控室トーク:歴史の味、未来の一杯
(対談を終えたあとの控室。暖色のライトが落ち着いた空気を演出し、テーブルの上には各対談者のおすすめ料理と飲み物が美しく並べられている。大理石風の小テーブルには白いクロスがかけられ、それぞれの席には名札とともに小さな花が添えられている)
(4人の対談者が順に入室し、自分の席に着く。やわらかなソファに身を預けながら、互いの料理に目をやる)
荀子(目を細め、湯気の立つ器を指差す)
「私からは、中華粥に蓮の実とクコの実を加えたものを。烏龍茶とともに、心身の乱れを整える“礼の食”だ。」
カトリーヌ(そっとレンゲで一口すくい)
「ふふ、静かに染み入るお味……理想の宮廷料理とは違うけれど、これは心の静養ですわね。」
モーセ(無言で数度噛みしめ)
「滋味深い。塩ではなく知恵で味をつけているようだ。」
ドストエフスキー(笑みを浮かべながら)
「これは、罪を犯したあとの“帰路の味”です……苦いのに、どこか懐かしい。」
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モーセ(重厚な陶器の皿を前に)
「次は私の推薦だ。羊肉の煮込みと無発酵パン(マッツァ)、ザクロジュース。これは逃避行と信仰の記憶であり、祝福の象徴でもある。」
荀子(羊肉を切り分けて)
「見た目は簡素だが、滋味が深い。これは礼を越えて信の味だ。」
カトリーヌ
「このザクロ……鋭くて甘い。まるで政治の記憶を凝縮した果実ね。」
ドストエフスキー
「“苦難を飲み下す”とはこのことか……まさに旧約的な一杯だ。」
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カトリーヌ(ワインを軽く掲げながら)
「お待たせしました。私の一皿は黒トリュフと鴨の赤ワイン煮。ボルドーのヴィンテージワインと共にお召し上がりください。香りと血と、交渉の味わいですわ。」
モーセ(鴨肉を口に含み、眉を動かす)
「贅沢だ。だが不思議と……罪悪感より、力を感じる。」
荀子
「この構成……色も味も、整っている。“欲”に負けぬ洗練とは、こういうものか。」
ドストエフスキー(赤ワインを少し傾けながら)
「一口で200ページの小説に相当する深さ。これは……口に含む政治劇です。」
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ドストエフスキー(スープ皿を指しながら)
「私からは、ビーツのボルシチ、黒パン、そして蜂蜜入りのホットウォッカを。これはロシアの冬、いや人生そのものです。」
カトリーヌ(スメタナをすくって)
「このスメタナ……赦しと告白の味ですわ。温かく、でも孤独。」
荀子(静かに)
「これは“内省の食”だな。理屈では届かぬ、魂の味だ。」
モーセ
「……これは祈りだ。静かに飲み干せば、すべてが赦される気がする。」
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(料理と飲み物を楽しみながら、互いの表情が緩んでゆく)
カトリーヌ(グラスを掲げ)
「それぞれが選んだ料理が、そのまま“生き様”なのね。」
荀子
「理を持って生きた者は、食においても型を崩さぬものだ。」
ドストエフスキー(笑って)
「型に抗った者は、ボルシチのように混ざり合ってなお美しい、ということにしておきましょう。」
モーセ
「……すべての道が、命に通じていれば、それでよい。」
(あすかが控えめに入室し、拍手のように手を合わせる)
あすか
「皆さん、今日も“対話の食卓”をありがとうございました。議論も食事も、心に残る夜になりました。」
(4人がゆっくりとグラスを合わせ、小さな乾杯の音が控室に響く)