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転生令嬢マチルダ・リリカントの過酷な日々  作者: 劇団騎士道主催
第1章 転生と家族と青の祭剣
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8 リリカント家の人々

 それから私たちは他愛のない会話を続けること一時間程度でしょうか。お父様とミスティオン子爵の話も終わったようでグリシラも帰ることとなりました。


「また、何かありましたら連絡します」


「ええ、ありがとう」


 そう言葉を交わしてグリシラは父親と共に帰っていきました。私たちは玄関まで。その先の見送りはクレアに任せます。

 それにしても初めて見たのですがミスティオン子爵も優しそうな顔つきで好感の持てるお方です。

 そして、お父様はというと上機嫌の表情でした。

 恐る恐る聞いてみます。さっきのグリシラとのやりとりでマチルダとしての立ち振る舞いは何とかできたと思うので。


「正直我々の状況は芳しくない。サリバン王子を中心リリカント家の排除を画策する動きがあるようだ。だが、ミスティオン家は我々を全面的にバッ……リリカント家を支持すると言ってくれたよ」


 一瞬ですがお父様が焦ったような顔になりました。

 ちょっとだけ気になりましたが、触れない方がよさそうですね。


「そうですか、それはよかったです」


「ああ、だから何の心配もない。いろいろと大変だろうがしばらくの辛抱だ」


 昨日も思いましたがお父様はいい意味で貴族らしからぬ、といったところですか。案外貴族って言っても実情はこういう人が多いのかもしれません。肩に力が入ったまま政治闘争に明け暮れるばかりじゃ身が持たないということでしょうか。それが今の私にとってはありがたいです。

 でも気を付けないとうっかり変なことを言いそうです。


「呑気なもんだな」


「グローデン?」


 いつの間にか私たちの背後にお兄様が立っていました。お父様とは違いあまり機嫌はよくなさそうです。


「たかが子爵一人、唾つけに来たってだけで浮かれてるとはな」


「何が言いたい?」


 お兄様の挑発的な口調にさすがのお父様も顔をこわばらせます。


「ミスティオンはかねてからリリカントの懐に潜り込んでおこぼれをもらっている。当然リリカントが堕ちれば自分たちもただじゃすまない。今日ここに来たのだって自分たちの保身が目的に過ぎないだろうし、俺たちにいい顔しつつ次の寄生先を探しているだろうよ。あの手の輩は自分の都合で簡単に手の平を返す」


 グリシラのよれば前向き、ということでしたが、確かにそう言われると否定はできません。


「なるほど、確かに一理はあるだろう。だが、利害関係の一致だとしてもこちら側に立つのなら協力者として見るのは当たり前の話だ」


「もっと警戒しろという話をしているだけだ。リリカント伯爵”様”?」


 お父様がさらに顔をこわばらせます。

 なに? ひょっとしてこの二人めちゃくちゃ仲悪いの?


「そこまで言うのなら、お前は何かしら考えがある、ということかな?」


「慎重になれと言ってるだけだ。そこに考えもくそもあるか。あんたの間抜け面を堪能したミスティオンはさぞご満悦だったのかもな。これで心置きなくリリカントは切り捨てられるってな」


「何だと?」


 そのままお父様がお兄様を掴みかかろうと、ってまずいです。止めないと。

 慌ててお父様の腕を掴もうとしましたが反応が遅れました。お父様がお兄様の襟元を掴みます。

 二人ともにらみ合いが続いています。どうしましょう。このままでは殴り合いにでもなりそうですが、止めましょうか。でも。


「あんたら、いい加減にしろ」


 そこに割って入る声。かなりどぎつい。

 奥からゆっくりと歩いてきたのは、多分お母様ですね。


「マデアン」


 お父様は手を離します。お兄様も顔は変わりませんがばつが悪そう。


「こんなときに身内同士で争ってどうする?」


 そうです、全くその通りです。


「いや、グローデンからけしかけられただけだ」


 なんかお父様が子供みたいなこと言ってます。


「浮かれてるようだったから忠告しただけだ」


 さすがにトーンダウンしてますけどお兄様は敵意みたいなものを隠しません。

 お母様はさらに私たちの方に近づき、私たちにしか聞こえない程度に声を小さくします。


「ここにいるのはあたしらだけじゃない。使用人たちも浮足立ってる。どこからどこにどんな話が洩れていくかもわからない。慎重に動くのはもちろんだし、無駄に争うなんてことも避けないといけない。分かるね?」


 言い聞かせるようなお母様の威圧感は相当なものです。

 お父様とお兄様は一気にしおらしくなりました。まあ私も圧倒されているわけなんですが。


「……くれぐれも馬鹿なことだけはやめてくれよ」


 居づらくなったのかお兄様は捨て台詞を吐いて去っていきました。


「すまない」


 お父様はだいぶテンションの下がった声で答えました。で、そのまま歩き去っていきます。

 後に残ったのは私とお母様です。正直私もここに居づらいですが。


「マチルダ」


「は、はい」


「ちょっといいかい?」

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