目を開けた。

「何、こんな時間におれに会いに来たって。おれに恋の囁きでも」

「馬鹿、そんなんじゃないわよ」

 パッと手を振りほどく。

「あんただけよ。マント、持っていないの」

「え……」

 騎士はマントを常につけている。アクワ達は揃いの紅いマントをはおっている。バロスはこげ茶色の大ぶりのマントを、イオはマントではないが、魔法使いのローブをまとっている。リアンは吟遊詩人なので、大きなターバンと革のチョッキはあるが、軽装だ。

「冷えるといけないから、これ使って」

「イサ……」

 リアンは緑色の瞳を見開いて、固まる。

「あの、おれに」

「そうよ、こんな所で風邪をひかれちゃ困るの」

「おれを心配してくれるのか」

 言われてイサは返事に詰まる。ぷいっと横を向いた。

「まさか、姫様の勅使の足手まといになったら、いやなだけよ」

 そう言うと馬車に戻っていく。

「へへ……」

 リアンは早速毛布にくるまる。そう言えばと思いだす。リアンは今まで宿に泊まれるほどの稼ぎがない時はいつでも野宿をする。マントなどないから、雨露をしのげそうな木の下か、洞窟に入って夜を過ごしていた。毛布にくるまって寝ることなどついぞない。

「毛布か……」

 思わずにやつく。暖かい毛布にくるまってなぜかなかなか寝付けず、結局リアンは見張りの番まで起きていた。


西の国にはグールがいる。それを仕込んだのは、どうやらメンターアダマらしい。西の国は何が待っているのか。風雲急を孕む西の国でサリューは何を為せるのか。イオは彼女を守れるのか。

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