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転生令嬢マチルダ・リリカントの過酷な日々  作者: 劇団騎士道主催
第1章 転生と家族と青の祭剣
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2 転生令嬢 2

 馬車の中は薄暗いです。ロウソクなのか何なのか分かりませんが弱弱しい照明があるだけです。

 馬車に乗ったことはないのでこれが普通なのかどうかは分かりませんが、結構な速さで馬車は走ります。気を付けていないとすぐに酔って吐いてしまうかもしれません。

 窓を少し開けて外を見ます。夜なのと明かりがほとんどないせいで真っ暗です。ですが遠巻きに私が出てきたあの場所を見るとあちこちに松明かそれとも別の照明かは分かりませんが据え付けられていて、立派な城のシルエットが浮かび上がっています。今の私にはものすごく恐ろしいもののように感じられました。

 しばらく流れていく景色を眺めながら一体何が起こっているのかを考えました。一番わかりやすいのは夢です。私は今眠っていて夢を見ている。このおかしな状況が成り立つ理由としては一番理にかなっているでしょう。

 でも全然夢に思えないんです。このどこまでもリアルな感触と感覚に頭がおかしくなりそうです。

 まだまだ混乱したままです。こういう時は何をどう考えたって何もまとまりません。考えることはやめておいた方がいいでしょう。

 あの場所、今思えば舞踏会みたいなことをやっていたのでしょうか。そこから三十分くらいでしょうか。馬車が走ったところに屋敷がありました。到着したころには大分落ち着きました。一人で薄暗いところにいたことが却ってよかったのかもしれません。

 停車すると運転手の方は私が降りるのを助けてくれました。手慣れた様子です。きっとお抱えの運転手かなんでしょう。


「ありがとうございます」


 そう言うと運転手の方は紳士的にお辞儀を返してくれました。

 そんなことをしていると門が開きます。そこにはメイド、というか使用人の女の人が立っていました。私より二、三歳年上に見えます。


「お帰りなさいませ、マチルダ様。お出迎え遅くなりまして申し訳ございません」


 すごく申し訳なさそうに頭を下げてくれます。

 そんなことをされると却ってこっちが申し訳なく思ってしまいます。


「その、実は、私」


 あの場所でのこと、何て言えばいいんでしょうか。私には何が起こっていたのは全く分かりません。でもなんとなくですけど私が悪いような、そんな話になっていた気がします。

 説明しないといけないんですが、私自身が何も理解できていません。それに、今になって引っ叩かれたときの衝撃とか、恐怖とかが蘇ってくるようです。

 ついさっきの事だというのに、思い出そうとすると途端に震えてしまいます。


「早馬で使いの方がいらしまして、体調を崩された、と伺っております」


 早馬。あの助けてくれた人がいろいろとフォローしてくれたってことでしょうか?

 話が伝わっているなら良かった。今の私には説明のしようがないんですから。

 ……いや、良くない。

 明らかにまずい。

 ごく自然に帰ってきてしまいましたが、非常にまずい。。

 だってそうでしょう。これだけの屋敷に住んでる貴族です。それがあんな公衆の面前で失態をさらしたわけです。こんなことが家の人に知られてしまえばどうなることになるか。少なくとも使用人に詳細は伝わっていないようですが、でも家族、例えばお父様とかにはもう知られているはずです。

 責め立てられるのは間違いありません。それからどんな扱いを受けるか。下手したらここから追い出される、なんてこともありえます。

 このまま屋敷の中に入っていいんでしょうか。といってもこの状況で逃げたところでそのまま生きていくことなんてまず無理です。これが現実ならそううまく話は進みません。多分どこかで野垂れ死にです。いえ、それなら案外幸運な方なのかもしれません。悪い人たちや奴隷商みたいな人に捕まったら最後、……考えたくもありません。


「お体に障ります。こちらへ」


 この場での正解なんてわかりません。教えてくれる人もアドバイスをくれる人だっていないんです。

 彼女についていくことにします。

 貴族の屋敷なので広いです。正門から玄関まで距離があってちょっとした散歩くらいにはなるかもしれません。ただ今私は非常に歩きづらいです。

 履いている靴はハイヒールです。今まで履いたことはありませし、ここまでヒールが高いのはそうそう見かけません。それこそパーティーとかでしか見ないようなものです。

 それに今着てるこのドレス、結構圧迫感があって着心地が悪いです。コルセットの締め付けがかなりきついんですよ。無理やり体形をよく見せるためにきつく締め付けるということを聞いたことがあります。呼吸が苦しかったりするのはこのせいでしょう。

 玄関の扉は正門よりもさらに豪華にこしらえられています。屋外なのに汚れは全くありません。貴族邸宅ですから来客が一番最初に目にするわけですし普段からしっかりと手入れしているということでしょう。

 これだけ重厚で重そうな扉ですが、使用人は慣れた手つきで簡単に開けました。

 さすがにあの会場には負けますが屋敷の中はずいぶんと豪勢で。歴史の教科書に載ってる貴族が家の中でくつろいでいる絵とかのイメージそのままです。

 暫く立ち止まって内装を見ていると、誰か速足でこちらへ来ます。


「マチルダ!」


 大きな声で呼ぶので少し驚いてしまいました。

 なんなんですか、いきなり。両肩掴まないでください。痛いです。


「あ、あの」


 どうしましょうか。

 多分ですけど、この人がお父様でしょう。どう対応すればいいでしょうか。変なこと言えないですし。

 お父様は私の顔を見て、気が付いたように肩から手を離します。手が離れた後もまだ少し圧迫された感覚が残っています。


「少し興奮しているようだ。すまない。……何も言わなくていい。今日は疲れただろう。ゆっくり休みなさい」


「いえ、でも」


「心配はいらない。私に任せてくれ」


「あの」


「お前は私の大切な娘だ。私が何とかする」


 お父様は見た目はいかにもな貴族です。身なりとかもしっかりと整っていますし立ち振る舞いなんかもそれっぽいです。

 でも私への対応は貴族っぽくない気がします。貴族って言うともっとこう、立場とか評判とか、そう言う外聞を気にするようなものだと勝手にイメージしているんですがお父様からはそういうものを感じられませんでした。それとも家族同士ならこんなものなんでしょうか。


「クレア、マチルダを頼むぞ」


「かしこまりました」


 クレア、あの使用人はクレアというんですね。

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