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ラウンド3:神の命令が悪であった場合、それは善なのか?


(再び照明がゆっくりとスタジオを満たす。休憩を終え、コの字型のテーブルに戻ってきた対談者たちは、それぞれの思いを胸に静かに座っている。中央、司会席のあすかがゆっくりと立ち上がる)


あすか(穏やかに)

「休憩を挟んで、対談は後半戦に入ります。テーマは、いよいよ信仰と道徳の境界へと踏み込みます。」


(少し間を取り、観客席へ向けて)


あすか

「ラウンド3のお題は――『神の命令が悪であった場合、それは善なのか?』」


(静かなざわめき。対談者たちが徐々に表情を引き締めていく)


あすか

「これは、人類が何度も直面してきた問いです。宗教戦争、聖典の解釈、そして現代に至るまで。神の名のもとに行われたことを、善と呼べるのか。今日はこの問いに、真正面から向き合っていただきます。」


(あすかが、神の代弁者――モーセに向かって、静かに促す)


あすか

「まずは、モーセ様。神の命によって為された行為について、ご自身の立場をお聞かせいただけますか?」


モーセ(ゆっくりと口を開く)

「神は、善である。その命令に悪はない。人には理解できぬこともあるが、それは神が人を超えているからだ。」


ドストエフスキー(すかさず)

「では、たとえば…無垢な者を殺すよう命じられたときも、それは善なのですか?」


モーセ(まっすぐに)

「アマレク人への裁き、カナンの民への征伐……それらは神の正義に基づいた裁断である。人の倫理では測れぬ。」


ドストエフスキー

「私は、その測れなさが恐ろしいのです。『神が命じた』という言葉で、どれほどの血が流されたか。

……その沈黙に耐えながら、人はなお神を信じるべきなのでしょうか。」


(モーセ、少しだけ視線を落とす。荀子がゆっくりと口を開く)


荀子

「私は神を信じぬ。信じるのは、人の理だ。神の命令に従って人が他者を傷つけるのなら、それは悪だ。

人が自ら考えず、ただ命じられるがままに行動するなら、それは理を捨てた愚か者にすぎぬ。」


(カトリーヌが目を伏せ、グラスを静かに指先で回しながら語る)


カトリーヌ

「でも……命じたのが神でなくても、権力者であっても、人は命令に従って人を殺す。

神の命も、王の命も、従う者にとっては同じ。だから私は、命じる側であろうとしたのよ。」


(あすか、食い入るように見つめながら問いかける)


あすか

「では、もし陛下が神のように絶対の存在だったとしたら……同じ選択を?」


カトリーヌ

「……ええ。おそらく、もっと冷酷だったでしょうね。

なぜなら、神は説明しない。私は説明せねばならなかった。それが、つらかった。」


(その言葉に、モーセがほんのわずか表情を動かす)


モーセ

「説明は、不要だ。信じる者には、理解が与えられる。」


ドストエフスキー

「……与えられなかった者には、どうすればいいのでしょう?」


(沈黙。スタジオ内に張り詰めた空気が漂う。あすかは、あえてその沈黙を破らず、次の一言を待つ)


荀子

「正しさを上から与えられることを、私は拒む。

だからこそ、人は学ぶのだ。疑い、問うことによって。神に聞くのではなく、人に問うのだ。」


(モーセが荀子を見つめる。視線は鋭くも、どこか静かな敬意が含まれている)


モーセ

「それでも、すべてを知ることはできぬ。」


ドストエフスキー(小さく笑みを浮かべ)

「ええ。だからこそ私は、知ろうとする人々を書いてきました。

イワンのように神を問い、アリョーシャのように神を信じ、それでも…答えが見つからない人間たちを。」


カトリーヌ

「答えなど、もともとないのかもしれません。善という名の仮面を、誰もが探しているだけ。」


あすか(ふと、宙を見つめる)

「善という仮面……確かに、誰の顔にも見える時がありますね。」


(あすか、深呼吸をしながらまとめに入る)


あすか

「神の命令が悪であった場合、それは善か?という問い。

今夜の答えは、きっと一つではありません。

神に問う者、拒む者、受け入れる者、そして記す者……。

皆さんが見せてくださったのは、その問いを受け止めて生きる覚悟でした。」


(照明がゆっくりと落ちていく)


あすか

「次はいよいよ、人はなぜ悪を選ぶのか?という、最も身近な問いに入ります。

その前に、ほんのひと息だけ、心を整えていただければと思います。」


(音楽フェードイン。スタジオが暗転し、ラウンド3が終了する)

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― 新着の感想 ―
 神の名の下なら何を行っても善である。  何故ならばそれこそがルールであり秩序なのだから。(笑)  まあ、皮肉な冗談はともかく、現実世界は何かの犠牲の上に成り立っており、それは神の定めた理です。ガイア…
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