7 賢君から暗君へ(上杉景勝)
7 賢君から暗君へ(上杉景勝)
会津王国王都『景勝』――。
上杉景勝は国王として即位し、都を『景勝』と定めて、専制君主制の国を支配していた。
人が変わったように景勝は国民を虐げ、重税を敷、集めた唸るような税金で絢爛豪華な王宮を建設。
華美な装飾に身を包み、冠を被り、権力者であることを示していた。
毎日贅沢な暮らしを送り、国民や多くの家臣が離反した。だが、景勝は何とも思ってはいない。
「多くの家臣が離反したが、どうでもよい。董卓のような暴君と成り果てるのも王者の醍醐味だ。
宰相直江兼続、そして儂が誇る『上杉四天王』あ奴らだけいればそれでいいのだ」
玉座で足を組み、グラスに注がれた酒をグイっと一気飲みする。景勝の至福の一時だ。
隣には妖艶な美女、淀殿がそこにいた。傾国の美女淀殿は権力者を魅了する微笑で立っている。
だが、『上杉四天王』の前では賢君を演じる努力をしているのだが、それも束の間に露呈するだろう。
「そうです。景勝殿が世界を統べるべきです。そして私は王妃としてお支えします」
正に悪女たる微笑は古の貂蝉か、はたまた則天武后か。
「良いのか? お前には秀頼の小僧がいるではないか?」
「あの下賤な秀吉の血が入った子など、私の汚点です」
そう言って淀殿は膨らんだお腹に手をやる。既に淀殿は上杉景勝の子を身ごもっていた。
断罪されるべき不義に淀殿は手を出したのだ。実子である秀頼を見捨てて、上杉王国の王妃に成り上がっている。
景勝はあの秀頼との一軒の後、搔っ攫うように淀殿を連れて会津へと戻った。
それからは人が変わったかのようになり、国王になった。
全ては豊臣を滅ぼし、日の本の全てを手に入れるため。そんな時、二人の宰相が景勝の前に姿を現した。
一人は馴染み深い、我が腹心である直江兼続。
そしてもう一人は上杉四天王第二将でもあり、李朝から移籍した柳成龍……。
精錬された所作で、長髪で鋭い瞳を持ち、意志の強さを感じさせられる。
柳成龍は深々と首を垂れる。この御仁は李氏朝鮮から大金を払い、買った将の中の一人だ。
囲碁の名手でもあり、政の手腕も優れ、軍師としても有能。
景勝は前々から明国の万暦帝と繋がりを持ち、虎視眈々と天下を狙っていた。
明国の万暦帝も閉鎖的な日の本と国交を持ちたいために上杉家と誼を結んだ。
金で良将を引き抜き、既存の譜代家臣の殆どは離反、もしくは追放した。
「何だ? 二人して余は可愛い淀殿と酒を飲み至福の一時を送っているのだが。儂の酒池肉林を邪魔しないでくれ」
気づけば玉座の周りには各地の村々から攫った美女たちが景勝の周りに囲っていた。
これぞ酒池肉林……妖艶な美女による篭絡で賢君であった上杉景勝は暗愚となってしまった。
「殿! 贅沢はお止めください。殿が毎日贅沢ができるのも民からの重税によるものです。
このままでは国庫には金はなくなり、破綻し、村人が一斉蜂起してしまいます。
それに今は建国して日が浅く、まだ国家とは承認されておりません」
直江兼続は景勝を諫めようとしている。しかし、景勝は淀殿を侍らせながら、鼻息を荒くした。
「直江殿。大王様を困らせてはいけませんよ。
物見の報告では我が盟友、李舜臣大将軍が、伊達政宗を討ち取ったとの報告が入りました。
所詮は倭国軍……我ら李朝の軍勢に比べれば脆弱極まりない。
李舜臣大将軍を始めとした我ら李朝軍が倭国軍を蹂躙するさまをお見届けください」
冷静な声音で柳成龍は淡々と深々と述べる。とても安心感を与える言葉だ。
景勝は柳成龍の頼りのある言葉にご満悦。愉快極まりない。
「流石は我が上杉四天王『神算の知将』柳成龍。李朝の宰相であっただけはある。
とても頼りになるぞ。その慧眼は古の諸葛亮孔明に匹敵するだろう。
千金を払ってお前を手に入れて良かった。この調子で豊臣を滅ぼし、日の本を統べるのだ!」
景勝は豪快に笑い、隣の淀殿は微笑する。直江兼続は主人の豹変ぶりに困惑と動揺、怒りを押し殺すが。
柳成龍は不敵な笑みを含んだ顔で何を企んでいるのか分からない底知れなさを持つ。
「お任せください。私と直江兼続殿の軍略と李舜臣大将軍とその将の力をもってすれば必ずや、日の本を征服できます」
きっぱりと断言する有様であった。
――らしくなってきたではないか!
景勝はグラスに入った酒を一気飲みし、既に世界が自分のものになったかのような錯覚に陥る。
そのまま淀殿を連れて景勝は民達から搾りつくした税金で作った後宮へと消えていった。