第3章4王家
王家が支配し、白の教会の魔導士が魔法を操り、魔物が徘徊する世界。修行僧のイオは、成人のための修行の旅に出ていた。雪に遭難しかけてそれを同じ修行の騎士サリューに助けてもらう。2人で困窮の旅を続けていたが、サリューを探す追っ手に捕まってしまう。サリューは一国の姫で城を抜け出していたのだ。サリューを城に向かう道中、暴徒に襲われ、森に逃げ込む一行。途中、吟遊詩人も合流し、暗雲渦巻く大陸を一行は進む。
宿が見つからなかったので、サリュー達六人は、教会に立ち寄った。そこの司祭は訳ありの一行を暖かく迎い入れ、こぎれいな部屋に通してくれた。しばらくして食事を運んできた。
「旅のお方、大変な難儀をされているようですね。大したものはお出しできませんが、マドレクの名物料理です。お楽しみください」
「え、マドレク。ここってマドレクなの」
サリューが乗り出して聞いた。
「そうですよ、ご存じでしたか。この腸詰はエル・ルマイヤの摂政殿下のお気に入りで、時々献上しているのです。ごゆっくり味わってください」
そう言うと司祭は給仕の下働きの男たちと共に出ていった。
「姫様、ここをご存じなんですか」
セスがスープの皿を前に聞く。
「うん、ここは街道の要衝で、エル・ルマイヤの都、サザムからそれほど遠くない場所にあるの」
「なぜそのような事を知っていらっしゃるのか不思議ですね。姫様、まさか地図をご覧になったのではありませんか」
乳母に詰め寄られてサリューはうろたえ、視線を泳がす。王家の女性は歌舞音曲やダンス、礼儀作法などを教養として身につけるように言われているが、地図を読むことは許されていない。地図は王や貴族、騎士のたしなみであり、商人が交易のために願い出て見せてもらえるものである。
「ちょっと覗いただけよ」
「それで地名や場所まで覚えるほど、姫様は覚えのいい方でいらっしゃいましたっけ」
かなり皮肉が入っている。それもそのはず、サリューはダンスのステップを教えたそばから忘れていく。
「そんなことこの際どうでもいいじゃない。それより、ここはエル・ルマイヤの都からそんなに離れていない。つまり、都に行ってお姉様から飛竜を貰えばいいのよ。飛竜ってそんなにあちこちにいるもんじゃないでしょ」
「エリイシャ様にですか……」
セスが眉間にしわを寄せて声を落とした。
「そう。いい考えでしょう」
「それはなりません。王家の姫が国を離れたことがエル・ルマイヤの王家に判ってしまいます。本家の王女が分家の王家の所領でウロウロしているなど、恥ずかしいまねができますか」
セスは頑として譲らない。
「だってお姉様なのよ。あたしのお姉様。会ったっていいでしょう」
「ダメです」
「それより、姫、エル・ルマイヤの都なら街道の交差点です。ルマイヤの隊商も通るはず。サザムに行って隊商に合流しましょう。そうすれば目立つこともなく、安心して旅ができます。姫が国外に出たということも自国の隊商なら秘密にしてくれますから」
バロスが話に割って入る。
「そうなさいませ、姫様。イサもこれ以上、冒険に付き合う気はありません。早く、ルマイヤに帰りたい。こんなわけのわからない国でウロウロするのはいやです」
イサがセスの側に立ったので、サリューも承諾するしかない。食後、司祭に頼み込んで馬車を借り受けた。
「どういったいきさつかはお聞きしませんが、お困りのことでしょう。私にできることはあまりありませんが、馬車と旅支度くらいはさせていただきます」
司祭はそう言うとイオに向き直った。
「イオ、お前はこの国の教会を監察するマーリオ様の弟子だとか。あの方の弟子ならば、こちらの方々の護衛の役に立つことができるだろう。教会は王家の庇護を受けている。どこか一つの王家の栄華に力を貸すことはできないにしても、王家の姫をないがしろにしていいわけではない。お前が姫君に助けられたということであれば、その恩義を感じなければ。法師は受けた恩を必ず返さなければならない。ましてや王家の姫が困っていらっしゃる。この方々の力になってあげなさい」
司祭はサリューに向き直ると、深々と頭を下げた。
「こんな田舎の教会では大したもてなしもできません。我らは教皇からこの地に封土されているので、お伴することはできませんが、この者に力の呪文をかけておきましょう。魔法学校を出たばかりの若造ですが、何かの役に立つでしょう。お連れ下さい。これからの旅の安全をお祈りします」
旅支度を何から何まで整えてもらい、サリューは恐縮した。脇からセスがつつくので、サリューは王家の人間らしく尊厳を持って挨拶を返す。
「ありがとうございます。御好意に感謝いたします」
優雅にスカートをつまみあげ、頭を下げる。
ようやく、教会の恩恵を受け、サリューが城に戻れる算段ができる。このまま穏便に城に戻ることができるのか。




