オープニング:静かなる討論のはじまり
(スタジオ。コの字型に並ぶ重厚な木製のテーブル。深いブルーのカーペットの上に、四脚の椅子が静かに置かれている。背面の黒幕には金色の文字で「歴史バトルロワイヤル」のロゴが輝く。)
(中央の進行席に、白いワンピース姿の若い女性が現れる。可憐だが芯のある瞳。司会者、あすか。)
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あすか(微笑を浮かべて)
「皆さま、お待たせしました。歴史と物語の声を聞く案内人、あすかです。
本日は、誰しもが一度は向き合ったことのある、大きな問いをテーマにお送りします。」
(軽く身を乗り出し、観客席側に語りかける)
「“善とは何か?”
“悪とは何か?”
…そして、“善でないものは、すべて悪なのか?”
…もしくは、“悪でないものは、すべて善なのか?”」
(少し間を置いて、真顔で)
「世界はそれを、時に法律で、時に神の名で、時に言葉にならない“空気”で判断してきました。
でも、本当にそうでしょうか?
今日の対談は、その『善と悪』という、もっとも身近で、もっともやっかいな二文字をめぐる知の激突です!」
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あすか(手元のカードを見て)
「さて、今回の対談者は、このテーマにふさわしく…いや、濃すぎるくらいのメンバーが集まってくれました。
順にご紹介しましょう!」
(カメラが切り替わり、対談者にズームイン)
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あすか(明るく)
「まずは、制度と教育で人を導く――理性と秩序の守護者、儒家の巨人。
“人の性は悪なり”と断言した男。荀子先生!」
荀子(静かにうなずき)
「善なるものとは、つくられたものだ。
人は本来、欲望と混沌を抱えて生まれる。理と礼でそれを制さねばならぬ。」
あすか(にっこり)
「相変わらず硬派です。でもそこがカッコいい。ありがとうございます。」
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あすか(間を置いて)
「続いては、律法を掲げ、海を割り、民を導いた神の預言者。
神の言葉を地上にもたらした存在――モーセ様。」
モーセ(深い声で)
「私は語る者にすぎない。
神は、善を示された。そして悪から遠ざかるよう命じられた。」
あすか(ややツッコミ口調で)
「うーん、今日も神対応ですね。でも少しだけ、人間の視点でもお願いしますね?」
(荀子が微かに笑う)
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あすか
「三人目は、知略と交渉の女王。フランス王国を影から動かした、恐るべき政治家。
善悪は結果で測るもの…そう語りそうな方です。カトリーヌ・ド・メディシス陛下。」
カトリーヌ(微笑み)
「国家を守る者にとって、“悪”など贅沢な道徳です。
正義より、秩序。善より、安定。それが民を救う手段ですわ。」
あすか(手をひらひらさせて)
「えっと…言葉が刺さるんですけど!? でもそのドライさ、今日は武器になりそうです。」
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あすか
「そして最後にご紹介するのは――
人間の苦悩と救いを深く描いたロシア文学の巨匠。
“善と悪の境界”を問い続けた魂の探求者、フョードル・ドストエフスキー先生!」
ドストエフスキー(静かに)
「神が沈黙しているとき、人間は自由になります。
…だがその自由の先に、何があるのか。
善と悪は、常にその境目で揺れ続けているのです。」
あすか(じっと見つめて)
「なんという重み…でも、今日だけは迷わずに語ってくださいね。」
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(あすかが中心に戻り、カメラは全体を映す)
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あすか
「では、簡単にですが、今日のテーマ『善と悪』について、皆さんのお考えをひとことずつお願いします!」
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荀子
「善は、規範である。
人は悪に傾く本性を持つ。ゆえにこそ、法と礼が必要なのだ。」
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モーセ
「善は神に由来する。
人がそれを理解できるかどうかは問題ではない。」
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カトリーヌ
「善か悪かを判断するのは、後世の者たち。
私たちにできるのは、最も“効果的”な選択をすることだけ。」
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ドストエフスキー
「人は、誰もが“内なる悪”とともに生きている。
だが、その悪を抱えたまま、誰かのために祈ることもできるのです。」
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あすか(軽く拍手しながら)
「うわあ、オープニングから重すぎる!でも…これが“本物の善と悪”の議論ってやつなんですね。
それでは、熱い対話の火蓋を――切ってしまいましょう!」
(照明がわずかに落ち、スタジオの空気が一変する)
あすか
「Round 1、まもなく開幕です!」
(BGMフェードイン。画面がゆっくり暗転)