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第3章10

王家が支配し、白の教会の魔導士が魔法を使い、森に魔物が徘徊する世界。修行僧のイオは、成人のための修行の旅に出ていた。行き倒れてそれを旅の修行の騎士と章するサリューに助けられ、共に旅をする。それは赤貧の旅だったが、なんとかやっていこうとした矢先、サリューを追ってきた者たちに捕まってしまう。サリューは一国の姫、勝手に城を抜け出してきたのだ。それも北の大国エルルマイヤに嫁いだ姉姫に会うために。ようやく再開したが、その時、エルルマイヤの宰相が勝手に軍を動かし、西の国に攻め入ってしまう。


「かねてから国境に西の輩がちょっかい出していました。それを掃討するという名目で国軍を動かしたのだと思います」

「森はどうする。あの森に軍をすすめようというのか」

「教会の法師を取り込んだそうです。その力を借りて森を抜けるのでは」

「そんな、だって教会は一つの王国に加担してはいけないと……」

 思わずサリューは叫んだ。

「そんなカビの生えたような盟約は役に立たないらしいな」

「サルバドス、戦争が起こるのですか」

 王子は返事をしなかったが、誰もがその答えを知っていた。

「止めてよ」

 サリューが爆発したように叫んだ。

「そんな事をいっても、私には国軍を止める力はない。もともと、西の国が何度も国境を越えようとしていた」

 サルバドスは歯切れが悪い。

「それなら、和平を求めて。西の国アリ・ルマイヤに特使を出して、盟約を締結すればいいじゃない」

「それは……」

 盟約を求めるには、それにふさわしい身分の特使を立てる必要がある。

「私には特使になってくれるような信頼に足る貴族や王族はいないんだ」

「だって王さまでしょう」

「サリュキュリア。判ってあげて。サルバドスはずっと王都にさえいなかったんだから」

 二の王子であるサルバドスは一の王子との後継者争いを避けるために、ずっと政治から遠ざけられていた。離宮の奥でひっそりと育てられ、その存在すら顧みられることがなかった。それが世継ぎの急逝で降ってわいたように王位継承者になってしまった。

「そんなこと言ったって、王様なんだから」

 サルバドスは顔を伏せたまま、部屋を出ていこうとする。

「待って。あたしが特使になる」

「サリュキュリア、あなた、何を言っているのかわかっているの」

「勿論よ。あたしは斎宮なのよ。王家の霊廟を守る巫女。だったら特使になったって、おかしくないわ。サルバドス様。お願い、私に親書を書いて。それを持って西のアリ・ルマイヤに行って戦いを止めてくるから」

「危ないよ」

 イオが止める。

「いいの。あんたはあの貧しい子供たちをほっておいていいの」

 イオは一歩引いた。サリューはずっとあの浮浪児のことを考えていたのだろう。

「戦いが起こればみんなが困るんだから」

 サルバドスはゆっくりとサリューの方に振り向いた。

「わかった。エリイシャ、ペンを貸してくれないか」

 しばらくサルバドスとエリイシャは奥の小部屋に籠った。出てきた時はアラベスク文様の飾りのついた紙筒に王家の紋章を蝋封した手紙を持っていた。

「サリュキュリア姫。あなたに私の近衛兵を付けます。アクワ、お前の小隊は姫を守り、親書を見届けてくれ」

 アクワと呼ばれた男は室内に入ってきて膝をつき、蹲踞の姿勢を取った。その後ろに十二人の男たちが居並ぶ。

「姫君、我らが命に代えましてもお守りいたします」

 アクワの言葉に後ろの男たちは一斉に剣を抜き、上段に構え、ゆるりと忠誠の型を取る。彼らは騎馬の剣士たちだ。白銀の甲冑をつけ、深紅のマントをはおっている。この国でわずかにサルバドスに忠誠を誓う清廉の騎士たちだ。

「姫、正式な特使は相手の城に馬車で入るのが、古からのしきたりだ。カビの生えたような決まりだが、決まりは決まりだ。この者たちに騎馬で警護させる。気をつけて行ってきてくれ」

「はい、サルバドス様、判りました。じゃあ、アクワさん。行こうか」


斎宮だからと特使を買って出てしまったサリュー。冒険は波乱に満ちていくだろう。イオは彼女を守れるのか?

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